第15話 ◆・・・ 此処にも在った似て重なる現実 ・・・◆
園遊会は、さっきまでの騒動が、まるで無かったかの様にね。
それもこれも、場を治め、そうして自らの権威も示した獅子皇女は、結果的にだけど。
この場で最も力を示した存在ともいえる。
僕はカーラさんの資料でも、ユフィーリア皇女が、次期皇帝の最有力者くらいは、当然と頭に入れています。
騒動は、最後に皇帝陛下へ恭しく膝も付いての挨拶をした獅子皇女が、これも周囲には、皇帝陛下の権威へ忠誠を示した。
という風に受け取られるんだ。
獅子皇女の本心が、果たして真にそうなのか。
僕は、たぶん、彼女の忠誠は、偽りじゃないかと思った。
まぁ、何となくだし、そうじゃなくても、口にはしないけどね。
そんな事を口にしたら、どうなるか。
えぇ、僕もね。
そのくらいには、察せられる子供なんですよ。
それよりも、今は獅子皇女とシルビア様が、互いにワインを酌み交わしながらね。
凄く仲の良い関係くらいは聞いていたけど。
二人の席は、フェリシア様やカズマさんも入ったその場所が、あの雰囲気は、本当に仲が良いくらいも感じたよ。
そうして、皇帝陛下だけど。
皇女とシルビア様達が醸し出す、本当に良い雰囲気をね。
この時の僕には、それを何となく嬉しそうに見つめている、くらいも思えたんだ。
だから、今夜の園遊会が、このまま後は何事もなく無事に終われれば。
はぁ~~~~~~・・・・・・
ホント、そうはならないのが、現実だったんだ。
-----
「(・・・マイロード。今直ぐアリサさんを助けましょう・・・)」
ティアリスからの声で、僕は、あのパンプキン・プリンセスが一体・・・・って先ず、そう抱いた。
けど、声だけでも。
ティアリスが、僕を急かしているくらいもね。
僕はシルビア様に、こういう場所だから散歩とは言えない。
代わりに巡回へ行って来ますを伝えて、それで、シルビア様も察してくれました。
「アスラぁン。もし、また私に近付く害虫がいましたらぁ。フッ、けちょんけちょんにしちゃいなさいよぉ。良いですかぁ。これは、勅命ですからねぇぇぇ」
「勅命謹んで。ですが、もはやそのような不埒者など。少なくとも今宵は心配無用かと。それよりも」
「なんですかぁぁぁ」
「お酒が過ぎると。後でカーラさんに言い付けますよ」
シルビア様は、ユフィーリア皇女が隣に座ってからというもの。
そこからは、ワインの空瓶を瞬く間に増やしているんだ。
フェリシア様はペースを守っている様で、だから、そんなに酔った印象がない。
反対にカズマさんは、アルコールに強いのか、あれだけ飲んでも変化がないんだ。
もしかして、シルビア様って、お酒に弱いのかなぁ。
等とも思いましたが。
今夜はこれ以上、ろれつが回らなくなる前に
僕が暗に窘めた表現は、それで、ちゃんと効果絶大でしたね。
流石、カーラさんの名も伊達じゃない。
そうして僕は、ティアリスの示す方へ。
そこは園遊会の会場から外れた、外灯くらいしか明かりの無い噴水の方だったけど。
言われるままに赴いた僕は、到着して直ぐ。
映ったアリサが、誰かに虐められたくらいを察したんだ。
-----
エメラルドグリーンを、もっと淡く優しい色にしたような、それがアリサの、今夜のドレスの色だった筈。
アリサは一人、こんな外灯一つの噴水の傍で、水を溜める池に両手を入れると、濡らしたハンカチを絞って、そのハンカチでドレスに染み付いた汚れを、懸命に拭き取ろうと必死だった。
「アリサ。一体何があったんだ」
料理の、そこに使われたソースを零した程度・・・・なんかじゃない。
僕から見たアリサは、頭から足元まで。
そう言いきっても過言じゃないくらいの有様は、悔しいも怒っているも察せられる、あの涙目を見ればさ。
奥歯を噛みしめた様な表情もね。
ドレスに着替えた後の、その時のアリサは、本当に綺麗だって、面白くないけど、そう思ったんだ。
髪型はアップにしたくるりんぱで、けれど、今は髪型も崩れている。
と言うか、ケーキのクリームをいっぱい付けられた髪は、それも拭き取ろうとして、だから、髪型も崩れたんだと思う。
ドレスの方も、バケツ一杯のソースを勢いよく、かけられたんじゃないかって・・・・くらい。
それくらい酷い有様だったからね。
これが何かしらの虐めくらい。
見ただけで直ぐに理解ったよ。
声をかけた最初、アリサは僕も無視していた。
悔しくて泣いているような顔で、僕を無視して今もね。
濡らしたハンカチだって、そうやって使ったんだから、もうソースの色で染まっていたよ。
「なに見てんのよ。あんたも、さっさとどっか行きなさいよ」
やっと口を開いたかと思えば、怒った声が、いきなりそれかよ。
アリサは、僕が持っているハンカチを差し出した所で、それでようやくね。
口調はアレだけど、一先ず口を開いてくれたよ。
「さっきも聞いたけどさ。何があったんだ」
「帝国の事なんか分からない。外国から来たあんたには関係ないわ」
「ったくさぁ。だったら、教えてくれよ。それとも、帝国だと。こんな事も当たり前なのか」
どうせ、ろくでもない何かなのは、確定しているんだ。
ホント、もう呆れるしかないけどね。
「そういう呆れた言い方で。あんただって、私が平民だから。馬鹿にしているんでしょ」
「なにそれ」
「あんたは外国のだけど。騎士様ですものね。貴族や騎士っていうのは、相手が私の様な平民なら。何をしたって構わないって。そう思っているのが当たり前なのよ・・・・大っ嫌い」
アリサは言うだけ言って、そうして今度は、怒りも憎しみも伝わる目付きで、僕を睨んでいた。
「一つ教えてくれないか。君をそんな目に遭わせたのは、園遊会に参加した、貴族や騎士なんだな」
「そうよ。そう言ったじゃない。あんた、馬鹿なの」
僕は、自然と呆れの溜息がね。
もう込み上げると、大きくて強いのが、叩き付ける様に吐き出ていたよ。
貴族や騎士が、それで生まれの身分が低い者を、虐げる。
どうやらそれは、シャルフィで僕が見た事と、きっと、違わないんだろう。
「アリサはさ。なんで、そこまで酷い目に遭ったんだ」
僕は、これだけ手酷いとね。
よっぽどの屑がやったのかとも、それも思ったよ。
けどさ。
僕は先にね、シュターデンさんから聞いているんだ。
今日の園遊会は、それが皇帝陛下の催す会だから。
参加する貴族は、その様な場である以上、陛下の不興を買う事をしないのが、絶対のルールなんだって。
陛下が催す園遊会へ、そこへ招かれた平民に対しても、彼ら貴族は、不興を買う事をしない。
何故なら。
参加者への招待状は、それが皇帝陛下の署名によるもの。
要するに、今夜の園遊会は、参加している全員が、皇帝が自ら招いた客人なんだよ。
だから、たとえ平民であっても、彼ら貴族や騎士は、危害を加えられない。
僕は、物知りで分かりやすく教えてくれる、シュターデンさんからね。
今日の園遊会は、特にシルビア様のような国賓もいる以上は、参加する側も、問題を起こしそうな身内は絶対に連れて来ない。
それも聞いているんだよ。
だけど。
こうして、パンプキン・プリンセスは虐められた。
まぁ、目星は付いているんだけどね。
と言うか、お肉大好きな剣神がねぇ。
自分は全部見ていたって。
付け足すと、自らは、その剣神が問題を起こさないように見張っている。
そんな理由で傍にいる賢神からもね。
同じ証言が届いているんだよ。
ただ、僕はね。
アリサ本人からの、何があったのかを聞きたかったんだ。
だって、そうしないと動きようもないしね。
僕は、じっと睨みながら黙っている。
そんなアリサが、少しでも話してくれるのを、今は待つことにした。
-----
「お爺様からね。園遊会が始まって、皇帝陛下の挨拶も終わった後よ。お爺様から私も、みんなの所へ挨拶をして来るといいって。園遊会には、私の様な子供も来ているからって」
ずっと黙っていたアリサは、少しずつ、僕と別れた後からを話してくれた。
シルビア様達の所へ、挨拶に行列が出来るほどの頃。
アリサは、お爺さんから促されて一人、園遊会に参加してる親が連れて来た子供達の所へ。
「ここに来る前にね。私もパパやママから。貴族の人達にする挨拶の仕方を習ったのよ。何度も練習して、パパから大丈夫って。そう言って貰ったのに」
「その挨拶の仕方に。何か問題があったのか」
「そうじゃないのよ。挨拶はね。ちゃんと出来ていたわよ。レナードって貴族の男の子に会うまでは、ちゃんと出来ていたんだから」
アリサの口から出た、レナードという名前。
そこはね。
ティアリスと同じ様に、姿を消している二人からも聞いているんだ。
で、今はミーミルが、僕のために詳細を調べに向かっている。
「じゃあ、貴族のレナードって男の子が。アリサにこんな事をしたのか」
「そうよ」
「何か不興でも買ったのか」
此処もね、僕は見ていたって言う二人から聞いているけど。
まぁ、当事者の証言は大事だからね。
「レナードって男の子は、私より二つ年上なんだけど。挨拶の後でね。少し話さないかって、誘ってくれたの。それでね。その時まではね。紳士的で優しくて、凄く良い人だったのよ」
僕は聞きながら、一度だけ頷いた。
「私とレナードはね。会場から少し離れた所で。ベンチに並んで座ったのよ。それで、最初は学校の事とか。それから私は、貴族の暮らしの事とかね。レナードは、その時までは凄く良い人だったのよ」
会話の内容は、それは本人の証言を使うとして。
その前に、二人が会場近くの、庭園内に在るベンチに並んで座った事は、レーヴァテインとミーミルからの証言とも一致した。
「絵本だと、ほら。お姫様が夜に王子様と二人でデートって。私ね、その時までは。私もきっと。もしかしたらレナードに、いきなり結婚して欲しいとか。凄く胸が高鳴ったのよ」
「いい雰囲気だったって事だね」
「レナードは私の肩を抱き寄せて。凄くドキドキしたわ。でも、そこからいきなりドレスのスカートに手を潜らせたのよ。そのまま私を押し倒して。急に怖い顔で、夜の相手をさせてやるって。だけど、私は嫌だって」
えぇ・・・まぁ・・・そうだね。
帝国だと、言い方は分からないけど。
シャルフィでは、痴漢か、婦女暴行罪か。
流石にねぇ・・・強姦未遂まではさぁ。
だって、アリサは僕と同い年の子供なんだよ。
けど、アリサの証言を聞くにね。
肩を抱き寄せられた後で、そこからレナードは、アリサのドレスのスカートへ手を潜らせた。
で、驚いたアリサは、怖い顔をしたレナードに、無理やり押し倒されたんだ。
付け足しで、助けを呼ぼうとしたら、口を塞がれた。
まぁ、普通はね。
そんな目に遭ったら、抵抗もするだろうさ。
口を塞がれたアリサは、聞く限りで無我夢中、必死に抵抗したらしい。
レナードの手が内股とか、お尻も触られたって。
首筋に吸い付かれて、それで、べろべろ舐められて、凄く気持ち悪かったもね。
だろうね。
此処まで聞くとさ。
レナードの罪状は、痴漢以上、強姦未遂。
罪状としては、婦女暴行罪が適当かもね。
「私が嫌だって、抵抗して。でも、その時に。私の肘がレナードの顔を殴って。そうしたら、レナードが凄く痛がって逃げたのよ」
「で、逃げた変態レナード君は、直ぐに今度は仲間を連れて、やり返しに来た。って所かな」
レーヴァテインとミーミルの報告だと、アリサがこんな目に遭ったのは、変態の仲間に取り押さえられて。そうして、今度は、レナードからクリームたっぷりのタルトとか、ポットに入っていたソースをね。
何度も打ち掛けられたんだ。
そもそも筋違いなんだけどさ。
仕返しのやり方が陰湿と言うか、執拗と言うか。
ただ、はっきりしたのは、レナードという貴族の男子が、ホント、屑だって事だね。
「そうよ。あいつは何人も仲間を連れて。美人でか弱い乙女を羽交い絞めにして。だから、私。こんな風になったのよ。あいつは私に、素直に夜の相手をしていたら。痛い目に遭わずに良い夢も見れただろうって」
「随分と、お約束な虐めだったようだね」
「私ね。ここに来たら。きっと私だけの王子様に出会えるって・・・そう思ってた」
「でも、そんなアリサの夢は、こうして踏み躙られた。アリサはさ。もう少し注意深く、人を見た方が良いと思うよ」
「なんで、なんで・・・・あんたは。そうやって冷たいのよ。さっきもそうだった。ドレスに着替えて、誰が見てもお姫様だった私を。あんたは冷たかった」
「僕としては、客観的に助言もしたつもりだけど」
うん。
僕としてはだ。
アリサ本人には、お姫様になりたい願望が、かなり強く在るくらいも理解った。
でも、そこはたぶん、僕が聖剣伝説物語の騎士王へ憧れていた。
それとも似ているんだと思う。
まぁ、僕の場合はね。
僕の憧れは、それで、現実の方が、粉々にしてくれたんだよ。
そのせいか。
僕は、憧れとか理想なんて、そんなものは、ただの幻もね。
今じゃもう、そう思うようになったんだ。
要するに、アリサは未だ、そういう経験をしていなかった。
それだけの事でもあるんだよ。
けど、抱えていた感情を吐き出せたアリサは、僕から見ても傷付いている、くらいもね。
両肩は上下に何度も、そうして、今度は泣き声を堪えながら。
ホント、これだけ酷い目に遭って、なのに強がれる。
「美人で将来はお姫様、になれるかも知れないんだろ。なのに、綺麗な顔が台無しだぞ」
「なれるかも知れない。じゃなくて、絶対そうなのよ」
「じゃあさ。取り敢えず、泣くのを止めようか。僕は、ドレスに着替えた時のね。その時の嬉しそうに笑っていた。そっちのアリサの方が、ずっと良いって思うよ」
「だって、こんなに汚れたら。・・・・ママが選んでくれたの。このドレスなら、お姫様になれるって」
僕は、今日初めて会ったアリサの事で。
最初が、そうだったからさ。
なんだけど、またこうして抱えたモヤモヤにはね。
今のアリサを見て、僕はやっぱり、ほっとけないを思っているんだ。
きっと、カールもシャナも、エルトシャンだって。
それから、エスト姉やシルビア様も。
こんなアリサを見て、ほっといたりは、それは絶対にない。
賑やかな会場と比べたら、此処は離れている分、噴水の音くらいで、後は静かだったよ。
そのせいか、僕の指パチはね。
澄んだ音が余計に響いていた。
「えっ!?・・・・ちょっと、なんなの」
僕の指パチは、途端にアリサを包んだ赤青緑の三色のマナがね。
キラキラ混ざり合ったマナの、そうだねぇ・・・・地面から立ち昇る三色のリボンが、何本もアリサに巻き付きながら。
やがて、空へ昇る様にして消えていった後。
髪型は元に戻せなかったけどさ。
それ以外は汚れ一つない、だから、アリサも凄く驚いていた。
どうだ、僕も凄いだろ。
「崩れた髪型までは、それは魔法じゃ直せないけどさ。アリサのために、お母さんが選んでくれたドレスや靴なんかはね」
僕は、この時だけど。
ふと、ね。
アーツで髪型とかも、そういう所も何か出来たらって。
初めて思ったんだ。
けど、そこで思い出した、エレン先生の常套句。
だから、もしかしたら。
「う~ん・・・ちょっと、自信ないけど。試しにやってみるか」
「え・・・って、アスラン。今、魔法って」
「くるりんぱ」
僕がイメージしたのは、着替えた後のアリサ。
で、その時のアップにして纏めた、くるりんぱだ。
直後、今度はアリサの髪を、金色のマナが包み込んでさ。
見た目、ふわふわの帽子を、すっぽりと、かぶっている感じだね。
僕が初めてやってみたアーツは、崩れていたアリサの髪を、ちゃんと元通りにしたよ。
こうして僕は、再び驚くアリサを他所に。
アーツが持つ可能性をまた一つ、発見した事へね。
僕の意識は、そっちだけに傾いていたよ。
-----
普通はさ。
あんな目に遭って、それで服とか髪型とか、元通りにして貰ったらさぁ。
お礼の一言くらいは、あって良いよね。
現実は、僕が新発見な事へ、意識を傾けている間。
アリサの言い分は、何度も呼んだのに、完全無視だった方が悪い。
僕の左耳はいま、抓られた耳たぶが、赤く腫れあがっています。
えぇ、とってもジンジンしますよ。
「ホント、助けるんじゃなかったよ。なんで耳を抓られなきゃいけないんだ」
「私が何度も呼んだのに。見向きもしないで完全無視した、あんたが悪いんでしょ」
「君は見た目は美人かも知れないけど。中身は猛獣だって認識することにしたよ」
グリッ!!
ってぇえええ”え”え”
こうして僕は、内面を正確に指摘されたアリサから。
再び、猛獣らしい暴力的な表現を返されました。
「ねぇアスラン。あんたって子供のくせに、魔導が使える騎士なんでしょ。だったら、お姫様の私を虐めたレナードも。ぶっ飛ばしなさいよね」
この自称お姫様は、言葉遣いからして、お姫様とは到底・・・・ね。
けど、獅子皇女も、あれは間違いなく皇帝の娘で、つまりは、お姫様なんだ。
帝国のお姫様とは。
もしかして、見た目美人で、ただし、中身が猛獣とか野獣なのが、普通なんだろうか。
あぁ、でも、そう考えると。
なんかこう、しっくり来たよ。
と、まぁね。
僕がこうしてまた一人で納得している姿は、それがアリサには面白くなかったんだ。
「あんたね。なんで、そうやって私を無視するのよ」
僕のアーツで元通りなお姫様は、恩人も当然な僕を、膨れっ面で睨んでいました。
けど、確かにね。
変態レナード君には、お灸も必要かなとは思っているんだよ。
でもさぁ。
さっきは、それで、ほっとけないも思ったよ。
だけど、今は耳も抓られたんだ。
だから、やる気がね・・・・あぁ、メンドくさぁ~~~~~~・・・も、思ってる。
「まぁ、今回のは良い勉強になった。それで終わらせようよ」
「嫌よ」
即答かよ。
「じゃあ、後はアリサが自分で。好きにすれば良いさ。僕は任務があるから戻るよ」
「あなた、騎士なんでしょ。レナードも自分は騎士だって言ってたわ」
「だから、なに」
「悪い騎士をやっつけるのは、それは良い騎士の役目じゃない」
へぇ、アリサにとって、散々虐げられた僕は、一体いつから、良い騎士になったんでしょうかねぇ。
「僕はシャルフィの騎士だけど。でも、それなら。問題は帝国の騎士が片付けるべきだよ」
「あなたは知らないでしょうけど。帝国じゃ、騎士になれるのは貴族だけなんだから。誰もレナードをやっつけてくれないのよ」
「けど、だからと言って。他所の国の騎士が、帝国の騎士が犯した問題に首を突っ込むのは。それが事と次第によっては。外交問題にさえ発展しかねないんだ」
僕が並べた正論は、それくらいはアリサにも、伝わったんだと思う。
今も面白くない感情を抱えて、それで、ムッとしている表情もね。
でも、どうだ。
カーラさんを真似た、正論鉄壁の構え。
言って置くけど。
子供のアリサには、僅かに崩す事も、絶対出来ない自信があるよ。
「じゃあ、取引きしてあげる。あなたがレナードを、やっつけてくれたなら。今日の昼間の事は、無かった事にしてあげるわ」
「はぁっ!?」
「はぁっ・・・じゃないわよ。私は、あんたにアソコを好き放題されたのよ。それを無かった事にしてあげるって。断ったら言い触らしてやる」
「あのなぁ。それこそ、階段を走った挙句。馬鹿でも理解る転び方で。そうして迷惑を受けたのは、僕の方だぞ」
「乙女の純潔を穢したくせに」
この身勝手さ。
もう、斬っても良いよね。
そこから、結局だけど。
僕は、この濡れ衣に関して。
レナードにお仕置きをする・・・を、条件に。
だって、アリサの主張がさ。
内容がどんどん変態的な方向で、エスカレートするんだ。
冤罪も大概にしてくれって。
マジ叫びたかった。
堪えたけどね。
それでまぁ・・・仕方なしにね。
僕は渋々、その時の件を無かった事にするために。
全然乗り気じゃないけど。
アリサを虐めた、変態レナード君を、躾ける事になりました。