第12話 ◆・・・ パンプキン・プリンセス ・・・◆
僕は、ハンスさんやカーラさん。
それから、バーダントさんに、ナナイさんとかからもね。
ヘイムダル帝国に、今度はシルビア様が、殺されるかも知れないって。
そんな話を、多く聞いていた事もある。
だから、出発直後から肩に力が入っていたらしい。
と、まぁねぇ・・・・・・・・
そんな僕は、これが教科書にも載る英雄と称賛された、けど、その本当の姿もね。
ブライト少将。
実物は、サボるの大好き、ただのオジサンでしたよ。
僕は、部下に仕事を押し付けてサボり放題の。
そういうオジサンに絡まれたせいで、緊張も抜けるとね。
もう完全にグダグダな。
けど、フェリシア様の航空艦の見学は、満喫しましたからねぇ。
なんだかんだで、まぁまぁ快適な空の旅を、サボり提督様と楽しんだんですよ。
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ヘイムダル帝国へ到着した後。
国際空港へ着陸した航空艦のことは、『いい加減、仕事もしろ』を言いたい、ブライト少将に任せて。
僕やシルビア様達は、帝国側の用意した迎えの車に乗り込んだ。
自導車はゼロムで、その時に初めて乗ったけど。
こんなに胴体が長い自導車は、それは初めて見ました。
光沢のある真っ黒な、それで胴体が長い自導車は、リムジンと言うらしいです。
教えてくれたシルビア様からは、特注品の高級車くらいも聞けましたが。
そうですね。
座席のクッションとか、そこはこんなに、ふかふかにしなくても、とかね。
冷蔵庫が備えてあることもですけど。
別に移動するだけだからさ。
僕なんか、馬でも良いんだけどねぇ。
僕達を乗せたリムジンは、空港から滞在中の宿泊先へ。
ゆっくり走っていたからね。
それで三十分くらいかな。
着いた場所は、皇城からは目と鼻の先。
僕も観光雑誌の写真でなら、見たことはある。
僕達が泊まる場所は、サンスーシ宮殿と呼ばれる、白くて、やたらと大きな屋敷だった。
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少し前に、サンスーシ宮殿へ着いた後。
シャルフィの女王である私と、ローランディアの女王であるフェリシア様は、滞在中は何なりと申し付けください。
サンスーシ宮殿の玄関前で、車から降りた私達は、玄関に続く階段の両脇に居並ぶメイドとは別に。
このサンスーシ宮殿の、管理も任されている執事長。
以前にも会ったことがある執事長は、今だと、もう、五十を過ぎているかしらね。
『シュターデンさんも、お元気そうで。滞在中は色々と、今回もお世話になります』
『私も、今年はシルビア様が来てくださると。お会いできるのを、心より楽しみにしておりました』
『またシュターデンさんが執事をして下さるのなら。色々と頼りに致しますので。私個人は、とても安心出来ますよ』
『シルビア様から、かように過分な御言葉を頂けるなど。私めも、皆様には、ゆるりと寛いで頂ける様。精一杯尽くす所存でございます』
温厚で気さくな執事長のシュターデンさんはね。
私は、個人的にだけど。
話しやすいし、それに帝都に滞在している間は、色々と便りになる。
何より、以前にもお世話になった人だから。
初顔の執事より、もう断然、安心出来るところがあるのよね。
そんなシュターデンさんには、早速だけど。
私は、フェリシア様との同室を希望していると伝えました。
理由は帝国との間で、政治的な話し合いもあるから。
そこでフェリシア様とは、事前の話し合いも必要になる。
立場上もあるから、細かには話せない私とフェリシア様へ。
だけど、察しの良いシュターデンさんは、穏やかな表情で、『畏まりました。少しお時間を頂きますが。ご希望に沿う部屋を用意致します』って、直ぐに取り掛かってくれました。
私はね、シュターデンさんのことを、ヘイムダルでは数少ない。
信頼に足る人物だって思っている。
だけど、現在の情勢を考えれば・・・・・・・
此処へ来る途中。
それこそ航行中の艦内で、その時にはフェリシア様の部屋でなのだけど。
私とフェリシア様は、滞在中の部屋を同じにして貰う。
理由は、別々の部屋で、それも離れ離れにされるのを、先ずは互いに警戒しました。
私もそうだけど。
アナハイム事案を抱えるフェリシア様の方も、それに、ウィリアム王子のこともある。
陰謀の矛先が、そういう事も考えれば、二人ともが対象になっていても。
まぁ、不思議じゃないのよね。
私達は部屋の用意が整うまで、出来る執事長のシュターデンさんから。
もてなしの整ったサロンで寛がせて頂きました。
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「マイロード。それが、このサンスーシ宮殿の見取り図ですね」
「そう、さっき貰ったんだけど。ティアリス達に言われた通り。内部の造りを、今から把握しておかないと。何かの時に間違わないようにね」
シルビア様とフェリシア様の要望を受けた、僕からも優しそうな感じに映った執事長のシュターデンさんは、大きな部屋の一つへ案内してくれた。
トイレもバスルームもだけど、小さなキッチンまで備わっている大部屋は、リビングの他に寝室が三部屋。
で、シルビア様とフェリシア様が滞在する部屋の両隣だね。
どっちも大部屋なんだけど、二部屋とも今回の随員の内で、シルビア様とフェリシア様の身の回りの世話と、あとは身辺警護を主な任務にしている五十人ほどが、交代で使います。
因みに、有事に備えて艦に待機しているブライト少将の方は、此方は三百人くらいのローランディアの軍人さんが、整備員も兼ねて艦の警戒に当たっています。
話をサンスーシ宮殿へ滞在する側に戻しますが。
僕は、今回は表向き、随員として名を連ねているティアリス達からね。
案内されて直ぐ、『マイロード。女王陛下に宛がわれた部屋ですが』と、久しぶりに頭の中、と言うか意識なのかな。
まぁね、とにかく警戒しているのが分かる声が、僕にも早々に備えた方がいい。
ティアリス達はね。
僕やシルビア様達に、それと、カズマさんもだけど。
最初に入った玄関から此処までの距離が、廊下伝いの道なりで、軽く二百メートルもある事を気にしていたんだよ。
見取り図へ定規を置いた、それで取った直線距離なら半分くらいでも。
部屋はサンスーシ宮殿の三階で、一階正面玄関までは、階段も当然だけどあるんだ。
付け足しで、サンスーシ宮殿の敷地は、建物を囲むように芝生や花壇もあれば、噴水や池もある。
要するに、建物を中心に置いて、周りは庭園のような造りなんだ。
で、その庭園は、外周を茂った木々が囲んでいる。
後は、宮殿から外へ出るための道路は一本しかない。
あれだね。
此処は皇帝陛下が使う、別荘の様な所でもあるんだけどさ。
庭園には帝国が用意した、国賓のための警護隊が立哨や巡回もしているんだ。
まぁ、そういう訳だから。
万が一を考える僕はね。
部屋へ案内されたところで、シュターデンさんから、宮殿の散策の許可も頂けた後は、迷子にならないように宮殿内の見取り図を貰うと、その時に、帝都を観光する機会があれば役に立つ・・・って。
二枚の地図は、何方もシュターデンさんの私物だそうです。
シュターデンさんからは、此処で働くようになってから、その時に覚えることが多過ぎて、だから、宮殿の見取り図も、覚えるために自分で作ったそうです。
帝都の地図は、観光案内所で配られているものだそうですが。
その地図に、シュターデンさんのお勧めが書き足されたものを、それを頂きました。
僕から見ても、執事長のシュターデンさんはね。
凄く良い人に見えました。
そんな訳で、早速ですが。
僕はシルビア様の許可を頂くと、一休みしながら警護もしておくからと。
そう言ってくれたカズマさんに後をお願いして、散策へ出かけたのでした。
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サンスーシ宮殿は、実際、歩いてみるとね。
ホント、広いのです。
幅三メートルはあるだろう廊下は、一番長い直線が五百メートルって・・・・・・
ハハハ・・・。
部屋の数は、賓客向けの部屋だけで、三百もあるそうです。
シュターデンさんの話では、皇帝陛下が年に何回かは此処で、大きな園遊会を催すとか。
で、その時には、帝国の貴族は勿論。
他にも、皇帝陛下から実績を認められた平民の方達も、此処へ招かれるそうです。
『まぁ、そういう時には特にですが。招かれた方の数も多くなりますので。その全員が泊まれるだけの部屋を用意しておく。ですから、このサンスーシ宮殿は。代々の陛下が、建物を増築されて。そうして今に至っています』
普段は皇城の中で生活する皇帝陛下は、でも、園遊会とは関係なく。
時々は、サンスーシ宮殿で寛いでいるらしい。
他にも、シュターデンさんの話だと、皇帝陛下には、帝国内に幾つか保養地とも呼ぶ、直轄の土地があるそうです。
「まぁ、シュターデンさんから、迷子になっても大丈夫って。どの部屋にも、管理室と繋がる通信機が有るくらいも聞いているしね。僕も使い方を教えて貰ったし」
事実、この宮殿は、とにかく広い。
内部の造りを歩いて把握するのには、一時間や二時間じゃ、絶対に足りない・・・と、思う。
と言う訳で。
僕は、散策の優先順位を設けました。
色々考えたけどね。
で、これはブライト少将が言っていたんだけどさ。
最悪を想定して、シンプルに襲撃された時の避難経路を把握しておけば、その分くらいには生き残れるだろう・・・・ってね。
国賓を襲撃って・・・・・・・
けど、実際、平和に終われば問題もないんだし。
不慣れな土地で、万が一を考えて、その時にはシルビア様を守る。
ブライト少将は、あれで結構、的を得たことを言ってたんだよ。
何時襲撃があるかも分からない。
それも考えた僕の最優先は、宿泊する部屋から正面玄関まで。
道順は幾通り組めるのか。
途中、押さえなければならない要所は何処なのか、とかもね。
考えられる想定の中で、僕は見取り図を片手に、後は歩きながら何かしらの目印になりそうなものとかも。
そういう所にも気を付けて、散策を進めました。
僕の散策は、子供一人なら、物語に出て来る冒険者の真似ごとに見える。
反対に、ティアリス達を連れて歩けば、露骨に警戒されている疑いも抱かれる。
と、まぁ、そういう訳で。
僕は一人で散策をしているのですが。
やっぱり、僕が子供だからなのか。
玄関付近に立っていた衛兵さん達は、僕が挨拶をすると、みんな人が良さそうな挨拶もしてくれます。
「(・・・マイロード。そろそろ昼食の時間です・・・)」
姿を消しているティアリスから言われて、僕の視線は玄関ホールに飾られている、凝った装飾の壁時計へ。
時計の針は、十一時半を過ぎていた。
「(・・・もう一時間って、あっという間だったね・・・)」
「(・・・ですが、ここは一度戻って。昼食の後から再びすれば良いと思います・・・)」
だね。
こうして僕は、一旦、シルビア様達が居る部屋へ戻ろうと。
その帰り道で、一階から二階への階段の所です。
そこで僕は、突然の大声の後。
声の主なのか、一人の女の子が、二階の方から階段を駆けると飛んだ。
流石にね。
これは警戒していなかった。
だってさ。
僕がそっちへ視線を向けた時には、その女の子だけど、階段を下るときに走ったら危ないのにね。
だから、やっぱり足を滑らせてさ。
でも、その女の子は、きっと咄嗟もあったんだと思う。
階段の角を踏んだところで足を滑らせた女の子は、前屈みに転びそうになった姿勢で、いきなり僕の方に飛んだんだ。
女の子を追う様に見上げた僕の視界へ、そこに映ったピンクの南瓜パンツ。
南瓜パンツを履いている女の子なんて・・・・初めて見たね。
と言うかさ。
今どき南瓜パンツなんて、普通の女の子は履いていないと思ってた。
あぁ、南瓜パンツのことはね。
騎士団のマリューさんの友達から、昔は騎士の家とか貴族の家に生まれた女の子が、子供の時に履いていたって。
でも、今はもう誰も履かなくなったそうですよ。
で、そんな余計なことを抱いたせいでね。
だから当然、僕の反応は完全に遅れたんだ。
そうして、反応が遅れた僕は、両足を大きく開いた女の子の。
その柔らかい太股に挟まれると、後は勢いそのまま床へ、背中から思いっきり叩き付けられました。
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僕を、襲撃したも間違いじゃない女の子の名前はアリサ。
誰が見たって、僕の方が被害者の筈・・・なのに。
シルビア様は、そんな僕の説明を、途中で何度も横槍を入れるアリサの自己主張にね。
一緒に居たフェリシア様と揃ってだよ。
あと、カズマさんも。
三人して、楽しそうに笑っているんだから。
僕としては面白くなかったよ。
アリサの主張は、レディのパンツを見ただけでなく。
押し倒された僕が、顔に跨ったアリサの股間を、鼻や口でグリグリフガフガ弄った。
『貴方は、将来美人でお姫様も間違いない。そんな私の純潔を穢したんだから。責任取りなさい!!』
ナニ、その身勝手な主張。
斬っても良いですか。
僕は、このアリサの度し難い自己主張へ。
しっかりと反論しましたよ。
ですが、三人とも笑ってばかりで、誰もアリサの非を、咎めてくれません。
一応、最後にね。
その時はフェリシア様だったけどさ。
『アリサさん。階段を走るのは危ないですからね。もう、してはいけませんよ』
優しい口調で、フェリシア様はアリサに、やんわりと注意してくれました。
それで、頬を膨らませて怒っていたアリサも、やっとバツが悪そうに謝りましたよ。
フェリシア様にだけどね。
それよりも前に、シルビア様なんか、僕がクッションになったから。
そうじゃなかったら大怪我をしていたって。
シルビア様。
クッションにされた僕には、当然の憤りもあるんですがね。
なのにさ。
『アスラン。貴方は騎士なのですよ。シャルフィの騎士は守るために在るのです』
ナニ、その屁理屈。
僕、どう見ても被害者だよ。
けどね。
アリサは、それで最初は僕が騎士だって全然、それこそ、エロとかスケベとか変態だって散々罵ったのにさ。
シルビア様やフェリシア様が、僕を騎士だって言ってくれた後で。
今度は責任を取れって。
僕はもう、帝国の女の子とは二度と関わりたくありません!!
アリサへの付け足し。
彼女は僕を、責任を取らないなら、辱められたと言い触らす。
もう身勝手極まりない、自称、将来は美人のお姫様へ。
僕はアリサを、パンプキン・プリンセスと呼称することに決めました。