第11話 ◆・・・ 運命の王子様は居ないけど ・・・◆
「見た目も似ていましたけど。シャルフィとローランディアの航空艦は、内装も結構似ているんですね」
僕は、ローランディアを出発した後、シャルフィの空港に着陸したフェリシア様の艦へ、シルビア様やカズマさん。
他にもハンスさんと選んだ随員と一緒に乗艦しています。
とまぁ・・・ね。
そんな訳で、今のところは、まだ気楽でいられる空の旅を楽しんでいますよ。
それに、フェリシア様は僕へ、『シルビア様から聞いていますよ。アスランは航空艦に、とっても興味があるそうですね』と、その時の会話で、艦内を自由に見学して構わない。
ちゃんと許可を頂いた僕は、まぁねぇ・・・・一人で歩けるんだけどさ。
何故か、艦長も務めるブライト少将に、今も艦内を案内して貰っています。
「ブライト少将。少将には艦長としての仕事もあるでしょうから。僕の案内役などしなくても」
「今は手が空いているからな。第一、俺の副官。出来る好青年なリシャール少尉は。俺が居なくても、しっかりやってくれるのさ」
「それって、体のいいサボりなんじゃ」
「サボっていないから、こうして今も案内をしているのだろう。事実、シャルフィの艦とは同型艦でもあるが。故に見た目も内部も、似た造りには違いない。しかしだ。この艦はローランディアの。それも陛下の御座船でもある。よって、監視も兼ねた案内役は必要なのだ」
「なるほど。それは確かに、少将の言う通りですね」
「分かってくれたか。まぁ、あれだ。陛下は貴公を特に気に入っている。ただ、それでも。形式なんて面倒事も付いて回るのだ」
「少将は、だから。今回はとばっちりを受けた、ですか」
「いや、艦長なんて面倒な仕事をな。出来る部下に押し付けられた。その意味では、俺も息抜きを楽しんでいる所だ」
このオジサン、ぶっちゃけたよ。
僕が未だ6歳の子供だからと思って、けど、流石に露骨過ぎませんかねぇ。
「フンっ。陛下も俺もだが。貴公をただ子供だ等とは思っておらんよ。確かに、貴公は未だ6歳かも知れん。もっとも、中身は底知れんがな」
ブライト少将の方が、それで、身長がずっとあるからなのですがね。
僕を上から覗き込む様な、じぃ~って視線。
オジサン・・・・その顔は、怖いですよぉ。
「貴公は、間違いなく賢い。それ以上に周りと違って魔法が使える。オーランドでの件を調べた限り。剣の腕も群を抜いている。そのくらいには、俺とて把握しているのだ」
「僕なんか、まだまだですよ」
ティアリス達と比べればね。
だから、僕は素直に返したんだ。
「やはり、貴公は賢い。今も意図して爪を隠すところで。だが、まぁ構わんさ。いざという時は期待させて貰うぞ」
「あの、そういう台詞は。それって、普通は僕が少将へ言う台詞だと・・・思うのですが」
「俺は、軍服を着ているだけで。中身はそこいらのオッサンと変わらんのさ」
ブライト少将。
ホント、ぶっちゃけますよね。
そんな少将は、呆れている僕を、心底楽しそうに笑っていました。
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私の名前は、アリサ・ルーレック。
来月の17日が来れば、私も七歳になるわ。
私の家は、お爺様とお婆様が起こした事業で、私が生まれた時にはもう。
それは帝国で最も大きな会社に、なっていたらしい。
なっていたらしい・・・・と言うのも、私は、ルーレック社が、どんな会社なのか。
それを、ちゃんとは知らないのよ。
お爺様は、みんなから会長って呼ばれているわ。
パパは専務で、ママも、お仕事中は社長って呼ばれているけど。
家の中では、パパもママもお爺様も、お仕事の話はしない。
そういうルールがあるのは、ママから教えて貰ったわ。
だから、私は、ルーレック社がどんな会社なのかを、きっと私が子供だから。
みんな教えてくれないんだって、そう思っているの。
でも、私のお爺様は、お婆様という妻が居るのに。
私が生まれる前に、らしいのだけど。
お婆様よりずっと若い女性とエッチなことをして、それで、みくだりはんを叩き付けられた・・・らしいわ。
だって、パパもママもだけど。
お爺様だって話してくれないし、使用人達もね。
揃って『さぁ、何のことか知りません』って、凄くおかしいのよ。
きっと、みんな知っていて、だけど、私には話せないでいる。
けどね。
初等科に通い始めてから、そこで、私は上級生から聞いているのよ。
お爺様は、雇っていた秘書の女性と、密かにエッチなことをしていたんだって。
エッチなことって、それも最初は、何かは知らない私に。
最上級生の男子も女子もだけど。
大人の女性が裸になって、色んなポーズをしている写真ばかりの雑誌とか。
それから、お爺様やパパと一緒にお風呂に入った時には見ているけど。
男の人のアレが、女性のアソコに入っている写真が載った雑誌とかも、いっぱい見せて貰ったわ。
上級生が言うには、これがエッチなことで、恋人同士や夫婦なら当然でも。
例えば妻が居るのに、他の女性とするのは、それを浮気と言うくらいも教えて貰ったわ。
でも、帝国では、例えば皇帝陛下とか、それに続く大貴族とか。
あとは凄く裕福な家の人とかもだけど。
そういう人達は、男性なら妻を何人作っても良いし。
女性でも、それは同じなんだって。
それだと、じゃあ、お爺様だって、お婆様の他に妻を作っても良いって事よね。
私の疑問は、だけど、上級生が言うには、一番最初に妻になった女性が許して、そこで二人目が認められるんだって。
だから、お爺様のそれは、お婆様が許さなかったって事になるのよ。
家では、誰も教えてくれないけど。
私には、こういう事を沢山教えてくれる、物知りな上級生達が居るんだから。
そういう訳だから、浮気をしたお爺様は、その事に凄く怒ったお婆様が、みくだりはんを叩き付けて。
そのまま家を出て行ってしまったのよ。
この事は、私が生まれる前だったから。
私は、たぶん何処かで生きているお婆様を、写真と、あとはママから聞いたくらいしか、知らないでいる。
ママからも聞いたし、それに写真でも見たから、なのだけど。
私の髪色は、陽射しの当たり具合で、金色にも映る茶色をしているわ。
それから紫色の瞳と、ママから色白で綺麗って言って貰える肌もそう。
ママは私を、お婆様とよく似ている。
だから間違いなく、将来は美人さんになるって。
そんな私は、皇帝陛下が催す園遊会へ、招待状を貰ったお爺様に誘われて。
生まれて初めて、帝都に在るサンスーシ宮殿へ来ています。
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パパとママは、二人ともお仕事があるから。
でも、私には、いっぱい楽しんでおいで・・・って。
それから園遊会に参加するなら、ちゃんとした服も必要だからって。
帝都へ出発する前だけど。
私は、パパとママに連れられて、そういう場所向けの相応しい衣装を仕立ててくれる、専門のお店にも行ってきたわ。
パパとママはね。
仕立て上がったドレスを着た私へ、『どう見ても立派なお姫様』だなんて、嬉しそうに褒めてくれたわ。
私も鏡を見て、絵本に出てくるお姫様になっている。
それくらい凄く嬉しかったんだから。
お爺様に連れられて、そうして初めて来たサンスーシ宮殿は、周囲を木々の緑に囲まれた中で、白く大きな、それこそ物語に出てくる王子様の宮殿が、まるでそこに在る様に思えていたわ。
「お爺様。ここには王子様や騎士様も居るの?」
「そうじゃな。今はまだ来ておられぬと思うが。今夜の晩餐会には、皇帝陛下のご子息様達も来られるじゃろうて。じゃが、アリサと歳近い皇子殿下は、恐らくは来られないじゃろうな」
「なんで、どうしてなの」
「それはじゃな。昔から皇子殿下や皇女殿下のお披露目は、それが十五の誕生日と決まっておるからじゃよ。じゃが、そのお披露目以降は。そこからは公の行事にも。多く参加されるのじゃよ」
せっかくサンスーシ宮殿へ来たのに。
私はね、此処へ来れば、私も絵本のお姫様の様に、運命の王子様と出会える。
だって、ママから将来は美人になれるって。
きっと、私は絵本のお姫様にだってなれる。
そう思っていたのに、お爺様の話を聞いた後は、なんか急につまらない。
ドレスも仕立てて貰って、凄く楽しみにして来たのに。
今は全然楽しみがない・・・って、代わりに帝都のデパートで、何か買って貰おう、くらいかしら。
それに、招待されたお爺様は、今日の園遊会から今年の獅子旗杯が終わるまで。
それまでは帝都に滞在するんだから。
そうなるとね。
運命の王子様に出会えない私なんか。
あとは買い物くらいしか、楽しみが無いのよね。
サンスーシ宮殿へ来て早々。
もう買い物くらいしか楽しみがない私は、滞在中の部屋へ案内してくれるメイドの後から。
お爺様と一緒に続くのでした。
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「それではオウギュスト様。何かありましたら、何時でもお呼びくださいませ」
「そうじゃな。では今夜にでも」
若くて綺麗なメイドさんへ。
お爺様は、夜の相手をして貰おう・・・・なんて考えているくらい。
「お爺様♪お母様に言い付けますわよ♪」
私に話しかけられて、途端に震え上がったお爺様は、若くて綺麗なメイドさんにまで笑われていたわ。
「お爺様。お母様が言ってました。女の尻ばかり追いかけているから。だから、お婆様を怒らせたのだと。それと此処で働くメイドに手を出せば。きっと、タダじゃ済みません事よ♪」
今のはママから、そう言う様にって。
ちゃんと、お願いされて来たんだからね。
でも、効果はあったみたい。
お爺様は私へ、後で好きなものを買ってあげるから。
その代わり、今の事は絶対の秘密じゃって。
ええ、私はそれで構いません事よ♪
そうして、私は何を買って貰おうかと・・・・・・・
「そうじゃ。儂らの他にも、獅子旗杯が終わるまでは。それまでは外国から招かれた客人も。此処へ泊まっている筈じゃ」
お爺様の言っていることは、けど、私はパパとママから聞いているのよ。
サンスーシ宮殿には、皇帝陛下が招いた大切な客人。
外国からのお客様が、同じ様に泊っている。
だから、粗相のない様にくらいも、それだって来る前に何度も言われたんだから。
もしかして、お爺様は、そんな事も忘れていたんだろうか。
そうして、忘れたままのお爺様は、いきなりメイドさんへ、ちょっかいを出そうとした・・・・・・
幾ら子供でも、私だって呆れるわ。
「アリサや」
「はい、お爺様」
「皇子殿下は無理でも。ローランディアやシャルフィなら。もしかすると歳の近い従者が来ているかも知れんぞ」
「従者ねぇ。せめて騎士様なら」
「お姫様が出てくる絵本ばかりが大好きなアリサじゃが。うむ、そう言えば。シャルフィにはアリサと同い年の騎士もいるそうじゃ。今回はシルビア様が来られておるしな。もしかすると」
「お爺様。それは本当ですの」
シャルフィのシルビア様なら、名前くらいは私も知っている。
けれど、この時の私の興味は、その全てが、同い年の騎士様にだけ向けられていた。
「じゃがなぁ。やはり子供の騎士では、シルビア様も連れて来てはいないじゃろう」
「でも、シャルフィには。私と同い年の騎士様が居るんですよね」
「そうじゃよ」
「どんな騎士様なのですか」
「アリサや。そこまでは儂も知らぬのじゃ。じゃが、このサンスーシ宮殿の何処かには。そこにシルビア様も泊っている筈じゃよ」
「分かりました。では、シルビア様に会えないか。少し外へ行って来ますわ」
お爺様の話だと、シャルフィには、私と同い年の騎士様が居る。
でも、詳しくは知らない。
だけど、このサンスーシ宮殿の何処か。
何処かに居るシルビア様へ、会うことが出来れば。
私の今一番知りたい、同い年の騎士様のことを教えて欲しい。
運命の王子様は居なくても。
代わりに、白馬が似合う騎士様なら。
こうして私は、お爺様を残して、シルビア様を探しに行ったのです。
部屋を出て、それから赤い絨毯の敷かれた廊下を、けれど、どっちへ行けば。
私の家も、それは大きいって思っていたけど。
サンスーシ宮殿は、私の家なんかよりも、ずっと大きくて広かったわ。
だから、歩き疲れて気が付いた時には、私は迷子になっていたのよ。
「どっちへ行けば」
シルビア様を探して出て来たのに。
今の私は、お爺様の居る部屋が何処なのか。
それさえ分からないでいたのよ。
こんなに大きなサンスーシ宮殿は、なのに、此処まで歩いても、メイドの一人にも出会えなかったわ。
さっきのメイドさんは、何時でも呼んでいいって・・・・でも、じゃあ、何処に居るのよ。
帰り道も分からない、完全に迷子になった私は、怖いのと寂しいのと・・・・・・
「取り敢えず。今のところは異常なし。それにしても、一応シルビア様から凄く広いって。けどさぁ。無駄に広すぎな気もするけどね」
私の耳に聞こえた男の子の声は、それが正面の階段から下の方。
直ぐに階段まで走った私は、下の階の廊下に映った、もう夏だというのに。
だけど、私が映した黒い髪の男の子は、その白いコート姿に、それで夏なのにコートも思ったけど。
「貴方。シルビア様を知っているの」
思わず大きな声で尋ねた私は、その男の子を捕まえれば、シルビア様の部屋が分かるかも知れない。
それで階段を走った私は、階段の角を踏んで滑らせた・・・・・・
そうよ。
階段を、それも下りる時に走ったりすれば危ないくらい。
だから、分かっていて走った私が、一番悪いのはそうだけど。
その時の足を滑らせた私は、姿勢を崩すと、それでも転ばないようにが。
咄嗟に飛んだ所で、勢いそのまま。
私は、そうして、此方へ振り向いた男の子の顔を、太股で挟むようにして。
思いっきり押し倒してしまったのよ。