第9話 ◆・・・ 母の思惑 ・・・◆
僕は、アルデリア法皇国から帰った後。
帰国後からの数日間は、そこは騎士団長としても、鎮守府総監としてもね。
それなりには仕事も溜まっていたので、だから当然。
まぁまぁな忙しい日々を過ごしました。
そうして、一段落付いた今日は、ローランディアに居るエスト姉へ、筆を執っています。
エスト姉もね。
シャナがアルデリア法皇国へ行ったことは、それは僕にも心配しているを、だいぶ以前の手紙に、書いてありました。
ですから、僕は今回の手紙で、会って色々と話してきた事を、そのことはエスト姉にも、帰国したら必ず伝えようと思っていたのです。
それから、もう一つ。
アルデリア法皇国では、そこで取り纏められている、ルテニアから避難した人達の名簿の件で。
僕とシャナは、偶然にだけど、ゴードンの家族と会う事が出来たのです。
名簿の事は、今は法皇になった神父様ですね。
神父様から、未だ判明していない人達が多くいる話を聞いた僕とシャナは、顔写真の付いた名簿を、神父様から見せて頂けたのです。
と言っても。
名簿それ自体は、総本部の受付で申し込めば、誰でも閲覧が出来るそうです。
僕とシャナは、そこで、ルテニアからシャルフィへ避難した。
そこまでは判明している名簿の中から。
今はアルデリア法皇国で暮らしている家族が、シャルフィへ避難した後から行方の分からない家族を探している。
備考には、そんな記述もありました。
で、家族が探しているのは、ゴードウィンという名前の男の子。
ただ、シャルフィ側から届けられた避難民の名簿には、対象の男の子は存在していない。
調査書も付いた名簿には、そう記してあったんだ。
だから、本当の名前のままだと、行方不明者だったんだよ。
最初に気付いたのは、それはシャナです。
シャナは、名簿の顔写真だけで、僕に『ねぇ、これって。ゴードンじゃない』って。
僕も、顔写真だけは間違いなく、それがゴードンだって思ったよ。
記載された情報を見ると、年齢は合っていた。
ルテニアの、出身の町の名前とかは聞いたことも無いから分からなかったけど。
家族が手掛かりだと、備考に記された短剣の記述は、それで、僕とシャナは間違いないを、強く抱いたんだ。
ゴードンは、正しくは、ゴードウィンという名前の男の子だった。
この件はね、僕とシャナはさっそく神父様へ伝えたんだ。
で、その時にだけど。
神父様が今でも預かっているゴードンの短剣を、それは教会から連絡を受けてやって来た。
それこそ、大急ぎでやって来たくらいも分かるゴードンの両親はね。
神父様が確認のために見せた短剣へ、間違いないって、抱き合って喜んでいたんだよ。
その後はね。
僕からシルビア様に頼んでだけど。
ゴードンの両親は、シャルフィに居るゴードンと、この時に通話することが出来たんだ。
シャルフィに居るゴードンは、大聖堂の職員が一人、随伴する形でだけど。
翌日には、ルスティアールへやって来ました。
まぁ、総本部での再会は感動的・・・・でもないかな。
だってさ、自分の名前をね。
両親はゴードウィンで名簿に記したのにさ。
シャルフィに避難した本人が、調査官へゴードンだと名乗ったせいで、それで何年も行方不明者になっていたんだよ。
だから、まぁ・・・・ね。
ゴードウィンは、お父さんから痛そうな拳骨を貰っていました。
ゴードウィンについては、もう一つ。
孤児院での一件の後から、ずっと神父様が預かっていた短剣について。
実はねぇ。
それは今でも、神父様が預かっているんです。
なんでって。
ハハハ・・・・・・そこはね。
ゴードン改め、ゴードウィン少年は、シャルフィで通う初等科で、『キング・オブ・スカート捲り』なんて言う、ある意味で1番の名声がねぇ。
因みに、その辺りは詳細を全て、ゴードウィンが来る前にね。
自らも被害者の一人だった、を名乗るシャナがね。
もう、事細かに両親へ話していましたよ。
という事情がね。
両親と再会したゴードウィン少年は、父親から滅茶苦茶厳しく叱られた後で。
なんと、父親から神父様へ、真人間に戻るまでは、今まで通り預かって欲しい。
それから、息子を真人間に戻すために、教会で育てて欲しい・・・・・・
結局、ゴードウィン少年は、今は家族と暮らしています。
ただし、学校が終わった後は、そこからは教会での奉仕活動に勤しんでいる・・・たぶんね。
ゴードウィンは、シャナから聞いた限り。
シャルフィの初等科では、特に女子達から嫌われていたそうです。
ま、それはそうだよな。
それで、僕も直に話をしたからだけどね。
ゴードウィンのお父さんは、此方はとても立派な方でした。
まぁ・・・数年後。
その頃には、たぶん、ゴードウィン少年は、きっと、真人間になっていると。
僕は一先ず、この件もね。
それはエスト姉への手紙にも、しっかり記しました。
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梅雨に入ったシャルフィにとって、その日は、数日ぶりの良く晴れた空が、朝から王国を包み込んでいた。
昼下がりの午後になると、久しぶりの青空は、午前中には肌に纏わりついた湿気を、この頃には吹く風も合わさって。
それで丁度いいを、感じさせていた。
場所は王宮内の一室。
僕はこの日、お昼休みに届いた連絡を受けると、そうして今は、ハンスさんとマリューさん。
それから、副官のイザークさんと、バーダントさんを含めた五人で、普段は文官の人達が、大きな会議の際に使う部屋へ来ています。
実は、今日はこの部屋でだけど。
午前中には、そこでローランディアから訪問したフェリシア女王陛下と、サザーランドからは御武流のカズマさん。
他にも、先日までの外交で会った人達。
シレジアからは、フランクリン首長が訪問すると、アルデリア法皇国からは、ハルムート宰相が。
それと、もう一人。
今は法皇の神父様も、この会議へ来ているのです。
シレジアのフランクリン首長は、そうだねぇ。
簡単に言えば、厳しい表情をしている、でも、話してみると、とっても優しいお爺さん・・・かな。
六十歳を過ぎている、くらいも聞いていますが。
スマートな体形で、年齢の割に背筋がしっかり伸びている印象もありますね。
そのせいか、身長は170くらいでも、もっと背が高い様にも見えます。
あと、そういう年齢だからだと、僕は最初にそう思ってしまったのですが。
フランクリン首長の髪色は、白髪じゃないけど、銀髪でもない。
で、シレジアからアルデリア法皇国への移動中にね。
その時に尋ねたシルビア様からは、アッシュブロンドじゃないかって。
要するに、光の当たり方で銀髪っぽくも見える、そういう灰色って感じです。
アルデリア法皇国のハルムート宰相は、ミケイロフ4世陛下の親戚筋に当たる方です。
僕がミケイロフ4世陛下からも聞いた内容では、今でも仲の良い幼馴染で、仕事も出来る頼りになる人くらいも聞いています。
ミケイロフ4世陛下の紹介で、僕も直接のご挨拶をしましたが。
陛下と同じくらい気さくな方でした。
ただ、美味しい物には目がない。
そんなハルムート宰相は、だから、とっても太っています。
もう、ボヨンボヨンですねぇ。
あとは、皇家の親戚筋なので、髪色はハルムート宰相も銀色です。
今日の午前中に行われた会議には、手短に紹介すると、各国を代表する方々や、その代理。
ですから、当然と警護の方々なども参加していました。
まぁ、カズマさんにだけ警護が居ないのは、やっぱり・・・・もの凄く強いからだよねぇ。
反対に、ローランディアからは、ブライト少将が。
ですが、僕はブライト少将が警護って・・・・ねぇ。
だって、どう見ても、警護が出来そうなほどの強さが見受けられません。
ぶっちゃけ、軍服じゃなかったら。
少将は、ただのオジサンですよ。
ですが、反対にフェリシア様の身の回りの世話を務める随員として、あのマーレ婆ちゃん。
えぇ、そうですよ。
オーランドで温泉宿を仕切る、しかも女王二人を、マーレ婆ちゃんは顎で使っていたんです。
そんな元気過ぎる婆ちゃんは、何故か・・・・随員として。
しかも、今日の会議にも、ちゃんと参加していたらしいのです。
マーレ婆ちゃん・・・・一体・・・・何者なのでしょうねぇ。
僕は、オーランドで、その時にはクローフィリアさんからも聞きましたけど。
今回の件で一番、気になりました。
ただ、これも間違いなく各国の要人が集まった部屋へ。
午後も引き続き会議があるくらいは知っていますが。
そんな場所へ。
じゃあ、場違いな僕達は何故、呼ばれたのでしょうか。
だけど、僕は、この時には未だ、シルビア様が何を意図しているのか。
それを全く理解っていませんでした。
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シルビアは、カーラを通じて午後のこの時間。
その時には来るようにと、そうして今は、会議室の空けておいた席へ座っている、アスラン達も映しながら。
全員が揃ったところで、自らは椅子から立ち上がった。
この会議においては、招いた側のシルビアと、招かれた側が対面する形で、席が設けらている。
一方でアスラン達は、招かれた側の席で、それも一番後ろに、午後から用意された席へ、今も静かに座っていた。
「皆様へは、本日の昼食の折に相談しました件。この件では、ご快諾を頂き。先ずはその事を、深く感謝申し上げます」
両手を前に掌を重ねたシルビアは、最後は深々と頭を下げた。
シャルフィの女王が、そうして頭を下げた所で、この会議へ参加していた者達の、先ずは揃ったような無言の頷きの後。
やや長めに頭を下げていたシルビアは、姿勢を正すと一度、静かな呼吸を挟んだ。
「騎士団長、アスラン・エクストラ・テリオン。この場に集まって下さった皆々様を証人として。私から貴方に。授けたいものがあります。私の前へ」
私から映ったアスランは、『えっ!?ナニ?』って表情がね。
そこは狙ってやったのだから、してやった感もあったわよ♪
母さん、こういう驚かせ方は、とっても楽しめる方なのよね。
いきなり呼ばれたアスランは、それはもう、ビックリも理解るけど。
でも、流石はハンス義兄さん。
こういう場所だから、そっと耳打でアドバイスもしてくれたわ。
可愛いアスランは、義兄さんのおかげで、私の前にやって来ました。
アスランが、それで私の目の前に立ったところで。
本当はね。
私とカーラの計画では、貴方の十歳の誕生日。
ただ、その前に。
シャルフィの王族は、七歳の誕生日を迎えた日に、先ずはコールブランドで。
だけど、アスラン。
貴方は、そうじゃなかった。
私は、ご先祖様から、帰国後に、ちゃんと聞きました。
私がコールブランドから嫌われた理由は、その最もな原因は、間違いなく私にあります。
身から出た錆。
だから、本当は、私が今も王位に在る事へ・・・・それを、コールブランドからは望まれていない、も理解るのです。
ですが。
私を憎む、いいえ、憎まれて当然なのですが。
コルナとコルキナの姉妹は、でも、二人はアスランを、とても好ましく思っているのです。
だから。
本当は、貴方が十歳を迎えたら。
その時に授けようと。
コールブランドの件を、それをカーラにだけ打ち明けた後で。
私は、この会議を利用して・・・・・・
「アスラン。貴方は私へ誓いを立てました。その時の事を、今も憶えていますね」
今は女王として、その尋ねへ。
「はい。私が陛下に立てた誓いは、それを私の命が尽きるまで。その瞬間まで果たす所存です」
「アスラン。貴方は、私が任命した日以来ずっと。王国の安寧のために尽くしてくれました。それこそ、かつては騎士達も関わった不祥事の後でも。貴方の尽力は、今は民達の声からも私へ。とても好ましいが伝わって来ます」
「いいえ、陛下。私一人の努力ではありません」
「えぇ、それも理解っています。ですが、貴方の努力は。それで多くの者達へ伝わった。これも間違いなく事実。アスラン、貴方はもう。今となってはシャルフィを支える軸へ成長したのです。私は貴方の。それから将来のシャルフィが。とても楽しみです」
「有り難き御言葉。陛下の騎士として。これからも精一杯尽くします」
「アスラン。貴方には、だからこそ。これを授けます」
私がアスランと話している間に、私の傍には恭しいを演じたカーラの、その両手が掴む一振りの旗が。
この場に集まる各国の要人は、その中には私とアスランの事を知っている方も複数いる。
それに、この旗を授ける真意。
法皇となったスレイン先生は勿論。
旗を両手に、今は私の傍で畏まるカーラへ、意図を察した義兄さんは、静かにアスランの少し後ろへ来てくれた。
そうよね。
スレイン先生は、それこそ、今カーラがしている役を、当時はしていたのだし。
義兄さんも、その時には証人の一人を務めていたのだから。
アスランが、それで私の息子だという事実。
だけど、スレイン先生も、義兄さんも。
私は話していないけど、やっぱり、察しているくらいも分かるのよ。
私の両手は、隣で畏まるカーラから旗を受け取ると、先ずは姿勢をアスランの方へ。
そうして、今度は柄を横にして、周りにも旗の紋がしっかり映るようにした後。
最後に私は、アスランの前へ近付いた。
「私から将来もシャルフィの軸となる貴方へ。以後はその必要があると。その判断も貴方の意思で、です。その時には、貴方を表すこの御旗を掲げるように」
私の時は、それは父様から頂いた。
まぁ、私の場合は、一人娘で、だからね。
旗色は、それは父様が、母様と二人で色々と考えたことも、後から聞いている。
私だけが掲げられる、ルベライトを模した色の旗は、そこに母様が、繁栄の祈りを込めた・・・・・・
私はその事を、スレイン先生が王宮を離れる少し前に、初めて聞いたのよ。
王国の旗は、基本的に豊かな緑色と、そこへ咲くカミツレの黄色が、これが長く続いている。
その中で、国王だけは独自の色なのよ。
父様は紫色の旗に、銀色のカミツレだった。
なんでも、紫色は、それが高貴な色だから。
私が生まれる以前に、流行病で亡くなった祖父母は、何故、紫色を高貴な色だと言ったのだろうか。
この疑問は、実は今も残っている。
だけど、私はアスランへ。
中央兵舎の事件の後からは、もう、これしかない。
アスランには、ご先祖様だけが掲げられた御旗がある。
それも理解っている。
でもね。
そのご先祖様からも、私は、ちゃんと確認を取りました。
そうして、その時には、ご先祖様もね。
私と同じ色を、けれど、ご先祖様の方にも、意味が含まれていたのよ。
遠くない将来、私の後を継ぐ貴方へ。
偶然重なった、私とご先祖様の選んだ御旗は、白地に黄金のカミツレ。
黄金のカミツレは、意匠を、ご先祖様の御旗から。
そこはね、ご先祖様から絶対だと。
まぁ、王位を代行している私の場合。
それもあるから、ご先祖様の決定には、逆らえないのよねぇ。
もっとも。
逆らうつもりも、ありませんけどね。
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僕は、騎士団本部にある自分の部屋へ戻ったところで、先ずは、どっと疲れた身体を、椅子の背もたれに預けました。
うん。
今回も、こういう事はね。
それで、事前に連絡が必要なのでは・・・ないかとね。
何も知らされていなかった僕としては、だから、精神的に疲れ切ったんだよ。
あぁ、そうだね。
僕は、要するに、シルビア様から僕だけの旗を頂いたんだ。
それから、受け取った旗を、ハンスさんに預けた後で。
ただ、その前に、僕の左胸には、幼年騎士になった時から、ずっと騎士章が付いているんだけど。
勿論、これだってシルビア様から頂いたんだ。
けど、その騎士章は、事前連絡無しで行われた、今日の授与式・・・だね。
そこで、僕だけは他の騎士と異なる騎士章を、それもシルビア様から授けられたのです。
僕が最初に頂いた騎士章は、それは銀製の騎士章です。
因みに、ハンスさんもマリューさんも、イザークさんも同じ銀製です。
と言うか、シャルフィの騎士は、みんな同じ銀製の騎士章を、制服の左胸に付ける決まりがあります。
そうですね。
騎士章は、それが身分証でもありますから。
特に勤務時間中は、騎士章を付けていないだけで、懲戒処分の対象にすらなるのです。
それから、騎士章の意匠です。
意匠は、カミツレの花の部分を中央にして、左右に大きく羽ばたいた翼ですね。
騎士章は、それで専門の職人さんが手掛けているも、此処はハンスさんから工房も案内して貰いましたので。
それで僕も、職人の皆さんから色々と話を聞くことが出来ました。
後は意匠が、ティアリスから聞くに、それこそ建国からずっと変わらないのだそうです。
まぁ、騎士章の事は、そこにも色々とあるんですよ。
で、僕は今日の授与式で、なのですが。
意匠は全く同じでも。
銀製から白金で作られた騎士章を、シルビア様から左胸に付けて頂きました。
余談ですが。
カーラさんから、イザークさん経由で届いた伝言は、申請すれば勿論、騎士章の予備を持つことも可能なのはそうでも。
ただし、白金の騎士章は、それが一つ当たり・・・・五百エルは、するそうです。
ドルで換算すると、五百万・・・って。
だけど、騎士章は、それでみんな一つは必ず予備を持つからね。
因みに、予備は自腹購入です。
銀製なら、十エルもしないんだけど。
僕は、今日頂いた白金の騎士章ですが。
だから絶対、失くさないを固く決意するのでした。