第3話 ◆・・・ 皇女の感想 ・・・◆
――― アルデリア国皇ミケイロフ4世 ―――
アスランは、資料でしか知らない、アルデリアを統治する国皇へ。
この日、先に挨拶を交わしたシルビア様から紹介される形で、初めて、国皇ミケイロフ4世と、直に言葉を交わした。
見た目の印象は、銀色の髪かな。
カーラさんの資料だと、銀髪は、アルデリア皇家の血統らしいんだよね。
付け足すと、ミケイロフ4世には、両手の指数では足りないくらい、妾が居るらしい。
一応ね、カーラさんもだし、後はティアリス達からも聞いている。
王族とか貴族とか、それから裕福な男性は、何人もの女性と結婚しているような関係が、普通らしいんだ。
あとね。
ミケイロフ4世の事は、資料によると、従妹のミュレイアという女性を、第一皇妃にしているらしい。
それで、二人の間には、白雪姫とも呼ばれる、今年で十歳になるラフォリア皇女が居るんだ。
挨拶もした後で、今だから思える感想は、何処にでも居そうな、優しい感じのオジサンだね。
身長は、ハンスさんくらいかな。
まぁ、運動大好きのハンスさんと比べれば、体系はスマート・・・かな。
バーダントさん>ハンスさん>ミケイロフ4世
まぁ、ね。
バーダントさんのムッキムキに比べれば、ハンスさんはまだ筋肉質で、国皇様は、平凡・・・だね。
あぁ、だけど。
初めての挨拶ではね、その時にはホント、僕もどうしていいのか分からない。
それくらい混乱もしたんだよ。
「余も、エクストラ・テリオン殿の事は、それは噂だけでなく。スレイン卿から幾度も聞いてな。特に興味を持っていたのだ。こうして会えたことを嬉しく思う」
「ミケイロフ4世陛下から、そのように御言葉を掛けて頂けるなど。恐悦至極に存じます」
「そうか。だが、余はな。エクストラ・テリオン殿には、その様に堅苦しく振舞って貰いたくはないのだ。叶うのであれば、親子のような親近の様に在りたいを望んでおる」
「・・・・ありがたき御言葉。なれど、恐れ多いことに御座います」
あんなことを、それこそ、想定外もいい所だったんだよ。
で、なんて返せば良いのかをね。
それで、僕が物凄く困っているのにさ。
この時のシルビア様は、可笑しそうに笑ってばかりで、ちっとも助けてくれなかったんだよ。
僕は、緊張し過ぎて、自分が何を口にしたのかもね。
言葉遣いが正しかったのか・・・とか、そうじゃなかったのか・・・とか。
『まぁ、場慣れは必要ですが。ですが、先ず先ずの挨拶でした』
評価はコルナのものです。
ティアリスはね、こういう時は優しいからさ。
だから、コルナの手厳しい評価の方が、なんか楽にもなれるんだよ。
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皇宮内の一室で、そこへ招かれたシャルフィの女王は、迎えたアルデリア国皇が、今も会話を弾ませている。
二人は豪奢な椅子に腰かけると、寛いだ感もある楽な姿勢で、挨拶の後は今も、互いに親しい印象を伺わせる会話を、それを父である国皇の後ろから。
会談に同席するラフォリアは、此方も名のある職人が手掛けた椅子に腰かけている。
しかし、背もたれに身を預けることはなく。
正装に身を包んで臨んだラフォリアは、これが自らも公務である以上、今だけは背筋を伸ばした姿勢で、静かに見つめていた。
「ねぇ、ララァ。シルビア様の後ろにいる白いコートの男の子は、身形からは護衛の様にも見えますが。一体、何者でしょうか」
「ラフォリア様。あの御方こそ、スレイン卿が申していた、シャルフィの騎士団長でございます」
視線をさり気なく聖女の方へ向けたまま、ただし、疑問は直ぐ後ろに立った姿勢で控えているララァへ。
ラフォリアの、ララァにしか届かないような声は、そして、察した侍従長から、自分にだけ伝えるような声が返ってきた。
「ラフォリア様も、噂くらいは聞き及んでいる筈です。シャルフィの女王が、未だ5歳の男子を騎士に任じた後で、その者を王都の治安を束ねる要職へ抜擢した件もそうです。そこから更に、女王は騎士団長の地位にさえ就かせました。それが、今も女王の直ぐ後ろに控えている男子です」
「確かに、えぇ・・・噂くらいは。聞いたことがあります」
そう、あの男の子が・・・・・・・
でも、それだと、今年で・・・7歳かしら。
噂では、魔導器を使わずに魔導を使える、なんて戯言も在りましたわね。
確か、名前は・・・・・・
「ラフォリア様。アスラン・エクストラ・テリオン殿でございます。ですが、シャルフィでは。エクセリオンという呼び名が、定着しているようです」
「ララァ、ありがとうございます。おかげで、恥をかかずに済みました」
見た目は、シルビア様と同じ真っ黒な髪ですわね。
もしかして・・・・親子でしょうか。
ですが、シルビア様は独身と聞いていましたし・・・・・・・
まぁ、その事は、今はどうでもいいでしょう。
だけど、男子にしても色白な肌と、綺麗な女の子にも見える顔立ち。
あれは・・・金色・・・なのかしら。
見たこともない美しい瞳をしているから、それで、余計に女の子にも映るのでしょうね。
「ちょっとだけ、悔しいですわね」
「ラフォリア様。男子の容貌へ嫉妬するようでは、未だ未だ未熟者と言われても、当然です」
頭の中まで見透かされている。
けれど、ララァが、それくらい鋭い女性も、私は理解っているつもりですわ。
こうして、私の意識がシルビア様よりも、噂で聞いていただけの男の子へ向けられている内に、父様とシルビア様の会談は、昼食の席へと運ばれましたのよ。
何の話し合いを、していたかなど。
もう、関心も無いから、サッパリでしたわ。
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外交における食事の席とは、そこにも親睦を深める意図くらい、当然含まれますのよ。
更には、皇女である私が、この席に着く意味。
これも、広く浅いところから。
ですが、一握りの理解る者には察せられる。
そういう深い意図も、勿論あるのですわ。
そして、国皇である父様から、私はその席で、女王の警護役と、私的な繋がりを作るようにと。
昼食会の直前ですが、そう内密に命を受けていたのです。
子供は子供同士・・・という事でしょうけど。
ですが、これでも、私はアルデリアの皇女ですわ。
対して、肩書は大したものでしょうけど。
ですが、やはり、あの男の子は、格下には違いありませんわ。
・・・・・まさか、今年7歳になる男の子が、既に大学へ籍を置いている身分だ等と・・・・・
最初、私は、父様からの命令でもありましたし。
それで、礼を欠かない程度には振る舞いもしました。
私的に繋がりを作れだ等と。
恐らく、あの警護役が、シルビア様のお気に入りだと、父様は思ったのでしょうね。
そう考えると、今後のシャルフィとの付き合いを考えれば。
シルビア様のお気に入りと、将来は女皇の私が、今の内から個人的に親しい関係を持つことは、プラスに作用するも考えられるでしょう。
そう至ったからこそ。
私は、ずっと格下の男の子へ。
寛容な皇女だと振る舞ったのです。
ところがです。
皇女である私と、格下の男の子との会話は、そこで、大学に籍を置いている身分証まで目にした私には、目の前の男の子が、本当に私よりも年下なのか。
それくらいの驚きが、強く疑ってしまったのですわ。
「シャルフィの大学では、そこではシルビア様の勧めもあって、私は政治学の科へ、籍を置いています。ですが、それとは別に。私はリーベイア世界の歴史に、特に未だ明かされていない部分へ。その辺りを学んだり調べるために。それでエリザベート先生と、テスタロッサ先生から指導を受けています」
「!!」
今・・・なんて言いましたか。
政治を学んでいる・・・ですって。
いいえ、それ以上にです。
・・・・・あの魔導革命の祖と、その直弟子の一人を教師に学んでいる・・・・・
この瞬間の私は、酷く狼狽えた様でした。
ですから、ララァが絶妙な間の入れ方をした事で。
それによって、私は見苦しい無様を、晒さずには済んだのです。
ララァが私の傍にいる。
それは、皇女を振る舞う上で、今しばらくは欠かせない事なのでしょうも、痛感しましたわ。
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父様が何故、私的な繋がりを作るようにと命じたのか。
私は、この昼食会を通じて、意図を正しく理解できた気がしました。
来月で7歳になるアスラン・エクストラ・テリオンという男の子は、事実、突き抜けてハイスペック過ぎるのです。
少なくとも、彼の者と、同年代で並び立てる存在など。
それこそ、右へ出られる存在は皆無でしょう。
今も帝王学を学ぶ私ですら。
それくらい程度を、だから、悔しいのですわ。
この世界に、アスラン・エクストラ・テリオンが、存在する限り。
・・・・・私は、このままですと生涯。世界一にはなれません・・・・・
ですが。
美少女にも化けられそうな美少年は、それで、とても優しく知性的くらいを、言葉遣いだけで抱けました。
それと、噂にしか聞いていなかった、魔導器を使わずに魔導が使える。
まさか、軽く指を鳴らしただけで、見たこともない美しい魔導を使えるだなんて。
『ラフォリア様。これは未だ固有の特性を持たせていない状態での現象です。マナ粒子発光現象と呼ばれるものが、これになります』
エクセリオン様は、軽く指を鳴らしただけで、私の目の前に、綺麗に混ざり合う虹色の球体を現したのです。
宙に浮かんだ、その握り拳ほどの球体へ、周囲から集うような微風がキラキラ光る光景は、私を今までにない程、魅了させたのですわ。
私も宮廷魔導士から、魔導を学び始めたところですが。
ですが、この様な魅惑もされる魔導が在る等と。
私は、父様からの命など関係なく。
いいえ、それ以上に、アスラン・エクストラ・テリオン様へ。
初めてとも言えるくらいの、それくらい強い関心で、こんなにも胸を苦しくさせられました。
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夜からは皇宮で、国皇がシャルフィの女王を主賓に、晩餐会を催す。
警護役のアスランは、これも予め定まっているスケジュールで、勿論、理解っている。
そのため、午後から予定されている法皇との会談時間は、多く取れても1時間半くらい。
とは言っても。
アルデリアでの滞在期間中には、国皇とも、それから、法皇とも何度かずつの会談が、最初から予定されている。
「シルビア様。先ほど皇宮の方より。馬車の用意が整ったと、報せを頂きました」
「わかりました。では、私達も赴きましょうか」
昼食の後で、短い時間であっても、皇宮内にある賓客向けの一室で休んでいたシルビアは、扉近くで呼び出しに応対していたアスランから報せを受けると、直ぐに椅子から立ち上がった。
前を歩く案内役の後ろから、続くシルビアの後ろを、一定の距離を保って歩くアスランは、ローランディアの王宮でもそうだった・・・・・・
最初は、絵本で、そうなんだと思っていた。
それで、皇宮の廊下にも、ワインレッドの絨毯が敷かれている。
さらに廊下の一部は、天井が半球形の造りだから、それで余計に高くも感じた。
それから、所々にある大きな花瓶は、飾られた花も鮮やかというか、凄く綺麗だった。
でも、花瓶は、どれも高級品なのだろう、くらいはそうでも。
ただ、アルデリアの方が、柱細工も飾られる絵画も、それとシャンデリア。
資料の写真で見た時から、シャンデリアだけは、ちゃんと見ておきたい、もあったんだ。
見た目は、大きな円錐をしたクリスタル製の工芸品。
一番大きなもので、直径は、たぶん、2メートル以上。
で、高さも、5メートルは、絶対あると思う。
昔はシャンデリア一台に対して、蝋燭が百本は灯されていたんだってさ。
今は蝋燭を立てる所に、導力式のランプを、それでも、小さなランプが百個は付いていると思う。
だから、ローランディアの王宮で見たよりもね。
シャンデリアも含めて、アルデリアの方が豪華・・・かな。
皇宮のことは、シルビア様も言ってたけど。
確かに芸術品の宝庫も、それも分かる感じだね。
アルデリア皇宮は、外から見ると五階建にも映るんだけど。
皇宮内の廊下は、そこには勿論、階段もある。
ただ、アルデリア皇宮の廊下は、階段とは別に、廊下それ自体に長く緩やかな傾斜を持たせた所もあるんだ。
そうすることで、階段の上り下りとは違った感じで、上の階や下の階へ行けるらしい。
で、初めて、そこを通って下の階へ行ったんだけどね。
廊下の両脇に、思わず足を止めて見ていたくなる。
それくらい大きな壁画が、何枚も飾られているんだよ。
けど、題材が聖剣伝説物語なのは、聞かなくても理解った。
だって、一枚は間違いなく、想像の騎士王の方だね。
リザイア様的に言うと、現実を知らない作り手によって、凛々しく堂々と描かれていたんだよ。
はぁ~・・・・ユミナさん。
どう見ても、ティアリスの方だよねぇ。
歩きながら映した壁画へ、そんな事も思いつつ。
僕はシルビア様の後から、また、豪奢な馬車へと乗り込んだ。