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幕間 中編 ◆・・・ とある士官の歩み録 ・・・◆


後の歴史へ『パキアの英雄』と刻まれたブライト・シュベールは、しかし、彼の者は決してそれを望んだわけではない。


『英雄など、それこそ酒場へ行けば幾らでも居る。だが、まぁ。麻酔の無い手術台の上には、滅多に現れないものさ』


だから俺などは並みで良いのだ。

可もなく不可もなく。

特段、良くも悪くもない。


戦場へ赴けと命じられれば。

逸早く後方の補給隊へ紛れ込む。

そして、戦線が不利に傾けば何時でも逃げられる準備くらいを欠かさない。


等身大のブライト・シュベールは、自らがそう口にするように。

誰もが一度は憧れる。

そういう煌びやかな英雄象とは縁のない存在だった。


-----


ブライト・シュベールの出身は、ローランディア王国領の西部国境地帯にある閑静(のどか)な交易街。


街の名はパキア。

地図を広げて場所を説明すると、先ずシレジアからシャルフィへ連なるアーシェラ山脈が、そのままローランディア王国領の北から西へと連なる。


そもそもローランディア王国の西部国境地帯は、先のアーシェラ山脈の終わりと、此処から比較的なだらかな高地平野を挟んで、今度はサザーランド公国にまで至るアイーダ山脈が始まる土地としても知られている。


この比較的なだらかな高地平野に引かれる国境線は、ヘイムダル帝国とローランディア王国とを繋ぐ街道を通じて人と物との交流が、今なお続いている。


事件当時も人口約二万人が暮らしていたパキアの街は、国境線からローランディア側へ数キロほどの所にある。


街道上に位置する事が、交易の盛んな街という印象も抱かれやすいのではあるが。

パキアの街は、主産業が農耕である。

そのせいか此処で暮らす者達は、日頃から都会と比べて穏やかな空気感もある。

故に、パキア全体の印象は、人と物との流通が盛んな交易街にしては、先に述べた様に長閑な印象が濃いのだ。


農耕の主な物は、葡萄や林檎といった果実。

パキアも含めた周辺の気候と地形の条件が、それでローランディア王国では特に良質なワインの産地としても知られている。

付け足すと、航空艦や飛行船が登場する以前においては、両国の非公式な外交が頻繁に行われた街でもあった。


新聖暦2058年

ローランディア王国が世界に先駆けて創設した空軍の生まれた年は、これが運命だったのか。

後の英雄ブライト・シュベールは、このパキアに数多あるワイナリー農家の一つで、末息子として生を受けた。


-----


家の手伝いができる年の頃から初等科の最終学年まで。

末息子のブライトは、自分の畑が一番だと自負する両親からワイン作りの基礎を仕込まれながら育った。

しかし、初等科も高学年の頃には、ブライト自身『どうせ家を継ぐのは長男』だからと・・・・・・


ブライトには兄が二人いる。

父も母も自慢の跡取りだと口を揃える働き者な長男のトマスと、学業を積んで何れは農地や作物の改良をするのが夢だと語る次男のヴィル。


三兄弟は揃って髪も瞳の色も同じ。

と言うよりも、両親の何方もが同じ髪と瞳では、これも当然だろう。


働き者な長男は、それで近所でも大人達が、将来は良いワインを仕込める職人になるだろう声が多かった。

人見知りとは縁遠い、何方かと言えば不思議と人が集まる明るい人柄なトマスは、三男坊のブライトから見ても格好良く映っていた。

ブライトとヴィルにとって、トマスは良く面倒を見てくれる良い兄貴だった。


次男のヴィルは、トマスと比べて性格は物静か。

ただ、農作業それ自体は兄同様に良く働く存在だった。

そんなヴィルは、実家の農作業を手伝う中で、折に何故と。


こうした方が良いのでは?


ヴィルが抱く疑問は、それを両親ともが納得出来る回答を示してくれなかった。


―――これが昔から続くやり方なのだ―――


近所の他のワイナリー農家でも、その点は同じだった事が、転じてヴィルを学問へと傾かせた。


三男のブライトがそう抱いていた様に。

実は次男のヴィルもまた、家を継ぐのはトマスだと考えていた。


ただし、ヴィルはそこで、自分はもっと効率の良い農業の在り方を学ぼう。

土壌の改良や品種の改良もそう。

そうして、将来は家を継いだ兄トマスの役に立とう。


ヴィルは故郷の中等科を優れた成績で卒業した後。

奨学金を得て、パキアからは遠く離れた農業専門の高等科へと進んだ。


-----


初等科も中学年から高学年の頃。

学校でも近所でも、一番近い所では両親から。

何かに付けて兄二人と比較される。

ブライトにとって、それは内に面白くないを募らせる事でしかなかった。


もっと自由に生きたい。

もっと楽に生きたい。


ワイナリー農家で育ったブライトにとって。

叶うなら今直ぐにでも此処を離れたい。

農業を好きだと思ったことも無く。

だから当然、農業で生きて行こう等と考えたことも無い。


転機は初等科の最終学年で迎えた秋に訪れた。

早い所では6月になると張り出される就職募集の広告は、初等科卒の資格を最低条件とした各業種から毎年のように届く。

他にも他地域にある中等科から届く入試を案内する広告が次々と掲示板を埋めて行く中で。


季節は10月も半ばの頃。

『王国軍士官候補生募集』の広告が掲示板に張り出された当日。

ブライトは即決した。


それこそ募集内容を読んだ直後のブライトは、迷うことなく職員室へ駆け込んだ。

先ずは事務の職員から応募用紙を貰うと直ぐにペンを走らせた。

続いて、必要事項を記入した用紙を、備え付けの専用封筒へ入れて直ぐに郵便局まで走った。


ブライトは、志望動機を書く欄へ。


―――農家に生まれたからと言って農民として一生を終えるくらいなら。俺は軍人になって英雄になれるかも知れない夢を追いかけたい―――


月が替わった11月も終わりの頃。

ブライトが通うパキアの初等科へ、金色でローランディア王国の紋が押印された一通の黒封筒が届いた。


届け先は学校でも、宛名はブライトの名が記されていた。

ブライトは校長室に呼び出された後。

そこで、不安を隠せない面持ちの校長先生から直接この黒封筒を受け取った。


少年ブライトは、この瞬間を以って。

現実を何一つ知らぬまま。

王国軍士官候補生の道を歩むことが定められた。


-----


呆れながらも笑って応援してくれたのは、長男のトマスだった。

次男のヴィルも、トマスと同じように呆れはしたが、それが選んだ道なら俺も応援する。

ただ、この件では何一つ相談も無ければ。

まさか息子が軍の募集に応募した等と。

父と母だけは一晩中ずっと大声で泣いていた。


この日、家に帰って来たブライトが携えていた。

それこそ、金印の国章が際立つ黒封筒は、大人なら誰でも分かる。

それが王宮の承認を経て、軍が宛てたくらい。

付け足すと、これが届いた瞬間から拒否はもう出来ないのだ。


ブライトは望んで軍人となったが。

当時のローランディア王国は、恒例のアナハイム事案の影響が、それで東西の国境線が不穏な空気に包まれている。

パキアでも駐留軍が増員されていたくらい。

後は、街から先にある国境により近い場所。

此処でも軍の検問所が設けられた等。


ブライトが通う初等科の校長先生も当然知っていた。

この街の大人達は、そして、ブライトの両親も口にしないだけで不安を抱えていたのだ。


故に何一つ相談も無かった中で、突然届いた。

両親からすれば、息子に宛てられた軍の封筒を前にして凍り付いたくらい。


軍人になれば、いつ戦場へ行っても不思議でない情勢は、だから両親は大泣きしたのである。


一年の最後を迎えた12月。

中等科の入学が、年度始めの4月なのに対して。

王国軍が所管する士官学校の入校式は1月と定められている。

また、入校式の前に入寮手続きと健康診断の他。

基礎体力測定などが行われる事情、合格者は前月の内に王都ヴィネツィーラの南にあるジブラルタル要塞へと集められた。


初等科の卒業式は、年度末の三月に行われるのだが。

士官候補生となったブライトは、特例によって1月の入校式。

その前日を日付けとした初等科卒業と扱われた。


-----


新聖暦2084年


王国空軍へ所属するブライトは、二十代の中では数少ない少佐の身分にあった。

ただし、任官後の経歴はそうであっても。

任官前、士官候補生として過ごした学生時代の成績は平凡と言うか・・・・まぁ、平凡という表現で体裁を整えられた。


新米青年士官とも呼べるブライトは、とある事情が、卒業と同時に空軍への配属となった。

任官時は准尉。

此処は成績に関係なく准尉としての任官が定められている。


だが、士官学生が受ける授業の中で、練習用の航空艦を使った授業カリキュラムは、そこで教師陣がブライトへ適性が有る評価を付けた。


と言っても。

陸軍向けの、取り分け実技に分類されるカリキュラムを、ありとあらゆる仮病を使ってまでサボる常習犯では・・・・・・


故に、せめて。

教師達は、この常習犯が空軍向きの適性を持っていた事に揃って安堵したらしい。

でなければ本当に、税金だけが浪費されるタダ飯喰らいの極潰しだった。

これも教師達の一致した評価である。


ローランディア王国軍では、慣例として任官直後の士官へ。

先ず何れかの地方都市へ配属すると、最低でも二年間は下積みをさせる習いがある。

この二年間は、そこで二年目を迎えると少尉への昇進が決まっているくらいも慣例だった。


少尉から先、此処からは昇進に相応しい実績が求められる。

よって、士官に在る者達は一様に少尉からがスタートラインだと。

上の位に在る者達からの折にそうも言われる風潮があった。


-----


―――税金だけが浪費されるタダ飯喰らいの極潰し―――


ブライトより下を探すのは、困難をも極めるだろう・・・・・・

何とか無事に卒業させる事が出来たと、士官学校の教師達は一様にそう抱いていた。


当時のローランディア空軍は、大小を含めて航空艦を二百隻。

中央の他は東西の地方都市に一ヶ所ずつ拠点を設けると、そこで訓練を含む活動を行っていた。


任官からの一年間。

ブライトの日常は、週の半分が空の上での生活だった。


七日ある一週間は、西地区で二日、東地区で二日、中央で二日の後に休暇を一日という流れ。

二日間の内訳は、地上勤務が半日程度。

後は補給と整備くらいで地上に降りる以外を空で過ごす。

空では主に幾つかのルートを巡回する。


ブライトが乗る艦は、五十人程で運用する小型の駆逐艦。

士官は艦長と副長の他、ブライトを含めて十人くらい。


士官学生時代の練習艦を使った授業は、そこでブライトの操艦へ高評価が付いた事もある。

配属された後で、傍に指導役が付いての操艦任務は、僅か数回を経た所で、以降は当然と任された。


操艦は必ずしも簡単でない。

先ず航路上の天候は当然、風向きに対しても適切に対処しなければならない。

その上で定刻通りに目的地へ到着する。

悪天候を理由に、遠回りな航路変更をした場合でも、この点は変わらないのだ。


操艦を任されたブライトは、突発的な悪天候にあっても。

それで航路を幾度も変える状況へ追いやられても。

定刻には目的地へ艦を辿り着かせた。


同じ艦に乗っていた者達は、他にも気付いたことがある。

これは艦長も副長も同じ。

突発的な悪天候は、そこで大なり小なり艦が揺らされる事も間々ある。

そして、この揺れが原因で、負傷や体調不良に遭う者達がいる。


ところが、ブライトが操艦を預かる限り。

この問題は一度として起きなかったのである。


任官して十ヶ月。

ブライトは操艦技術の優秀さが評価材料となって、慣例よりも早く少尉へと昇進した。


-----


はっきり言って、これは偶然だった。

少尉となって半年程が過ぎた頃。


ブライトは周り同様、軍から定期的に与えられる一週間程度の休暇を、その時は何をするでもなく王都で過ごしていた。


任官した士官は、上位も下位も軍務のローテーションが、そして、定期的に纏まった休暇が与えられる。

ブライトは、これも周りと同じで時々は故郷へ帰っていた。

筆まめでもない性格は、だから手紙も殆ど書いたことが無い。

しかし、両親も二人の兄も月に二回は手紙を寄越してくる。


そんな訳で、三ヶ月に一回くらいは実家にも帰る。


ただ、帰った所で。

確かに両親もトマスも自分を歓迎してくれる。

長男のトマスは、それで既にブライトも知る女性と結婚していた。

メリルは、ガキの頃の自分を『怠け者』だと揶揄って笑う・・・・・・


記憶に残る印象は、余り良く無いのだが。

けれど、メリルとトマスは、ガキの頃の自分から見ても仲が良かった・・・・ように思う。


家が近かったのと、どっちもワイン農家だった事もあったのかも知れない。

任官した後で、そこで時々は帰省もする実家の雰囲気は、互いの父親が酔い潰れるまで賑やかに騒ぐ。


アパートを借りて大学に通うヴィル兄も言っていた。


『もう、この家には俺の居場所なんか無いのかもな』


トマスは今でも自分達を気に掛けてくれる。

本当に良い兄貴には違いない。


ただ、ヴィル兄がそう言ったように。

そして、これが大人になって独り立ちしなければならない・・・・・・


父も母も、それからトマス兄もそうだ。

俺にもヴィル兄にも『いつでも帰って来い』って言ってくれる。


帰れない訳じゃない。

だが、大人になった以上は、自分の居場所を自分で作らなければ・・・・・・


ブライト自身、それもあるは、故に帰省を何処か避けるようになってしまった。


とまぁ、そんなセンチな感傷がだ。

確かに俺は実家を何処か遠ざけていたのだ。


だって、考えてもみろ。

トマス兄とメリル・・・義姉とは呼びたくも無いが。

休暇で実家に帰るとだ。

夜中に二人がアンアンやっている音を聞かされるんだぞ。


はぁ・・・・虚しくなる俺の気持ちが理解るか。

しかもだ。

親父もお袋も『盛んなのは良い事だ』って笑っているんだぞ。

揃って『早く孫の顔が見たい』とか何とか言いやがって。


最後は決まって『ブライト。お前も軍の士官様になったんだから。どうせなら金持ちで良い所の娘さんを貰うんだぞ』ってな・・・・・


そんなムカつくことばかりを聞かされるんだ。

帰りたくなくなる俺の気持ち。

当然だって思うだろ。


むさ苦しい野郎ばかりしか居ない艦の中で。

そこでどうやれば『良い所の娘』なんて存在に会えるんだっつぅの。


そういう事情もあるからな。

俺は今回の休暇もそう。

せめて。

ヴィネツィーラの娼婦街でスッキリして来よう等とだ。


そうして夕方からは泊まりで娼婦宿へ。

それまでは適当にぶらぶらするかと・・・・・・・


あんな事件に関わるとは思ってもみなかった。


夕方までは適当に時間を潰す予定が、しかし、ヴィネツィーラの南から伸びる橋の上で、そこに幾つもあるベンチの一つを占領して昼寝に耽っていたブライトは、年輩と思われる女性の悲鳴へ反射的に身体を起こされた。

上体だけを起こした姿勢で一先ず周囲をぐるりと見渡したが、映る景色に事件が起きた様子がない。


ただの空耳かと・・・・

そんな風に思った矢先、同じ声の悲鳴が再び耳へ届いた。


悲鳴は、それが下からだと。

ベンチから立ち上がったブライトの視線は、声の方へ。

橋の下に映った湖面には、引っ繰り返った状態の釣り客向け貸出しボートが一艘と、傍の水面でバタバタしているババァ?


橋の上からだと、水面までは軽く二十メートル以上。

状況を理解したブライトの視線は、此処から橋の上へ。

助けるにしても、それが出来そうな相手を・・・・・・・


若い美女なら俺が飛び込むんだが・・・・射程範囲外だからな。


しかし、平日とあっては近くに人気すらない。

休日や祭りイベントの時なら、溢れるくらいごった返すんだが。


そんなことも思うブライトの耳へは、助けを求める悲鳴がまたも届く。


・・・・・これで軍人じゃなかったら。聞こえない振りを通せるんだがなぁ・・・・・・


半ば諦めた様な面持ちで、ブライトは橋桁からローレライ湖へと飛び込んだ。

溺れかかっていた女性は、そして、無事に保護された。


-----


ブライトが老婆だと抱いた年輩の女性は、自らをフェリシア・フォン・ルミエールと名乗ると、お礼の言葉を幾つも重ねていた。


何処かで聞いたことがある。

そんな風に抱いたブライトは、逆に名を尋ねられた所で、反射的に軍人らしい敬礼の姿勢を取っていた。


『自分はローランディア王国空軍に所属するブライト・シュベール少尉であります。王国軍人として当然の事をしたまでです』


その後は休暇中の偶然だった。

しかし、救助を求める民間人を保護するのに休暇云々は関係ない。

よって、当然の事をしたまでに過ぎないから礼は無用です・・・・・と。


ブライトは王都の警備隊へ保護した女性を預けると、せめてお礼をしたいと言い張る相手には、この後で所用があるを理由に逃れるも同然、場を離れた。


そう。

夕方からは泊まりで楽しむ予定がある。

婆さんの御礼なんかよりも。

若い女を相手に存分に発奮する方が断然良い。


その翌日。

昼も過ぎた時間に官舎へ帰宅したブライトは、待ち構えていた憲兵隊によって、いきなり拘束された。


問答無用とばかりに拘束されたブライトの身柄は、そこから近衛隊へ引き渡された後。

連行された先が王宮の広間だった。


一体俺が何をしたんだと。

罪状も告げず、まして、現行犯でも無ければ絶対示す必要がある逮捕令状も見せて貰っていない。

お前等全員、逆に訴えてやるから覚悟しろ。

たとえ女王でも、きっちりかっちり裁いてやる。


そこが王宮の広間であっても構うものかと。

既に怒り心頭は、両手を前に手錠も嵌められたブライトの憤る声が広間全体へ響き渡る中、間もなく聞き覚えのある声が返って来た。


「私はただ、お礼をしたいから此処へ招く様にと。ですが、何の行き違いが在って。私を助けて下さった命の恩人は拘束されているのでしょうか」


へっ・・・?

って・・・はぁ!?


玉座に姿を現した女性を視界に留めた途端。

怒りの声をこれでもかと叫んでいたブライトは、唖然として沈黙したくらい当然だろう。


玉座には昨日、その時はずぶ濡れが、だから髪もぐしゃぐしゃになっていた。

まさか、女王陛下を助けていた等と・・・・・


力の抜けた身体は、糸を切られた人形も同然に床へ崩れた。


・・・・・・俺、もしかして、極刑だったりする・・・・・・


脳裏を過るのは、さっきまで何を叫んだ。


既に、周囲の声等。

この瞬間の魂さえ抜けたブライトには、僅かにも届いていなかった。


-----


王宮へ連れて行かれた後。

俺は・・・まぁ、な。

ん・・・・確かに最初は訳が分からず。

それで俺も浅はかな行動をしてしまった。

ん、それくらいは反省もしないとな。


「私も驚きましたよ。ですが、憲兵隊ではどうやら。ブライト少尉は良く映っていない様ですわね」


ははははは・・・・・

まぁ・・・な。

あいつらは、一昨日の晩にやった賭けポーカーで財布を持って行かれた身だしな。

因みにだ。

その時に得た軍資金で、俺は美女とお泊りを満喫した訳だ。


「お恥ずかしいながら。小官は、その。士官学生時代に門限破りの常習犯として睨まれていましたので」


そうだよ。

青春を謳歌したんだよ。

娼館宿だってな・・・・その頃からの常連様なんだぞ。

だいたい、十代の男子はな。

それでやりたい盛りなんだよ・・・・文句(もんく)あるか。


「まぁ、それはそれは。とってもやんちゃさんだったのでしょうね」

「きょ・・・恐縮であります」


陛下は面白かったのか、とてもよく笑っていた。

反対に若気の至りを晒した俺は、委縮するばかりだったがな。


とまぁ・・・そんな陛下だけが楽しんだ時間は、命を助けられたことへの御礼。

その日、俺は陛下から直接、中尉への昇進を告げられた。

更に、陛下の御座船と呼べる巡航艦。

中型の航空艦へ転属も告げられると、操舵長の肩書きを与えられた。


補足。

何故、陛下は、あんな所で。

しかも護衛すら付けずに溺れていたのか。

陛下は人目を忍んでの外出が、そこで趣味の釣りで大物を相手に格闘中。

強い引きの力が、バランスを崩してのドボンだった・・・・

笑い話じゃ済まされねぇぞ・・・・と、俺は笑うに笑えなかった。


ブライトはこうして二十歳もそこそこに中尉への昇進を果たした後。

操舵長としての実績は勿論ある。

やがて大尉へ昇進した後は、此処から艦長としての素質さえ優れているを、これも見出した女王の意思が関わった。


ブライト・シュベールは、少佐への昇進を機に、フェリシア女王が乗る専用艦。

その艦長を、勅によって命じられた。


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