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第26話 ◆・・・ 卓を囲む者達だから知る物語 ④ ・・・◆


私達が乗り込んだユフィの航空艦は、それでいてエレナから聞いた限り。

どうやらユフィ御自慢の艦らしい。


だけどね。

あの傲慢不遜が自慢するだけあって。

まぁ、ヘイムダルの航空艦にしては速かったわね。


私がこんな風に言えるのは、ZCFの航空艦の方が桁違いを知っているからよ。


-----


そんなユフィの艦も私達を乗せて飛び立ったのが真夜中。

そこから航路は北へ。

シャルフィからシレジアの領空へ侵犯した艦は、そして、最大船速を維持したままシレジアを通過した。


『ユフィーリア元帥より此度の件。そこで事態収拾のために止む無く領空を侵犯した件については、それはシャルフィの聖女殿が全責任を負ってくれる。よって小官自身は案ずることなくノディオンへ赴けば良いを受けております』


はぁっ!?


ユフィの艦を預かる男性の艦長からそう告げられてよ。

いくら何でもね。


ホント、ユフィってば一国の女王様を何だと思ってるのよ。


艦長さんの名前はアゼル・ディスタード。

私やエレナよりも三つ年上で、階級は中佐。


『はぁ、まぁ・・・およそ真っ当な神経と常識を持つ御方なら。普通は驚いて呆れますよね』


私の反応を前にしたディスタード中佐は、苦笑いで頭を掻いていたわ。


艦長のディスタード中佐だけど。

一言で表すと見た目からしてだらしない男性ね。

軍の制服は着崩しているしシャキッとしていないのよ。


ローランディアの未来が懸かっている私達を前にしても。

あの中佐はね・・・・いきなり大欠伸で出迎えてくれました。


だけど、そうね。

あの場はムッとした私達へ、ここはエレナが教えてくれたのよ。

彼の見た目はこうでも。

事実、彼は間違いなくユフィの幕僚に名を連ねているって。


私は、ユフィの実力を、私なりに認めているわ。

だからね。

目の前のいきなり失礼な大欠伸で迎えてくれた冴えない青年士官について。

如何にも軍人で威張り散らすような。

そういう見掛け倒しの小者の類とは明らかに違う。


何と言うか。

これも敵にすれば手強いをね。

艦に乗り込んでの最初の会話の最中。

その時はエレナに揶揄われると女性慣れしていない初心な一面を覗かせた。

途中、真っ赤に染まって畏まってしまった可愛らしい中佐さんから確かに感じ取ったのよ。


アゼル・ディスタード中佐。

肩肘を張らない為人は、怠け者性分なのか身だしなみまで大雑把。

カーラの様なビシッとした着こなしとは対極かしらね。

一応、本人の主張によると『式典の様な場以外では着崩している方が気楽』なのだそうだ。

まっ、それは私も同感ね。


そういう訳で、栗毛色の髪は寝癖が目立たない程度にしか整えない。

シャツのボタンは、それも上から三つは外している。

欠伸も隠そうとしないしね。


けど、そんな怠け者は、翡翠の様に綺麗な瞳だけ。

私は、ディスタード中佐の瞳の奥。

直感でしかないけど、中佐が実は怠け者を演じているのでは・・・・・


後から彼がユフィの直属の中でも五指に入る幕僚と知った私は、思い出して自然と納得。

それと、かつてはユフィが幼少時代を過ごした辺境地で、そこを治めるディスタード子爵家の長男だとか。

帝国にも貴族らしくない貴族が居たのよ。


身長はユフィと同じくらいで、つまり、私やエレナよりも頭一つは高い。

実家のある辺境地では子供の頃から狩猟三昧な生活をしていたそうだ。

そのせいか馬術と弓は自然と上達したらしい。

後は貴族だからという理由で手解きを受けた剣術もそう。

実は、それさえヘイムダル帝国では三大流派の一つと呼ばれるアルハザード。


アルハザード流は両手で扱う大剣の技が特に有名だけど。

他にも槍や弓に戦斧の技などもあるわ。


そういう訳で、最初に感じ取った手強い印象が、事実その通りだった人物でもあるのよね。

で、もう一つ付け足すと。

現在は、なんとエレナの旦那様でもあるのよ。

そして、双子の姉弟を持つ一家の主になりましたとさ。


エレナの世話好きは理解っていたけどね。

それにしても。

態々、好んで手の掛かるぐうたら男を選ぶなんて。

ホント、此処だけは物好きも極まった感じよね。


-----


私達を乗せたユフィの艦は、そして、朝日が昇り始めた頃。

シレジアからは北西の山脈に差し掛かっていた。

朝焼けに照らされた山脈を越える最中、やがて遠くに映った朝日を浴びた大草原の景色が、窓越しに映した私にもノディオンへやって来たを抱かせた。


とは言え、そこはノディオンの端の方に過ぎない。

此処へ来た目的は唯一つ。

だから、その唯一つの居場所について。


本来はユフィのための貴賓室を借りて休んでいた私達は、此方も寝起き間もないに違いない。

肌が白いから余計に目立つ無精ひげはそのまま。

寝癖もそのまま顔を出したディスタード中佐へ、当然の疑問を尋ねた。

だけど、尋ねた私達へ。

この時の尋ねられたディスタード中佐の方はと言うと。

緊張感なんて全く無し。

寝足りなかったのか気怠そうな欠伸をしていたわ。


『ああ、元帥からは・・・・何処かには居るだろう。そういう事らしいですよ。一応ですが、この艦には馬も乗せていますから』


ユフィの手紙には居場所についての記載が無かった。

まぁ、状況から考えてもね。


今だから断言できるのだけど。

ユフィは真実、私をパシリに使ったのよ。


戦争を回避できる。

その鍵を握るオルガ長老は、確かに此処ノディオンの何処かには居るだろう。


広大な大高原の何処かにいる長老を、私達は今から探さなければならない。

ディスタード中佐の緊張感のないそれが感染したのか。

呆れも通り越した私達は、中でも私が一番だらしない大きな項垂れをしてしまったわ。


『元帥がああいう御方ですからね。ただ、まぁ。一応の目星は付けてあります。行ける所まではこの艦で行きますが。そこから先へは、そのために乗せたノディオン産の馬で駆けます。上手く行けば夕方までには会えますよ』


この時のディスタード中佐は、声色にもやる気なんか全く無い。

しかも、また大きな欠伸に背伸びまで。

これで本当に大丈夫なんだろうか。

疑念は私だけではなかった。

マーレさんなんか、今にもプッツンしそうだったのよ。


だけど、事実、私達は夕暮れよりもだいぶ前。

午後もまだ太陽が高いうちにオルガ長老と会談を持つ事が出来た。

冴えない、だらしない、やる気も無いな中佐は、けれど、此処も最短時間で仕事をやってのけたのよ。

と言うのも。

エレナから聞いた話では、今回の領空侵犯をユフィへ最初に意見したのが中佐だったそうだ。

加えて更にノディオンへ赴いた後。

広大なノディオンの何処かに居る長老探しもそう。

ノディオンで育った馬であれば、風に乗る匂いを辿って近くの集落へ行く事が出来る。

つまり、そこまで辿り着ければ長老の居場所も得られる筈だと。


中佐の意見は、ユフィが迷わず即決したそうだ。

だからね。

私は、やはり、中佐のそれは演技だと強く思ったのよ。


突然の訪問だったけど。

私達の事情を聞いたオルガ長老は、戦争は良くない事だと快く応じてくれたわ。

そして、日が沈んだ頃にはノディオンから今度は帝都へ向けて。

私達と長老を乗せたユフィの艦は足早に飛び立った。


-----


ノディオンを立って、そこから艦内で一夜を過ごした。

空と大地を照らす朝の陽ざしが眩しい頃。

私達が乗ったユフィの艦は、三千万程の人達が暮らす帝都を眼下に映していた。


けれど、この時の私達には、共有した懸念があった。

懸念とは、先ず外交における会談が、それでいて事前の調整を無しには叶わない部分。


嫌な予感は的中した。

私達が乗ったユフィの艦は、帝都にある軍の空港へと着陸した所で。

帝都に駐留する正規軍によって即座に包囲された。


私達はディスタード中佐を仲介に艦を包囲した軍の司令官へ。

事情を説明した後は皇帝への謁見を求めた。


どう見ても小者にしか見えない軍の司令官は最初、部下達に私達へ当然と銃口を向けさせたまま。

それで最悪な一触即発も過った私達だけど。

ただ、この場はオルガ長老が前に出ると一先ず銃口を下ろさせた。


司令官の私やマーレ秘書官への露骨な険悪態度も。

オルガ長老へは掌返し。

だから、オルガ長老から改めて皇帝との会談を求められた横柄な司令官は、ペコペコしながら『確認を取って来ます』だって。

こいつマジでムカつくわ。


司令官が確認を取るために場を離れた後。

それで三時間くらいだったかしらね。

完全包囲はそのままで、だけど、貴賓室で待っていた私達へ。

あのクソ司令官。

今度は平身低頭で姿を現すと、オルガ長老へ畏まってヘイムダル帝国正統政府の回答を届けたわ。


皇帝への会談を求めた件は、それを正統政府が急な調整は出来ないを理由に。

後は帝国軍の軍艦に他国の要人が乗っている件。

それもあるから現時点では会談要請へ応じられる段階にない。


そんな陰険政府からの回答は最後。

本来であれば正しい手続きを経ての入国ですらない以上。

然し、朋友たるノディオンの長からの頼みでもある。

よって事情を汲んで今から調整を行う故。

それまでは艦内に留まっているように。

私達が艦の外へ出ない限りは拘束もしないそうだ。


簡潔に纏めると。

私達は帝国政府によって軟禁されたのでした。

・・・・・to be continued


-----


ユフィの艦に軟禁された私達ですが。

まぁね。

カーラなんかは『このくらいは想定で来た事です』って。

寧ろ此処からどうやって皇帝との会談へ至らせるのか。


貴賓室はそこでだけど。

マーレ秘書官とカーラが会談に至った際には考えられる想定を組み立てている中で。

私とオルガ長老は、二人が醸し出す戯言一つ許さない空気。

それくらい怖い空気の中で二人が組み立てる想定の腰を折らない様に距離を置いていました。

エレナは・・・・完全にメイドさんだったわね。


この軟禁状態は翌日の深夜まで続いた。

そして、深夜の襲撃が事態を急展開させたのよ。


ただ、軟禁と言っても。

艦には外から補給が届けられていたわ。

おかげで、寛ぐ分には不自由しなかったのよね。

エレナなんて艦内の厨房で腕を振るっていたんだから。

というかユフィの艦だけあって大きなバスルームやエステサロンなんかも備わっていたのよ。


帝国の皇女様(ユフィ)って・・・・ホント、税金泥棒よね。


軟禁された翌日。

その日の夕食を普段通りの時間に過ごした後。

今日も朝からずっと想定を組んでは、互いに近寄り難い雰囲気で検討に没頭していたマーレ秘書官とカーラだったけど。

さすがに疲れたんだと思う。

揃って普段よりずっと早い時間にベッドへ潜ったわ。


私の方は一日中ずっとオルガ長老の話し相手。

でも、そうね。

最近のノディオンのことを聞いたりとか。

反対に今のシャルフィのことを話したりとか。

私と長老ももうずっと久しぶりって言えるくらい会っていなかったから。

会話が盛り上がると一日なんてあっという間だったわよ。


ただ、その会話の最中。

これも私と長老は何故、帝国はこうも強引な態度を取ったのか。


確かにヘイムダル帝国は、これまでにも武力を使った脅迫的な外交をして来た。

今回のフェリシア様が治めるローランディアだけじゃない。

程度に差はあってもシレジアやサザーランドも脅迫を受けている。

はっきり言ってヘイムダルと接する国や自治州は、何処も同じ様なものだ。


それでも。

今回の様にいきなり国境線へ大規模な戦力を展開する。

こんな性急なやり方はして来なかった。


そうね。

ヘイムダルは確かに武力を背景にした強圧的な姿勢なのだけど。

こう用意周到というか。

狡猾な段取りを踏んで来る感じよね。


私が抱く疑問は、それを聞く間は何度も頷いてくれた温厚なオルガ長老も同じだったみたい。

首を横に振ると、そして、自分も今回の様なことは理解し難い。

だけど、オルガ長老は、『あの皇帝が悪戯に戦争を始める等。それだけは無いと信じたい』って零すように呟いた。

オルガ長老から見た皇帝は、率先して政治に携わるような為人ではない。

だが、しかし、礼節を軽んじもしない。

悪い事は悪いと言える人物だと。


故に此度は腑に落ちない。

そういう言葉も私は耳にした。


私とエレナ。

それからオルガ長老は、先に眠った二人よりは遅くベッドに潜った。

それでも時計は夜の十時頃だったと思う。


まさか。

日付けが変わった途端、事件が起きるだなんて。

この時は予想すらしなかったわ。


それまで眠っていた私達は、艦の外から轟いた幾つもの爆発音。

静かな夜を襲った爆発の音は連続して轟くと、ベッドから飛び起きた私が窓越しに映した外で。

そこはどう見ても火の海だった。


艦を包囲していた筈の兵達の幾人もが火達磨になって燃えている最中。

鳴り止まない銃声は、仲間に燃え移った火を消そうと消火器を抱えて走る別の兵達を容赦なく襲った。

更に倒れた兵の上を、躊躇いなど微塵も無い。

装甲車や戦車が走り抜ける光景は、そこで人間を当然とミンチにしたわ。

外で起きたこれらへ、私は、こんな事を誰が何の目的で・・・・・・・


一帯を火の海へと変えた燃え盛る炎は、そして、軍の空港は、そこだけで死者を千人以上も生み出した。

同時にそんな状況下で私達は、これを行った第一皇女の精鋭部隊に救出されたのだ。


後から全部を知ってなのだけど。

帝国の第一皇女様ってのは、本当、やることなす事・・・・・

まさかね。

帝都の、それも軍の空港を強襲したなんて。

しかも。

同時に皇城さえ包囲すると、突然の事態に状況が呑み込めないでいる近衛隊にまで先制とばかりな砲撃戦を、指揮官のユフィは躊躇なく行使したのだそうだ。


ユフィの指揮は、これも本人から聞く限り。

後は口調と表情だけでやっぱり、ただの憂さ晴らしだったかと。


けどね。

憂さ晴らしでも短時間で私達を解放すると、同時に皇城さえも制圧して見せた。

獅子皇女の名は伊達じゃないを見せ付けられたわ。


私はユフィに一対一なら負ける気がしない。

だけど、兵を率いて指揮を執る。

リーベイア屈指と名高い彼の獅子皇女には、未だ兵を率いたことが無い私が勝てる等と抱いた事さえない。


そんな訳で。

名高い獅子皇女(ユフィ)が率いる戦力に制圧された皇城は、包囲した側が向ける銃口と砲門に晒されたのよ。


この時の私達は、たぶん、一方的に殺された近衛兵の死体さえ踏み越えた先で。


実は何一つ把握していなかった皇帝と、ようやく会談を持つ事が出来ました。


-----


帝都強襲。

だけど、表向きには『叛逆未遂事件』とされたこの事件。


時間を遡ると、ユフィはエレナを私の所へ帰した直後。

この時にはもうオルガ長老を連れた私達が政府によって軟禁されるくらいを見越していたのだそうだ。

だからこそ。

ユフィは現地に集まった師団から足の速い部隊だけを抽出すると、そこから自身は一路。

全速で帝都へ向かった。


途中、今回の演習に参加していない自らの師団へ緊急招集を掛けながら。

帝都へ着く頃には、装甲車千五百台。

戦車三百両と千両を超す輸送トラックで運ばれた一万を超す兵力。


帝都を守る守備隊は、まさか味方から強襲されるだなんて思いもしなかった筈。


ユフィ自らは帝都へ。

そして、現地に残った兵達をハルバートンへ預けると、これも自らが認めた公文書をローランディア王国側の軍司令へ届けたのだとか。

内容は『当方に侵略の意図無し』


だけどね。

私から言わせると、こんな内容で納得できますかって。


きっとね。

こんな仕事も押し付けられたハルバートンという副将には、ホント、心底同情できるわね。


それで、会談を持つことの出来た皇帝の方はと言うと。

これも会談を持って初めて明るみになった部分は、先ず皇帝自身は開戦の勅を発してなどいない。

交渉が思うように纏まらないアナハイム事案についても。

それは確かにそうでも。

だからと言って戦争に踏み切ることもしない。


皇帝はそこから。

正統政府には事実、ローランディア王国へ帝国側の毅然とした強い姿勢を示す。

それと別に軍事演習の件は、此方は皇女の師団である以上。

本人が留学中という事情はそうでも。

時々は直に指揮を執る機会も必要だろうと考えた。

そういう意味で、これを自らに提案した軍務尚書には、故に皇女の一時帰国と現場復帰を許可したに過ぎぬ。


軍事演習の場所がローランディア王国と国境を接する場所だった件も。

これも皇帝は此度の会談で聞き知るまで。

それで演習場所すら知らないでいたそうだ。


結局だけど。

この時の皇帝は、最後まで自身は知らないを通したわけよ。

そうして責任は正統政府と、後は軍務尚書も粛清する。

トカゲの尻尾切りで片を付けました。


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