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第22話 ◆・・・ らしくない。故に無自覚 ・・・◆


見上げた空には白光が眩しい月が昇っていた。

反対に見下ろしたずっと遠くでは、赤やオレンジ色だけじゃない。

白や青っぽくも見える小さい灯から大きな灯まで。


此処から映したゼロムの街は、その夜景が宝石を詰め込んだ箱の様にも思えた。


うん。

僕は今だけ。

この地上と天空とが見せる素晴らしい夜景へ。

最後までの居残りも悪くない。

そんな心境だったんだ。


「坊主。あどは俺らに任せで先に帰れ。そんで温泉にでも入っで来い」


マッシュさんに後ろから声を掛けられて。

僕は何気に振り返った。

だけど、そこに映ったのは大きな熊・・・・・

もとい、夜だと余計に熊にしか見えない顔をしたマッシュさんでした。


言って置きますが。

何もさせて貰えなかった僕は、諸々の事情で空気だったんです。

と言うかさ。

手伝おうにも此処の大人達は揃いも揃って僕を『子供だから』と、何もさせてくれませんでした。

後は気になった事を尋ねても。


『作業の邪魔』


露骨には言われなかったけどね。

ただ、目付きとか雰囲気とかがさ。


要するに、作業中の現場には僕の居場所が無かったんですよ。

そういう訳で、僕は空気になろうと決めたんです。

まぁ、空気と言っても。

これも言い換えれば修行なんですよ。


気配を殺すとか。

気配を消すとか。

言い方は色々あると思いますが。


ですが。

周囲一帯の気配との完全な同調。

この修行を始めた頃のティアリスからは、出来るようになって損は無い。


じゃあ、得は何なの?

僕が当然とそう思った感想はですね。


『ニャッハッハッハ~♪ 王様っ♪ それが出来るようになるとだねぇ♪ 覗き放題し放題だよぉ~』


今更ではありますが。

こういう馬鹿を口にする名前だけは物凄く格好良い剣神はね。

僕の1番が目の前でフルボコの説教をこれでもかと・・・・・・・


レーヴァテインはホント、懲りないねぇ。


とまぁ、そんなエピソードも在ったんですけどね。

僕なりに考えたことは、習得出来れば奇襲戦術などに磨きを掛けられるのではないか。


事実、今の僕がティアリスから一本取るためには、正攻法だけでは戦術の幅が狭過ぎるのです。


奇襲・・・ね。

なんかこう・・・響きが良いよね。

いかにも格好良い感じじゃないですか。


そうして、此処の大人達には何もさせて貰えず。

それどころか暗な邪魔者扱い。


だから当然。

他にすることが無い僕は、邪魔に思われない様に修行でもしていよう。

そして、空気になりました。


空気になった僕は、けれど、これで修行中なんです。

未熟な僕は、この修行中は未だ動くことが出来ません。

迂闊に動けば僕という存在が、周囲から漠然とでも認識されてしまうのです。


一つ付け足します。

僕は別に、好き好んで空気になっている。

ではありません。


全ては難攻不落のティアリスから一本取る。

その為の修行です。


気配を乱さない。

コツは自然体で在ることだと教えられました。

そこに在る自然の中へ。

自身を同調させる・・・だけ。


自然という存在の中で目立たない。

けど、在って当然。

だから漠然とでは認識されることが無い。

上達すれば、在るはずなのに映らないへも至れるそうです。


作業をしている人達の邪魔にならない所。

同時に僕自身という存在が、今この瞬間は空気になっているのかも確認しておきたい。

なので、今回は山道の端の方へ行くと、後は突っ立っていました。


立っているだけの僕は、そこで脇を通り抜ける車もそうでしたが。

歩きながら僕の傍を通り抜ける人達もです。

近い時は身体一つ分しか離れていないのに。

僕の存在へは気付きもしませんでしたね。


僕からは映っていても。

向こうには認識されていない。

修行は、この状態を出来る限り長く維持する。


空気になった僕は、こうして景色を眺めながら暇を潰していました。


ところがですよ。

日が沈んでからは夜景に綺麗だなぁって思っていた頃。


自然と同化していた筈なのに。

あの熊オジサン。

当たり前の様に声を掛けると、振り返った僕をね。

マッシュさんは、まるで猫でも摘まむ様に片腕で軽く持ち上げると、そのままギランバッファローを一頭積んだトラックの荷台へポイって。


ここ、とっても大事な所ですよ。

いいですか。

いくら子供で体重が軽いと言ってもですよ。

僕だって人間なんです。

それを、猫を摘まむ様に持ち上げてポイって。


ポイ投げされた僕は、そのまま放物線を描いてギランバッファローへダイブです。

しかも、ごつごつした横腹へ鼻をぶつける様なダイブでした。

おかげでね。

稽古以外では初めての鼻血ダラダラでしたよ。


-----


そういう訳で一足先にオーランドへ帰って来た。

ポイ投げされた僕は、最後まで積み荷待遇だった。

因みに、鼻血くらいは自分で何とかした。


まぁ、指パチで、どうにでもなるさ。


熊オジサンには言いたいこともあるが。

僕が狩った獲物の後始末をしているのだし。

だから、この件は不問に付すとしよう。


あれだね。

僕はやっぱり不満だった。

憤りは、だから偉そうな考え方をした。


それからマーレ婆ちゃんの宿へ戻った早々です。

僕とは関わりを持ちたくなかった。

少なくとも、そう理解して納得もしていた僕ですが。

なんと、ここでそのクローフィリアさんと再会しました。


ええ、確かに僕とクローフィリアさんの出会い方はね。

ゴードンやバスキーならきっと羨ましいの一言はあるでしょう。

特にゴードンですが。

奴は初等科でもスカート捲り魔クンとして名を馳せています。


スカート捲り。

そんなに楽しいんでしょうかね。


僕なんか。

ティアリスから留め金以外を斬ってはならない。

そんな課題も出されているんですよ。

おかげで、マリューさんも含む女子との実戦稽古では、そこでいつもスカートの金具ばかりを斬ってます。

だからね。


今更、女子のパンツ姿なんて。

もう、見慣れました。


余談ですが。

マリューさんは、曜日ごとに色だけが違う水玉模様を履いています。


脱線しましたが、クローフィリアさんと再会した後。

そういう事情もあったので、僕は敢て他人の振りをしようと。


しかし、彼女からは真っ先に『ゴメンナサイ』って。

いきなり腰から上を水平にってくらいビシッと下げての謝罪ですからね。

流石に面喰いましたよ。


そこから何がどうなったのか。

先ず、僕が気になったクローフィリアさんの正体。

あの時は一言も無しに居なくなっていたので聞けませんでしたが。


フェリシア女王様の口からクローフィリアさんは孫だと。

孫と聞いた僕は、だからそうだったのか。

はい、もう納得ですよ。


まさか。

ローランディアの姫様だったとはね。

僕は見てしまった件を、もう一生見なかった事にしようと固く決意しました。


そんな固い決意も内に秘めた僕へ。

けれど、フェリシア女王様は、クローフィリアさんを本当であれば未だ学生の身分だから招く予定は無かった。

王家の人間であることは事実でも。

今は先ず勉学に勤しませたい。

王族として行事に関わるのは、それは最低でも中等科を卒業した後。


じゃあさ。

なんで、今回は姫様を此処に呼んだんだろう。

言って置きますが。

呼んだりしなければ、僕だって見なくて済んだんですよ。


口には出来ない感想をまた一つ抱えた僕ですが。

フェリシア女王様から聞いた限り。

どうやら。

今回の件は、そこにシルビア様が関わっていたようです。


陛下。

お願いしますからね。

僕だって、今回はカーラさんから釘を刺されているんですよ。


何でそうなったのか。

サザーランドで勅を受けた僕が、それでカグツチへ赴いている間らしいのですが。

帰国した後で聞いたカーラさんの話では、どうやらシルビア様は遊んでいたらしいのです。


僕はですよ。

シルビア様が仕事を放り出して遊んでる。

絶対にあり得ないですよ。


シルビア様は、それこそ本当に尊敬出来る素晴らしい女王様なんです。


なので、カーラさんの話は嘘だと決めつけました。

あれでしょ。

僕の不在中にハンスさんとバーダントさんの二人が、揃ってカーラさんに迷惑を掛けた。

しかも、外交日程は予定を大きく過ぎての帰国でしたからね。

きっと、カーラさんには相当な負担だったんだと思います。

ストレスが溜まっても仕方ないでしょう。


僕は、ストレスが溜まって小皺が目立った。

それくらい負担を背負ったカーラさんの愚痴くらいは聞いてあげられるんです。

この間はまた肩揉みだってしたんですよ。

僕が肩を揉んであげるとですね。

その時は、カーラさんの表情も雰囲気も柔らかくなるんです。


再び脱線したので戻します。


クローフィリアさんの件。

フェリシア女王様は呼ぶつもりは無かった。

ですが、シルビア様の方から是非に会いたい。

結果、僕は姫様の裸を見てしまう羽目に遭った。


『クローフィリア姫とは、私もローランディア王国へ赴いた時くらいしか会えませんから。それにね。せっかくの機会だからアスランとも会わせたかったのですよ』


そう言えば。

シルビア様が僕を外交の警護に就かせる話をした時だったね。

警護という仕事は言うまでも無く。

とても重要な任務です。

けど、シルビア様は僕へ。


『アスランには、私の警護だけでなく。赴く先では顔を合わせる方々とも見知り合って貰います。私と同じく王位に在る方は勿論。有体には要人と呼ばれる方達とも会う機会があるでしょう。そこで、向こうには憶えて貰えずとも。ですが、アスランには顔と名前くらいは憶えて貰います。これも警護には欠かせないことですから憶えられるように努めてくださいね』


ああ、成る程ね・・・・・・

シルビア様は本心、クローフィリア姫とも会いたかった。

これは間違いないだろう。

そして、せっかくの機会だから僕にも顔と名前くらいは憶えさせよう。

そういう思惑も、ちょっとだけは有ったんだろうね。


警護という仕事は、そこで各国の要人。

そうした方々も顔と名前くらいは把握しないと務まらない。

これくらいは、それをカーラさんからも教えて貰いました。


ただね。

顔と名前どころか。

裸まで見てしまったなんてさ。


ええ、僕はもう一生ですが。

クローフィリア姫の裸を見たなんて事実を胸の奥に閉まってですよ。

それこそ墓まで持って行く羽目に遭いました。


-----


クローフィリアさんが一言も無しに行ってしまった件。

どうやら、その事ではクローフィリアさんも。

祖母であるフェリシア女王様から叱られた・・・・・らしいです。


けどさ。

今はこうして二人で話をさせて貰っているからだけどね。


え?

なんで二人で話・・・なのかって?


遡ること十五分くらいかな。

シルビア様とフェリシア女王様の二人は、元気過ぎる婆ちゃんが『二人とも、ここでは働かざる者食うべからずだよ』とですね。

マーレ婆ちゃんの言い分は、午後は釣果が無いに等しい有様だった。

だから、せめて下ごしらえくらいは手伝え。


何と言うか。

此処ではマーレ婆ちゃんが女帝のような存在なんですね。

シルビア様とフェリシア女王様は、そして、揃って楽しそうに今も調理場で働いてます。


「女王様を二人もこき使うマーレ婆ちゃん。もう、なんて言って良いか分からないね」

「そうですね。でも、オーランドでは女将のマーレさんが一番偉い。これは昔からずっとそうらしいですよ」


僕とクローフィリアさんがこうして和んだ会話も出来るようになったのは、ちょっと前辺りからだね。

改めてって言うのも変だけど。

宿に幾つかある丸いテーブルは、そのどれもが表面は磨かれた年輪模様。

クローフィリアさんの話では、此処のテーブルは全て一本の太い樹木から作られたそうです。

その一つを囲んで僕とクローフィリアさんは向かい合うように座ると、自己紹介から始まった会話も今はすっかり和んでます。


あの時のクローフィリアさんは、予定よりもかなり遅くなっていた事で焦っていた。

それでとにかく急いでいた。

事情を聞いて、僕は面白くないを抱えた部分だね。

もう、どうでも良くなりました。

それに、何度も謝って来るんですよ。

ローランディア王国の姫様が、それよりは遥か格下の騎士に何度も頭も下げるんです。


僕だってちゃんと「もう気にしていませんから」って、これも何度も言ってるんですが。

堂々巡りになった所で、「じゃあ、いつか・・・お茶でも御馳走してください」と、因みにこの言い回しはイザークさんから習いました。


何かお詫びをしたいと。

しなければ気が済まない。

そういう方を相手にした時には、これが無難な対応策らしいです。


流石、僕の副官だけあって頼もしい限りですね。


そして、僕はクローフィリアさんから後日、お茶と美味しいケーキを御馳走して貰える。

そんな約束を交わして仲直りしました。


「クローフィリアさんは、僕よりも二つ年上なんですね。それでメティス王立学院で勉強している。世界で一番の学校に通っているなんて凄いですよ」

「そんなことはありませんよ。それに、私よりもアスランの方が比べられないくらい凄いと思っているんです」

「僕は別に凄くなんかないですよ」

「シャルフィ王国で、最年少の騎士が誕生した。当時は私の周りでも大きな噂になっていたんです。そこから最年少の騎士が王都の治安を束ねる要職に就いた事もですが。騎士団長という地位にも就かれたと聞いて。なのに、アスランは少し以上に無自覚さんなようですね」


無自覚さん・・・ね。

僕は今でも、時々は似た様なことを言われますよ。


「そこまで無自覚だとは思ってないんですけどね。ただ、僕は自分が分不相応な地位に在る事へ。それでも、ハンスさんやバーダントさん。マリューさんやカーラさんにも頼って何とか出来ている。毎日が精一杯なだけです」

「ほら、やっぱり無自覚さんですよ」


僕にそう言ったクローフィリアさんは、どう見ても楽しそうに笑っている。

まだ少ししか話していないけど。

明るくて優しい感じ。

言葉遣いには品があって、それは姫様なんだから当然かな。

助けた時は服も顔も汚れていたし、髪とかも乱れていたけど。

こうして身形を整えた今の姿は、可愛い女の子・・・・だね。


等と、そんな事も思った僕ではありますが。

しかし、自分の何処が無自覚なのか。


分からず尋ねた僕へ。

なのにクローフィリアさんは、笑うばかりで教えてはくれませんでした。


こういう所はね。

それで、シャナとも似ているなぁ・・・って。


やっぱり。

女の子はよく分かりません。


-----


夕食はギランバッファローの焼き肉。

僕は高級肉だと知ってからは遠慮しないといけない。

けどね。

手が止まらないんですよ。

もう、このお肉を食べたら他のお肉なんか・・・・・ってくらい。


それにですよ。

僕の隣で肉や野菜を焼いて下さるフェリシア女王様から『いっぱい食べて大きく強くなってくださいね』なんて言われてしまえば。

さらにフェリシア女王様は、僕の取り皿へ次から次へと盛ってくるんです。


他国の騎士に自ら肉を焼く女王様なんて僕は他に知りません。

ですので。

ここは失礼にならない様に気を付けながら。

つまりは、盛られた分だけ残さず食べる。


僕のお腹は、そして、苦しいくらい満たされました。


夕食は、もう食べられません・・・・ってくらい満たされた後。

僕は食休みの寛ぎタイム。

ではなく、こうしてローランディア王国軍に所属するブライト少将からの尋問を受けています。


ブライト少将・・・・・

何かで聞いたことがある名前なんだよなぁ・・・・・・


「・・・・此方でもフィリア様とイリア中尉から聞いているのだが。貴公からも話を聞きたいのだ。そう時間は取らせない。貴公からの話も含めて。それで報告書を作らねばならないのでな」


あっ!?

そうだ、思い出した。


パキアの英雄ブライト・シュベール。

うん。

間違いない。

確か、三年くらい前だったかな。

その頃に起きたローランディア王国とヘイムダル帝国との間で起きた事件で、この事件絡んで有名になったのがローランディア空軍の若き提督。


教科書に載ってる内容では、国境線に近いパキアという街が、突如ヘイムダル帝国軍に占領された。

直後、この事件での対応を巡って王宮内が混乱する最中。

ブライト提督は家族が暮らすパキアの街へ独断で潜入すると、そこで家族や街の人達の協力を得て脱出作戦を決行。

そして、この時の脱出作戦は、それで街の住人に犠牲を出さなかった事で。

だから『パキアの英雄』って呼ばれるようになったんだ。


「・・・・でだ。フィリア様から聞いた話では、貴公が空の属性と思われる魔導を使って負傷を癒した。先ずはこの点についてだが」


そうか。

このオジサンが有名なブライト提督だったのか。

でもさ。

軍服を着てるから軍人さんには見えるんだけどね。


じゃなかったら。

どう見ても普通のオジサンだよね。


だって、こうなんて言えばいいのかな。

軍人って、もっと威厳とかね。

あっ・・・だからって、威張ってるのが軍人とまでは言わないよ。

けど、ブライト提督からはね。

そんなオーラとか雰囲気とかがさ。

これっぽっちも感じられないんだよね。


「あぁ~・・・ゴホンっ。その、なんだ。貴公、私の話を聞いているのかね」

「えっ?」


さっきはクローフィリアさんと向かい合っていたテーブルで、今はブライト提督と向き合っている。

ブライト提督の傍にはもう一人。

立った姿勢で僕を見ているリシャール少尉は、こういう人を爽やか美男子って言うんだろうね。


同じ金髪でも。

ハンスさんはもっとこう体育会系だからなぁ。

ホント、運動だけは大好きなんだよね。


「どうやら食事で腹を満たしたせいか。貴公は私の話へ意識を向けていないようだ。まぁ、子供であれば眠くもなるだろうか」

「はは・・・・その節は、フェリシア女王様からいっぱい食べて大きくなるようにと。つい、食べ過ぎました」

「そうか。どうやら貴公は陛下に気に入られたようだな」

「以後も好感を持って頂けるように励みます。それで、クローフィリア姫と警護の二人を治療した件ですね。空の属性かは断言しかねます。というのも、これは先生から属性は関係ないくらいを耳タコで言われていますので。ただ、使い慣れた魔法くらいですよ」


ちゃんと聞いていましたよ。

なんて、装いもですがね。

此処は姿を消している僕の1番が、それで教えてくれたんです。


けど、僕は敢て『魔法』と含ませました。

気付くかどうかは別にして。

魔導は魔導器を使うから魔導なんです。

魔導器を使わない僕のアーツは、せめて、魔法くらいの表現はしておかないと。

ごっちゃにされるのは、なんか嫌なんですよね。


「ふむ・・・では、貴公は如何様にして魔導を使ったのか。フィリア様の話を聞く限りでは、そこで貴公が魔導器を装着している様子は無かった。それとも、シャルフィでは小型化した新しい魔導器が生み出されたのだろうか」


僕は魔法って含ませたよ。

ブライト提督は、魔導と魔法の根本的な違いから理解っていない。


「魔導器を使うから魔導。魔導器を必要としないから魔法なんです。そして、僕は後者です」


説明するのも面倒だしね。

仕方ない。

ちょっとだけ見せようか。


それから僕は、左腕を肩の高さくらいの所で伸ばした。

そして、いつもの様に指を鳴らした。


百聞は一見に如かず。


これはテッサ先生から教えて貰った言葉です。

同じ事を百回説明するよりも。

一度見せた方が伝わる。


指を鳴らした僕と、そんな僕を見つめているブライト提督との中間くらい。

テーブルの上には、それで僕が作った握り拳より少し大きい氷の塊が現れた。


「これが魔法です。今回は氷塊を出しましたが。やろうと思えばオーランドを火の海に包む事だって出来ますよ」


マーレ婆ちゃんの宿は、何故かしんと静まり返っていた。


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