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第19話 ◆・・・ 全部は話せない出会い方 ~後編~ ・・・◆


僕はシルビア様から尋ねられた肉か魚か。


もうね。

両手で髪の毛をグシャグシャにしたいくらい。

読み違えを悟った時の僕は、ホント、それくらい自分に腹が立ったんだ。


『マイロード。たとえ言葉にしなくとも。よく見ておられれば、それだけで相手の思考も心理も分かるのです』


これは剣術の修行中。

もう一年くらいは、ずっと言われ続けられている。


ティアリスからはね。

僕の剣技は、ちゃんと成長している。

惜しむらくは子供の体格で、体重もまだまだ軽い。

この点は正面から打ち合うと嫌ってくらい。

レーヴァティンとなんか。

打ち込んだ僕が身体ごと弾かれる。


ムカつくくらい悔しいのはさ。

その時のレーヴァテインは、僕の剣をただ受け止めただけって事なんだ。

互いに打ち込んで。

それで僕の方が弾かれる。

これなら未だ納得も出来るんだ。


『ニャッハッハッハハッハッハぁ~♪ 王様っ♪ 悔しかったら。いっぱい食べて大きくなるんだね♪』


レーヴァテインは仁王立ちで、それはつまり。

僕なんかを相手に構える必要も無い。

最初はちゃんとやってくれるのに。

けど、途中からは退屈だってのも見て分かる。


僕の全力の打ち込みは、レーヴァテインが最初は遊ぶ感覚でも。

でも、ちゃんと正面から受けてくれるんだ。


だんだん飽きて来るんだろうね。

どうせ、僕が雑魚だからなんですけど。

欠伸をするくらい退屈そうな剣神は、この頃には僕に視線すら向けていない。


打ち込んでは弾かれる。

無様な時は尻餅までついている。


因みにですが。

尻餅をついた時はですね。

ティアリスから凄く残念そうな視線がね。

惜しかったっていう意味じゃないですよ。

あれは、呆れたとか。

期待外れとか。


ティアリスからあんな目で見られると。

僕は、上手く言えませんが。

とにかく自分に腹が立つんです。


コルナとコルキナからまで『たかが脳筋を相手に。主様の姿は情けない限りです』とかね。

追い打ちは紅茶を片手に椅子に座ると寛いでいるユミナさん。


『アスラン。貴方は幾重にも重なった偶然が超奇跡的な確率で生んだ。やはり、そういう勝利だと身を以って証明したようですね』


神界で僕に負けたこと。

まだ根に持っているよ。

しかも言い回しがネチネチしているしさ。


ホント、ああ云うのを小姑って言うんだよね。


-----


シルビア様からの勅。

その件で僕は自分が読み違えた部分。


此処でもティアリスから指摘されてなんだけどさ。

なんて言うか。

声の感じだけでね。

面白くない事をいっぺんに思い出した。


読み違えたのは、でも間違いなく僕の実力不足。

これはちゃんと受け止めないといけない。


そうだね。

読みの修行は、うん。

ティアリスから読みを本格的に指導されてから。

これも一年は経ったんだよね。


『マイロードは、自らの剣に今は速さを意識しておられます。その点をより良くするために。未だ筋肉も少なく骨格も小さなマイロードには、観察力を培わせて活かすことの出来る部分。読みと呼ばれる予測の精度だけであれば。此方は今直ぐからでも高みへ至らせられると考えました』


普段は漠然と見ている部分。

普段は漠然と感じ取っている部分。

この漠然には、だけど、無自覚にでも意識は情報を仕入れている。


ティアリスは僕に、この漠然を自然体のまま必然に出来る修行を続けている。

肩に力が入っているのが見ただけで分かる。

そういう状態は意識が強く得ようとする情報へ傾ている反面。

相手にも此方の意識の強さが伝わってしまう。


だけどね。

ティアリスからは、そういう状態では使い物になっていない。

相手には此方が何を考えているのか。

それを察せられない様にする。

同時に、此方はその状態で相手を観察する。

観察とは、詰まる所で情報を得る。


自然体というのは、何を考えているのかを理解り難くする最適な状態らしい。

そういう状態の中で、だけど此方は相手をしっかり観察する。


漠然と見ている瞳は、そう見えて実はしっかりと捉えている所へ至らせる。

漠然と感じ取って部分は、相手だけでなく周囲の空気までを含めて。

何故、そうなっているのか。


この何故の部分。

修行で意識するようになってからなんだけど。

出来ない理由をノートに書くと、とにかく情報が多い。

多過ぎる情報から結論を出すのが難しいのはそうだけど。


情報が多くなると、予測が纏まらない。

一方で、何故に関わって来る情報。

情報には違いなくても。

実は不要なものも結構ある。


情報の取捨選択。

取捨選択した情報は更に優先順位を付ける。

後は、これまでの経験から得た部分とも比べてみる。


予測の精度を上げる修行は、ティアリスから『一朝一夕には備わりません』くらいも聞いているけどさ。

今年の誕生日で七歳になる僕は、だから当然と経験も体験も足りていない。


『マイロード。先ずはマイロードにとって特に近しい者達を相手に修行を続けましょう』


なので。

僕は一日の中で一番多くの時間を傍で過ごすシルビア様を、読みを鍛える意味でも今は意識して観察しています。


-----


ギランバッファローの肉。

凄く高級な肉だというのは、それをサザーランドでシルビア様から初めて聞きました。

まさか。

うん、100グラムで15エル。

しかも、それが肉の部位で言う所の一番安い部分の相場らしい。


ハハハハハハ・・・・・・

ドルで換算すると15万だぞ。


教えてくれたシルビア様を前にして。

僕は思わず空笑い。


まぁ、カグツチへ行く途中とかね。

レーヴァテインが狩ったギランバッファローは、焼き肉で僕も食べたけど。

はっきり言って。

こんなに美味しい焼き肉は、生れて初めて食べました。


焼いている時からの香ばしい肉汁の匂いとか。

火で炙られた肉の表面は、そこで沸騰している様にも映る肉汁がね。

公都からカグツチへの移動は、それで夜はキャンプだったから串焼きだったけど。

表面が少し焦げてカリッとしたくらいが、僕は一番美味しいと思いました。

噛めば噛むほど口の中いっぱいに旨味が広がるギランバッファローの肉は、塩や黒胡椒だけでなく。

梅肉や味噌でも美味しかった。


まさか。

たった100グラムでエルトシャン達が来る以前の孤児院が使っていた月予算を超えているとかね。

そんな超が付くような高級肉を。

僕は何度もお腹いっぱいに食べていた。


シルビア様から教えられて。

僕は自分が食べた分の金額を考えるのを即座、放棄しました。


因みに、サザーランドでお腹いっぱいギランバッファローの肉を何度も食べた話ですが。

シャルフィへ帰った後でエリザベート先生とテッサ先生に話したら。

その二人から何故お土産に持って来なかったのか。

二人に左右から挟まれた僕は、この時だけは明らかに険悪になった雰囲気と声へ。

次からは手に入った時には土産に持って帰る。

そういう約束をさせられました。


そんな訳で。

僕は出掛ける前にもう一度、マーレさんにギランバッファローの居そうな場所を尋ねたのですが。


『山道はなんだかんだで車が走っているからね。そこでは余り見かけないんだけど。だから、まぁ、森の奥へ行くのが手っ取り早いと思うよ』


はい、探索の方針は決まりました。

山道沿いから森の奥へ・・・・ですね。


暗くなる前には帰って来るんだよ~って。

そう言って見送ってくれたマーレさんには、僕も子供らしく手だけは振りました。


歩きながら僕はオーランドへ来る観光客向けのパンフレット。

綺麗に折り畳まれたパンフレットを広げて裏返すと、そこにはオーランド近辺のマップが。


「マーレ婆ちゃん。探索範囲が、すっごく広いんですけど」


それから山道へ出て下るように歩きながら。

僕の頭の中では、これも思念の会話だね。

姿を消して傍にいるティアリスやレーヴァテインとの会話は、狙いの獲物がどの辺りに居るのだろうか。

まぁ、そんな会話の中で、僕はレーヴァテインの言う『どうせなら大きいのを狙おう』って所には乗りました。


勅を受けた後はまぁ・・・あれだったけどさ。

何せ、読み違えたんだしね。

うん。

普段の口調だったけど。

それでも、ティアリスから『読みに関してはまだまだですね』が、何気に突き刺さった。


ホント。

不出来な生徒でゴメンナサイ。


で、顔には出さない様にしていたつもりだったんだけど。

まぁ、顔に出さないようにする修行もしているしさ。

気分とか感情は無論。

此方の思惑を相手に気付かせない修行は、剣の稽古だけでなく。

実はミーミルから習っている対幻術の部分にも通じている。

教えてくれるミーミルの話では、精神の鍛練がとにかく肝要なんだってくらいは聞いている。


精神状態は、これで予測にも影響を及ぼしている。

精度の高い予測が出来るようになるためには、感情のコントロールが大事なんだってさ。


なのにね。

ティアリスに言われて。

それで何でか落ち込んでしまった僕はね。

顔にも出ていたみたいです。


レーヴァテインはね。

そんな僕に普段の明るさで、僕の気分を持ち上げてくれたんです。

その事を僕は山道に出てから気付いたんだけどさ。


レーヴァテインは、確かにエレンと被っているよ。

傍に居てくれるだけで。

遠慮のない明るさが僕の気分を引っ張ってくれる。


ですが。

あんなのを同時に二人も相手にしたら。

僕は間違いなく精神疲労で倒れられる自信があります。


エレンに対して、仕事中は声を掛けない様に。

結果。

今でも僕は、まぁまぁ何とかやれています。


-----


狩りに赴く事になった経緯は今更なのですが。

レーヴァテインと話している内にね。

何処で読み違えたのかを考えるのが、どうでも良くなりました。


今の気分は、こうなったら皆が驚くような大物を狩ってやる。


そんな訳で、山道から少し森の奥へと。

山を下る様な感じで散策に入った僕ですが。

当然、目当てじゃない鹿とか猪には目もくれず。

いつの間にか稽古も兼ねたギランバッファロー探しに夢中になっていました。


だけどさぁ~~・・・・・・

居るとは聞いたけど。

オーランドから少し離れたくらいじゃ全然ってくらい。

一匹も・・・・って言えるくらい獲物が居ないんだよ。


うん。

何故かは分かりませんが。

鹿も猪も、野兎だって見つけられない。


だから当然。

散策の範囲はオーランドから遠くなると、必然して広くなりました。


その代りと言うか。

見た目は鉄製の円柱かな。

僕の目線よりも少し高い所がランプの様な造りで、触ってみるとガラスとは少し感触が違うんだけど。

ドアをノックするような感じで軽く叩くと、鈍いけど音は軽い。

鉄製の円柱の部分とは音も感触も違っているくらいしか分かりませんでした。


でも、その中には青く光る球体が見た感じ浮いている。

まぁ、そうとしか見えなかったからなんだけどさ。

うん。

と言うか僕には、これが何なのか全く分かりませんでした。


なので。

オーランドへ戻ったらマーレさんにでも尋ねてみます。


因みに。

その何なのかが分からない円柱ですが。

一度気になると、そこからはやっぱり気になってしまう。

それと、あれと同じ物が森の中には幾つもあったんです。


ティアリスとレーヴァテインにも聞いたし。

ミーミルにも尋ねたんだけどね。

三人とも見たことも無いってさ。

ただ、あの青く光る球体の事は、ミーミルが僅かだけどマナの波長を感じられるって。


『我が君。これが何なのかは私にも未だ分かりません。ですが、これはどう見ても人が作った魔導技術に関わる何かには違いないと思われます』


ミーミルの憶測は、ゼロムで作られた何かではないか。

アナハイムの事はテッサ先生から色々と聞いたからなぁ。

だから。

何らかの研究に基いて作られた何かしらの人工物。


ミーミルの考えを聞いていて。

それで最初よりもずっと気になったんだけど。


ティアリスから今は先ずシルビア様からの勅命を優先しましょう。

うん。

確かにその通りだね。


僕は気を取り直して。

と言うか、ミーミルの話を聞いている間、ティアリスとは別のずっと『お肉♪』を連呼する剣神がね。

なので、また探索へ戻りました。


目的の獲物はギランバッファロー。

それも皆が驚くような大物を狩って帰る。


だったんだけどねぇ~・・・・・・

まさか、それで人助けをするなんて思ってもみなかった。


-----


オーランドの近辺は、結局だけど獲物が一匹も見つかりませんでした。

なので、僕の足は更に山を下りるように。

ホント、結構歩いたね。


陽射しが傾いて、エスト姉から貰った腕時計の針は16時を過ぎていた。

山道のずっと先の方。

僕の居た所からだと正面に茂る木々が壁の様になっていて、それでずっと先の方は見えなかった。

でも、サザーランドでも聞いたギランバッファローの唸り声が、茂みの向こう側から聞こえたんだ。


唸り声は幾つも聞えた。

だけど、ギランバッファローとは別の何か。

声の違いは、レーヴァテインがグリズリーだって。


グリズリーとは、シャルフィでも見たことのある熊が近いかな。

絵本に出て来る熊さんは可愛いんだけどね。

現実の熊さんは、空腹で気が立っている時は特に獰猛です。


そう言えば。

孤児院に居た頃だけどさ。

エスト姉の仕事に強制的に参加させられてなんだけど。

僕は皆の衣服の洗濯をね。

その手伝いを何度もさせられました。


で、熊さんと洗濯がどう繋がるのか。

シャナのパンツにも可愛い熊さんがプリントされたのが在ったんだよね。


ええ、まぁ・・・・それだけです。

他意はありません。


シャルフィで目にする熊は、濃い茶色のふかふかな毛並みで鼻の周りとお腹に斑点模様の白い所がある。

大人の熊は体長が三メートルを超えるのと、木の皮くらいは爪で軽く撫でるように剥がせる。


レーヴァテインの話では、見た目は似ている。

ただ、グリズリーは熊よりも軽く二回りは大きいらしい。

此方は獣と言うよりも魔獣なのだとか。


獣と魔獣の違い。

大雑把に分類すると、魔獣は体内で魔鉱石を作っている。

そして、体内で作られた魔鉱石は一定量を残して排泄物と一緒に排出される。

魔鉱石を体内で作る魔獣の中には、それによって炎を吐くものがいるらしい。


因みに、ギランバッファローも魔獣です。

排泄物には土属性の魔鉱石が含まれています。

また、そのせいなのか。

ギランバッファローの特に大人の方は、骨と皮膚がもの凄く硬いのです。


僕はコールブランドやレーヴァテインを使うので簡単に斬れますが。

普通の剣で斬れと言われたら。

そっちは自信が全くありません。


ギランバッファローとグリズリーの唸り声は、茂みのずっと向こう側から聞こえた気がした。

レーヴァテインの『お肉ぅ♪』コールもあるけど。

僕は獲物にやっと辿り着いた。

そういう心境は足も駆けると、視界に獲物を映した所で。


獲物ゲットぉぉおおお!!

な躍る心境も、しかし、串刺しにされて生きているのかも分からない。

遠目にでもギランバッファローの角で串刺しになった人影を捉えた途端。


感覚は一瞬で時の属性を使うと、反射的というか。

狩りでは使うつもりの無かったティアリスを右手に呼んでいた。


-----


ああ、一応ね。

助けるだけは助けたよ。

大きなギランバッファローの角で串刺しにされた女の子なんてさ。

こんな光景は、僕だって初めて見たんだ。

エレン的に言うなら。

もう、完全に虫の息ってやつだね。


今日の狩りには、まぁ、こういう理由だからね。

1番のティルフィングを使うつもりなんか無かったんだけど。

だってさ。

たかが狩りに僕の1番は使いたくない。

僕のティアリスはね。

そういう事に使っちゃいけないんだよ。


僕なりの拘りは、『じゃあさ。此処はあたしでしょ』なんて言ってくれる。

最近は活躍・・・・・したレーヴァテインが、今回も僕にアピールしっぱなし。

ティアリスはムッとしていたけどね。

それに選択肢は他にも在るんだよ。

カズマさんから『稽古に使うと良い』って頂いた立派な刀もある。


スミマセン。

嘘です。

カズマさんからは、確かに立派な刀を頂きました。

ですが。

重くて未だ扱えていません。


だけどね。

僕の腰には、ユミナさんから貰ったカリバーンがあるんだぞ。

ただ、これも狩りで使うと怒られそうな気がするんだよね。


結局だけどさ。

選択肢は最初から無かったんだよ。


なのにだ。

あれだね。

思わず反射的に呼んだのが。

僕の1番だっただけ。

で、そのまま僕の右手はティルフィングを握り締めると、特に難無くギランバッファローの首をスパッーン。

こんなのバターを撫でるのと大して変わらないって感じ。


軽く振る様な感覚でスパッーンと、僕は特に考えもせず。

つまりは、女の子が角で串刺しになっている事もお構いなしにスパッーンと・・・・・


はい。

もう察してくれたかもだけど。

串刺しの女の子は首と一緒に地面にドサッて落ちました。


まぁ、あれだよ。

ちゃんと傷の手当はしたんだしさ。

それで、手当の時にだけど。

確かに何も履いていない下もね。

女の子だって分かる縦筋も見えてしまったんだ。


言っておきますが。

僕は誓って邪な悪戯目的で見たのではありません。

僕が女の子の身体を支えながら。

斬り落としたギランバッファローの首を、此方はレーヴァテインが持つと角を引き抜いてくれたのです。

で、その時に角が抜けるのを確認していた僕は、見るつもりは無くても。

結果的には見えてしまっただけです。


言い訳ついでにですが、僕は騎士団では時々だけど。

マリューさんくらいの他の女の人達から大浴場に誘われて。

それで髪とか洗われもするので。


念のため。

僕だって男子が女性と風呂を一緒というのはどうかと思います。

だって、イザークさんが睨むんですよ。

ですが。

騎士団の女の人達は、僕が未だ子供だから全然構わない。


後はゴッキーの事もあるので。

僕は建前上、警護という事で時々は仕方なしに誘いを受けるようにしています。


でもね。

この件だけどさ。

マリューさんがゴキブリ如きに喚いたりしなければね。

きっと、ゴッキーのことだって。

ティアリスのようにスパッーンとやれるはず・・・・・・


はぁ~~~~・・・・・

なんで。

女の人達はゴキブリ程度に大騒ぎするんだろうね。

ホント。

此処だけは理解不能だよ。


-----


僕と姿を消したままのレーヴァテインが引っ繰り返った車を起こした後。

まぁ、これもクローフィリアさんには変な目で見られたんだけどさ。

でも、仕方ないよね。

だって、クローフィリアさんからすれば、僕が一人で車を起こした様にしか見えないんだ。


「え~っとですね。身体強化の魔導を使ったんですよ」


はい。

勿論、嘘です。

だけど、クローフィリアさんは馬鹿正直に素直な頷きをしてくれる。

しかも、それで何か今度は羨望の様な視線まで。


・・・・・嘘ついてゴメンナサイ・・・・・


「身体を強化する魔導。あの、それは何処で習ったのでしょうか」


え!?

ああ・・・・そう・・・だよね。

横から見つめられて。

僕はついクローフィリアさんに背中を向けてしまった。

そうして僕が言い訳を考える間にも。

彼女は運転席の所に在るトランクを開けるレバーを引いた。


「僕の先生はエレンっていうんだけど。たぶんね。魔導のことではきっと天才なんだと思う。後はエリザベート先生とテッサ先生からも習っているしね」

「それって。アスランは魔導革命の祖と謳われるエリザベート博士から習っているのですか!?それは、本当なのですか」

「うん。そのエリザベート先生と、テスタロッサ先生だね。二人から授業を受けているけど」

「それ!! 凄く羨ましいです!!」


なんかさ。

クローフィリアさんが僕のことを、とっても羨ましそうに見つめるんだけど。

でも。

ものぐさフリーダムな婆ちゃんはともかく。

テッサ先生は分かり易く教えてくれるからね。


開いたトランクには、クローフィリアさんの言った通り大きな旅行用の鞄というか。

トランクケースが積んであった。

僕がそれを掴んで引っ張り出した所で、鞄を受け取ったクローフィリアさんは着替えるために車内へ。


僕はこれでも騎士なんです。

だから。

ゴッキーのように馬鹿なことはしません。


クローフィリアさんが着替えるのを待っている間。

僕の頭の中に届いたティアリスの呼ぶ声が、眠っていた二人ともが目を覚ました。

視線を土手の方へ向けると、揃って上体を起こした姿勢の二人が映っていた。


「クローフィリアさん。どうやら二人も目を覚ましたようです」


着替えをしている彼女のために、それで聞こえる程度の声は、直ぐに嬉しそうな声が返って来る。

とても大切な二人なのは聞いている。

今の声の感じだけでも。

僕はその部分を事実なんだって思えた。


マーレさんから何かの時には使うようにって。

そう言われて持っていた信号弾を打ち上げてから十分くらいかな。

こういう状況だから使ったんだけど。

僕の耳には、遠くの方から車の近付いて来る音が聞こえていた。


-----


山道から土手を転げ落ちた車。

これは今直ぐの移動は出来そうにない。


オーランドからやって来た大きなトラックは、運転していたのが熊みたいなオジサンだった。

それから土手の底にある車を見ただけで「あんで、よく無事だったな」って驚いていた。

まぁ、普通はそうだよね。


熊オジサンの名前はマッシュさん。

見た目からして熊みたいな大柄の男性で、普段はマーレさんの宿も含めて。

オーランドに在る宿泊施設で必要な物資の運搬を仕事にしているそうだ。


ニコって笑った時の顔付きがンガァアアアって感じ。

心臓に悪いよホント。

直ぐには慣れられません。


此処へ来るまで、マッシュさんはオーランドで燃料用の薪割りをしていたそうです。

馬車の幌に使われる丈夫な生地を青く染めたものを加工して作られた作業服姿で、今日は午前中も物資の運搬でゼロムとオーランドを何往復かはしたとも聞きました。


怒鳴っているんじゃないのは分かっているつもり。

だけどさ。

マッシュさんの喋り方は声の大きさも口調もね。

マーレさんもそうだけど。

普通程度が元気過ぎるというか豪快と言うべきか。

もう、声だけで圧倒されるって。

近くで話し掛けられると耳がキンキンするよ。


「よう坊主。マーレの女将からは聞いてんけどよ。んで、そこかしこに転がっているグリズリーとギランバッファロー。あれ全部を坊主一人で狩っちまったんか」

「まぁね。日課の稽古に比べたら全然ってくらい。ん、楽勝って感じだよ」


どうだ僕も凄いだろ。

って感じに子供らしくVサイン。

そんな僕を、じぃ~っと睨むように見つめるマッシュさん。

あのね。

ギランバッファローも真っ青な顔で睨まれると、僕も怖いんだけどさ。

もみあげと髭が完全に繋がっている顔で、鼻の下も顎も髭がもじゃってしている。

これで山賊のお頭って言われたら。

僕はきっと間違いなく信じられるよ。


だからね。

そうギロっとした目付きで見つめられるとね。

やっぱり怖いんですよ。


腕とか丸太の様に太いし。

それでボコっとした筋肉がこれでもかって付いている。

軽く羽交い締めにされただけでも。

僕なんか骨ごと砕かれそうだね。


「・・・・ったくよぉ。こんなに狩ったなんて聞いてねぇぞ。あんだな。もう何人かは連れて来ねえと日落ちまでに片付けらんねぇべ」


そのままマッシュさんは僕に「ちっと待ってろ」って車に戻った。

それから間もなく。

車に戻ったマッシュさんは、僕の所へまた戻って来た。


「無線を入れて来た。んで、落ちた車の方だけんどよぉ。そっちはゼロムの軍施設に連絡を入れでおいた。直ぐに回収班を向かわせるとさ。そんで、坊主が狩ったグリズリーとギランバッファローだけんどな。俺のトラックだけじゃ積めねぇがんよ。マーレの女将にあと何人か寄越して来れって」

「狩り過ぎですか」

「んにゃ、この時期だかんな。冬眠明けで気が立っているグリズリーなんかは特に飢えてんだ。此処に放置しておくと次々に群がって来んべ。そんだとかなり不味いんだ」

「ああ、成る程ね。じゃあ、首とかも全部持ち帰らないと不味いという事ですか」

「そんだ。したらば俺一人じゃおっつがね」


へんな喋り方・・・・なのは突っ込まない。

何と無くだけど。

こういう人は下手に突っ込んだりすると面倒な事になる・・・・様な気がする。


「にしても。グリズリーが・・・ひい、の、ふう、の・・・みぃ・・・」


マッシュさんは人差し指を突き出すようにして数を数えている。

僕は隣で、なのに。


・・・・・ねぇ、クローフィリアさんと二人。少し離れ過ぎじゃないかなぁ・・・・・


笑みを作って頑張っている僕から見ても十メートルは離れている。

これも何と無く。

三人はマッシュさんに何処か距離を置いている。

同時に、三人を助けた筈の僕は、供物にされた感が拭えなかった。


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