第16話 ◆・・・ 少女から見た王立学院 ・・・◆
――― ローランディア王国 ―――
この国の子供達が学校の授業で使う社会の教科書には、当然とゼロムのことが記されている。
近年のゼロムは、都市の人口数が王国で二番目に多い。
またリーベイア世界でも屈指の工業生産力によって豊かな都市基盤を成り立たせている。
まぁ、このくらいも教科書には当然と載っているのだ。
世界にはゼロムの他にも『工業都市』と呼ばれる都市が幾つもある。
ただし、ゼロムに限って言えば。
リーベイア大陸で他を足元にすら寄せ付けない先進魔導技術の分野を、現在も独走している都市である。
もっとも。
ゼロムは魔導の研究に置いて世界で他を寄せ付けない・・・・ではないのだ。
そんな事に関係なく。
実際に見るゼロムという都市は、その構造物を見ても分かる通り。
街を走る道路は全てが、アスファルトという合成物質で舗装されている。
他の街で見かける石畳もそう。
他所では切り出した石材か或いは煉瓦を用いる部分を、ゼロムではセメントを用いる。
更にセメントとの混合物でコンクリートと呼ばれるものが、ゼロムの街では建造物の材料として使われている。
故に、理解出来る者は察しただろうと思う。
これらは何れも。
全てはアナハイムが生み出した他を寄せ付けない先進の研究がもたらした産物なのだ。
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ゼロムの街に在るメティス王立学院の正門。
時間は午後も始まりの頃。
保安上を理由に閉じられた正門前には、学院敷地内への通行を求める一台の車両が停車した。
黒塗りの車体は窓も車内を映せない仕様が、一般的な車両とは明らかに異なる。
門の手前で停車した車両に対し、王立学院の正門で出入管理に就く警備の者は、しかし、運転席の窓を半分ほど開けた若い女性が差し出した身分証を一目見ると、告げられた用向きへ直ぐに門を開いた。
車内には運転する女性の他にもう一人。
同じ年頃の女性が後ろの席に座っていた。
ただし、二人ともが礼装に映る白地の軍服姿は、これがローランディア王国の王室近衛隊に所属しているを意味する。
王室近衛隊の制服は上下とも白を基調に、立ち襟ダブルボタンのジャケットは男女共通。
下は男性がスラックスで、女性はスラックスかスカートを選べる。
ジャケットは深みのある赤地に金糸で刺繍を施した短冊型の肩章と、編み込んだ同じ赤色の肩紐の他。
後は左胸に王室近衛兵を示す翼を広げた鳳を表す純金製のプレート飾りと、その上に階級章も付く。
運転する女性の階級は少尉。
もう一人は中尉の階級章を、それぞれ左胸に付けていた。
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メティス王立学院の敷地内には学生寮が在る。
これは王立学院に籍を置く生徒が須らく。
学院が定めた規則によって寮生活と定められているからである。
その学生寮は、一握りの成績上位者を除いて。
全員が男女関係なく。
数人で使う相部屋となっていた。
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直視し難い朝の陽ざしが窓を照らすと、カーテンの隙間から室内へも光が差し込んでいた。
陽射しが差し込んだ寝室はベッドの傍に、まだ眠る少女が祖母からの入学祝いで貰った置時計が在る。
木目の美しい工芸品にも映る置時計の針は、間もなく六時を示そうとしていた。
時計の針が六時ちょうどを指し示した頃。
自然、少女は今朝も眠りから覚めた。
もっとも。
起床時間は実家で暮らしていた当時から六時と決まっていた。
祖母も父も、それから遠くの国から嫁いで来た母もそう。
起床時間になると、父と母が使う寝室には侍女が起こしに来ていた。
少女は実家で過ごしていた当時。
夜は毎日のように祖母と一緒に寝ていた。
そして、祖母はまるで時計の様な正確さで朝は六時になると目を覚ます。
祖母は起きると直ぐ、簡単な身支度だけで外へ出て行く。
朝のランニングは筋肉を解すのと、身体全体を活性化させるらしい。
他にも長く続けることが健康に良いのだとか。
耳タコで聞かされていた少女は、朝も当然と祖母の運動に付き合っていた。
祖母は厳格な所がある。
口癖のように『自分で出来ることを当然と出来る。そこには女王も民も関係ありません』と、一日一回は聞いていた気もする。
なのに、父と母は当然と侍女を使っていた。
少女は、祖母が父と母へ特に厳しい言葉を掛けていたのを、幾度も見ながら育った。
7歳を迎える年の3月も終わり頃。
4月から王立学院への入学が決まっていた少女は、学院規則によって実家を離れた。
入学前の試験成績が良かった少女は、入学後の寮では個室を与えられた。
――― それから二年が過ぎていた ―――
少女は、今年の誕生日を迎えると9歳になる。
ただ、入学後は年に一度しか実家へ帰れないため。
入学後の誕生日を家族と過ごすことは出来なかった。
実家へは新年を迎える前日に帰省する。
ところが、女王である祖母や両親が公式行事に追われているため。
帰省した少女は、挨拶をする程度の時間くらいが顔を合わせられる。
後は私室で独り年を越すと、翌日には家族からの見送りも無しに寮へと戻る。
少女は祖母から学生の身である期間。
その間は公式行事へ一切出ることを許されていない。
須らく勉学に励む様に。
それだけを言い付けられた。
起床時間。
今は学生寮で寝起きする少女の中では、六時になると目が覚める。
もう既に染みついた習慣の様なものだった。
今朝も置時計の針が六時を示した所で目を覚ました後は直ぐに身体を起こすと、間を置かずベッドからも離れてカーテンを開いた。
眩しい朝の陽ざしを浴びながら窓も開けた少女は、そして、両腕をいっぱいに広げて背筋を伸ばした。
外から室内へ流れ込んで来る肌寒い空気を、けれど、新鮮な空気を深く吸い込んでは大きく吐き出す。
何度か繰り返しながら身体と頭をしっかりと目覚めさせた。
これも少女にとっては染み込んだ習慣だった。
入学以来の少女が使う個室は、それも成績が良いことで今も個室を使える身分には違いない。
部屋は居間と寝室の他。
自炊が出来るキッチンとシャワー付きのバスや洗面所。
総面積は中級クラスの賃貸物件よりもなお広い。
メティスでは成績の優秀な者を、他よりも当然と優遇する。
個室は優待遇の一つだった。
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今日も、いつもと変わりない朝を迎えた。
でも、私はこの時間に起きるのが当たり前になっている。
だけど、友達のミレイユやジーナは、きっとまだ寝ている筈。
二人とも、いつも遅刻ギリギリで教室へ駆け込んで来るんだから。
二人が身だしなみも整えないまま教室へ飛び込む様にやって来る。
昨日も一昨日もそうだった。
と言うよりも、二人が余裕を持って教室に来た事なんか・・・・たぶん、無いわね。
思い出すと、つい笑ってしまった。
お婆様から頂いたアンティークな置時計は、未だ六時半にもなっていない。
実家で暮らしていた時は、この時間はお婆様と二人で軽く走りながら汗を流していた。
「取り敢えずシャワーと、それから身支度を整えて・・・・朝食はしっかり食べないといけないのだけど。でも、まぁ・・・簡単なものでいいわよね」
朝はしっかり食べないと育たない。
お婆様からは口酸っぱく言われたのだけど。
無理をして食べると気分が悪くなる。
私は寝室の扉を開けて居間へ。
足は居間を横断するように洗面所へと向かった。
洗面所で衣服と下着も脱いだ後。
裸になった私はバスルームへ入った。
そして、少し熱めのシャワーを浴びることが、寝起きの身体を活性化させてくれる。
実際、シャワーを浴びた後の方が、身体が軽くなった感じで調子が良いのよね。
実家でしていた朝の運動は、寮の規則もある。
今は、こうして朝のシャワーへ変わっていた。
居間の時計が七時を指す頃。
シャワーを浴び終えた私はバスローブ姿で、洗面所の大きな鏡の前に立った。
まぁ、これもいつもと変わりない。
シャワーの後は、こうして鏡に映る自分を前にして。
背中に掛かるくらい伸びた青くも映る紫色の髪を丁寧に梳かす。
小さい頃は、よくお婆様に髪を梳かして貰った。
女の髪は時間を掛けて丁寧に梳かさなければ、直ぐダメになる。
これもお婆様の口癖だった。
それから力任せに梳かしてもいけない。
綺麗な髪を保つためには、そして、長く伸ばすなら尚のこと。
私は、お婆様の艶やかな髪。
それを見ているから髪は丁寧に時間も掛けられる。
時計の針は七時半を過ぎていた。
しっかりと髪を梳かした後は着替えと朝食。
その後で寝る前にも確認した鞄の中身を、もう一度確認して忘れ物が無ければ登校する。
朝食は買い置きのヨーグルトとバナナ・・・・で、十分。
今日は一限目の授業の後で、次は三限目だから。
二限目は自習室を使えるし、小腹が空いたならこの時間でティータイムでも構わない。
そんな事を考えながら。
私は着替えのために一度、寝室へ戻ろうとして洗面所から居間へ。
ただ、今朝はそこで玄関ドアのポストに差し込まれていた実家からだと分かる便箋が目に留まった。
昨夜は無かった筈。
と言うよりも。
もし、昨夜のまだ起きている時間に届いたのであれば。
その時にはドアを開けて誰が届けに来たのかまでを確認している。
便箋は、その差出人がお婆様からだった。
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クローフィリアへ
今日の授業が終わり次第。
その時間までには迎えを行かせますので、オーランドまで来るように。
私は貴女の憧れる聖女と二人で待っています。
フェリシア.L
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シャルフィのシルビア様がローランディアへ来ている!?
お婆様からの便箋は、そこでオーランドで待っている。
何故と抱く所はあったが。
便箋には此度も仔細が何一つ記されていない。
けれど。
シルビア様は私の憧れ。
将来はシルビア様のように。
私も清楚で力強い立派な女性になりたい。
内面からだと分かる品の良さ。
落ち着いた感と優しい雰囲気。
でも、シルビア様の印象はとても明るい。
それはもうお淑やかな部分と明るさのバランスが凄く良いのを、だから、私も出来るようになりたい。
私は今から。
今日の授業の終わりが、とても待ち遠しくなった。
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教室に在る時計の針は、既に午後の三時を過ぎていた。
今日の授業は、予定通りなら午後二時にはホームルームも終わっていた筈。
遅くなった理由は、今日の授業で行われた抜き打ちテスト。
その抜き打ちテストの結果が良くなかったを理由にして、全員が追加補習を受ける羽目に遭った。
けど、メティスならこの程度も当たり前。
未だ習っていない範囲からの抜き打ちテストくらいは、三日に一度は必ずある。
今日のホームルームは無しになりました。
先生は私達を、何か汚らしいものを見ている様な。
そんな蔑んだ瞳で見下ろすと、機嫌の悪そうな鼻音を鳴らしていた。
最初、強い力で叩き付けるように開かれた教室の扉は、だから扉のガラスに大きな亀裂が走りました。
突然のことに驚いた私達は、それで壊した扉など気にもしていない。
鞭を片手にどかどかと教室へ入って来た先生を映して。
その禍々しい般若の様な表情に、この瞬間から身構えました
先生の怒鳴るというよりは吐き捨てる。
私達は、そういう感じの罵りを受けながら追加補習を受けました。
散々罵られながらようやく授業の終わり。
やっと解放されたとホッとしたのも束の間。
先生の表情は、まるで私達を見透かしていたような下卑た笑みが、まだ何かある。
『こぉらクズ共♪ 本来ならこれも手当てが付く。なのにだ!! 今回はあたしの指導力不足だとかでタダ働き。そぉ~んないちゃもん付けられて。腸煮えくり返ったあたしの!! ありがたぁ~い補習を、ちゃ~んと理解できているか・・・・・・課題を配るからキッチリやって見せな』
怖い顔で楽しそうに喋ったかと思えば途端に声を荒げる。
終いには私達を殺気立った瞳で睨み付けると、脅しにしか聞こえない低くい声が突き刺さった。
なのに、先生の般若面はまた凄く楽しそうに見えた。
配ると言った筈の課題プリントは、何故か一番前の席に座っている生徒が取りに行かされた。
前の席から順に後ろの席へ届けられた課題プリントは、先生の下卑ている楽しそうな声が、合格ラインで終えた生徒から以後は自由にして構わない。
この先生は、もうずっと私達を苛めるのが楽しくて堪らない。
そんな事は入学した後で、今はもうみんなが知っている。
今年で二十七歳になる自分のことを絶世の淑女とか、だけど、釣り合う奴がいないから彼氏不要を豪語する。
真実は、女らしさなんて毛ほども無い非道権化の性悪女。
こんな風に思うのは私だけじゃない。
先輩達からの噂では、あの性格のせいで未だ処女らしいも聞いている。
その先生の態度は補習に関係なく。
私は入学した後から今までに、一度として優しい所を見たことが無い。
今日の補習中は愛用の鞭も振り回すと、艶やかな声で酷く罵った。
『この、クズ共が。なんで、あんなクソガキでも解ける問題くらいが解けないんだ。ハンッ・・・おかげでこっちまで評価に傷がついただろうが。お前等クズ共のせいで私の評価に傷がつく!?そんなこたぁ・・・・絶対に赦されないんだよ。あ”~~~マジ、ムカつく』
言いたい放題の最後は、ヒールの踵で教卓を『〇〇死ね』って繰り返しながら何度も突き刺すように蹴っていた。
因みに〇〇の部分は、私も含めた教室に居る生徒の名前。
この後を楽しみにしていた私だけじゃない。
教室の雰囲気は、最低どころか最悪をも通り越していた。
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入学する前の私は、メティス王立学院へ通えることを、心から誇らしく思っていた。
だって王立の名を冠したリーベイア大陸で一番の英才教育機関は、此処の生徒というだけでも箔が付く。
王立学院は、確かに世界で一番の教育を受けられる場所という点に間違いはない。
学院内に在る叡智とも呼べる大図書館は、此処に籍を置く者だけが利用出来る。
そして、此処の先生方は、あんな性悪女も含めて。
どの先生も、それぞれの得意分野では権威とまで謳われる方達ばかりなのだ。
王立学院に肩を並べる学び舎など、リーベイア大陸には存在しない。
同時に、メティスもアナハイムも。
他を寄せ付けない絶対的な座に在り続けるためなら。
当然と何だって犠牲にする。
命も尊厳も。
此処では当然と犠牲になる。
優れた者は讃えられるが、反対にそう評価されなかった者は、優れた者の踏台か犠牲にさせられる。
私達は入学した当時。
その時には三百人以上の同級生が居た。
あれから二年。
同級生の数は半分以下に減っている。
こういう所だから付いて行けなくなって他所の学校へ転校した同級生もいる。
でも。
一緒に入学した同級生の三分の一以上が、この世にはいないのだ。
これも王立学院の真実で、私は後から知ったけど。
此処へ子供を預ける親たちは、それを理解って預けている。
だから、学院内で行われる実戦授業で我が子が死んでも文句を言わない。
『負けたのはゴミかクズだった証しでしかない』
我が子が死んだというのに。
その親たちは、死んだ子供の事を悲しみもしない。
反対に、不出来だとか面汚しとか。
家族だけじゃなく親戚までが、とにかく悪くしか言わないのだ。
普通は在るはずの死者への哀悼を、此処での私は一度として聞いたことが無かった。
『王立学院が目指すのは、創設から今なお続く。究極とも呼べる叡智なのです』
この言葉を、私は学院長でもあるお婆様から入学の式辞で聞いている。
当時の私は、今日からは貴方達も一緒に目指してくださいと、お婆様の威厳に満ちた声へ。
自分もその一員として相応しく在ろう。
そう強く胸に刻んだ。
入学した後で二年が過ぎた今。
私は同級生が亡くなる度、ある事を考える。
・・・・・叡智とは、そうまでして欲する何かなのだろうか・・・・・
そして、考える都度、お婆様は何故と更に考える。
けど、これが答えだと・・・・・
未熟な私は、だから至れないでいる。
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今日の補習も原因を全て私達のせいにされた。
ずっと八つ当たりも同然に散々罵られた後。
私達は課題に取り掛かった。
途中、同級生の何人かは手を挙げると、理解らない所を先生に尋ねた。
『あ”~~~!!こんな簡単過ぎる課題くらいが理解らない。ハンッ・・・荷物纏めて今直ぐ出て行きな。あんたらみたいなゴミクズ。メティスには要らないんだよ』
今日の先生は普段以上に機嫌が悪かった。
いつもは悪態をつきながらもヒントくらいはくれるのに。
もしかすると、あの日なのかもしれない。
だから余計にささくれ立っている。
酷く機嫌が悪いだけを撒き散らした先生は、片手に持っていた鞭を力任せに机へ叩き付けた。
これも八つ当たりか鬱憤晴らしにしか見えなかったけど。
直に叩かれれば皮膚なんて軽く破れる痛々しい音がクラスの空気を、どん底から一層悪くした。
こんな教室。
私は一秒でも早く出たかった。
だから分厚い教本だけでなく。
同じくらい分厚い資料も開いた。
授業で書き記したノートと、予習用に作っていたノートも取り出した私は、ただひたすらに課題へ取り組んだ。
教室の何処かで、誰かが鼻をすすって泣いていた。
慣れられる事ではないのだけど。
メティスでは、こんな事も当たり前だから。
もし、この様なやり方を否定したいなら。
仮に、今の環境を私が変えようとするのであれば。
――― 此処での一番は私なのだ ―――
それくらいの実力が有るを、絶対的な差を付けて認めさせなければならない。
課題は難しかった。
それでも。
私はやり終えた課題を先生に提出した。
自分のことを絶世の淑女とか言うくせに、椅子に座ったままミニスカートで大股開き。
退屈なのか欠伸をしても。
それすら隠そうともしない先生は机に肩肘を付いて、やる気なんて全くない。
けど。
「・・・・まぁ、こんぐらい出来ていれば今日は構わんだろう。クローフィリアだったか・・・ん。今日は自由にして良し。ああ・・・お前は明日、理事会から公休だと聞いている。そう言えば、それを伝える様にとも言われていたっけな。まぁ、取り敢えず伝えたぞ」
「はい。それでは先生・・・・今日もご指導ありがとうございました」
今でも言い切れる。
此処へ来る前に実家で読み書きと計算を教えてくれたイリアの方が、絶対に先生らしい。
私は未だ課題に向き合っている皆のためにも。
先生が癇癪を起さない様に神経をいっぱいに使った。
そうやって作った表情と声で挨拶を済ませた後。
静かに教室を離れた所で廊下に出た後は、逃れようと走りたい感情を抑えて。
それでも、足早に外へと急いだ。
時計の針は、とっくに三時半を過ぎていた。