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第15話 ◆・・・ 湖上密談 ・・・◆


僕もフェリシア女王様のことは、朝食の時の会話でも後から来るとは聞いていた。

で、その時の会話で昼食も一緒にとかは、シルビア様と楽しそうに話していたくらいも憶えている。


先に到着したシルビア様と僕が、お昼の食材を釣っている途中。

時間は丁度お昼頃。

フェリシア女王様は僕がお城で見たドレス姿とは異なって、シルビア様と同じように動き易そうな服装で姿を現した。


なんかね。

どちらも本当は国王様なんだけどさ。

街の人達が普段から着ている様な服装になるとね。

お城で会った時の如何にも王様って思える様な威厳とか。

そういう印象が、今は何処にでもいる母娘の様にも見える。

それくらい違って見えるんだよね。


それから一応ね。

言い出したのはシルビア様で、だから僕に拒否権なんかは無い。

お昼の食材を釣ると言って始まった釣りの成果だけど。

シルビア様の釣果は、10センチ程度のローレ・カルプと呼ばれる魚が七匹と、全身が甲羅ではさみを二本持つローレ・クラブの大きなものが一匹。

僕の釣果は、マーレさんが大物だと言っていたローレ・プルプが一匹と、これも大きい方らしいローレ・トラードが三匹。


だけど、プルプは見た目からして魚には見えないんだ。

確かサザーランドではタコって呼ばれていた魚介類の一種なんだけど。

八本の足は吸い付いたら絶対離れない様な吸盤がいっぱい付いているのが特徴で、頭の部分はちょっとだけ膨らませた風船のような形をしている。

骨が無いからか、うねうねした動きなんだよね。


トラードは、これもサザーランドではタイって呼んでいた魚だね。

カルプは、確かコイって呼ばれていました。

クラブは・・・まぁ、これも見た目は魚に見えないんだけど。

サザーランドではカニだったかな。

そう呼ばれている。

見た目は同じ魚とかなのに、国によって呼び方が違う。

でも、公都の街中を案内してくれたカズマさんから教えて貰った知識が今回は役立った。


僕とシルビア様の釣果は、まぁ・・・僕の一匹も釣れなかったらという最悪の予想だけは回避できました。


-----


昼食はフェリシア女王様が、天気が良いから外で食べようって。

それで始まったウッドテラスでのバーベキューには、マーレさんと宿の料理人さん達が、シルビア様と僕の釣果も炭火に乗せた金網の上で美味しく調理してくれました。


エスト姉とニコラさんも、本当は誘う予定だったんです。

ですが、エスト姉の飛び級試験が明日にはある。

そういう事情で、今日は試験前の最後の追い込みをする。


昨夜は、お城の客間で遅くまで喋ったけど。

エスト姉とニコラさんの二人は、朝食の後で直ぐに帰って行きました。


エスト姉とは、たくさん喋ったから。

留学して一年程度。

それで中等科の修了試験までを合格したエスト姉は、今は高等科へ籍を置いている。

普通に考えれば、中等科だって4年くらいある。


エスト姉は、シャルフィの空港でも言っていた。

一年でも早く教員資格を掴むって・・・・・


やっぱりさ。

エスト姉は、本当に凄い人なんだって。

頑張っているエスト姉には、今回は誘えなかったけど。

シルビア様も応援している。

それで、また次の機会にって約束もした。


帰国したら。

僕は勿論、この事もカールやシャナ達に話します。


でもね。

エスト姉も驚いていたんだよ。

僕はエスト姉に、カールとシャナが飛び級で周りよりも一学年上に進んだって話と、エルトシャンは一気に二学年も上がったって話をしました。

その三人が『自分達はエスト先生の教え子だから』だって胸を張っている。


これも伝えた僕にエスト姉は、そんな事はないって笑っていたけどさ。

ちょっとだけ泣きそうになったのは見たし。

本当は凄く嬉しかったんだって思う。


あと、エルトシャンの事だけどさ。

一気に二学年の飛び級は、通っている初等科では前例が無い。

エスト姉もニコラさんも本当、驚いていたよ。

けど、この件でシルビア様は僕へ。


『まだ、公にはしていませんが。エルトシャンとカールの二人が騎士を目指している。それは私も前から聞いていました。ですので、この機会に二人を幼年騎士にしようと考えています』


公式発表も未だで、当人達へも伝えていない。

よって此処で聞いた事は未だ秘密にするように。

この件は女王である自分が最初に、二人へ直接伝える。


本心では帰国したら真っ先に教えたいけど。

幼年騎士は女王陛下が認めた才能ある存在。


僕も教えてくれたシルビア様へ。

秘密にする事を、ちゃんと声にして約束しました。


-----


昼食後の午後の時間。

シルビア様とフェリシア女王様の二人は、僕も食事中の会話で知ったのですが。

場所を此処に変えて外交の続きをするのだそうです。


お城だと、どうしても雰囲気があるから堅苦しくなってしまう。

その点、温泉もある此処なら気分を解しながら話し合いができる・・・・・


うん。

僕は外交の方はよく分からないので。

ただ、当事者同士がそれでいいなら構わないと思います。


食休みもそこそこ、二人とも大きな麦わら帽子をかぶると釣り道具を持ってボートに乗り込んだ。

二人だけが乗ったボートは、そのまま湖の方へ漕ぎ出して行きました。


-----


「警護は・・・・何かあったらどうするの」


桟橋から見送った僕の呟きは、けれど、マーレさんは「大丈夫。だいたい二人とも毎回だからね」って・・・・え?

元気なお婆ちゃんは、それで腕を振りながら大声で「夕食に良いのを釣って来るんだよぉ~」って心配なんか微塵もしていなかった。


「あんたは知らないんだろうけどさ。うちの女王様と聖女様はね・・・あそこで釣りしながら外交の話をしているんだよ」

「それって、遊びながら・・・」

「かもね。だけどさ・・・あの場所は見ての通り湖の上なんだ。聞き耳を立てようにも近付くことなんて出来ないだろ。今回は特に大事な話し合いをするんだろうね」


遠く離れた此処から一見すると、二人が乗ったボートは釣り竿が二本立てられているのが分かる。

でも、声は聞こえない。

そもそも、話し合いをしているのかすら此処からでは分からない。


きっと、二人以外の誰かには聞かれたくない何か。

そういう機密性の高い話し合いが・・・たぶん。


そんな事を考えていた僕は、元気過ぎるマーレさんから頭をゴシゴシ撫でられた。

マーレ婆ちゃん。

僕の頭は・・・・モップで擦られる床じゃないんだぞ。


「アスラン。あんたも明るい内に行っておいで。だけど、気を付けるんだよ。聖女様は全然心配していなさそうだったけどさ」


あっ・・・・そうだ。

言われるまで、すっかり忘れてたよ。

僕も午後の時間で、夕食の食材を調達して来ないといけないんだった。


昼食は魚介類のバーベキューで、その時の会話は、夕飯は肉と魚とどっちが食べたいか。

二人の女王様から尋ねられた僕は、素直に肉を選択した。


魚介類のバーベキューは、それも美味しかったけどね。

でも、選べるなら夕食は肉を食べたい。

釣りはね。

不確定な要素が大き過ぎる。

ビギナーズラックは続かない・・・・・僕は堅実な考え方が出来る子供です。


結果。

僕はシルビア様から"勅″を与えられた。


『この辺りにもギランバッファローが生息していますので。お肉の調達は任せましたよ』


尋ねられた時に、僕は堅実に物事を考えた。

で、だから・・・釣りの不確定要素も考慮して肉を選んだ。


まさか。

それで此方は考慮すらしなかった別の不確定要素を任務にされるなんて。

全く思いもしなかった。


しかも。

シルビア様は不確定要素を、ギランバッファローを指定したことで難度を引き揚げた。


・・・・・猪とかじゃダメなの?・・・・・


一応、暖かい地方なら何処にでも居るってくらいは知っているけどね。


「あの、マーレさん。一つ尋ねたいのですが。この辺りにはギランバッファローは棲息しているんでしょうか」


念のため。

地元の人に、これは確認しておかないとね。


「居なかったら態々ギランバッファローなんか口にしないでしょ。まぁ、聖女様も此処に来るとね。そんで肉が食べたいときは森の中でギランバッファロー狩りを楽しんでいたもんさ」


あ・・・なるほどね。

僕は思わず、うんうん頷いてしまった。


「保養地は、だから頑丈な柵を巡らせているのさ。まぁ、時々は陸軍の兵隊たちが間引きで狩りもするんだけどね」

「そうなんですか」

「そうしないと悪戯に群れが大きくなって人里まで襲いに来るのさ。此処に居る男達も日頃は猟銃を持って出掛けるんだけどね。そんでも陸軍の兵隊たちの方が、しっかり間引きしてくれるから。人食い牛も人里には近付いて来ないんだよ」


マーレさんの話によると、この辺りには熊や猪に山鹿もいる。

そこへ遠くから山を越えて来るギランバッファローまでいるそうだ。

やって来る理由は、火山帯にあって温泉が湧くくらいだから土地が比較的暖かい。

それで餌になる野兎も多くいる。

ゼロムから来る途中に通った山道は、そこに茂った森の奥の方に野生の獣たちが幾つも群れを作っている。

けれど、ギランバッファローだけは、群れが大きくなり過ぎないように王国陸軍が間引きしている。


けど、まぁ・・・居る事が分かれば十分だけどね。

僕一人でも狩れるし。

しかも、こっちには肉大好きのレーヴァテインもいる。


マーレさんは僕に対しては凄く心配顔だった。

それは・・・普通はそうだよね。


夕暮れ前の太陽が高い内に帰って来ること。

そんな約束もさせられた僕は、マーレさんから山の地図を借りると、万が一の時には使うように。

緊急時に使う信号弾も入ったバッグを背負った僕は、来る時には車で上った山道へと出掛けた。


-----


桟橋を離れたボートは漕ぎ手の意思の赴くまま、水面をゆっくりと泳いだ。


「シルビアさん。この辺りで良いでしょう」


肩幅くらいはある大きさの麦わら帽子の奥で、今もボートを漕いでいるシルビアへ穏やかにそう告げたフェリシアは、そこで一先ず釣り竿を振って餌の付いた針を、少し先の水面に投げた。


漕ぐ手を止めたシルビアは、そして、自らも釣り竿を片手に餌の付いた針を投げた。

今は互いに大きな麦わら帽子で、遠目にはただの釣り客に映るだろう。


二人は此処で、事実、大事な話し合いをする。

同時に、マーレから受けた注文。

夕食用に大魚を釣る。


「今回も事前にカーラさんから内密の連絡を頂いています。だから、貴女の本当の用向きも。私もある程度は把握しているつもりです」

「ノブヒデ様からは、その時には協力して下さる。フェリシア様にも、この件では特に協力を頂きたく思います」

「次の議長選挙。まぁ、任期途中だったヘイムダルへ最初に不信任を示したのも貴女です。そして、私もノブヒデ様も当然と支持しました。今度の件で貴女が正式に立候補する時には、これも当然と支持します」

「ありがとうございます」


フェリシアにとって、この件は今更、一々確認するまでも無い。

既に独りよがりな持論を敷いて当然と突き進む。

強大国の武力を背景にした外交政策は、これが暴走し始めている危惧も強くなりつつある。


ローランディア一国では止められない。

これはシャルフィもサザーランドも同じ。

大国には違いないアルデリアすらも、単独では事を構えられないだろう。


それでも、志が同じであれば、一丸となってなら未だ止められる。

問題は、そのための旗手へ誰を担ぐのか。


サザーランドの公王は、猛々しい武勇と比して政治には物足りなさがある。

ローランディアを統べる自身は、既に高齢の身。

アルデリアの国皇とて、その点は同じであろう。


求められるのは、若い統治者で人格者であること。

そこへ何者へも立ち向かえる強い姿勢。


聖女と謳われるシルビアは、それで旗手として今最も相応しい。

何よりも両親をヘイムダルに殺された事実は、これで武力を使わなかった姿勢が、今でも高く評価されているのだ。


「私の知る以前のシルビアさんでしたら。強大国に対して恐らくはもっと慎重な姿勢だったでしょう。それが一年くらい前からは、強い意志で向き合うようになった。王としての威容を、一層強く感じるようになりました」


フェリシアは、そこで今は互いに姿勢を横にしながらも。

視線は釣り糸の浮きから横目にシルビアへと傾けた。


「私は、シルビアさんが未だ幼い頃も見ています。ですから良い所を見せたい性分も知っています。母親になって、そして、今は貴女の母を重ねる我が子に対しても。きっと、そうなのでしょうね」

「アスランには、あの子には未だ話していません。ただ話さなければ、とは思っているのです」

「幼い騎士が騎士団長になった・・・・噂だけなら私も聞いていました。ですが、レイラとルイセからの手紙を読んで。二人がアスランを高く評価しているくらいは存じています」


魔導革命の祖と謳われるレイラ・エリザベート博士。

その直弟子の一人でもあるルイセ・テスタロッサ博士。

二人がローランディア王国の女王へ届けた手紙は、アスランの実力は言うまでも無く。

未だ極一握りしか知らない機密情報は、既に何らかのアーティファクトと呼ばれる古代遺産を所有している可能性までが記されていた。


「シルビアさん。アスラン王太子ですが、メティスへ預ける気はありませんか」


次の議長選挙の話。

支持すると明確に本心を伝えた事で、これはもう済んだ。

そもそも、始めから彼女以外にないを決めていた。

故にフェリシアは話題を、今度は自分が思っている事へと変えた。


「それは・・・ですが」

「まぁ、別に急ぐ事でもありませんので。ですが、二人の博士はシャルフィよりもメティス。行く行くはアナハイムで学ぶ方が大きく羽ばたける。そういう見立てをしていました」

「私も、その点はまったくの同感です。でも、まだ傍に置いておきたい・・・そう思っています」

「ええ、そういう風に思うのは母親であれば当然でしょう。ですから私も今直ぐ等とは言いません。私は、その時が来れば何時でも迎えますと、そう伝えたかっただけです」

「・・・・ありがとうございます」


シルビアにとって同じ王位に在る者でも。

フェリシア女王は、特に偉大な先輩だと思っている。

即位した後では、フェリシア女王の在り様を見習いもしたのだ。


そのような御方から直接、世界でも間違いなく断トツで一位の座に在る学び舎(メティス)へ誘われる。

行かせれば、これも間違いなくアスランには箔が付く。


シルビアはこの点を、以前にも考えた事くらいはある。

それは妄想の中で、アスランならメティスでも首席を掴める筈だ等と・・・・・


そう。

あくまで、色ボケ妄想の中でキラキラに描いた。


だから現実は、幾ら箔付のためでも。

可愛い我が子を手放す等。

それこそ今は未だ毛ほどにも抱いていなかった。


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