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第9話 ◆・・・ 教師エストとエレン先生?から学ぶ日々 ② ・・・◆


「シルビア様。今回のアスラン様へのテスト結果ですが。習熟のスピードは一般的な子供達より、遥かに早いです。この分なら5歳で任命しても。本人の実力だけで周りを黙らせられるでしょう。問題を作る側として、実に驚かされる逸材です」


普段は怖い意味合いで、知的美人。

その印象が強いカーラの、上機嫌も見て取れる笑みは、幼馴染だけあって、映すシルビアにも直ぐ理解る。


けれど、シルビアは既に目を通したエストからの手紙。

そこに記された強い思いへ。

申し訳ない感情が、大きな溜息を吐き出させていた。


「カーラ。エストが怒ってましたよ。テストの問題に教えていない所から出題されたって・・・・私もエストの言い分は、事実その通りだって思ったわ。今直ぐにでも足を運んで。それでエストには頭を下げて謝りたいくらいよ」


頗る上機嫌のカーラとは対照的に。

この件を任せていたシルビアの表情は沈んでいた。

テストの採点と、それについての感想は自分でペンを執っているシルビアは、テスト問題と浮き彫りになった課題克服用の問題集について。

此方はカーラへ一任して来た。


現在のシルビアは、本心へ幾重にも蓋をしている。

更に、その蓋にも鉄鎖でガチガチに固めたような鍵をかけている状態。

それで政務と公務に明け暮れている。


特に公務の方は、月の半分を諸国との外交に使う状態。

けれど、それだけ密に動かなければならない懸案事項が在るのは事実。

往復の移動時間を含めると、自国で過す時間は、この二ヶ月余りの内で二十日程度しか無かった。


諸外国へ赴く。

と言っても、大陸のほぼ中央に位置するシャルフィの場合。

高速飛行船で移動すれば、一番遠い国でも片道に1日掛からない。

逆に、近隣諸国や自治州であれば。

ゆっくり飛んでも、4時間程度で赴ける。


そして、自国の内政も疎かには出来ない。

もっとも、此方は頼りになる補佐役がいる。


故に現在。

シルビアは、特に近隣の友好国と自治州を中心に。

問題に対する情報とその認識。

これらの共有を推し進めている。


不穏な空気が生まれた国が強大である以上。

単独で事に当たるのではなく。

次回の国際会議の場で、連携して歯止めを掛ける狙い。


今の諸国訪問は、その時に足並みを揃える、ための布石でもあった。


アスランの4歳の誕生日まで。

それまでのシルビアは、会うための時間を作るという意味でも。

政務と公務へ、精力的に取り組んできた。

それこそ休憩時間も取らず、一気に仕事を片付けるくらい。


片づけた後で、理解してくれる親友が留守を預かる時間。

シルビアは、そうして孤児院へ通ったのだ。

ただ、それも今となっては、懐かしい思い出・・・?になっていた。


禁欲を強いられた今のシルビアにとって唯一、至福と呼べる時間。

毎週届けられるスレイン神父からの便り。

ではなく。

それに同封されたアスランの答案用紙が兎にも角にも待ち遠しい。


手に取った瞬間。

思わず漏れる艶やかな溜息は、だからカーラが余人の立ち入りを禁じている。

はっきり言って。

今でも周囲へ見せられない醜態を晒していた。


それくらい隔離された室内で、採点するシルビアは頗るご満悦。

採点中『頬を緩ませている』と、カーラに言われるくらい。

今のシルビアにとって、これだけが幸せな時間になっていた。


シルビアは、此処までのテストで、アスランの平均点が、未だ90点を下回っていない成績を、我がことの様に誇らしく抱いている。

と言うか、もう心は既に『5歳になったら絶対引き取る!!』と、固く決意していた。


答案用紙に書き込まれた文字。

最初と比べて、ぎこちなさが抜けている。

今の字体は、とても4歳の子供が書いた文字とは思えない、くらいしっかりしていた。


シルビアは、アスランの答案用紙を全てファイルに収めている。

今ではこのファイルが、精神安定剤の役割すら担っている。

息抜きの時間になると、シルビアは必ずと言って良いほど眺めて、そこでも頬を緩ませていた。


今週のテストの答案用紙。

午前中に届けられた便りに同封されて来たそれを、シルビアは昼食を手早く済ませた後で、残りの昼休み時間を、一杯まで使って採点している。


今は午後の休憩時間。

この時になって、シルビアは未だ読んでいなかったエストからの手紙を手に取ると、記された内容へ。

読み進めるほど、同感だと強く思える。

読み終えたシルビアは、エストへの申し訳ない気持ちが、表情を暗くしていた。


意気消沈気味のシルビアから、カーラはエストの抗議文とも呼べる手紙を受け取った。

そこに記された内容へ、カーラにも否定の言葉は出て来なかった。

と言うよりも。

寧ろ、此処では感心が勝った。


テスト問題を作るに当たって。

これまでの成績が良く、そのため少し先取りした感。

此処はカーラも認めている。


けれど、その事が原因で送られたエストの憤りを想像できる文面には、読み終えたカーラの口から「これは私も非を認めないといけませんね。テスト本来の趣旨を逸脱した非は私にあります」と、そのままシルビアへ頭を下げた。


「もう済んでしまった事は仕方ないわ。手紙を読むとね・・・エストがアスランの勉強を、本当に親身になって見てくれている。それが理解るから。余計に申し訳なくなるのよ」

「確かに、この手紙にはシルビア様に伝える意味で。現在のアスラン様がどの段階まで学んでいるのかが、事細かく記されていました。エストという修道女でしたか。その方は修道女よりも寧ろ。教師の方が向いている・・・私はそう強く感じました」

「ふふ♪ エストはね・・・あの子は本当は男勝りで負けず嫌いな性格なのだけど。とても真面目で頑張り屋さんでもあるのよ。面倒見も良いし。初等科では首席だったから。私は中等科へ行かないかって声を掛けたんだけどね。『私は同じ境遇の子供達にとって、姉のような存在になりたいんです!』そう言ってシスターになる道を選んだの。子供達皆から『エスト姉』と呼ばれて。それはエストにとって望んだものだから。そういうエストを、私はずっと応援していたいのよ」


この1年間は、孤児院へ行くのを我慢する。

アスランの4歳の誕生日を最後。

そこから既に二ヶ月以上経った今も。

シルビアは1日が経つ時間を長く感じている。


まめに通っていた時には、時間が短過ぎると思うほどだった感覚。

今は真逆になって、時計が壊れていないかと抱くことが間々ある。

それくらいシルビアにとって、アスランと過ごした時間が精神に与える影響は大きかった。


それでも。

来年の誕生日まで我慢すれば。

後は共に生活できる日々が待っている・・・・・


この時のシルビアは、最初に設けた最低条件を、既に脇へ追いやった感は、向けられる反発など。

それこそ、女王の権力で叩き潰してやる。

といった暴力的な考えを、露骨に抱いていた。


-----


翌日。

これも今は足を運べない事情を抱えるシルビアに代わって。

カーラは、自ら孤児院へ赴いた。


時間は、午後の昼下がりの頃。

日差しがまだ暖かい時間帯に到着したカーラは、先ずスレイン神父へ挨拶を済ませた。

そこでスレイン神父に呼び出されたエストと、カーラは初めて顔を合わせた。


スレイン神父は、カーラの用向きを聞いて、アスランの勉強の件であれば。

今も直接指導しているエストと、直に意見を交わす方が良い。


スレイン神父はエストを呼んだ後。

そのエストへ『教会の応接室を使うのが良いでしょう』と、午後の仕事を、今日は免除した。

何となくだが。

スレインには、この面談が、短時間で終わる気配を、僅かにも感じられなかった。


応接室に場を移した後で。

カーラは、そこで改てエストへ正面から向き合うと、深々と頭を下げた。


頭を下げられた理由が理解らず驚くエストへ。

カーラは、アスランのテスト問題で犯した過ちを述べると、本来の趣旨を逸脱した非を詫びた。


非を認めて先ずは謝罪を述べたカーラへ。

その姿勢は、エストにも好感を抱かせた。


カーラは真相を伏せたまま。

それでも、先のテスト問題に限って。

これは多忙を極めたシルビア様に代わって、自分が作ったと述べた。


そのため、シルビア様なら当然把握していたアスランの習熟度も。

だが、カーラは確認も取らずに『此処までは出来るだろう』と、勝手に思い込んで作ってしまった。

そうして結果的に、今回は悪戯に混乱を与えてしまったのだと。

最後にもう一度。

カーラは、じっと聞いてくれたエストへ頭を下げた。


テスト問題に抱いた疑念。

それが解消したエストに、怒りの感情はなかった。

それよりも。

シルビア様が故意にそうしたのではない、という事実へ。

ようやく安心したそれに、ホッと胸を撫で下ろせていた。


エストにとっても、シルビアの存在は、非常に大きな部分を占めている。

それだけに抱いていた不安は、この瞬間から安心へ戻った。


見て分かるくらい、表情と雰囲気が穏やかになった。

レンズ越しに映した若い修道女へ。

カーラは内心。

4歳のアスランが、此処まで良い成績を出す事が出来た背景。

その一端以上は間違いなく。

今も相対している修道女の手腕を強く抱いた。

彼女が居なければ。

今のアスランの成績は、絶対に成り立たなかった。


カーラはエストへ。

現在のシルビア様が、実に多忙を極めている。

そして、今後のテストに関して。

これからは自分が、シルビア様に代わって担当する事を述べると、同じ過ちを繰り返さない為にも。

此方で指導に携わっているエストとは、以降も情報の共有を図りたい。


カーラから協力を求められたエストに、異存はなかった。

丁寧な言葉遣いに真摯な姿勢。

そんな好感を持てる人柄には、自然と距離も寄せやすい。


エストは一度、場を離れた後で直ぐ。

再び今度はアスランのノートを片手に戻ると、先ずはそれをカーラへ渡して中身を見て貰った。


エストは、ノートの中身に視線を動かすカーラへ。

そこでアスランが最初、教えてもいない掛け算と割り算を独力で、それも無自覚に習得していた時の事を話しながら。


本格的には、二ヶ月程度しか経っていない。

にも拘らず、駆け上る勢いで今の段階に在るアスランには、才能がある。

けれど、才能があるからこそ。

教える側には、自制が必要。


自らの考えを述べるエストへ。

視線を合わせたカーラは、腰を折ることなく聞き入った。


「神父様も仰っていましたが。アスランには間違いなく天才の素質があります。ですが、そのきっかけは聖剣伝説物語を、自分で読めるようになりたいから文字を教えて欲しい。4歳になる前のアスランから初めて相談された私は、その時は教えた所でそう簡単には覚えられないだろうと思っていたのです。ですが、あの子は私の予想を軽く裏切って、今は図書室の本程度は事も無げに読んでしまえる。それもまた事実なのです」

「その事は私もシルビア様から聞いたことがあります。確かアスラン君が4歳になる前の事だと聞き及んでいますが。シルビア様は図書室で絵本を当たり前のように読んでいたアスラン君を見て驚いたと。それから絵本を読めるくらいに文字を覚えているのを確認したシルビア様が。それ以降は自らも文字を教えるのに携わったと聞いております」

「その通りです。その頃はシルビア様が訪れてくださる度に、私はアスランの文字の習熟について話しています。その後で簡単な文字を覚えたアスランですが。言葉の意味を調べるのに私が初等科で使っていた辞書を、これはその頃から今もですが。いつも傍において良く使っています。これも私は教えていませんが、自分で興味や関心を抱いた言葉の意味を調べているようです。実際にアスランと言葉を交わせば理解るかと思いますが。4歳とは到底思えない言葉遣いで、難しい言葉も会話に良く使っています。それも極普通に自然な会話として使っているからこそ。私も神父様も天才の素質を感じるのです」

「なる程。今聞いた事もですが・・・同じようなことをシルビア様も楽しそうに話しておられました」


何処か納得した面持ちで聞いてくれた感を抱かせるカーラの雰囲気。

エストは、それでずっと抱いていた部分。

もしかしたら知っているのではと、踏み込んで尋ねた。


エストから、アスランが4歳になってから毎週受けているテストについて。

何故そのような事をしているのか。

4歳という年齢から考えても早過ぎる。

まして、今のテスト内容。

明らかに初等科の3学年で習うような内容までが含まれている。


最初の頃は、シルビア様が勉強を始めたばかりのアスランへ。

どれくらい身に付いているのか。

それを確かめる程度のものだと抱いていた。


ところが、先のテスト。

未だ教えていない部分が含まれたテストへ。

何か理由があってそうなっているのではと、疑問を感じている。


ただ、エストにしても。

学ぶアスランの興味と関心が、勉強へ向いているのなら。

夢中になって勉強する姿は応援したくなる。

そういう思いもあるので指導は続けている。


エストが抱いている疑念。

それを聞いたカーラは、これも当然だろう。

聞き終えた後。

自然と肯定するような仕草で頷いた。


「先に、私もシルビア様の真意を直には聞いておりません。ですが、4歳になる以前に文字を覚えたアスラン君が、将来は騎士になりたい。そうアスラン君から直接聞いたシルビア様ですが。悪戯に無理だとは決して言わない御方です。恐らくは可能性を広げるためにしているのだと思います。勉強そのものは、して損にはなりません。聞けばアスラン君は毎日欠かさず素振り稽古もしているとか。これは私の憶測に過ぎませんが。シルビア様は現行の教育制度にある『飛び級』を使って、初等科に入学した後のアスラン君を相応しい学年に移動させた後。そこでの成績次第で幼年騎士に任命するつもりなのかも知れません。幼年騎士へ任命されれば。そこからは専門の教育が受けられます。そして幼年騎士が学ぶ特別な初等科を卒業すれば。従騎士への任命と専門の中等課程の勉強が始まります。つまり、現実に騎士になれるのです」


カーラは自身の憶測だと述べながら。

そこにシルビアの人柄を含ませたことで、尋ねたエストへ高い信憑性を抱かせることに成功した。


疑問を尋ねたエストは、カーラから憶測だと告げられても。

自身も知るシルビアの人柄からして、アスランが騎士になりたいと言えば。

その為の道筋は作るだろうとも抱くことが出来る。

それこそ、エスト自身が大聖堂へ入るために試験を受けた時にも。

シルビアの後ろ盾はあった。

何より、面接の時の事は、決して忘れる事のない思い出になっていた。


-----


初めてカーラと面談して以降。

その時でさえ帰り間際になって、カーラがシルビア様の補佐役だと知ったエストの驚きは小さくなかった。

だが、今ではずっと定期的に足を運んでくれる。

それこそ週一回は、必ずと言っていいほど。

そして、直接顔を合わせながら現在の習熟度合いと、今後の指導方針等で意見を交わしている。


季節は既に1年の最後の月。

12月も半ばを過ぎていた。

この日のカーラとの面談も、エストには有意義な時間になっていた。


テストは今も、毎週欠かさず続けられている。

けれど、あの時以降。

テスト問題へ、エストが憤るような事は起きていない。


それはカーラと定期的な面談を持ったことで解消された。

反面で何かあれば。

都度、手紙で知らせる事にもなっている。


この間、エストはアスランから、将来の夢を然りげ無く聞いている。

そして、アスランが騎士を目指していること。

本人がそのために、今を一生懸命頑張っている姿には、何処となく大聖堂へ受験を控えていた頃の自分とも重なって見えていた。

故に、シルビア様の課している毎週のテスト。

エストはカーラの憶測が、大きく外れていない感を強くしていた。


12月のシャルフィは、東西の国境にもなっている山脈の影響で、中央には寒気が留まり易く、外は雪景色へと染まる。

この頃のアスランは、初等科高学年レベルの算数を学んでいた。


他の教科も勉強はしている。

けれど、日頃から教会の図書室で本を読んできたアスランには、文系の授業は算数ほどの時間を割く必要はないと、指導を担うエストは考えている。

この点も、テストの結果で十分に証明されているのが理由に挙がる。

中でも社会の、取り分け歴史の分野は、初等科を卒業出来るレベルへ到達しているのが顕著だった。


今では神父様が、アスランにだけ。

特別に図書室の本を、持ち出しても良い許可を与えている。

そして、エストはアスランとの同居生活が、もうだいぶ前から当たり前になっていた。


エストが使っていた私室には、今ではすっかり弟分のアスランが居る。

何というか。

馴染んだ?

既に一緒に居るのが当たり前な今は、これも神父様が、持ち出した本を管理するのに必要だろう、と用意してくれた本棚が置かれている。


おかげで、まぁ、少し狭くなった感はある。

ただ、元々は数人で使う広さの部屋だった。

だから、窮屈という感じは全くない。

神父様が中古でも買ってくれた本棚は、アスランが収めた本だけで、既に半分以上埋まっていた。


タイトルを見れば、歴史関連の専門書を何冊も置いている。

他には植物や農作物の図鑑等も収められていた。

ただ、此処に収められた本は、その全てが図書室の蔵書ではなかった。


カーラとの定期的な面談。

実は、もう何度も、アスランも参加している。

本人と直に言葉を交わす事で、その方が理解る部分もあるはず。


この提案を、最初に持ち掛けたのはエスト。

そして、カーラは快く応じてくれた。


その面談の中で。

アスランは図書室には無い本。

写真付きの植物や動物の図鑑。

歴史関連の本は図書室にも在るが、年鑑が古過ぎて、近年は全く載っていない。


最初、アスランから尋ねられたエストは、王都の図書館なら借りられると考えた。

買うには高過ぎて手が出ない本も。

初等科と大聖堂に通っていた当時は、頻繁に利用して借りていた思い出もある。


エストは無理を承知で、それでもカーラへ手紙を出した。

結果。

表向きはシルビア様からの『寄贈』という形で、真新しい本が数冊。

すっかりアスランの宝物になっていた。


1年の最後の月。

雪が降る季節になったシャルフィでは、一日中ずっと雪が降る日もある。

そうした日はアスランも、午前中から食事の時間以外を勉強で過ごしている。


それでも、いつ頃からだろうか。

晴れの日や曇りの日は勿論。

今も軽く雪が降っている程度で、子供達が外で遊んでいる時は、アスランも午後の自由時間を外で過すようになっていた。


自分の記憶では、たぶん9月にはそうだったはず。

記憶を辿ったエストは、その頃からアスランが午後の自由時間を、図書室から外へ出て過すようになった事へ。

寧ろ、それで良いと抱いていた。


4歳のアスランが、朝から夜までずっと勉強する姿。

それも本人が進んで、興味の赴くまま勉強することは、エストも好きにさせている。

手空きの時と夜は付きっきりで指導もしているエストは、それ以外の時間。

天気によっては、読書か自習しているアスランへ。

特に何かを言うつもりはなかった。

ただ、そういう時のアスランは何と言うか。

雰囲気が、4歳には全く見えないでいる。

同い年くらいの他の子供達と比べて、アスランは明らかな差を顕著に見せていた。


普段の言葉遣いからそう。

既に4歳のものではない印象が、こうした部分は、近所の大人たちも気付いている感があった。

ミサに訪れた大人たちは、アスランの対応の仕方と言葉遣いへ。

接したその殆どが、『かなり大人びた子供』という認識を抱き始めている。


そんなアスランが、午後の自由時間を、それも外で過ごせる天気の時は、夕食の時間までずっと外で過ごすようになった。

妙な表現ではあるが。

エストはアスランの変化へ、安堵感を得ている自覚がある。


これも同い年くらいの子供は勿論。

エストは、孤児院の他の子供達が、外で元気いっぱい遊ぶ姿を、当たり前のように見て来た。

今でも見かける度に、自らも当時は遊んでいたのを、良く思い出す事がある。

だからこそ。

ずっと図書室に篭っていたアスランには、それで違和感を抱くことがあった。


アスランも外へ出るようになった。

けれど、仲間外れのアスランは、子供達の輪の中へ入ろうともしない。


アスランは、いつも木剣を片手に外へ出掛ける。

行き先は孤児院からだいぶ離れた、人気の殆ど無い空き地。

まぁ、自分なら丁度いい散歩程度の距離で、そこがシルビア様との思い出の場所も理解っている。


エストはそこで、アスランが素振り稽古をしている姿を何度も見ていた。


カーラからエストは、以前に聞いたことがある。

幼年騎士に任命されるには、勉強は勿論。

それ以外に、素振りが300回は出来る体力も求められる。

後は剣術の初歩的な型も習得していれば。

たとえ孤児でも。

シルビア様なら任命するだろうと聞いていた。


手空きの時間。

エストは今も時々、スレイン神父から、様子を見て来て欲しいと頼まれることもある。

その度に足を運んでは、アスランが熱心に素振りを繰り返す姿を、目に焼き付けた。


エストは、何か直向に頑張っているアスランを映すと、胸内は自分と同じように夢を手に掴んで欲しい。

自然、これも応援したくなるのだった。


2018.5.7 誤字の修正などを行いました。

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