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第0話 ◆・・・ 幼年騎士を目指す子供 ① ・・・◆


ハッ・・・ハッ・・・・


くように繰り返した呼吸は、両肩まで合わせた様に大きく動いた。

本当はゆったりと、そうしてもっと深い呼吸をすればいいのに。

頭では理解わかっていても。

それでも身体が酸素を欲して止まないでいる。


呼吸は今も未だ、荒く急く様に落ち着かないでいた ――――――


ただ、立ったまま息を整えようと、そのため上体がやや俯き気味であっても。

程なく大きく口を開いたままの顔だけは上がると、琥珀色の瞳は白む彼方の空を、漠然と映していた。



―――――― 掴みたい夢がある ――――――



だから今日も夜明け前からの修行は、汗を滝の様に流した。

ついさっき終えたばかりの素振り稽古が、夢を掴むのには絶対に欠かせない。

最近4歳になったばかりの男の子は、それで夜明け前のまだ暗い内から一人、汗だくになって木剣を振っていた。

素振りで使う木剣は、大人が使うものより短い子供向けのもの。

これは3歳の誕生日に貰った。

以降の今もこれからも、男の子にとっては無二と呼べる、大切な宝物である。


貰った木剣は、使い込まれた中古品。

でも、そのせいか、とても良く手に馴染んだ。

元々この木剣は孤児の自分が、今でも母の様に慕っている。

それくらい大好きな女性が、自分と同じ年頃の頃に使っていた物らしいを聞いていた。

誕生日のプレゼントで貰ったこの木剣は、その後から基本的な素振りを教えて貰った。


初めて綺麗な素振りが出来た時。

教えてくれた女性の、自分を凄く嬉しそうな表情で褒めてくれたのが忘れられない。

と言うか、絶対に忘れたりなんかしない。

いっぱい褒められて、凄く嬉しくて。

それでもっと上手くなりたいと思った。

上手くなったらきっと、また褒めて貰える。


夢を現実に出来るかもしれない。

今よりはたぶん、もう少し漠然だった気もしている。

けど、大好きな女性は自分へ。

なれるかも知れない条件を教えてくれた日以降は、それで毎日欠かさず木剣を振った。


そうして4歳になった今も、素振りは欠かさず続けて来た。

誕生日の前には、教えてくれた女性から『姿勢が安定している』と、また嬉しそうな表情で褒められた。


男の子は両親を知らない。

言葉が理解(わか)るようになってから聞いた話では、生まれて間もなく此処に預けられたらしい。

此処とは孤児院のこと。

孤児院には自分の他にも、同じような境遇の子供達がたくさんいる。

教会と建物が繋がっているので、面倒を見ているのは神父様とシスター達だ。


男の子の身形(みなり)は、傍目からも分かるくらいボロの古着姿。

もっとも、孤児院の子供達は殆ど皆がそう。


教会では定期的にミサが開かれる。

孤児院と教会は、ミサに訪れる人達から寄付を頂く。

寄付は金銭だけでなく、多くは農産物。

そうして、この寄付の中に孤児院で暮らす子供達が着ている衣服等も含まれた。

故に子供達が身に着ける衣服は、寄付して貰った古着の中からサイズの合いそうな物が使われていた。


男の子が今着ている服も同じ。

元は白地だったらしいが、何年も使われた後の半袖シャツは、寄付された時には黄ばみばかりが目立つ斑模様が、これが白地だなんて思うことも無かった。

他にも、くたびれた襟が裏返っている半袖シャツは、けど、生地が丈夫だから着れないことも無い。


古着は下着やズボンも同じ。

男の子のズボンは片方の脚が、その膝から下が破れて無くなっていた。

元々、寄付された時から既に無かった物で、一番年下のシスターからは、半ズボンに仕立て直す予定も聞いている。

子供達みんなの姉の様なシスターからは、その時に『手が空いた時に直しますからね』とは言われもしたが。

男の子は、十歳以上も年の離れたシスターが、普段から忙しく働いている事を知っている。


だから。

そう言われてから、もう3ヶ月くらい経っているけれど。

このままずっと片脚だけが短いままでも。

それで文句を言うつもりは無かった。


寧ろ、最近まで履いていた靴。

以前まで使っていた靴は、寄付された時から新品と比べて半分は底が擦り減っていた。

そうして、使い始めてから間もなく底が割れた。

既に寿命だった。


元々、使い古された物だから仕方なかった。

底が割れて使い物にならなくなった靴は、それで男の子には直ぐ別の靴が与えられた。

勿論、これだって中古品。


だけど、今度の靴は爪先の布地に穴が開いただけの底が殆ど減っていない品物だった。

しかも、ズボンを仕立て直すと言っていた姉の様なシスターが、此方は直ぐに当て布で穴を繕ってくれた。

おかげで男の子は素振り稽古の時に、思い切り踏み込む事が出来るようになった。


毎日の修行のためには、それでズボンよりも靴の方が大事だった。

だから、今日も忙しく働く姉の様なシスターへ。

男の子からは感謝しかなかった。

不満など、そもそも毛ほどに抱くことすら無かったのだ。


-----


今朝の素振り稽古も、終わって見ればやっぱり肩で息をするくらい没頭していた。

ただ、何故、夜も未だ明けないこの時間帯にするのか。

理由はある。

男の子には、日が昇る頃から当番の仕事が待っている。

他にも孤児院の庭は、日中ずっと他の子供達が遊んでいる場所だった。

その中で素振りをする気にはなれない。

と言うか、何かと揶揄(からか)われて鬱陶(うっとう)しい。


逆に当番仕事を始める前のこの時間なら。

まだ暗いこの時間帯は、周りが寝ている事もあって特に静かだった。

皆寝ているから揶揄われることも無い。

つまり、誰にも邪魔をされずに打ち込める。


修行に集中したい。

そのために、未だ周りが寝ている時間に早起きをする。

男の子はこうして既に半年以上。

ずっと夜明け前の時間に起きると、そこから稽古に汗を流し続けた。

結果、始めた頃と比べて確かに剣筋が安定した。

付け足すと、毎日欠かさず継続したことが、今では連続300回程の素振りが出来るようになっていた。


・・・298・・・299・・・300!・・・・


「ふぅ・・・素振り連続300回、98日連続達成っと。うん・・・このまま頑張れば400回も出来るようになるかな」


滲み出る。

というよりも噴く様に溢れ出る。

汗だくの額には、濡れた前髪が張り付いていた。

修行中から濡れた肌に張り付く髪の毛へ、その上から流れる汗の滴が睫毛にも貯まる。

睫毛に貯まった汗の滴は、やがて量を増すと堰を切ったように落ちてくる。

終わった時にはもう、鼻筋や頬を伝う滴は、首筋や顎下へ川を何本も作っていた。


ただ、未だ幼い子供が夜も明けない内から汗だくに染まる姿は、これも周りに人が居れば間違いなく奇異の視線も向けられただろう。


そんな男の子だったが。

汗だくになっても、今は未だ余力も十分に残っている。


連続300回の素振りは、目標の一つだった。

まぁ、これは今だから思えるのだが。

初めて出来た時は、けれど、後半の素振りが、ただ回数を振っただけ。

棒振りは到底、素振りとは言えない。

でも、一度出来るようになった事が自信へ繋がった。


昨日出来たから今日もという風に。

男の子の素振りは、こうして何とか出来た連続300回が、そこから三ヶ月以上経った今。

汗だくにはなっても。

しっかり振り切れた感触が、達成後は一層の充実感を与えていた。


男の子が当番をしている水汲み仕事は、太陽が顔を出してからでも間に合う。

空はだいぶ白んで来たが、朝焼けはもう少し後だろう。

今朝は昨日よりも時間に余裕が在った。


「よし。後はシルビア様に教えて貰った剣術の型を反復しよう。これも必須課題だからな・・・・教えてくれたシルビア様の動きをしっかりイメージして」


シルビア様というのは、木剣をプレゼントしてくれた女性の名前。

腰までかかる綺麗な黒い髪と、澄んだ青い瞳。

整った目鼻立ちは、色白な肌と合わさって美しく映えた。

人柄は明るく優しい。

そうして、子供が大好きな性分。

男の子も含めた子供達にとって、シルビア様は『明るく優しい美人のお母さん』が自慢だった。


子供達みんなから好かれるシルビアは、他の子供達と同様に男の子が4歳を迎える誕生日も祝ってくれた。

また、それまでは孤児院へ数日に一度の頻度で訪れもしていた。


孤児院で暮らす子供達みんなから最も好かれるシルビアだったが。

男の子にだけは、自分が子供の時に使っていた木剣を与えた。

以降、訪れる度に時間を割いて剣術の手解きをしている。


もっとも、指導と呼ぶよりは断然遊びに近い手解きだった。

しかし、要領よく男の子へ基礎を染み込ませた。


シルビアの指導は殆どが素振り。

それでも、男の子が4歳の誕生日を迎える頃。

その時には毎日訪れると、此処で初めて初歩の型を教えている。


誕生日までの数日間。

午後の時間を使って集中的に取り組んだ基礎の型稽古は、男の子の記憶の中で鮮明に焼き付いている。

教えてくれたシルビア様の流れる様な動きの一つ一つ。

瞼を閉じれば今でも。

そこに美人で格好良いシルビア様を、はっきりと映し出せた。


剣術は男の子だけが教えられた。

シルビアは他の子供には一切の剣の手解きをしなかったが、男の子にだけは型稽古までを教えた。

また、男の子には文字も教えている。

自分の他に一番若いシスターが読み書きを教えた事は、男の子が他の子供達よりも。

明らかにかなり早い年齢で孤児院の絵本を全て読める所へと至らせた。


男の子については、控えめで大人しい。

少なくとも、そう見る大人達が多かった。

一方、3歳の間に文字の読み書きが出来るようになった男の子が周りとは明らかに違う。

そんな雰囲気もあった。

そうして、これだけの事が出来るのに。

男の子は、出来ることを今まで一度も自慢しなかった。

寧ろ、何処かしら影のある。

昼間の時間帯に映る男の子の印象は、事実、夜明け前の汗だくで稽古を続けるそれと比べて。

信じ難いほど極端に隔たっていた。


ただ、男の子のこうした一面を、大人達の極一握りは知っている。

同時に、そんな風にしてしまった事には、この極一握りの大人達の誰もが、その内側に罪悪感を抱いているのだ。

神父とシルビア。

更にもう一人。

一番若いシスターの3人だけは男の子を、ある意味で最も正しく。

故に、男の子は自分の知らない所で。

二度と過ちを繰り返さないを、固く決意した理解ある大人達によって育まれていた。


露骨な自慢。

男の子は意識してしなかった。

同時に、周りの子供達とは出来る限り関わらない様に距離も置いた。

顔も合わせなくて済むなら絶対に合わせない。

特に孤児院の中では、関わりたくない意識が、それで隠れることも常だった。

そうするだけの影が。

既に男の子には在ったのだ。


ただ、自慢こそしないだけで。

男の子は、自分だけが子供達の中で唯一人。

文字の読み書きと簡単な計算が出来る事実。

そこには、確かな優越感も在ったのだ。


勉強のことでは神父様もシルビア様も褒めてくれる。

教えてくれる先生の様なシスターも褒めてくれる。

それが無性に嬉しくて、『次も褒めて貰おう』へ強く結びついた。


文字を読めるようになりたい理由は別に在った。

けれど、男の子は『褒めて貰いたい』の部分。

これがあって貪欲に学ぶ姿勢を、無自覚のまま当然と備えるに至った。


文字の読み書きと計算は、今でも一番若いシスターから習っている。

そうして、学ぶ男の子の実力についても。

教える側から言わせれば、既に『初等科』で十分やって行ける段階へ到達していた。


「(・・・アッスラ~ン♪ 今日も剣のお稽古。頑張っているんだねぇ♪・・・)」

「まぁ、これが基本だって教えて貰ったからな。出来るようになったら引き取ってくれるって言われたし。だから頑張るのさ」


過ぎるほど陽気にしか聞こえない女の子の声は、けれど、それが頭の中にしか届かない。

耳から鼓膜へ伝えるのではない声は、故に此処ではアスランと呼ばれた男の子にしか聞こえていなかった。


しかし、この事が原因で、アスランは同じ孤児院の他の子供たちからずっと。

それこそ今でも。

気味の悪い存在にされた。

更には虐げられる格好の対象とさえなってしまった。


頭の中に直接響く女の子の煩いとも抱く明るい声へ。

初めは皆も聞こえている。

そうアスランは思っていた。

だから。

違うと理解った時には、もう遅かった。

この声が自分にしか聞こえない事実。

そこへ気付いた時。

孤児院でのアスランは、既に孤立していた。


同じ孤児院で暮らす子供達の輪から。

気味悪いを理由に、アスランだけが除外された。


ただ、神父様とシルビア様。

声の存在を、二人は疑うことなく信じてくれた。

それでシスター達も今は理解している。

孤児院の中での完全な孤立。

幼いアスランがそうならずに済んだのは、ひとえに神父とシルビアの包容力だった。


姿無き声が聞こえるアスランへ。

声の正体を知る神父とシルビアは、揃って『アスランは、心が優しいから聞こえる』と言って聞かせた。

特に自らも言葉を交わせるシルビアはアスランへ。

三人での会話を通して、アスランには声の存在と仲良くするよう諭し続けた。


-----


声の存在は『精霊』らしい。

このリーベイア大陸の遥か遠い昔。

それこそ世界ができた時から『精霊』は存在していたと伝えられている。



ここはね。

神父様の授業で、僕も他の孤児たちもそう習ったんだ。

けどね。

僕は精霊と呼ばれる存在の声を、孤児院では自分の他に聞ける者が居ないも分っているんだよ。

今も周りから一様に気味悪がられているしさ。

それで授業の時も皆からは離れた席に一人で座っているんだ。


僕は最初、一番後ろの隅の方でぽつんと一人だけ目立つように授業を受けていた。

まぁ、近くに誰も座る人が居なかったからねぇ。

けどさぁ。

僕からも皆には近づかない様にしているのに。

それでも、周りは見逃してくれなかったんだ。


授業中はずっと、僕だけが嫌がらせを受けていた。


アスランへの嫌がらせ。

それは子供達の中で一番強い男子がボスになっているグループが中心だった。

部屋の後ろ。

その隅で一人だけ授業を聞いているアスランへ。

指導する神父の目を盗んでは度々行われる。

小さな石や、虫を投げ付けるくらいは当たり前。

掃除に使う雑巾や暖炉に積もった灰の塊を投げる時さえあった。


虐めは、あくまでボスとそのグループが主体的にした行為。

そうして、ボスの存在が怖い他の子供達は、先ず自分が目をつけられるのを恐れた。

これが理由でアスランとは常に距離を置くか、露骨な無視をするのが当たり前になっていた。


授業中の虐めは、ただ、実際には長く続かなかった。

生きている虫と使った側がばれない様に持ち帰った雑巾は別として。

小石や暖炉の灰は明らかに痕跡が目立った。

よって大人達は、容易に虐めが在った事実を共有した。


こうした虐めを行う者達の特定は簡単だった。

まぁ、日頃から悪さが目立つ問題のグループが在るくらい。

当然と、確証無く真っ先に目星が付けられた。


証拠集めを率先して行ったのは、子供達にとっての絶対的な審判者。

特に子供達の風紀を一手に担う若い修道女については、やんちゃが過ぎる一部の子供達が最も恐れた。

若さ故か。

諭す言葉よりも、些か腕力を誇示する点は問題に映るが。

日頃の姿勢が殆どの子供達から好かれている事実もある。


若いシスターは『人徳』だけで、証言を多数得られた。

表面はともかく、本心では問題グループを良く思っていない。

そういう子供達が多かった。

そうして、報告を受けた神父は即行動に移した。


神父の計らい。

神父なりに熟考した部分は、安易に咎めたりをしなかった。

それでは問題の根幹。

これが解決に至らないからである。


咎めることで虐げた者達を罰する事は簡単でも。

それは一時に過ぎない。

しかも、本質が改善されない限り。

何れ同じことの繰り返しになる。


神父の選択肢は、結果的にアスランを授業中、問題のグループが行っていた虐めから解放した。

授業に先んじて、神父は名指しでアスランを呼ぶと、自らに最も傍近い正面の最前列の席へ座らせた。


文字を学んで読み書きが出来る。

それまでは子供達へ、ただ聞かせるだけの授業も。

今はアスランにだけ。

意図して多く問い掛けを行うことで目立たせた。

そうする事で、目が光っている事を印象付けた狙いへ。

これは思惑通りの奏効を見せた。


授業の内容。

表向き、神父は今まで通り内容をちゃんと把握しているかを尋ねているに過ぎない。

この今まで通りを崩さず。

その上で最前列の正面。

自ら此処に座るよう指名したアスランを良く当てた。

当てられるアスランは当然だが目立つ。

しかも、正面の最前列だけあって悪戯をし難くさせた。


神父はアスランを助ける狙いもあってそうした。

ところが、予期しない事までが判明した。

アスランの知識力は、神父の予想を軽く上回っていたのだ。


アスランへ虐めを繰り返すグループを束ねるボスについて。

同年代では体格も恵まれた大柄で腕力もある6歳の男の子。

子分格の子供達に『ボス』と呼ばせる男の子だったが、典型的な威嚇によって周囲を怖がらせる。

勿論、同じ子供が相手なら喧嘩で負けることは無かった。


精霊などという目には見えない存在も。

まして自分には聞こえない声についても。

それと言葉を交わせる?

ボスから見たアスランは、内気で暗いという印象しかなかった。

陰に隠れてこそこそ何かしている。

だが、一度ならず服従すれば子分の一人にしてやるという誘いには応じなかった。

そういう時だけ。

アスランは不気味にも映る射貫くような視線を突き返す。


ボスはアスランが今も気に食わない。

以前、たったそれだけの理由で痣が出来るくらい虐げた。

結果。

絶対的審判者(エスト)の鉄拳が炸裂した。

殴られた瞬間。

意識が吹っ飛んだ。

それから自分の命令に従った子分たちも。

皆揃って尻が真っ赤に腫れ上がるまで叩かれた後、しばらく歩けなくなっていた。

だから、今は露骨に殴ったりしなかった。


神父の授業でアスランは一番後ろの隅に座る。

憂さ晴らしには好都合な位置だった。

ボスはここで、神父の目を盗んでは憂さ晴らしを繰り返した。


ところが・・・・・


今日は神父がアスランの奴を一番前に呼んだ。

アスランの奴が神父の目の前の席に座った事で、こっちは憂さ晴らしが出来ない。

万が一にも俺様が何かしたと勘付かれれば。

あの女は俺様を半殺しにするだろう。

全然、面白くないが。

アスランの奴は、神父とあの女の二人から可愛がられている。


仕方ない。

あいつ以外で憂さ晴らしをしてやろう。

俺様も半殺しは嫌だからな。


ボスはアスランが一番前の席に座るようになってから。

以降はずっと、常に後ろの席で息を潜めていた。


一方で神父の予想を上回ったアスランは、その神父から筆記用具を贈られた。

神父は他の子供達にも『アスランの様に文字の読み書きが出来るようになればプレゼントする』ことを告げている。

他の子供達が皆、ただ話を聞いているだけの授業時間。

アスランだけがノートにペンを走らせる光景は、それで以前とは全く異なる意味で目立つようになった。


神父が孤児とも呼ばれる子供たちに行う授業の中身。

ここは教会が開くミサでも扱う聖書の内容等を、それを子供向けに理解りやすく話しているに過ぎない。

授業で使う部屋には、教壇と黒板も置かれているが。

もっとも、黒板の方は子供たちが文字の読みも書きも知らない事で、皆無と言えるくらい使うことが無かった。



2018.4.29 誤字の修正等を行いました。

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