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カムナギ  作者: 竜音(ロンシェン)
3/3

4/6(金)






────4/6(金)・2年3組教室・放課後



「つ、疲れた……」



 机に突っ伏しながら俺は呟く。

 昨日の時点で分かっていたことだったが、朝からずっと他の生徒から(れいを除く)睨まれ続けたので俺の精神的疲労はMAXなのだ。

 そんなことをする暇があるのなら自分から澪に話しかければ良いだろうに。



「ん……?」



 不意にポケットの中のケータイが震えたのでゆっくりと取り出し開く。

 知らないアドレスだ……



今日こんにち貴方あなたを中心とした物語が始まりますわ。どうかかくをしておきますよう。つきましては、貴方様に1つ贈り物がございます〕



 俺を中心とした物語?

 メールの内容を読み終え俺は首を傾げる。

 どう言う意味だろうか……

 それに贈り物?



「……まぁ、良いや。さっさと寮に帰ろう」



 考えても仕方がない、そう結論付けて俺は立ち上がり鞄を掴む。

 俺や澪の暮らす寮、『ほしはらりょう』は5階建ての男女共同寮で、俺は204号室、澪は向かいの213号室を使っている。

 部屋に戻れば視線もないだろうしゆっくりできるだろう。

 そして俺は教室から出た。



   ‡   †   ‡



────星原寮・204号室・いぬかみときの部屋



「確か読み終わってない本があったよな……」



 部屋の本棚の前に立ちながら俺は呟く。

 既に服装は制服からラフな普段着に着替え終わっている。

 ん、この本で良いか。

 本棚から『(ゼロ)から始まる魔導計画!』を引き抜き俺はソファーに座った。

 本を開き読み始める。

 生徒を1〜12のランクで評価する魔法学校で、異質なランク〝0〟を所持する少年の物語だ。

 ランク〝0〟と言うだけあって少年は魔法を扱うことが出来ず、常に成績は最下位。

 そんな少年にも唯一出来ることがある。

 それは魔法のもととなる魔力を見る能力ちから

 その能力を使って少年は学校生活を生きていく、と言った内容だ。

 読んでいて、努力する大切さを少しだけ理解できた気がする。


──チリーン……


 俺が本を読むのを止めると同時に小さな音が耳に届いた。

 これは……



「……鈴の音?」



 首を傾げながら呟く。

 何故ならこの部屋には鈴なんてものは無いからだ。


──チリーン……


 ならばこの音はどこから聞こえてくるのか?

 息を殺し、できるだけ音を立てぬようにして耳を澄ます。


──チリーン……


 そこで俺は音がテーブルの上の辺りから鳴っていることに気がつく。

 徐々に音の間隔が狭くなっていっている気が……


──チリーン……


 ソファーから立ち上がりテーブルの上を見る。

 テーブルの上にあるのはさっき俺が置いたケータイだけのはずだが。


──チリーン


 その時、はっきりとした鈴の音が俺の耳に届く。

 見ると俺のケータイにつけた覚えの無い〝黒い鈴〟がついていた。



「なんだ? この鈴?」



 そんなことを呟きながら俺はケータイを手に取る。

 瞬間、()()()()()()()()()()



「なっ?!」



 慌てて窓の外を見て俺は愕然とした。

 何故なら鳥がその場で停止していたからだ。

 じ、時間が止まっているのか……?



「──ッ?!」



 愕然としていると黒い光が俺を包み込んだ。



(──わ………んじ、……じは……、な……その…にかく………といて……らを……え)



 なん……だ……?

 途切れ途切れの言葉を耳に俺の意識は途絶えていった。



──────────



────────



──────



────



────???



「ん、んん……」



 気がつくと風に頬を撫でられ俺は声を漏らした。

 目を閉じているから分からないがおそらく頬に当たるこれは土の感触。

 俺はゆっくりと目を開けた。



「は……?」



 広がる光景に俺は思わず言葉を漏らす。

 何故なら眼前に広がる光景が昨日見た夢の部屋に負けないほどに異彩を放っていたからだ。

 まず最初に目につくのが眼下に広がる()()、そして次に目につくのは上空に広がる()()

 これは別に俺が崖っぷちにいるとか、空を見上げているとかではない。

 ()()()()()()()()なのだ。



「どこなんだよ、ここは……」



 あまりの事態に呟くが答えてくれる人間はいなかった。

 とにかくいつまでも座っているわけにはいかないな。

 そう考えて俺は立ち上がり、再度辺りを見回す。



「……白い石ころにやや灰色の雲。滅茶苦茶だな」



 ふぅ、と息を吐き俺は身体を伸ばす。

 不意にいきなり大きな影が覆ってきた。

 なんだ……?



「やぁやぁ、こんなところで人間に出会うなんて珍しいねぇ。どうしたんだい?」



 話しかけてきた影の正体を確認し、俺はしばし唖然とする。

 何故なら、赤いマントに白い手袋、そして人間なら顔の位置に仮面が浮かんでいたからだ。

 仮面の右目を囲うように星、左目の下に滴の模様が描かれている。

 言うなれば、ピエロのような仮面だ。



「……お前は、何だ?」

「んぃ? 僕に興味があるのかな? 会ったばかりでそんなことを聞かれるなんて私も困っちゃうかなぁ♪ でもでも、俺も君には興味があるからおあいこかな、かな?」



 俺の問いに仮面は一人称をコロコロと変えながら楽しそうに答える。

 何なんだ、こいつは……



「ふふふ、それでは君の疑問に答えまっしょい! 僕の名前は『J()O()K()E()R()』。このはざの世界『ヴォルヘイム』の住人さ♪」

「狭間の……世界……?」

「そそ、狭間、あいだすききょうかいせんじょう……etc。色々と呼ばれているよ。それで君の名前は何て言うのかな?」



 俺が呟くとJOKERは様々な呼び名をあげてきた。

 仮面の口元に手袋をあて笑うような声音で仮面、JOKERは問うてくる。



「狗守刻夜だ。教えてくれ、俺はどうしてここにいる」

「刻夜だね。そうだなぁ、この世界は基本的に俺と〝彼ら〟しか住んでいないんだ。それでもたまに〝素質のある人間〟が隙間に巻き込まれて来るみたいだけど。たぶん君のいた世界では〝神隠し〟とかそんな感じでニュースになってるはずだよ」



 名前を答え、俺はJOKERに尋ねる。

 するとJOKERは顎の位置に手袋を移動させ答えた。

 〝彼ら〟……?



「っと、どうやら〝彼ら〟も刻夜に気づいたみたいだね。これから君は1つの選択を迫られる」

「選択……?」

「うん。〝生きる〟か〝死ぬ〟か、のね。さぁ、来たよ……」



 不意にJOKERは手を開いて驚いたように言う。

 そしてJOKERは俺の背後を指差した。

 そこにいたのはこちらに向かって走ってくる3体の化け物。

 人のようでありながら異常とも言える大きさの口。

 犬や狐などの動物のような四肢。

 そして極めつけは、腐敗でもしているかのようなそのにおい。

 まだだいぶ離れていると言うのにその姿が分かり、臭いが俺の鼻を刺激していた。



「なん……だよ、ありゃあ……」

「ふむ、『ユグワーナ』だね。〝彼ら〟、『オチカミ』の中でも比較的弱い部類だよ」



 両の手袋の親指と人差し指で四角い窓を作り、そこから化け物、オチカミを見てJOKERは答えた。

 そんなことをしている間にもオチカミは距離を縮めている。



「さて、このまま立っているだけじゃあ君はオチカミに喰い殺されてしまうからね。だからヒントをあげよう。〝仮面を被る〟んだ」

「な……に……?」



 そう言うと同時にJOKERは空へ飛び上がる。

 仮面を被る?!

 どう言う意味だ?!

 俺は辺りを見回すがそんなものはどこにもない。

 そして、3つの巨大な影が俺を覆った。



「「「ガァァアアァアァアアッ!!」」」



 迫り来るのは巨大な人のような口。

 目前に迫る死の恐怖に俺の足は動かず、立ち竦

すく

んでいた。

 嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!

 俺は──



「──死にたくない!」



 俺がそう叫ぶのと同時に全身から蒼い炎が吹き出す。

 それに触れた瞬間、オチカミは素早く後退していった。

 同時に頭に言葉が響いてくる。



(我は汝、汝は我)



 蒼い炎の勢いが増し、俺を中心として円がえがかれていく。

 不思議と熱さは感じない。



(汝、その身に覚悟を纏いて)



 円の内部に複雑な紋様が浮かび上がっていく。

 そして、俺の目の前に1本の短剣が現れた。

 俺は短剣に手を伸ばす。

 俺の手が触れた瞬間、短剣はてのひらに溶けるように吸い込まれていった。

 直後、俺の右手に仮面が現れる。



(力を振るえ!)



 その言葉と同時に俺は仮面をゆっくりと顔の前に持っていく。

 すると仮面から1つの名前が流れ込んで来た。



「カ」



 蒼い炎の円が輝きを増していく。



「ム」



 周囲のオチカミはこちらを睨み付けながら今か今かと待ち構えているようだ。



「ナ」



 ここで先程のJOKERの言葉が頭に甦ってきた。

 ここまでの動作に身体がわずかに強張こわばる。

 しかし、それに怖じ気づいてしまってはまさにJOKERの言葉通り死ぬことになってしまう。



「ギ」



 俺が仮面を被ると同時に炎の円はまばゆく輝き俺を包み込んでいく。

 光によって見ることはできないが俺の身体が何かに包まれていっていることが分かる。

 そして、俺は右腕を振るい炎の円を吹き飛ばす。



【『オオカミ』!】



 炎の円の中から現れた俺の姿は人間に似た姿をする別のものだった。

 前が3本の鎖で繋がっている黒のコートをっており、コートの下は黄色の衣服に黒のブーツ。

 背には大太刀、腰には小太刀の二刀。

 そして顔には狗をイメージさせるような仮面を着けていた。



「「「グガァァアアァアァアアッ!!」」」



 炎が消えたことをチャンスと捉えたのかオチカミは一斉に飛びかかってくる。

 それに対して俺は腰の小太刀、『すいげつ』を抜き、構えた。

 そして飛びかかってきたシャドウに向けて水月を突き出す。


────ザシュウッ!



「ギャインッ……」



 短い悲鳴とともにオチカミの内の1体は黒い粒子となって消滅した。

 この様な武器の心得なんてものを俺は微塵も持っていない。

 しかし、仮面から戦い方が流れ込んできて身体が自然に動く。



「「ガァァアアアァアッ!!」」

【くぅっ!】



 水月を突き出した姿勢の俺の身体に残りの2体が左腕と右足に噛みついてきた。

 痛みに俺は短く呻き、水月を地面に落とす。



【離れ、ろ!】



 俺は水月を拾わず、左腕に噛みつくオチカミの口内に右手をねじ込んで引き剥がし、地面に叩きつける。

 さらに続けて、右足をオチカミごと振り抜き、地面に叩きつけたオチカミに右足に噛みつくオチカミをぶつけた。



「「ギャウンッ?!」」

【くっ……】



 ぶつけた衝撃で牙が僅かながら食い込んだ。

 しかしオチカミの方もダメージが大きいらしく右足から離れ、もう1匹を巻き込みながら地面に転がった。



「敵、2体ダウン。チャンスだね」

【燃えろ!】



 上空でオチカミの様子を見ながらJOKERが宣告する。

 それと同時に俺はオチカミに向けて右掌を突き出し叫ぶ。

 直後、俺の右掌から炎が迸りオチカミを包み込んでいく、下級火炎呪文『ホムラ』だ。

 オチカミは炎に焼かれ、悲鳴をあげる暇もないほどにのたうち回る。

 やがて、炎が収まるとオチカミはどちらも黒い粒子となって消滅した。



【はぁ……はぁ……】

「お疲れ様。おめでとう、君は生きる道を選択できた。しかし、これは始まりに過ぎない。何故なら君は〝力〟を知ってしまったのだから……」



 気が緩んで膝をつき、荒い息をする俺にJOKERは拍手をしながら言う。

 そんなJOKERの態度にイラッときた俺は何も言わずに右掌を向ける。



【ホムラ!】



 先ほどと同じように俺の右掌から炎が迸り、JOKERに向かっていく。



「危ない危ない、『ヒサメ』」

【なっ?!】



 JOKERが言いながら指を鳴らすといきなりひょうかいがいくつも現われ放たれる。

 そして氷塊は炎とぶつかり合い互いに消え去っていった。

 相殺した?!



「いきなり何をするんだい?」

【うるさい。いきなり説明もなしにあんなことになったからだ】



 肩を竦めながら尋ねてくるJOKERに俺は水月を拾いながら答える。

 事実、こんなわけの分からない世界に連れて来られていきなり戦闘。

 俺がここまで冷静でいられるのが不思議なくらいだ。



「ふぅむ……。初戦闘に疲れてるみたいだし帰った方が良いみたいだね」

【は? な……にを……】



 JOKERの言葉に意識が徐々に遠退いていく。

 最後に見たのは俺に向かって手を振るJOKERの姿だった。



──────────



────────



──────



────



────星原寮・204号室・狗守刻夜の部屋



「──ッ?!」



 気がつくと俺はケータイを片手に持ちソファーに座っていた。

 ケータイの画面を確認する。

 時間は経っていないな……



「夢、だったのか……?」



 ベッタリと汗で身体に張りつく服に顔を歪めながら俺は呟く。

 これはあのオチカミが近づいてきた時にかいた汗だろうか……



「よ……ぐぅっ?!」



 ソファーから立ち上がろうとすると右足に痛みが走る。

 確か……噛みつかれた位置だったな。

 ズボンをまくり上げて確認してみれば大きな噛み痕が残されていた。

 どうやら夢でもなんでもなく紛れもない現実だったようだ。

 痛みを我慢して立ち上がり、俺は部屋にあるキッチンに立つ。

 星原寮の1階に共同食堂はあるが俺は自炊派だ。

 そして俺は晩御飯の用意に取りかかった。

 あの世界はいったい何なのだろうか……

 そんなことを考えながら。









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