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お色け…?。
部屋に入り、台所に買ってきた物を置き、時計を見て、思い出した。
「時間は6時ちょいすぎ。そろそろ、管理人さん戻ってきたか?」
そんなことを考え、再度101号室へ向かった。
101号室の扉の前につき、呼び鈴を鳴らした。
すると、先ほどとは違い、中から女性の声がした。
「はぁ~い。いまでま~す。」
ガチャリと、ドアノブが回り、扉が開いた。
そこに立っていたのは、黒髪の長い髪、スリムな体に強調された胸の女性。
「あれ?響子さん?」
立っていたのは、ついさっき、守人にスーパーへの道を教えてくれた、守人いわく女神さまだった。
「あれ?守人君だっけ?あらあら。どうしたの?」
あまり驚いた様子ではない響子に、守人が答えた。
「いえ、今日から201号室でお世話になるので、管理人さんに御挨拶をと思いまして。」
「あらあら。守人君がそうだったんだね。私が、管理人の神原響子です。よろしくお願いしますね。」
「いえいえ。こちらこそ!!響子さんが管理人で嬉しいです。今日はありがとうございました。」
「では、今日からよろしくお願いしますね、守人君。何かあったら何でも聞いてくださいね。」
挨拶も終盤に差し掛かったところで、ジリリリン!!!と、響子の部屋から電話が鳴った。
「あら。電話だわ。ごめんなさいね。また何かあったら、言ってください。」
そう言って、響子はニコリとお辞儀し、部屋へ戻って行った。
響子にお辞儀をし、自室へ戻る守人。
自室の扉の前へ着き、ふと、お隣の202号室を確認する。
「隣だし、一応挨拶しておくか。」
202号室の扉の前へ移動し、ピーンポーンと、呼び鈴を鳴らすが、人が出てくる気配がない。
何気なく表札を確認するが、表札には、何も書いていなかった。
「…ん?空き部屋なのか?まぁ~いいか。」
守人は、自室へ戻り、料理の支度を始めた。
「まずは、米だな。」
自炊を始めた守人の手際は、幼いころからやっていただけあって、目を見張るものがある。
「ふぅ~。後は、米が炊けるまで待つか。」
料理も、残すところ、お米が炊けるのを待つのみとなり、一休みにベットへと寝転がる守人。
「今日は、色々とありすぎて、疲れたなぁ…」
等と、今日の出来事を思い返しているうちに、相当疲れていたのか、寝入ってしまった。
「んん…。」
1時間程経過し、目を覚ます守人。
「…あぁ。寝ちゃってたんだな…。」
目をこすりながら、意味もなく周りを見渡す守人の視界に、怪しい扉が目に入る。
その、怪しい扉に魅かれるようにじっと見つめる守人。
さっきまでは、色々とやることがあり、あまり気に留めていなかったが、何故か、今更になって、ものすごく気になっている。
「…あの先に何があるんだ?」
▼▼▼守人心の叫び▼▼▼
この部屋の造り上、この扉の先には、部屋は無い。正確には、壁一枚はさんだ向こうは、202号室となっている。
普通に考えれば、202号室へと繋がる扉だ。だが、しかし、201号室から、202号室へ入る扉が何故作られているのか。
もしかしたら、202号室へ繋がっているのではなく、別世界等に繋がる、面白扉なのかもしれない。
いや、しかし、そんなはずが、あるわけがない。知っている。この世界は、そんな面白く作られていない。
でも、0.01%の期待が、俺のこの気持ちをかきたてる…。
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そんな、アホなことを心の中で叫んでいた守人、ふと我に返り気がつくと、怪しい扉のドアノブを回していた。
「ここまで来たんだ。開けるしかない!!」
わけのわからない事を言いながら、ガチャリと扉を開けた守人の眼に飛び込んできたのは…。
202号室だった…。正確には、202号室に居る紗綾だ。さらに、細かく言うと、タオルで頭を拭いている、素っ裸の紗綾だった。
紗綾も、扉の音に気付き、視界に守人が入っている。
見つめあう事、数秒…
「動け、動け、動け、動け…ここで動かなきゃ……死。だから、動いてよ!!!!」
心で叫ぶ守人の声に反応するように、紗綾が、部屋の奥へと消えていく…。
「…」
まだ、体が動かない守人。
部屋の奥へと消えた紗綾が、体にタオルを巻き、守人の前へと戻ってきた。何故か、ものすごい笑顔だった。
「…あれ?怒ってない…。え?世界って、実はこんなに優しかったのか…」
動転しているせいか、全くわけのわからない事を考え始めた守人だったが、ある物を見て、現実に引き戻される。
守人の視界には、ものすごい力で握りしめられた…木刀がそこにはあった…。
視線を紗綾に向け直すと、さっきまでの笑顔が豹変し、ものすごい形相で、こちらを睨んでいた。
「世界の…バカ野郎。」
守人が、そう思った瞬間
「大丈夫。死なない程度に殺してあげる!!」
そう言いながら、紗綾は、守人の顔面目がけて、突きを放つ。
守人の顔面に突き刺さる寸前で、我に返った守人が、急いで扉を閉めたその瞬間
バゴォォ!!!
ものすごい音と、共に、扉から木刀が突きぬけていた!!!
「いや、紗綾さん。これは、事故です。ちょっとした事故なんです。」
大声で、弁解する守人に、怒りに震えた紗綾の声が返ってきた。
「あぁ。大丈夫よ。事故事故。すべて事故。私のは、は、はだ、かを見られた事も…ここでお前が流血するのも、すべて事故よ。安心して…開けろ!!!」
「紗綾さん…。それは、事件です。」
言い返す守人だが、怒り狂っている紗綾にはもう届いていないようで、ダァンダァン!!と扉を叩く…いや、殴る音が聞こえる。
ここまで来ると、ホラーだ。
背中で、扉を抑えている守人の脇腹の数センチずれた部分に、木刀が突きぬける。
「チッ。外れたわね。次は…ブチ抜く…!!!」
「ひぃぃ!!!」
っと守人が叫んだ瞬間、201号室の正規の扉が開く音がし、女性の声が聞こえた。
ボソボソと女性が、何を話しているかわからないが、紗綾が何かを言い返している声は聞こえた。
「…」
「違うの。あいつが、私のは、は、はだ、かを覗いたの!!」
「…」
「これは、制裁なのよ…」
「…」
「いや、だか…」
「…」
「はい。」
「…」
「はい。ごめんなさい。」
何の会話がされたのかはサッパリだが、紗綾の怒りは収まったようだ。
「誰が、あの暴力女を収めたのだ?」
守人が疑問に思っていると、女性が扉越しに守人に話しかけた。
「守人君。ごめんなさいね。開けれるかしら?」
紗綾ではない、聞き覚えのある声に守人が反応した。
「…きょ、響子さん?」
まだ、紗綾が襲いかかってくることを警戒し、扉越しに聞き返す、守人。
「そうです。響子です。さーやちゃんには、お話したので、今は落ち着いています。開けれますか?」
紗綾が、落ち着いた事を聞き、警戒心を解いたのか、守人が、扉を開けると、響子が立っていた。
その隣には、守人を睨みつける紗綾がいた。
響子は、申し訳なさそうに、守人にお詫びを言った。
「ごめんなさいね。この扉のことを言うのをすっかり忘れていて…。」
謝る響子を否定するように、守人が言った。
「いえ。こっちこそ、修理中の紙が貼ってあったのに、興味半分で開けてしまい、ごめんなさい。」
「ふんっ。わざとだろ。わ・ざ・と!!」
睨みつけている紗綾が口を挟むように、守人を威嚇する。
「さーやちゃん。」
低めの声で、紗綾を冷たい目で見る響子に反応するように、しゅんと、大人しくなった紗綾。
「きっと、あの二人に何かあったのだろう…。」
等と考えている守人に、改め直すように、響子が、この扉ができた理由を話し始めた。
「この、201号室と、202号室は、さーやちゃんのお部屋だったの。」
「一人で、二部屋ですか…?」
「うん。実際には、ずっと前に住んでいた人が、部屋の壁壊して、勝手に二部屋使っていたことが事の発端なんだけど…。」
「壁を壊す…なるほど。似た様な人が住んでいたんですね…」
誰かさんを、意識するように守人が言うと、その誰かさんに、思いが通じたのか、守人を物凄く睨みつける紗綾。
すると、話を戻すように、響子が話を続ける。
「まぁ。昔のことは置いといて、守人君が入ることになって、さーやちゃんに、部屋を分けてもらったの。」
そう言って、紗綾に、視線を向ける響子。
「で、壁を埋めようと思ったのだけど、間に合わなかったってわけです。」
言い終わると、ほほ笑みながら、守人に視線を向ける響子。
「なるほど。つまり、事故。そういうことですね。納得しました。僕も、紗綾も納得しました。今後、気をつけます。」
無理やり、事故と言うことで結論付けようとする守人に、紗綾が、口を出す。
「おい。人のは、は、はだ、か見ておいて、事故で済ます…。無い。絶対無い。響子、後生よ。見逃して。ここで起きた事件は事故として!!」
俯いていた紗綾が、顔を守人に向けカッっと睨みつけながら言った。
すると、パンッっと響子が手を叩き「はい。」っと声を出した。
「喧嘩は終わり。今回は私に落ち度があったのよさーやちゃん。守人君は悪くないの。ねっ!だから…」
にこやかにほほ笑み、一瞬言葉をため、響子は聞こえるか聞こえないか位の低い声で、話を続ける。
「さーやちゃん。喧嘩は、だめよ!!」
ブルブルと、震える紗綾は緊張した声で「はい!!」っと答えた。
その答えに満足したのか、「では、二人とも、お休みなさい。」と、普段のほほ笑んだ顔でルンルンと、部屋を出て行った。
部屋に残された、二人にしばしの沈黙が流れた。
『グゥ~!!』っと気の抜けた音で、二人の沈黙が破られた。
その音の主とは
「…飯、食うか?」
音の主に気付いたのか、守人が紗綾に話しかける。
「…くう。」
俯き頬を赤らめながら、恥ずかしそうに、答える紗綾だった。
テーブルの上に並ぶ、食事。
ご飯と、味噌汁が、2つずつに、野菜炒めが、大皿に盛らている。
「さっ!遠慮しないでくれ。」
先ほどの罪滅ぼしかのように、ご飯を進める守人にたいし、ご飯にありつけたことで、若干怒りが静まった紗綾が言った。
「ふん。これで許すと思うなよ。」
「はい。」と、ため息混じりに、守人が返事をする。
「「いただきます。」」
そう言って、二人は食事を始めた。
しばらくして、守人が、何気なく、紗綾に話しかける。
「そういや、明日から振り分け試験だな。」
「そうよ。明日の試験は、下級スタートのチャンスなんだから、あんた、とちんじゃないわよ。」
学園には、クラスがあり、上級クラス>中級クラス>下級クラス>初級クラスといった順番がある。
また、各クラスの中でも、A>B>C>D>Eと、順位分けされる。
もちろん、順位が上なほど、色々な面で、優遇される。
明日の振り分け試験に合格することで、下級クラスから学園生活をスタートすることができる。
「まぁ。下級の方が、初級よりも優遇されるしな。」
「それだけじゃない。…私は、私には…」
何かを思い出すように話し初めたが、途中で、黙りこんでしまった紗綾。
しばらくすると
「ごちそうさま。おいしかったわ。寝る。」
そう言った、紗綾の食器はご飯粒ひとつ残らず空となっていた。
その後も、紗綾は無言のまま、むくりと立ち上がり、202号室へ繋がる扉の前へ向かう。
どうしたのかと、不思議そうに紗綾を見る守人に、紗綾は、振り返り、守人に言った。
「今日は、ありがとう。」
何かを悟ったように、守人は紗綾に答えた。
「あぁ。それから、振り分け試験、合格しような。」
「当たり前でしょ。」
そう言い残し、紗綾は自室へと戻って行った。
後かたずけを済まし、風呂に入り、ようやく床に着く守人は、考えていた。
「今日は、疲れたな…。」
訂正。何も考えていなかった。
明日は、振り分け試験。
お色気…でしたかね。
まぁ~裸なので、お色気ですか(笑)
何とか、一章完結です。
次章からは、学園生活が始まります。