1
アップ方法を改定しました。
ここではない、どこか。
今ではない、いつか。
この物語は、そんな世界で暮らす、一人の少年と、一人の少女の物語。
そんな物語の始まりは、学園都市外れにある、古い児童福祉施設から始まる。
「ん~。よく寝た。」
窓の外の太陽を眩しそうに見つめながら、少年が目覚めた。
「今日は、洗濯日和か。」
よっと、ベットから出て、服を着替える。
洗面所に行き、顔を洗い、鏡を見る。
そこには、寝癖ついたサラサラの黒髪に、幼い顔立ちの少年がいた。
少年の名は、御剣 守人。
物心ついたときから、この児童福祉施設で、暮らしている少年だ。
顔を洗い、なかなか戻らなかった寝癖との格闘を何とか制した守人は、洗濯機に向かう。
「今日で、この洗濯機ともお別れだな…。ありがとう…洗濯機ちゃん」
などと、少し涙目でぶつぶつ言いながら、子供の下着、洋服等の洗濯物を洗濯機に入れていき、洗濯開始のボタンを押す。
「洗濯物はとりあえずOKだな。っと、次は朝飯か。」
次に台所へ向かった。
守人は、児童福祉の最年長であり、家事全般を施設長と分担し行っている。
守人が6歳のときに、施設長が過労で倒れたことがあった。
それから、守人は家事を手伝うようになり、今では、ベテラン級の家事レベルになったのだ。
「…守人お兄ちゃん。もう起きてたの?」
眠そうな目をこすりながら、少女が守人に声をかけた。
「おぉ。ゆり。早いな。飯ができたら、起こしてやるから、もう少し寝てていいぞ。」
「ううん。私も手伝よ。着替えてくるからちょっと待っててね。」
少女の名は、ゆり。守人より3歳ほど年下の、施設一番のしっかり者少女だ。
守人や、施設長の家事の手伝いをしてくれている。
「おぅ。そんなに急がなくっていいからな。」
バタバタと、急いで自室に戻っていくゆりに、声をかける守人。
少しすると、着替えを終えたゆりが、台所へ戻ってきた。
「お待たせ。」
相当あわてていたのか、寝癖でボサボサになっている長い髪の毛を、ゴムで強引に結んでいる。
「あぁ…。急いでくれて…ありがとな。」
「いいよ。そんなことより、何すればいいかな?」
二人は、料理の支度を続けた。
「さて、朝飯の準備はOKだな。ゆり、みんなを起こしてきてくれ。」
「わかった。」
そう言って、ゆりは、各部屋へ目覚ましコールをしに行った。
「さて、洗濯物でも干しとくか。」
先ほどの洗濯物を洗濯機から取り出し、庭に出ると、桜がきれいに咲いていた。
温かな風が吹き、桜の花弁がひらひらと舞っている。
庭に設置してある物干し竿に、器用に洗濯物を干していく。
その姿は、10年母親をやっている人にも引けを取らない貫禄がにじみ出ていた。
洗濯物を干していると、後ろから、声がした。
「今日で、その姿が見えなくなるとさびしいね。」
その声に振り返る守人
「あぁ。ばーちゃん。起きたのか。明日からは、ゆりが、俺の後を引き継いでくれるさ。」
「あの子は、あんたに似て、面倒見もいいからね…。」
少しの沈黙が流れ、施設長が、守人に尋ねた。
「あんた、ここ(施設)に気を使って無いだろうね。」
「え?」
守人は少し考えたふりをして、答えた。
「あぁ。俺が学園都市に行くことか?別に気を使ってることは無いよ。俺の力を世界に役立てたいだけだ。」
「なら、いいんだけどね。いつでも帰ってきていいんだよ。ここは、あんたの家なんだから。」
「あぁ。大丈夫。」
そんな会話をしていると、子供達が、やってきた。
「守人にいちゃん。早くご飯食べよ。先生も早く。」
「先生と一緒に先に行っててくれ。これ干したらすぐ行くから。」
「うん!」
元気に返事をして、子供たちは、施設長の腕を引いて、リビングに向かっていった。
みんなで、最後の朝食を済ませ、守人は荷物が入った大きなバックを肩にかけ、玄関へ向かった。
「ばーちゃん。みんな、ちょっと行ってくるな。」
ゆりをはじめ、子供たち全員、涙をこらえ、無理やり笑っている。
みんなを代表するように、施設長が守人に話した。
「気をつけて行ってきなよ。何かあったらすぐに戻ってきなさい。それから、それから」
涙をこらえていた先生が、こらえきれずに、泣き始めてしまった。
先生が泣いたことで、今まで我慢していた子供たちも一斉に泣き始めた。
「おい、おい。赤紙届いて戦争に行くわけじゃないんだから。大丈夫。心配するな。」
守人は、そう言うと、ゆりに向かって言った。
「ゆり、よろしくな。お前がいれば、大丈夫だ。」
「う…。うん。」
ゆりは、声にならない声で、返事をする。
そして、守人は、施設長に向かって言った。
「ばーちゃん。今まで、育ててくれてありがとう。感謝している。ここは俺の家だ。何かあったら、すぐ戻ってくる。だから…」
泣きそうな自分に活を入れ、最後に守人は元気いっぱいに言った。
「行ってきます!!」
そう言って、10年以上住んだ施設を出て行った。
読みやすいよう、章だてを変えました。
一章は、前回アップした内容と一緒です。