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大嫌い

作者: 黒カミ
掲載日:2012/12/24

 私はあいつが嫌いだ。いつも笑って、クラスの中心にいて、男女問わず皆に好かれてるあいつが。頭脳明晰スポーツ万能おまけにルックスも良くてモテモテのあいつが私は大嫌いだ。

 そんな事が頭の中でこだましていたのでの目覚めは最悪だった。

「まだ早いけど、二度寝して遅刻とか恥ずかしいから起きておこうかな」

寝ぼけた声で独り言を呟きながら、今日はまだ作動していない目覚まし時計のアラーム機能を切り、智香は筋トレグッズだらけの部屋で学校へ行く支度を始めた。

「あら、智香ちゃん今日は早いのね」

声をかけてきたのは母だった。手には新聞を持っている。おそらく父の新聞を取りに行っていたのだろう。

「もう朝ごはんできてるから父さんと一緒に食べなさい」

智香がリビングのドアを開けると、そこには母から渡された新聞を読みながら味噌汁をすする父とテーブルに広げられた二人分の朝食があった。

「母さんもしかして、いつもこの時間から朝ごはん出してるの?」

「ええそうよ。だってまとめて出しといた方が楽だもの」

少し嫌そうな顔をした智香に対し、母は笑顔で怠け者宣言をした。朝ごはんを出してもらうだけで感謝すべきだろうから、明日からはこれまでより早く起きる事を決意した智香であった。


父や母と仲が悪いわけではなかった。むしろご近所さんからは「仲のいい家族ですね」とよく言われる。しかし、今日は会話が続かなかった。相談したい事もあったのでそれを話題にしてもよかったのだが、智香にそれを口にする勇気などなかった。もちろん親の事も考えてだ。さすがに乗りたいと思う親は少ないだろう。娘の恋愛相談には……。

 いつもより早く家を出て考え事をしていた智香は偶然にも親友の由月ゆづきと会った。

「あんたすごいね。いつもこんな時間なんだ」

素直に驚く智香に対し、由月は少しふざけて返した。

「あらあら、智香がこんな時間に登校するなんて。今日は確か予報では晴れって言ってたけど、雪でも降りそうね」

 クスクス笑いながらそう言う由月を少しふてくされた顔で智香は見つめた。

「浮かない顔してるけど何かあったの?」

由月が聞くと智香はふくれっ面を一転して赤らめた。

「もうそうそろ二学期も終わるじゃん。そしたら、その……えっとね」

「冬休みたくと会えなくて寂しいんだね」

口ごもる智香を見て由月はその場で言い放った。智香は急いで由月の口を塞いだが既にそれは振動となり、大気を揺らして由月の口から出てしまっていた。

「ちょっとこんな所でそんな大声で言わなくても」

智香の頬は桃色に染まっていた。もちろん寒さの所為ではなく、恥じらいである。

「ま、そんなに頬を赤らめてかわいいこと。でも、今のははっきりしない智香が悪いと思うわよ」

智香は反論を諦めた。その代わり、親には言えない相談に乗ってもらうことにした。

「由月、どうすればいいのかな?」

本気で困ってる友人の顔を見て、由月はほんの少しだけ表情を引き締める。

「もう告白してしまえば楽じゃないの? 私が思うに拓也も貴方のこと好きよ」

「絶対ない! 初めて会った日から嫌われてるに決まってる」

智香の発言に由月も納得した顔を見せた。


 それは、智香が小学五年生の時だった。智香は由月と遊ぶ約束をした。だが当日待ち合わせ場所で待っているとオロオロしながら由月が近づいてきた。

「もう一人来るはずなんだけど……。道に迷ってるのかな? 探すの手伝って」

智香は戸惑いながらも、探すのを手伝った。数分すると、智香と由月もはぐれてしまった《》。『もう一人』の容姿を自分が知るわけがなく、とにかく由月を探すことにした。歩きながら携帯電話で由月に連絡を取ろうとした、その時だった。声が聞こえた。その方向を目指すと、路地裏で男子高校生三人が男子小学生と思われる少年一人を囲んでいた。

「おいおまえ、さっきから言ってんだろ。有り金全部出したら許してやるって」

 智香は面倒と思ったものの、同じ歳ぐらいに見えるその男子が少々気の毒に思えたので、首を突っ込む事にした。

「おいそこのデカイ馬鹿共。そこのチビを解放しろ」

勿論男達は智香を見て笑った。大いに笑った。それに対し智香は少々腹を立てた。

「お譲ちゃん、弱い奴は強い奴に従うのがこの世の掟なんだぜ。譲ちゃんは今回だけ見逃してやるからさっさと行きな」

高校生の言った言葉によって智香は我慢ならなくなった。幸い、広かったのでその場で叩きのめすことに決定した。

「ならお前らはは私に従うべきだ。弱い奴は強い奴に従うのがこの世の掟なんだろ? 実力の違いも分からない雑魚だとしたら言っても分からないだろうから、今回は特別に私に殴りかかってくる事を許可しよう。そして自分の弱さを知れ、恥じろ」

 男共は少々頭にきたが、所詮は小学生女子が言ってる事だ。少し締めて終わりにするつもりだった。だが一人が飛び出してしまった。

男が迫ってくるが、智香はいたって冷静だった。振り下ろされる拳をかわすと、男の懐に入り、みぞおちにを殴る。さらに男が痛みのあまり体を前のめりにさせたため下りてきた顎に掌底を一発。

地面に倒れこむ男を見て、他の男も後に引けなくなった。三人の高校生が一人の女子小学生になめられてはたまらなかった。

「……ッテメ! ブッ潰す!」

一人が動くと、もう一人もつられて動いた。つまり、二人いっぺんに殴りかかってきたのだ。しかし、一人はさっきの男と同じで冷静な判断が出来てずにただ突っ込んできただけ。もう一人はまともに心の準備すらせずに突っ込んできた。論外だ。智香は一歩踏み込んだ。すると冷静な判断ができてない方の男はそのまま突っ込んでくるが、もう一人は最初の男の結果を見た恐怖から少し遅れた。これで、二人を離した智香は先に突っ込んできた男に一瞬で近づき、胸部を前蹴りした。双方が突っ込みながらのいきなりの前蹴りだったのだ、男はあっさりと尻餅をついた。だが、男は盛まだ戦闘可能な状態ではあった。

 そこへ、遅れてもう一人の男が来た。さすがにその男を振り回す広さは路地には無かったので、智香は取りあえず相手の膝の横を蹴った。すると男はバランスを崩して倒れてきた。少し下がってから、智香は相手の顎を蹴り上げた。男は脳が揺れて気を失い、立ち上がろうとしていた男の上に落ちる。これで、全員が気を失った。

 智香は男子高校生の生死の確認と状態の確認を行った。手加減したおかげで、全員が生存していたので、簡単な処置をしてから、からまれてた子に声をかけた。

「大丈夫か? 怪我はして無いか?」

 智香の心配が無駄だと言うかのように、少年は笑って見せた。

「助けてくれてありがとう」

「何をしたかは聞かんが、からまれんように気をつけろ。じゃあな」

 智香が立ち去ろうとした時だった。少年が再び声をかけてきた。

「君って……」

その言葉を聞いただけで智香はガッカリする。

(どうせ「君ってカッコイイね」とかだろ。性別間違ってるんだよ。自分の話す言葉にはもっと責任持てよ。まぁいつもの事だ。仕方が無いだろ、男子高校生三人を手玉に取ったのだから)

 しかし、少年が口にしたのは智香が思っていた言葉とは違っていた。

「君って可愛いね」

その言葉は智香が最も言われたい言葉であった。だがいきなりその様な言葉を発する少年に智香は動揺を隠せないでいた。そして事件は起きた。智香の人生最大の失敗といってもいいかもしれない。

「お……お前は何を言ってるのだ?」

 動揺しながらどうにか心の整理、及び話の整理をしようとした。それは裏目に出た。

「僕は『君って可愛いね』って言ったんだよ。何か気に触ったなら謝るよごめ……」

嬉しさと恥ずかしさが智香の中で渦巻いた。そして、恥ずかしさから逃げるために、智香は少年のこめかみに掌底を見舞ってしまったのだ。勿論少年は気を失った。

 そこへタイミングが良いのか悪いの分からないが、由月が来た。

「盛大にやったのね……って拓也じゃない! もしかして殴ったの?」

智香は小さく頷いた。

「ま、しょうがないわね。殺してないだけまだましね」


 「あの出会い方はちょっと……」

 由月に言われ再び智香は落ち込んだ。

「だってあんな事言われたの初めてだったんだもん。いきなりあんな事言うなんて。それに話し方も可愛げがない! 今すぐ殴りたい」

智香の顔には少々の怒りと昔の事を懐かしむ笑顔が混ざっていた。

昔話をしていたらあっという間に学校に着いた。二人は上履きに履き替え、教室へむかった。人もいなかったので、智香の恋愛についての話が再び始まる。

「あれから智香の性格が変わったのが驚きだったわ。あれだけ智香に影響力があるのはあの子だからね。絶対勝ちとらなくちゃ」

それはそうだと頷きながらも、智香の表情は晴れないでいる

「でもどうしたらいいのか分からないんだよ。それにあいつすっごいモテるじゃん。皆に勝てる気がしないんだよね」

智香はそれを言うと、力なく天井を見上げ、そのまま斜め前にある拓也の机を見た。拓也は由月の幼馴染なので、よく遊ぶ。触れようと思えば触れられる近い。それでも、手を出しても届きそうにない遠い存在。智香はそう感じていた。

「智香、クリスマスに誘うってのはどうかな? イヴはクラスでカラオケ行くけど、クリスマスは空いてるでしょ。たしか彼女まだいないし」

事も無げに言う由月だが、智香にはやはり高いハードルである。

「そんなの無理よ。第一、皆の前では無理だし、呼び出すのも無理」

うつむいて悲しい顔をする智香を見ていると、由月は手助けしたい気持ちになるのだ。母性本能をくすぐられるとでも言えばいいのだろう。

「じゃあ、私がどうにかしてあげる。放課後に場所は…………そうね校舎裏で」

由月は智香に断る暇をあたえず、決めてしまった。断ろうとしても、教室に人が増えてきたので、最初の一音を出すことも出来なかったのであった。智香が諦めて席に戻ろうとしたとき、教室にある男が入ってきた。智香の思い続けている少年。拓也だ。

 智香と拓也の目が合う。不自然なほど自然と智香の心拍数が跳ね上がる。自分の拍動の音が聞こえる。拓也に聞こえないか心配になる智香だが、それは無駄な心配である。それより、いきなりだったため心の準備が出来ておらず、頬を赤めたのをバレた方が問題となった。人生二度目の失敗を起こす事になる。

 智香の頬の赤みに気が付いた拓也は心配になって手を額に当てた。

「頬赤いけど熱でもあるのか・ …………そう言うわけでもなさそうだな。よかった」

拓哉が言い終わるとすぐに、智香の拳がみぞおちに炸裂して拓也が膝を床につける。由月はその光景を見て、周りに気付かれない位の小さな溜め息をついた。

 この騒動でこちらに目を向ける人が増えた事に気づいた由月は一時この場を離れる事にした。

「拓也大丈夫? ちょっと保健室行きましょうか。ほら智香、そっちもって。さすがに私に一人で今の拓也を担げる力は無いから」

由月は智香に片方の肩を指差すも、智香はそれを無視した。拓也の前に行った智香は背中に乗せて歩き出した。呆気にとられた由月だったが、我にかえり拓也をおんぶしながら歩く智香に追いかけた。

 追いついてから二人の表情を見ると、智香は緊張し過ぎて凍っていたが、拓也は苦しいのと嬉しい表情の中間だった。それを見た由月は、両思いなのだから早くくっついてくれと思う。そんな事を思っていても、もちろん口にはしない。お互いから恋の相談をされていてもそれを教えることはない。人の恋に直接的に干渉しないのが由月の方針である。

 保健室に向かう三人に会話はなかった。ただただ、保健室に向かうだけだった。


 ーー一時限目、国語。拓也は休んだ。文法を学んだ。国語教師のズラが外れて、はげがばれた。前から皆が知っていたことを教師が知ることになり、暗い雰囲気になった。


 ーー二時限目、数学。拓也は授業に出られた。連立方程式の利用を学んだ。拓也が心配で智香は上の空だった。話を聞いてなかったので、説教をされた。


 ーー三時限目、体育。球技をした。選択種目で、智香と由月それから拓也もバスケットボールを選択した。智香がこけてしまった。拓也が手をのばして起きるのを手伝おうとした。立ち上がった瞬間に智香がよろつき、拓也の胸へ飛び込んだ。拓也の顎に掌底が命中する。拓也の意識が失われる。智香は、一日に二度も人生の失敗をするという新記録を更新した。


 ーー四時限目、理科。化学を学ぶ。特筆すべき事件はとくに起こらなかった。しいて言うならば、実験をミスし教師が病院送りになったぐらいである。


 放課後になった。由月が拓也を呼び出す時間は無かった。拓也が数学の授業以外は保健室で寝ていたためである。罪悪感を持ちながら智香は保健室に行った。由月は先に帰るそうだ。

「失礼します。拓也まだ寝てる?」

一礼してから保健室に入ったが、拓也以外は誰もいなかった。

「いや、もう起きてる。わざわざ来てくれたんだ? ごめんね」

(いやいやいや。保健室にいる原因私だし。謝られましても)

そうは思うも、嫌われたくなかったので口には出来なかった。誰もいなくて本当に静かだった。話が続かない。どうしようか悩んでいた智香だったが、今日の由月との会話を思い出した。何か間違ってる気もしたが、智香は決心した。

「あのさ、拓也。その……クリスマス……」

緊張しすぎて途切れ途切れとしか言葉が出てこない。しかし、拓也はちゃんと聞いていた。

(クリスマスだけで私は満足できるの?)

智香も自分の考えに揺らぎが生じ始めた。できることなら、ずっと一緒にいたい。それが本音だった。ずっと伝える勇気が無かったが、思い切って言うことにした。悔いないために。

「好きなの! 私と付き合って」

凄く恥ずかしかった。穴を掘って入りたいほどに恥ずかしかった。しかし、拓也の返答はすぐに返ってきた。穴を掘る暇など無かったのだ。

「もちろん。どうせクラスのクリスマスパーティー来るんでしょ? あっちはイヴだけど、クリスマスに二次会やろうかって話になっちゃってさ。そっちにも出てよ。しかし、驚いたな。智香がそんなにクリスマス好きだったなんて聞いたことがなかったから」

拓也は智香の話をきちんと聞いていた。最初から。それゆえの誤解だった。

「え、いやそうじゃなくて」

頑張って拓也の誤解を正そうとした智香だったが、無駄だった。

「イヴだけだと寂しかったけど、クリスマスも智香に会えることになって嬉しいよ。じゃあ、詳しくはメールで伝えようかな」

智香が智也に近づいていく。恥ずかしさ半分怒り半分で智香は拓也のみぞおちに拳をめり込ませた。力をセーブしたとはいえ、拓也にとって痛いのにかわりはない。ベッドの上で転がる拓也をほったらかしにして、智香は保健室を後にした。また記録を更新してしまった智香は、出てすぐ頭を抱えた。

 やっぱり私はあいつが嫌いだ。なんであそこで間違えた解釈をする。なんで私の気持ちに気づいてくれない。そんなあいつが私は大嫌いだ。

 そして、勇気をふりしぼった告白を間違った解釈されてなお、あいつが好きな、『智香に会えることになって嬉しいよ』なんて言われて喜んでいる私が、私は大嫌いだ。

つまらんものを読んでくださってありがとうございました。

ついでといっては何ですが、皆さんは街中で絡まれたら逃げてくださいね。逃げるが勝ちです。愛する人を守るためにも。

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