看病と言えば
少し短いですがアップです。
「作者はこれが書きたかっただけじゃね?」と言われれば否定はしない。というか書きたかっただけです。
何だか良い匂いがしてきて目が覚めた。最初に目が覚めたときより若干、気分がいい気がする。
「目が、覚めましたか?」
視界に二人分の顔が入ってきた。左右から身体を乗り出したらしい。見た事のない顔だ。
「君等は?」
声は相変わらずの掠れ声だった。
「貴方のお世話をします、トロアです」
「同じく、イリナです」
トロアと名乗った彼女はやや赤みのあるブロンドのショートカット。イリナの方はグリーンの肩まである髪が内側にふんわりとカールしている。二人共になかなか可愛い。歳は、十七? くらいかな。
「そうか。聞いてるかも知れないけど、俺はユル。しばらく面倒をかけるけどよろしくな」
「気にしないでください。もし助けられていなかったらそれどころじゃないですから」
「そうですよ。しっかりお世話しますから」
イリナが言うとトロアも続く。良い娘達だ。
「ありがとな」
二人とも俺の言葉に少し眼を細めたようにし、イリナが何か器を取りだした。
「スープがありますが飲みますか?」
いい匂いの正体はスープだったらしい。その香りが唾液をそそる。
「ああ。飲みたい」
俺の答えにイリナがスプーンですくって差し出してくれる。ああ、いい匂いだ。
「っく、ぐぅ」
口にしようと頭を起こすために力を入れたら、激痛が走った。
「動かないでください。……無理しないで」
トロアがそう言い、イリナがスプーンを戻し、少量だけすくってもう一度スプーンを差し出した。
唇にスプーンを付けゆっくりと傾ける。ゆっくりと一滴づつ落ちてくるスープの味と香りが口の中に広がった。乾いた喉がたったそれだけの水分を飲もうと自然と舌がのぞく。しかし、こぼれないようにゆっくりと、少ししか入ってこない。もどかしい。もっと飲みたい。
イリナも俺の気持ちが分かったのか、さっきより少し多めにすくってくれた。が、傾けた時に流れる量が増えたため零れる量も増えた。口元を暖かいスープが流れていく。もったいない。
それでも入る量も増えたので、さっきよりもスープを実感できた。ああ、美味いな。
しかし、胃に入ったスープが空腹感を更に増加させる。食ったら吐くだろうからスープくらいで我慢するしかないけど……。
「……イリナ」
「え? あ」
トロアの声がしたと思ったら手が伸びてきてイリナの手からスープの器が消えた。視線を動かして器の行方を捜そうかと思ったら、器が再びイリナに戻された。何だ? 首があまり動かせないからなにが起きたかよくわからん。
と、思ったら視界にトロアの顔が映った。
「!? !? !? !?」
一瞬だった。トロアがスッと顔を近づけたと思ったら唇に柔らかい物が触れたのだ。
(な、な!?)
キスされた? と思ったら暖かい物が流れ込んできた。
(く、口移し!!)
今までと比べ物にならない量のスープが流れ込んでくる。あまりの驚きでスープを味わうことを忘れた。しかし、飢えた胃と渇いた喉はスープを嚥下して行く。
すべて流し込もうとトロアが舌をスープと共に送り込んでくる。ぬるっとした舌が、嚥下により動く俺の舌と触れる。スープとは違う少し甘さを舌に感じた。
トロアが吸う様にしながら唇を離す。そして。
「しっかり飲めましたか?」
とそんな事を聞いてくる。
「の、飲めました」
思わず敬語で返事をしてしまった。
「良かったです」
流石に恥ずかしいのか顔が赤くなっている。
「助かる、けど……いいの?」
可愛い子からの口移し。突然で驚いたけど、嫌じゃなかったのだろうか。俺はもちろん嬉しいがね。
「平気、では無いですけど……恥ずかしいし。でも嫌じゃありませんから。えと……看病、ですよね?」
眼を逸らしながら言われると……萌える! あ、いや。そうじゃなくて。
「ありがとう」
お礼は大事ですよね。うん。
それはそれとして。
「えと、もう少し飲みたいんだけど……」
今までより多く飲めたけど正直足りない。
「いいですよ」
「え、あの。えと……」
トロアは挙動が少しおかしいイリナから器を取ると、スープを口に含む。……あ。
「少しゆっくり飲ませてくれるかな? まだそんなに早く飲めなくて、ちょっと苦しいから」
そう。意外に飲み込むのに手間取るのだ。あまり多く飲まされると苦しい。体力が落ちてることも関係しているかもだけど。決して長く口付けしていたいからじゃないよ? ホントに。
トロアも了承したようで軽く頷くと器をイリナに返して顔を近づけてくる。器を受け取ったイリアは顔を紅くしながら視線を泳がせ、チラチラとこちらを見ている。
トロアと再び唇を合わせる。さっきより少量ずつ流し込んでくれた。二回目でもあるし、味わう余裕が出てきた。スープの味と……トロアの唇を。
飲み込むときの動作で時々トロアが声をあげるのが非常に、ね。役得、と言うか……いいのかな? とも思うけど。
ゆっくりと流れてくるスープと時折吸うように動くトロアの唇。あー、俺は起きれないけど、もう一人が起きそうだ。
最後のスープとトロアの舌が入ってくる。が、舌が。俺の舌を撫でてそのままスープと俺の舌を吸っていく。……トロアさん?
「ちょ、トロア」
さすがにイリアも口をはさんで来た。
トロアはそのまま俺の中のスープと舌を軽く吸い、お互いの唾液交じりのスープを飲み込んだ。
「あ、すいません。つい」
顔を紅くしながらもじもじとしだした。
「嫌、でしたか?」
トロアの問いに嫌じゃないよ、と答えると嬉しそうに微笑んだ。
何故こうなったし。いや、嬉しいけど。初対面だしさ。
「助けてもらいましたし。その、何故か惹かれます」
「わ、私だって! あ、いや」
トロアの発言にイリアも声を上げる。すぐに照れて黙ってしまったけどね。
どうやら二人とも似たような気持ちらしい。一目惚れか? っていやいや。俺の見た目は女みたいだしなぁ……あ。《テンプテーション》か?
そう言えば、そんなアビリティあったよなぁ。でも俺は求めて無かった、と思う、様な気がしなくも無い、かも知れない。ん~……自信なくなってきたな。心のどこかで求めてたのかも。
でも、やってしまった物は仕方ない。開き直って甘えてしまえ。まだアビリティが原因だと決まったわけじゃないし。と言うか、たまには欲望に忠実でも罰当たらなくね?
ちょっとネタばれかもですが……
王都に行くと急展開になります
「え、いきなり過ぎじゃね?」って感じかもしれません
活動報告にも書いたのですが、ちょっと不安です
なるべく上手くまとめれるように頑張りまするのでこれからもよろしくお願いします。




