満身創痍
相変わらずタイトル適当です。
ついに月一更新になってしまった……。そんな中、待ってくださってありがとうございます。
これから忙しくなっていく時期ですが頑張りまする。
記憶にはある。
ティアを引き摺る男の身体を細切れにした。
キーヴを踏みつける男の足を斬り落としてから殺した。
エルファに顔を寄せる男の首を斬り落とした。
ミコの胸を掴んだ男の腕を斬り落とし、頭を割った。
エリザの服を剥いていた男は全身を薄く斬り、血まみれにして転がしておいた。
他の男達も切刻んで殺したはずだ。
……夢で無ければ。
《ターゲット殲滅、目標達成。アビリティ及びスキルの完全停止》
気が付いたら身体の苦しみに襲われている。今にも死にそうだ。また喉の奥から鉄臭い臭いとともに熱い塊がせり上がってくる。
視界が、廻る……。刀を突き立てて身体を支えているけど手に力が入らなくなって来た。でも、たぶん皆殺しに出来たはずだ。所々、記憶が途切れているので怪しいけど。今まで何であいつ等を殺すことを躊躇っていたのか不思議なくらい清々とした気分だ。
とりあえず、皆は無事のはずだ。これで、死に戻り……しても…………。
目が覚めて最初に見えたのは何時も寝泊りしているテントの天幕だった。キーヴの話しだと最後に泊まった宿で死に戻りのはずだけど。
「とりあえず起きて――――うっ、気持ち悪い」
頭を少し浮かしただけで気持ち悪くなった。視界が廻るぅ~。吐きそうだ。しかもちゃんとしゃべったつもりが、すごい掠れ声だ。
「す、《ステータスオープン》」
とりあえず今の状態を知りたくてステータスを開いてみた。
ユル 人
称号 製造マスター、鬼達の弟子、旅路の開拓者、ドラゴンハンター
状態 失血(ステータス50%低下)、服毒後遺症(ステータス20%低下)
装備 瞬きの双刀、栄光騎士のコート、栄光騎士のインナー、栄光騎士のパンツ、栄光騎士のブーツ、ウェイクカフス、アーティザンリスト、エフォートチェーン
Str 1211 ↓70%Down(363)
Vit 1098 ↓70%Down(329)
Agi 2238 ↓70%Down(671)
Dex 1436 ↓70%Down(430)
Int 499 ↓70%Down(149)
Min 521 ↓70%Down(156)
Atk 2234 ↓70%Down(670)
Def 1551 ↓70%Down(465)
Matk 832 ↓70%Down(250)
Mdef 914 ↓70%Down(274)
うぉおい、マジか。バットステータスじゃんね。ザ・役立たず、ってステータスですね。ありがとうございます。
失血ってのはまぁ分かるけど、服毒後遺症っておい。なになに――――
《服毒後遺症。毒に侵された状態から復帰した時に、毒の侵攻状態によりかかる症状。軽度な毒であればほぼ発症しない。猛毒を受けた時や、毒を受けた状態で長時間経過すると発症しやすい。治療時の毒の侵攻状態により5%、10%、15%、20%のステータス低下が起こる。回復手段は安静のみ。回復にかかる時間も毒の侵攻状態により四段階あり、休み方にも左右される。早い回復には無理せずしっかり休みましょう》
回復方法が安静のみって……しかも俺のステータス低下が20%って重度の症状ですね。回復までも時間がかかって、長い間お荷物ですね、わかります。
あ、いかん。またクラクラしてきた。
「ユル?」
声がした方に顔を向けた。視線の先のテントの入り口にエルファが立っていた。
「気が付いた!? 皆、ユル。ユル起きた!」
エルファは俺を見て驚いた顔をしてその後大声で叫びながら出て行った。頼むから大声止めて……頭だけじゃなくて身体にも響いてくる。
首を動かしたからまたクラクラする。う、は、吐く……。
「う、げぇ……。ぅお……けふ」
し、しんどい……。出てきたのは血が混じった胃液だけ。だるくて口元も拭えない。
「兄さん!」
あ、ミコ来た。ティアも後に立ってるし、エリザもキーヴも皆いるよ。正直今の状態は見られたくないけど、どうにもならんね。
「ミコちゃん、また血が! ユル君大丈夫?」
ティアが慌てて駆け寄ってくる。それにつられて他の皆も寄ってくるけど……。
「ごめん……少し、静かに…………して、くれ」
とりあえず現在の情報を交換したところ、人攫いの集団は壊滅。攫われた人はエルファ達と同じ薬で身動き取れなくされたらしい。複数の解毒剤の使用か《状態回復》でしか治療できなかったらしい。症状としては麻痺だけらしいけど、麻痺治しだけでは回復しないとのこと。スキルも麻痺を治す物では効果が無く、現在はミコだけが覚えている状態異常すべてを回復できる《状態回復》しか効果がないとか。
攫われた人達に村の状況を伝えると、大多数が知り合いのいる町や王都へ行くとのことらしい。その時の会話でここがファラガンと言う国だと分かったそうだ。俺達はミルスの南と西の開拓を目指しているため、王都まで案内してもらう代わりに護衛をすると言う話しになったらしい。
で、問題は俺の方である。
俺の状態異常とステータス低下。回復方法が安静のみと言うことを伝えると皆悩んでいる。
俺がテントの中にいるのも結構苦労した結果だそうだ。
と言うのも、俺が倒れてからミコが解毒と回復をしたのだが、身体を動かす時、下手に負荷をかけると吐血したそうだ。そのため、タンカを作り、四人がかりでゆっくりと移動させ、テントを作り寝かせたらしい。ミコは俺が吐血するたびに回復をしてくれたのだが、辛うじて生きている状態のまま回復しなかったらしい。
そして今は俺が倒れてから丸一日経っているらしい。攫われた人達を早く連れて行きたいが、今まで俺が下手に動かすと吐血、ということを繰り返していたため動けなかったそうで。攫われた人達は気にしないで欲しいと言っているそうだが。
相変わらず俺が動かせないとなるとなかなか困るだろう。
「ちょっと話して来るね」
そう言って、ティアとエリザが出て行った。
「兄さん。失血は食事か輸血くらいしかないですが、こっちで輸血は無理だと思います。だとすると食事なんですが……。食べれますか?」
とミコが聞いてくるが……無理じゃね? 食ったら吐く自信あるよ。
「たぶん無理。食ったら、絶対吐く」
「……やっぱり。スープのような物ではどうです?」
「それなら、少しは」
液体ならなんとかなる気がする。
しかし、今までのやり取り全部が、小声。俺は掠れ声だし、大きな声は響く。なので必然的に耳元口元が近づく。こそばゆいし、いい匂いがするね。堪能したいけどそんな余裕は無い。キーヴは男同士でやるつもりが無いからか最初だけ近寄って話をしたが、すぐに離れていった。……まぁ、どうでもいい話だけどさ。
「ユルさんが動けるまで待ってくれるそうです」
攫われた人達に事情を話しに言ったエリザがそう報告した。
「でもその間に村に戻ったりして荷物を探したいんだって。どうしようか?」
ティアが補足で続ける。
「いいんじゃないの? ユルも動けないんだし、ユルに一人付けておいて残り四人で護衛しながら行くのでどう?」
「一人でユルの護衛と世話するのか? 俺看病とかしたこと無いし、料理あまり上手くないぞ? エルファも料理ダメじゃないか。どうするんだ?」
エルファが同意するがキーヴが問題点を指摘。俺も今の状況でエルファの当たり外れのある物を口にしたく無いぞ。
「兄さんの世話に一人と護衛に一人が必要ですね。でもそうなると村に行く人数を減らさないと護りにくいですよ?」
「でもそれだとこっちに残る人も増えるし、護りにくいんじゃない? ユル君は戦力外だし」
などと話しが進み落ち着いたのが攫われた人の中から二人世話係として手を借り、護衛に一人残る。と言うことになった。俺が何時良くなるかも分からないと言うことを伝えると、村の人達も荷造りも、弔いもしたいのでこっちにも時間が欲しいと言う話しが出たのでしばらくここを拠点に活動する事になったらしい。
とりあえず今はミコは食事の準備。ティアとキーヴが食料調達、エルファとエリザが護衛として残る事になった。攫われた人達も手伝いを申し出てくれたそうだ。
「食事が出来たらまた来ます。兄さんは確り休んでいてください」
そう言って皆テントから出て行った。
皆の話で、男達に何かされる前に俺が皆殺しにした事がハッキリと分かった。怪しい記憶だったけど皆の無事が改めてわかって良かった。俺も死ななかったし。しばらく動けないけど、皆が守れて良かった。
遠慮してくれてるのか皆の声が遠くに聞こえる。今はとにかく確り休もう。




