対人戦
今回は私にしては長いと思います。
常に悩みながらの執筆です。
皆さんに少しでも楽しんでもらえれば嬉しいです。
感想等に返信等はほとんどしていない作者ですが、目を通させていただいております。
なんと返事をすればいいのか常に悩んで、結局返信していないという……ダメじゃね? ダメです。でもゴメンナサイ。
御許しを……
「ユル君。こっちに何か引きずって行った跡があるよ」
あの後、村中を探してもほとんど何も見つからず、村の周辺を探していた所にティアの声が聞こえた。
「こっちこっち」
ティアの声がする方へ行って見れば、村からは三百メートルは離れており、地面が荒れており、確かにあちこちに何かを引きずった跡がある。そして、その更に先には大量の人や馬の足跡と二つの轍の跡が在った。
「これは、決まりだな。しかも御丁寧にこんな離れたところで。かなり計画的だな」
キーヴが村の方へ視線を向け、地面を見やり、頷いている。
「これ夜盗? それにしちゃ手際良さそうね」
エルファもキーヴに同意見なのか、首を捻る。俺にはよく分からん。
「何か違うのか?」
「そうだな。俺が知ってる夜盗は、村とかに乗り込んで殺し略奪をしたらそのまま逃げる。って感じだ」
「私も同じよ。でもこいつらは何だか違うわね。人攫い専門なのかも知れないけど、こんな手口見たことないわよ」
「はぁ。大雑把なら夜盗、用意周到なら専門家?」
「たぶんそんな感じたと思いますよ。私もこんな夜盗は見たことありません」
エリザもどうやら同じ意見らしい。
「それで、これを追えばいいのか?」
悩んでも分からんものはおいて置くしかない。
「たぶんね。向こうは大所帯みたいだし、急げば連中のアジトまでには追いつけるかも」
足跡や轍を調べていたティアが言う。
「だな。さっさと行こうぜ。あまり遅いと対人戦以上に胸糞の悪い物を見る事になる」
顔をしかめながら言うキーヴの言葉に皆頷き、手綱を取った。
「ユル君、前!」
ティアの声が響く。最近では俺の索敵範囲は一定以上は広がらず止まっているが、ティアの索敵範囲は俺より更に広がって居るらしい。どうやら獣人の特性だとか。
しばらくすると視界に群れが移った。人の群れだ。大きな荷車のような物に人が積まれていて、どうやらそれが攫ってきた人のようだ。
「エルファ、牽制をお願いします。対人戦じゃヘイト管理が無いので私はミコさんとエルファさんに着きます」
「だな。俺とユルとティアで前衛だ。いや、ユルは攫われた人達を頼む。人質に取られても厄介だ」
「ああ、分かった。俺は対人戦は初めてだからな。何か遭ったら教えてくれ」
「そんなに気にするな。人質を取られたら厄介だが、救出が無理そうなら人質を気にするな。一人二人犠牲が出る事を覚悟しておけ。少しでも多くを救うためには犠牲は出る」
え?
「……そんな」
「いいか? あの村には知り合いは居ないし、俺達はスーパーマンじゃねぇ。出来る事と出来ないことがあるんだよ。犠牲無しで達成できるほど甘い世界じゃない」
「そうよ。この世界はゲームだけどゲームじゃないわ。都合のいい世界じゃないわよ」
キーヴとエルファが言う。
「確かに、そうかもしれないな。覚えとく」
かなりの人数がそこには居た。数十人からなるかなり大規模なものだ。その中の一人が近づく俺達に反応した奴が声を上げる。
「敵襲! お前らは荷車を」
「《エアストーム》」
だが、エルファの魔法が人攫いの指示を遮った。攫われた人達の荷車を囲ってその周囲を風が渦を巻く。
「くそったれめ。応戦しろ。魔法が切れたら荷車を押さえろ」
恐らく人攫いのリーダーだろう。周りの混乱を抑えて指示を出して自分も戦線に加わろうとしている。
「ユル」
「おうさ」
エルファの魔法で近づけないうちに荷車に急がないと。
「てりゃ!」
荷車に駆け出す俺の横で飛刀を投げるティア。その一撃はこちらへ向かう人攫いの首元へ。深々と刺さり、悶えながら事切れた。すげぇ、ためらいがない。キーヴも既に切り結び、腕を切り落としていた。
「……俺はまず攫われた人達を」
いや、周りを気にするより俺のする事を。
「行かせるか」
未だに魔法の切れない荷車に群がる数人の中から三人の人攫いが襲い掛かってきた。
「出て、くんな」
俺は首を切り……飛ばさずに峰で打った。いや、打ったと言うより反射的に刃を反してしまった。まぁ、それでも三人を無力化する事が出来た。
「覚悟、ね」
くそっ。
荷車に群がる奴らを無力化して程なくして荷車の魔法が切れた。荷車に近づいたけど、乱雑に積み上げられ、折り重なった人々は誰一人として動かない。
「死んで……はないな。ミコ! 様子がおかしい。治療を」
ただの状態異常なだけなら良いけど、毒であったら厄介だ。解毒剤を探している余裕もないかもしれない。
「分かりました。今行きます。エリザさん」
エルファとミコ、そしてエリザが三人一緒に荷車に来る。俺自身は対人戦が初めてで、あまり働いてないが、他のメンバーは違うようでほぼ無傷で殲滅をほぼ終えている。
ミコ達が荷車に
「ティア!」
取り付くところでキーヴの声が聞こえてきた。見るとティアが倒れている。何があった?
「エリザ、ここを」
頼む、と振り向いた。そこにはティアと同じように倒れ込む三人が。
「おい! 確りしろ。どうした」
駆け寄って見ると、三人とも意識はあるのだが、身体が動かないらしい。視線はどうにか俺に合うのだが、声が出無い様だ。
「やれやれ、漸く効いてきたか」
そんな声を出すのは指示を出していた人攫いのリーダーらしき男。辺りを見るとその男と後四人ほどで全滅、と言うところまで倒していたようだ。後少しだって言うのに!
「何をした」
俺の問いに意外そうに目を見開いた。
「おや? お前は効かなかったのか? ……ひょっとして男か」
男? それが……。
「いいな、お前。物好きに高く売れそうだ。おっと、動くなよ? そっちのお前も、好き勝手してくれたな。動くと今は倒れているだけのお仲間が死ぬぞ?」
そう言いながらそいつは懐から一つの瓶を出した。残りの四人もニヤニヤしだした。
「これはとある毒さ。なかなか便利でな、女にしか効かないのさ。ま、作るのに時間も手間も金もかなりつぎ込んだが、元は取れた。今撒いてるのは身体の自由を奪うだけのもの。だがこれは……分かるか?」
……奴自身がいってた通り毒、だろうな。しかも致死性の。
「いいのか? 自分達だって巻き添え食らうぞ」
キーヴがリーダーの男に挑発気味に言う。が
「さっきも言っただろう。女にしか効かない。今回の襲撃の分は諦めて他を探すのもいい。それに」
チラリと倒れたティアやエルファ達に目を向ける。
「くく、あれだけの女だ。死体でも犯すって言う変態も多いだろうさ」
なんだと!?
「ふざけんな」
「おっと、動くなと言ったろ? いいのかな? 先程も言ったが俺達は死体でも売るぜ」
薬瓶を振りながらエルファ達に近づく。その途中にその周りに倒れている人攫いの仲間を見て更に笑う。
「おやおや? こいつらは死んで無いじゃないか。こりゃいい。おい!」
それは俺が無力化した奴らだった。リーダーが他の四人に声をかけてそいつらを治療していく。
「……っててて。あ、頭」
「無様だな、お前ら。まあ、いい。お前達をやったのはその男だろ? 好きにしろよ」
そう言ってこっちにあごをしゃくってエルファ達に近寄る。しかし起き上がった一人がリーダーに耳打ちをし、リーダーの笑みが一層深まる。そして何人かに耳打ちをした。その後、
「ちょっと待て。面白い事をしてやる。よし、やれ」
リーダーがそう声をかけ数人に指示をだすと俺とキーヴとに二人ずつやってくる。
「へへへ……。そこで指くわえて見てな」
そう言うと
「ぐあぁ!」
キーヴの両足にナイフを付きたてた。立っていられず、倒れてしまう。
「キーヴ!」
「おっと、お前はもっと苦しめ」
一人が俺を羽交い絞めにし、もう一人が俺の口に瓶を突っ込む。そして上を向かされ、口まで塞がれた。
「んむぉ。……ぐ、んぐあ」
我慢し切れず飲んでしまった。
「ゲホゲホ……。!! がぁ」
熱い! 喉が焼ける。
「ぐぅ、う。ゲパァ……ゲハゲェ」
喉の奥から熱い鉄臭い塊が出てきた。
「ヒャひゃは……。苦しいだろ? 事がすんだら解毒してやるよ」
「お前は高く売れそうだからなぁ。生きてる方が値が付くんだから、それまで死ぬなよ? ……さて、今からお前らのお仲間を眼の前で犯してやるよ。よく見てろよ?」
笑いながら数人の男がティアとエルファ達に近づいていく。先頭はもちろん頭と呼ばれた男だ。
「ぐぅ、ふざ、けんな! ゲフォ……ゲフ。触るな、やめ……」
俺の声を無視し、ニヤ付きながら近づく男たち。
く、苦しい。
霞む視界の中でエルファ達に手を伸ばす男たち。
やめろやめろ。触るな寄るな。
視界が薄れる。身体が、動かない。さわるな。
「……す。ぜってぇ殺す」
生きてたら絶対殺す。
殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺ス殺ス殺スこロス殺スこロスコろすコロスコロス。
暗くなっていく意識でアナウンスを聞いた気がした。
《……ポーン。……が……バー…………条件が……した。殺……ーン………………しま……? Y/……》
「……死ね」
《……得……発…………します》




