温泉だもの
年末ですね
恐らく今年最後の更新ではないかと思います
皆さんのお蔭で3,400,000PVと600,000ユニークをいただきました
ありがとうございます
「……猿だな」
「猿ですね」
「猿ですよね」
現れたのは二十匹くらいはいるだろう、猿の群れだった。
しかし、その手には何やら布のような物が握られている。中には木の器? のような物を持っているものまでいる。
「銭湯に行くおじさん達の集団みたいですね」
俺も思ったことをミコが言う。
「俺も思ったがあれも一応モンスター扱いだろ? 気を抜くなよ」
お互いの表情まで見える位置まで近づいた時、一匹の猿が進んで来た。群れのボスだろうか?
一応俺がリーダーをしているので、俺も一歩前にでる。エリザも動こうとしたので手で制しておく。
しばらくボス猿らしき相手と睨み合っていると、ボス猿がぺこりと頭を下げてきた。二度、三度と頭を下げるようすは上司にしかられるサラリーマンのようにも見える。
ボス猿が頭さげ、後ろに下がると今度は群れ全体がいっせいに頭を下げだした。一体何の儀式だろうか。困ったので後ろを振り返れば、二人も首を傾げている。また前を見ると今度は布を頭上に掲げて頭を下げだした。
「あ、もしかして」
「兄さん?」
「……こいつら温泉に入りに来ただけじゃね?」
だってどう見ても猿だし。
警戒を解いて、ためしに風呂か? と問いかけてみた。言葉が通じるのか、と思わなくもなかったが馬にも通じたわけだしな。案の定通じたらしく、先ほどのボスが激しく首を振っている。もちろん縦にだ。
「猿が温泉に入るのをテレビでは見ましたが、まさかゲームで、しかもモンスターの猿が入るのを見るとは思いませんでした」
猿達と一緒にもう一度温泉に入った俺達。眼の前で布をタオルよろしく頭に乗せた猿のモンスターが気持ちよさそうに浸かっている。
「兄さん、なんかやたらとかわいく見えるんですが。触っても大丈夫ですかね?」
ミコがチラチラと猿達を伺いながら手をワキワキさせている。俺は猫以外の動物はそれほど好きではないが、ミコは毛があれば何でもいい部類だ。
可愛くないかと言われれば、可愛い……かもしれなくもない、とよく分からないことを言うレベルの俺には、触りたいか? いわれると首を振る。当然横に。
というか、見た目はニホンザルだが、体長は軽く一メートルを超えている。ボス猿はゴリラ並だ。そんな猿達を可愛いと言うミコが謎だ。
「一応大丈夫じゃないか? なんかこいつらやたらと腰が低いし」
この猿達はモンスターなのだろうが動きなどは、ニホンザルのそれそのままだった。膝を軽く曲げ、手に布を持ち、その布で前を隠しながらトコトコと歩き、お辞儀をするのだ。しかもぺこぺこと何度もお辞儀をする。偶に、手を頭にやり「いや、申し訳ありません」とでもいいそうな格好で頭を下げる。体が小さければ和むのだろうが、少々でか過ぎる。
俺の返事に「そうですね」と答え、ゆっくり近づき、そーっと猿の頭に手を伸ばす。ぽふっと手を置くが猿は湯に浸かったまま幸せそうだ。ミコはそのまま毛をわしわしとなで回していく。だんだん顔が緩んでいく。……幸せそうで何よりだ。
ミコが満足行くまで毛を堪能した頃、猿達は続々と湯から上がり、再びお辞儀をしながら帰って行った。
猿達が帰ってから更に二時間。食事も済ませ、日も暮れてそろそろ寝てしまおうかと思っていた頃、漸くキーヴが帰ってきた。
「おまたせ」
「……遅えよ」
髪をふさぁっとかき上げながら言う台詞に若干イラっとして声が少し低くなった俺を見て少し怯えるキーヴ。
「あ、いや悪かった」
バツの悪そうなキーヴ。一応自覚があったらしい。先ほどのイラっとくる仕草は場を和ませようとした先制攻撃だったらしい。完全に逆効果だったがな。
こちらの待ち時間は大体九時間半。ということは現実では三時間と少し。女性陣は長いだろうからそれくらいかかると思っていたが、キーヴがここまでかかるとは思わなかった。
「いや、マジ悪かった。でもしょうがないって。たぶんユル達も結構時間かかるぞ」
どうやらキーヴによると、本体が結構ギリギリだったらしい。栄養面でもそうだが、水分が結構でていたらしい。今は夏。エアコンが切れていたら死んでたかも、とキーヴはいう。以前は気づかなかったが、戦闘で激しく動くと本体が汗をかくらしい。キーヴはドラゴンとの戦闘からずっとしごかれまくってたからな。
起きたら汗でべとべとでしかも臭かったらしい。喉はからからだったとか。速攻で水分を補給して、汗を流し、スポーツドリンクを大量に買ってきたらしい。
「マジか……もう少しこまめに落ちるべきか?」
「かもしれないけどな。今日の感じだとすぐにどうこう、って感じじゃなかったが一日ぐらいインしない日が在った方がいいかもな。でもさ、今までニュースでこのゲームやってる奴が病院行きになった、とかは聞いたことないぞ?」
「そういやそうだな。今までそんな話は無かったな。案外大丈夫なのかもな」
「それに兄さん、長時間落ちるとなると交代時間が空きますし、いっせいに落ちるには宿があるところでないと馬車とかありますよ?」
「そうだな。とりあえずこの話は町なり村なりに着いてからだな。ってことで二人とも落ちちゃっていいよ。明日の昼には出発したいからそれまでには帰ってきてね」
「え、ユルさんはどうするんですか?」
「俺はエルファ達が戻ってきてから行くさ。そんなにかかんないだろうし」
それから私達も待ちますだのなんだの言う二人を説得し、先に落ちてもらった。
二人が戻ってきたのはそれから更に二時間後だった。
二人とも汗はそれほどでもなかったらしいが、のんびりすごしてきたそうだ。
温泉には明日浸かるそうで、とりあえず水着モドキの調整は明日、と言うことにして俺もログアウトした。




