発見
ちょっと色々見直ししようかどうしようか悩みます
生暖かい目で見守っていただけると幸いです
「うぉお! これは……」
キーヴの見つけた煙の元へとたどり着くと、見えていたのは煙ではなく湯気だった。
「温泉……」
山脈の峰の反対、そう遠くないところにそれはあった。足元は砂利が多く、少し離れた岩の間からお湯が流れ、そこに溜まっているようだ。割と広い面積にお湯が溜まっている。真ん中の方はお湯の色が少し黄色く、底は見えない。
「エルファ、手を付けて温度見てみるから、一応氷の準備しておいて」
そう言って俺は恐る恐るお湯に手を浸けてみる。
「…………お、おおお。これはなかなか」
湯気の量の割に熱くはなく、山の高いところにあるせいか若干温い程度だ。
「気持ちいい~」
俺の声を聞いたティアとエルファが靴を脱ぎ、脚を浸ける。
「にゃ~。気持ちいいねぇ」
ミコとキーヴもいそいそと靴を脱ぎ始めている。エリザはどうしようか悩んでいるみたいだ。
「ユル、ユル。私入りたい」
「私も私も~」
エルファとティアは目を輝かせている。ミコとキーヴもこちらを見ている。
「……エリザ?」
エリザを伺うと苦笑している。まぁ急ぎでもないしなぁ。
「わかった。今日はここでキャンプだ。たまには休養がてらに軽く周囲の探索とかそんなことでもやろうか」
キーヴとエリザとミコが周囲の探索、ティアとエルファが野営の準備。そして、俺は一人縫い物。
何故縫い物かというと、エルファが、
「こんな壁も無いところじゃ落ち着いてお風呂に入れないじゃない」
といい、テントの中で大人しくしているという、俺とキーヴの言葉が信じられないと騒ぎ立て、水着を作れと要求してきた。
布で作ろうとしたら生地が少ない、という問題もあったがそれ以上に、
「透けたら嫌だ」
ということを前面に押してきた女性陣によりレザーの水着になった。俺としてはこちらの方がエロイ気がするのだけど。
手持ちの素材を確認した時に、以前倒した『ジャイアントバットの皮膜』を見て、これで作ろう、と思ったが、素材の薄さを見たエリザに止められた。これは……向こうが透けて見える。とは言っても普通にはわかり辛い。が、肌に密着したり、向こうが明るいと薄っすらと透けるのだ。薄すぎる。男としては是非着た所を見てみたいものだが流石に命は惜しい。ので却下。でも防御力の上昇効果は高いので、ついでにシャツか何か内着に加工して置くことにしよう。
結局今回しか着ないのでソードリザードの皮を使ったものにした。ちょっと堅くてゴワゴワしてるが勘弁してもらおう。
水着を作れ、と言ったのにスリーサイズを聞いたら殴られたのは理不尽じゃなかろうか。
とりあえず出来たのは、ブラジャーのような形ではなく一枚の皮に紐を四本付けた(台形でその四つ角に紐をつけた)物四つとトランクス状の物を六枚。結局サイズが謎なので、少し大きめの皮で胸を覆って後は紐を結んで長さを調節しろという形にした。トランクスは男でも穿けるし、女物はたぶんサイズが合わないと色々と不味いだろうからこの形にした。腰のサイズは紐で縛って止めるフリーサイズで。
ジャイアントバットの皮膜で作ったのはヘアバンド。ティアとエルファとミコは職業柄装備が軽装なのでかなり上乗せになるはず。と言っても、工房で作るのとは違い簡易な物なので品質はオールC-。最初に作ったのがヘアバンドでよかった。肌着のような物を作るならどうせなら品質は高い方がいい。素材も限られてるし作るのは街に着いてからにしよう。
俺が一人チクチクと縫い物をしている間、ティアとエルファにキーヴは足湯を堪能しつつ果実酒と干し肉をジャーキーよろしくガジガジとして、まったりとしていた。
エリザとミコは視界内には居ないが、気配の探知範囲内で二人でごそごそとしている。偶に戦闘にもなってるみたいだが、余程のことがない限り大丈夫だろう。事実、敵の反応もすぐ消え、戦闘が修了している。
皆強くなってきたし、この旅が終わったら、ダンジョンとか攻略の方へ進んでもいいかもしれない。
「しかし気持ちいいね~」
「そうね。ゲームで温泉に入れるとは思わなかったわ」
ゆっくり足湯もいいけど早く全身で浸かりたいわ。水着、まだ出来ないのかしら。
「……なんだかゲーム内でしばらくお風呂に入ってないからリアルでも不潔な気がしてきたわ」
「あ~、ちょっとわかるかも。前回ログアウトしたのって何時だっけ?」
「…………キーヴ、あんた覚えてる?」
キーヴは自分のアイテムボックスに入れていと思われる果実酒を飲みながら呆けていた。もちろん果実酒は分けてもらったわ。
「んー……結構前だったと思うぜ?」
「やっぱりね。長くインしすぎて時間の間隔が怪しいわ。ちょうどいいから一旦落ちましょうか」
「いいけど、どうするの?」
「そんなの私とティアとキーヴでいいじゃない。戻ってきたころには水着も出来てるだろうし。温泉つかりながらユル達待てばいいのよ」
そうと決まれば。私はさっさと靴を履いてユルに声をかける。
「ユル、前回ログアウトしたのって結構前よね?」
「……そういえばそうだった。ドラゴンと会う前くらいだったか?」
あれ?もっと昔かと思ってたけど、まぁいいわ。
「そんなわけだから、キーヴとティアと私で落ちるから。ミコとエリザのことよろしく。水着、ちゃんと作っときなさいよ」
「え? おい」
さて、言うことも言ったし
「じゃね」
さっさとログアウトしてしまったエルファ。キーヴとティアをみると苦笑しながら手を振っている。
「あ~、もういいから、さっさと行ってさっさと帰って来い」
シッシ、と手を振ると間もなくログアウトした。
続々とログアウトになるパーティ表示にエリザとミコが戻ってきた。
「もうログアウトの時期でしたか?」
エリザの言葉でわかる様に、みんな現実時間を忘れつつあるようだ。もちろん、俺も含めて、だ。
「そうらしい。キーヴ鍛えたりしてたしすっかり忘れてた。エリザ達はなにしてたんだ?」
先ほどから何度か戦闘を繰り返しているようだったが。
「これを集めていました」
そう言ってエリザとミコが出したのはジャイアントバットの皮膜だった。
「やはり中に着る物ですし、換えは多い方がいいかと。なので街に付いたらこれで内着を幾つか作ってもらおうかと」
これを探してたのか。でも蝙蝠って夜行性だよな? よく見つけたな、と聞いたらどうやら洞窟や少し窪んだ岩陰などにぶら下がっていたらしい。不意打ちとミコの単純な魔力矢で倒せたとのことだ。
「にしても結構な量だな。内着だけじゃなく下着も作るか?」
「いえ、流石にそれは遠慮して起きます」
顔を赤くして俯き気味に言うエリザ。
だよな。ちなみに前述では説明しなかったがどれくらい薄いかと言うと、ティッシュペーパーよし少し薄い。もっと具体的だと手の平の上に乗せてよく見ると手の皺が薄っすら見えるほどには薄い。でも俺の矢が貫通して後ろに抜けるには至らなかった。ファンタジーな代物だとつくづく思う。
「わかった。大事なことだからサイズはちゃんと教えてくれよ。これは作るときの条件だ」
もちろんエロイこと目的じゃないよ。いや、言うとますます怪しいか。
現実との時間差は三倍。となると食事やら何やらで一時間で帰ってくるとしても俺たちにすれば後三時間は待つことになる。
なので既に完成した水着を渡して先に温泉を楽しむことにした。




