オトヒメじゃねぇ!
拙い文ですが、よければ感想をお願いします。自分でも意味不な話ですみません。
打ち寄せる波に月光など気付かず、ただ境のわからない闇の先をみていた。
膝を抱え座り込んでいる姿はまるで何かに怯えているようだった。
手には大事そうに空き瓶を持っている。
何時間もそうやってただ砂浜にいた。
迷っているわけではない。
ためらう余裕さえ今はない。
意を決して、四つ折りの紙を入れた空き瓶を遠く投げた。
遠く遠く闇に吸い込まれていくメッセージ。
それは救いだった。唯一の救い。届くと信じている救い。彼女はそう救いを求めていた。希望に似た星さえきらめかない夜の中で願った。ただひたすら届くことを祈り、手を組み合わせた。きらびやかな白いドレスが濡れるのもいとわず波打ち際にたたずんだ。闇があけるのを待ち続けて、メッセージボトルの行く末を案じた。
奏は学校のボランティア活動の一貫で海岸のゴミ掃除をしていた。
「なんで、あっちぃのにこんなことしなきゃいけないんだ」
「そりゃ、海鳥やらがゴミ食わないようにだし、海浜客がケガしないように…つうか、きれいじゃないと客こないしな」
軍手をした手でハングル語らしき文字の書かれたばっちい袋をゴミ袋につめながら、尾田っちがいった。
「おっ、さすがペンションの息子」
ゴミばさみで尾田っちを指しながら、奏は感心した。
「当たり前だろ。客がいてなんぼの商いなんやから、ウチのためにせっせと働いてや」
えせ関西弁ではっぱかけながら、次々とゴミを回収していく。無駄口たたけど、手は動かすとはこの炎天下のもと働き者だ。だらだらと話すだけの奏とは大違い。
「で、報酬はなんぼ?」
「ペンション『カシオペア』へのご奉仕」
「それって、ただ働きじゃないか?」
「そうともいう」
尾田っちはさらりと言って、洗剤容器らしい物体を拾った。漢字だらけのそれに
「こりゃ、中国かな?」とコメントをつける。
そんなことはどうでもいい。
奏はゴミばさみで砂に埋もれた、ぼろいビニール袋をひっぱりあげた。
「ケチんぼ」
「うわ〜ガキくせぇの!」
「オヤジくせぇのよりいいだろ!おれ等まだ中坊だしよ」
「中坊ってとこ、十分オヤジくせぇぞ!」
「うっせぇ!」
奏はゴミばさみで空き缶をつかみ、尾田っちにむかって投げ飛ばした。
「ばっ…うわ〜」
ばっちい、と言おうとしたらしいのだが、尾田っちは避けるさいなにかにつまずいて、砂浜に倒れた。
「わぁ〜、あちぃ!」
太陽にやかれた砂はよっぽど熱かったのだろう。尾田っちは瞬時に飛び起きた。
「おまえはイナゴか」
「食いもんにすんな!せめてバッタにしろ!」
「はいはい」
適当にあしらいながら、奏は尾田っちが転んだ元凶のビンをゴミばさみでつかんだ。
「うん?」
でかいジャムビンサイズのそれには、なにやら紙切れが入っている。
奏はピンときた。
これは、映画なんかでみるメッセージボトルてやつだ。
好奇心にかられ、奏はビンの蓋をあけ、紙切れを指でつまんだ。
四つ折りの紙切れを開いてみると…
『オトヒメ様たすけて。これを見たら、骨董屋
「咲季」の亀田に渡して。』
と書いてあった。
「咲季ったら、あのボロ屋だろ」
横からのぞき見してた尾田っちがつぶやいた。
「あぁ」と答えながら、奏は思った。ボロ屋と言われたが、百年以上の歴史ある由緒正しい骨董屋だ。しかも、奏の遠縁の楽があとを継いだと聞いている。
仕方ねぇ、楽の顔みがてら行ってみるか。どこのだれだかしらないが、たすけを求めてることだし…ほっとけねぇよな。
これでも慈善募金に弱い奏である。いたずらかもしれないが、なんとなく行動に移さないと気が済まなかった。
「おれ、咲季に行ってくるわ」
尾田っちにそう告げて、奏はゴミばさみとゴミ袋を押しつけた。
「おい、奏!まだ掃除中だぞ!」
尾田っちの制止の声も聞かず、奏は歩きだした。
骨董屋
「咲季」につくなり、奏は大声で五つ年上の楽を呼んだ。
「おい、楽いねぇのか?」
返事はない。帰ろうかと思ったとき、店のおくから楽があらわれた。
「奏、久しぶりだな」
笑顔でむかえられ、おもわず奏も笑顔でかえした。
「なっ、楽。この店に亀田ってやついるか?」
「あぁ、いるぞ。それがどうした?」
奏は楽にビンに入っていた四つ折りの紙切れを見せた。
楽は紙切れを見るなり、神妙な顔つきになり、無言でおくにひっこんだ。
骨董屋
「咲季」の居候亀田拓真は店主龍神楽に時がきたことを教えられ、慌てて木製の階段をギシギシいわせて駆け下りた。こんなちびが…本当に救えるのだろうか?疑いの目を向けながら、声をかける。
「お前がオトヒメか」
「はぁ〜?おれは奏。龍神奏だ。オトヒメなんて名前じゃねぇよ」
初対面そうそう、こいつ頭わるいんじゃねぇの?って、目付きで見上げてくる。
生意気なガキだ。
だが、歴代のオトヒメの名前はソウという音がつけられている。まちがいない。水龍の神、乙姫の末裔龍神家のソウ。こいつがオトヒメだ。唯一、ウラシマ様を救える者。
「俺と一緒にウラシマ様を助けに行くぞ。オトヒメ」
「だから、おれはオトヒメじゃねぇ。緑髪!」
大きな鳥かごの中で彼女は寝起きしていた。幾日過ぎたかわからないが、ただ敷き詰められた羽毛に横たわっていた。時折、格子を握り締め空をさまようように手を伸ばし外へ救いを求めた。
オトヒメ様…どうかこのウラシマをおたすけください。