7 状況を把握しましょう
ああ、頭が痛い。頭の天辺を摩りながら、周りを見渡す。
視界に飛び込んでくるものは見たこともない家具類と、知り合いにはいない銀髪美形。
そうでした。私、昨日異世界トリップとやらをしていたんだった。
夢オチなんてことにはならなかった模様です。
「はぁ…」
思わず、ため息が漏れてしまう。これからへの不安がドッと押し寄せてくる。頭で理解していても、心が受け入れない。
昨日はやはり気が動転していたのだろう。刃物を押し当てられて平気だったなんて…今思い出せばブルリと悪寒が走る。しかも、そんな奴に飯をたかり、寝床をたかり…その上同衾するなんて…!!
私はアホか!アホなのか!?
悶々と不安に苛まれていると、声をかけられる。
「朝食はどうする?」
「あ、いただきます!」
咄嗟にそう返してしまう、…私のバカ!!
そもそも、彼の名前すら知らない。昨日は彼の身分なんてなんとも思っていなかったけど、こういう場合は身分制度とか意外と厳しいんじゃないかということに思い当たる。最悪の想定しか思い浮かばないのだが、それよりも気になるのは…。
いつの間に着替えたんだあんた?
昨日はいろいろなことがいっぱいいっぱいで服を観察する余裕はなかったが、改めて見てみると綺麗な金糸の装飾がなされた詰襟のような服を着ている。某男装騎士の時代ですか?と聞きたいところだが、昨日彼が言っていた国名(もう忘れた)はその時代にはなかったハズだと思い直す。
対する自分を見てみれば脱がされた形跡もなく、昨日仕事帰りに着ていた作業服のままだった。
え?自分コレで寝たの?
サーッと血の気が引いていく気がする。私の着ていた作業服は私の汗とあちこちの埃に塗れている。そんな服で、こんな豪華な天蓋付きベッドに寝たのか!?自分!!
昨日の自分を罵ってやりたい!こんな金のかかってそうなシーツとか弁償できないよ!?…異世界の金なんて持ってないし!!
内心一人焦っていると、彼がギシリとベッドに片足を上げてきた。焦っている割にはベッドに座ったままの私は、ベッドの上で首を竦めながら彼の様子を窺った。
「食わないのか?」
片足をベッドに上げた状態でベッドの端に座る彼が、首を傾げながら私に聞いてくる。
なんでひとつひとつの動作が、そんなに色っぽいんだ?あんたは…。
「…食べます」
目を伏せながらそう答える。くれるってモノは貰っとかないとね!そこら辺は遠慮しないが、頭の中はシーツの賠償金のことでいっぱいだ。
なんとか言い逃れが出来ないものかと考えるが、なかなか頭が回転しない。
…よし、朝食を食べてから考えよう!