1 私の老け顔は世界どころか異世界まで共通です
「そこで、何をしている」
突然誰かに話しかけられた。室内に誰かにいたようだ。
声がした方を見れば、銀髪の男がこちらを見ながら睨んでいる。
「い、異世界トリップ?」
現在の状況を把握するのにその言葉しか思い浮かばない。日本人特有の取り敢えず笑っとけを出しながら、ずれた眼鏡を持ち上げた。
「何ぃ?」
地を這うような声で聞き返してくる男の顔は、人を殺せそうなほど凶悪だ。
せっかくの銀髪と猫のような碧と金のオッドアイが勿体無い。眼鏡を顔に押し当てながらよく観察してみる。
ああ、これが異世界マジック!?異世界人はやっぱり美形なんだねっ☆
「貴様…殺すぞ」
そんなドスの効いた声をださなくても…。
見たところ三十代ですが、実際は幾つなんですかね?私は幾つに見えるかな?
ここは異世界マジックで童顔に見られたい!苦節26年…この日本人にあるまじき老け顏でどれだけの辛酸を舐めてきたことか!!中学の頃には既に社会人だったよ★
「私、幾つに見えますか!!」
ドッキドキのワックワクで答えを待つ。
十代に見られたらどうしよう!?きゃっ♪
「はあ?」
途端に呆れた顔になる彼。うむ、美形は何をしても美形なのは本当だったな!…鼻水垂らしても美形なのかもしれないけど、流石にそれは頂けないなぁ。
「だから、私は幾つに見えますか?と聞いているんです」
その白けた顔はやめてください。微妙に傷つきますから。ついでに、私にとっては死活問題なので早く答えて頂けるとありがたいんで・す・が!?
「…はぁ、32」
……のぉぉぉぉぉおおおっ!!
い、異世界マジックは私の顔には効かないのかっ!!
打ちひしがれて、思わず四つん這いになってしまう。
何故だ…何故なんだっ!!
悔しさを拳に乗せて、これでもかと高級そうな絨毯を叩いてやる。
ぽすっ ぽすっ
…なんて間抜けな音なんだっ!!これじゃ、私の憤りが表せないっ…。
不貞腐れて、ふかふかの絨毯に蹲る。
…なんだ、このふわふわめっ!気持ちいいじゃねーか…♡
「…おい、貴様こちらの質問にも答えろ」
彼の声が近くでしたかと思うと、首筋にひやりとしたものがあたった。
…ああ、アレね。刃物ってヤツね。軽く薄皮きれましたわっ!
あー、あー、殺すんですか?殺すんですよね?
だって、貴方偉そうだし?無駄に豪華な部屋にいらっしゃるしぃ?
いいんですよ別に、私なんか殺してくれちゃっても。
どうせ、異世界でも老け顔だったしね!!もう、いつか顔に年齢が追いつくなんて夢も見ませんから!
だけどね、これだけは言わせてもらいたいね。
「…美形なんて、滅んでしまえっ!!」
日本人の言霊の威力を思い知るがいいっ!!あーはっはっはっ!!!!!