13 貴方のお名前なんて呼ぼっ?
「泣き止んだか?」
頭上から彼の声がする。ごめん、貴方の服は私の顔面から溢れ出る液体で大変なことになっちゃったよ…。
「あび…」
涙は止まったけど、鼻詰まりはすぐには解消されません。彼の胸に埋めていた頭を離すと、頭を撫でていた彼の手もそっと離れた。
すこし、寂しく感じるがいつまでも子供のようにしているわけにもいかない。
「どぶも。どごろでなばえなばすぎ」
つまり、私が言いたい事は"あんたの名前長すぎなんだけど"と言いたいんだが、やはりまだ無理があったか。
「…何を言ってるんだ?」
ほらね、やっぱり通じなかったよ☆まあ、いい歳こいた老け顔が子供みたいに泣いた気恥ずかしさを紛らわそうとした結果ですよ。
ずずっと鼻を盛大に啜ってから、再びトライする。
「だから、あんたの名前長い。覚えられない」
今度はなんとかうまく言えた。鼻声なのは愛嬌だ。
「この状況で、開口一番にそれか」
どうしようもないなみたいに言わなくても。あんた42でしょ!そこは、紳士的に泣いていたことには触れんなよ!
ぶーたれて、上を見れば彼が歪んで見える。…もう泣いてないんだけど?
いつもの癖で人差し指を鼻筋に沿わせて上にやると、あるはずのモノがなかった。
「眼鏡…」
あっと気づいて周りを見渡せば、目の前に眼鏡を差し出された。
「コレか?」
「ああ、どうも」
なんとも察しの良いお人。ありがたく眼鏡を受け取りそれを掛ける。
「で、俺の名前が覚えられないと?」
「そう」
おお、なんとか話題は逸れてくれたよ。さすが、42だね!大人だね!!
「…」
「…?」
「名前すら覚えられないとは、残念な頭だな」
ちょっと待て、ゴラァァァアアッ!!何、ため息混じりに頭を振ってやがんだっ!残念な頭って何だっ!?
長すぎるのが悪いんだろうがっ!…なんか違うか☆
「いや、興味のあることはハンパなく覚えがいいですよ」
真顔で言ってやる。
「…ほほぅ、そうか」
ニヤリと笑う彼に背筋がゾクッとする。…ビビってなんかないもんねっ!
鼻息も荒く、ガンを飛ばしてやる。
「つーことで、三択です。その一、ジェイさん。その二、リードさん。その三、リディさん。さあ、ど~れだ☆」
覚えられそうにないので、短く呼びやすいものにしてみました♪なんの意図も伝えずにそう言うと、
「なんだそれは。俺の呼び名か?」
と、言われました。なので、にっこり答えて見る。
「その四、変態。これも付け加えておきましょうか?」
「殺すぞ」
なんだか、久しぶりにその重低音ボイスを聞きました。
「すんません」
心が弱っているのかその声には流石に抵抗できなくて…速攻で謝る私。生意気でごめんなさい。優しくしてください☆
「…泣くなっ。その一で呼べ。その二は皇帝を表す名だし、その三は皇族の家名を短くして女の名前になってるいるじゃないか」
重低音ボイスで彼が再び歪んで見えかけていたら、彼は私の頭をワシワシと掻き回しながらソッポを向いてそう答えた。
なんだかんだと甘い人だな。しかし、その二が皇帝を表すってやっぱりあんたは偉かった!!
「…ジェイ様とお呼びしたほうが?」
知らないうちはやりたい放題だったけど、元は小心者の私です。知ってしまえば、おいそれと強気に出れない…。権力に逆らうと良いことはありません。"長いものには巻かれろ"、なんて素敵で良い言葉!
上目遣いにそう聞いてみる。…コレ、地味に自分がキモいわ!!
「お前が敬称を…?気持ち悪いわ」
吐き捨てるように彼は言ってくれました。私の上目遣いより、敬称で呼ばれるほうがキモいのか!!
「じゃ、ジェイで。改めてよろしく?」
敬称がキモいなら私の敬語もキモいだろうと、呼び名が決まったついでに改めて挨拶をした。
「…ああ。これからよろしくな、まぁる」
ひっ!ナニその最後の甘ったるさはっ!!私の名前がドロドロの甘さで溶けたみたいだよぉっ!!
彼ことジェイは黒い何かを出しつつ、喉が痛くなりそうな甘い声でそう言った。