9 拷問ですか?それとも羞恥プレイですか?
「なんですか?コレは…」
私の目に映る部屋の中には壁に沿ってズラリと人が並んでいた。
「食堂だが?…ああ、昨夜とは違うところだからか?」
私が何に驚いているのかわからずに、見当違いな答えを導き出す彼。
「違うし!この人の人数だよっ!!」
注目は避けたいので小声で突っ込む私。
しかし隣に立つこの美形、背が高い…。何センチあるんだか。自分が165センチで、それより20センチは高いだろう。
「何を言っているんだ?この人数くらいは普通だろう?」
んなわけあるかと叫びたいのを我慢する。多分彼はコレが普通なんだと思い直したからだ。育つ環境が違えば、なかなかその違いを理解するのは難しい。
説明するのも面倒くさいので、下を向きため息をひとつ吐くに留めた。
彼の手が背中に回り、長いテーブルに沿って歩く。昨夜とは違う食堂らしいがその部屋との違いは私にはよくわからなかった。敢えて言うなら、使用人と思しき人がいるかいないか違いしかわからない。
昨夜は全然、彼以外の人と会わなかったのに…今いるこの人数は何ですか?
丈の長いスカートを穿いてエプロンをつけている女性が大半で、五人ほど男性が混じっている。女性たちのスカートは淡いピンクと紺色、そして黒色と別れている。男性の格好は黒色の燕尾服を着込んだ人が一人と白シャツに紺色のベストとズボンを着た人が三人。最後に白いコックのような格好をした人が一人いた。
皆、視線は下を向いているのに、確実にこちらを観察している気配がする。
全く勘弁して欲しい。元の世界でもテーブルマナー自信ないのに、異世界のテーブルマナーなんて知るかってんだ!!
昨夜は彼しかいなかったし、ものすごくお腹が空いていたからマナーのマの字も思い出さなかったが、
流石に今は気になるつーのっ!
これは嫌がらせなのかと、隣を歩いている彼を下から恨めしげに睨んでやる。
「ここに座れ」
彼はそんな私に構うことなく、立ち止まり着席を促す。
その席を見ると、既に皿などが並べてあり、その先には焼きたてと思わしきパンが籐籠のような入れ物に入っていた。
指定された席に座ろうとすれば、彼が椅子を引いてくれる。…おかしい。昨日はそんなことをしなかったのに!
若干引き気味に彼を見やれば、黒い笑み。…明らかに何かを企んでいる顔だ。
「どうぞ?」
手まで差し出して、座るよう促す彼。
ちょっと、キモイんですが…。
それを見なかったことにして座ろうとすれば、タイミングを合わせて椅子を押してくれた。
「どうも…」
ぼそりと礼を言い俯いておく。
それから、彼が長テーブルの一番奥、私の斜め前に座る気配がした。
こんなことになるなら、朝食は断わっておくんだったと冷や汗をかきながら思ってみるが後の祭りだった。