僕のロボット
ずっと一人で生きてきた。家を飛び出してからずっと一人で走ってきたんだ。
「お母さん嫌だよ、新しいお父さんなんかいらないよ。僕は大丈夫なんだ……」
幼いころから母と二人だった俺。新しい父に懐くことなく、母にいつも反発していた。母に捨てられた気がしてたから。
「なあ、どう思う? 」
古びたブリキ製のおもちゃのロボットに話しかけた。
「話かけると楽しくなるんだよ」
そう言って笑顔で差し出した少年の顔を思い出す。
近くに引っ越してきたという少年は、塾通いの多いこの辺りでは珍しい子供で、いつも誰にでも元気にあいさつをする。こんな、俺にもだ。
会社では多数の部下を束ね、颯爽と歩く姿を皆が羨望の眼差しで見ているってのに、それが。一人、おもちゃのロボットに話かけているなんて……。
「なあ、どう思う?」
俺は何度も問いかけた。本当は、どうなんだ。強がってばっかりで、いつも一人で寂しくて辛かったんじゃないか。
古びたロボットを見つめるうちに、握り拳に涙が落ちていた。
どれぐらいそうしていただろうか。立ち上がると俺は、母に電話をかけていた。
互いに涙で会話になんかならなかったが、母の温もりが伝わってきた。
もしかして? あのロボットと同じ物を持っていなかっただろうか。古い写真を引っ張り出して俺は、驚いた。あの少年が、アルバムのあちこちにいる。ロボットも写っている。まさか……。
あの日いらい、もう少年と会うことはない。
明日、父にこの話を聞かせよう。空港のロビーに降り立つ父に。