057⚫️大いなる矛盾
金木犀月21日(星曜日)
王城へ戻って来た。国の危機が去り、父も母も、もちろん国民も大喜びだ。わたしたちのための感謝の祈りが、どの村、街でも捧げられた。ちょっと照れくさい。
だって、がんばったのはみんなでしょ?わたしたちの冒険の旅を支えてくれた、国中の人たちに感謝!
ルイーザはグラノフに誘われて、海の見える丘にいったみたい。でも、怒って帰ってきた。何か、指輪を間違えた、とか、うっかり’アームド’って言ってしまって、ルイーザが武装しちゃった、とか。お互い、そんなことも気づかないなんて、よっぽど緊張していたのよね。
カナタはどこに行ったのだろう?ロイが’別の世界へ連れて行くよ’って言っていたけど。そうね、きっと別の世界。
ロイにあらためてお礼を言いに行ったら、小屋ごとなかってたもの。ロイって、カナタの名付け親って言ってたけど、そうするとロイも何百歳にもなるってことなの?・・・ロイ、もう会えないのかな・・・。
わたしたちには宿題が残った。カナタと会話した内容。本当に自由と平和が両立するのか。つまり、自由と秩序が同時に成り立つか、ってことだよね。魔王がいなくなっても、その命題は変わらない。わたしたちが、日々、問い続けるものが、厳然として、ここにある。
ルイーザとは深夜まで話し込んだことがあった。ふたりの知識を総動員しても、過去の散り散りになった記憶、魂をあつめて形をとりもどす、なんてゼッタイに不可能。それが結論。それなのに、ロイはどうやってやり遂げたの?わからない。
わからないといえば、ベルムがベルムだったこともよね。ゴーレムに魂があったとしても、それを新しい体に移すことなんて、これもゼ〜タイできっこない。どこかに魂の保管場所があるの?わからない。
リノがやってきて、おつかれさま!って微笑んでくれた。でもね、’霊山’は中立なんでしょ?なぜ、わたしにだけ、’大賢者’のこと、教えてくれたの?リノはわたしの剣を抜いてみればわかる、って言うけど、文字みたいな模様があるだけ。これって、どこかの世界の言葉なの?
も〜、わかんないことだらけ!でも・・・ひとつだけわかったことがある。それは、あきらめない大切さ。努力が必ずしも報われる、とは限らない。でも、そうであっても、あきらめた時、そのゴールが遠ざかるんじゃなくて、自分がゴールから離れていく、ってことよね。まっ、ゴールへの道はひとつじゃないし、ゴールがいくつもあることだってあるけどネ。
あ〜、なんかスッキリしないなあ!ふたりといっしょに、もう一度、冒険にでようかなあ!お互い、孤独やピークなんて関係ない!わたしたちはわたしたちだもん!
エレナは剣を抜いた。’賢者の剣 'である。
彼女は知らない。
その剣の銘が’英雄’であることを。
ローレンスが手にし、ウィルフレッダが受け継いだ剣であり
遥かな世界線の果てに、戦争終結を告げるため、
大地に突き刺された剣であることを。
そこに’身を守ること’と’誰も傷つけぬこと’の
両立をを願った文字が刻まれていることを。
「友へ。矛盾した願いを贈る。」
この矛盾を解決できるのは、神でも悪魔でもない。
ただ、ヒトのみである。




