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怪異探偵事務所   作者: 夜乃桜
置き忘れた想い
6/11

『橘探偵事務所』

日が沈む夕暮れ時。

駅近くの大通りから少し外れた人気のない通りに、取り残されたような二階建ての建物。その入り口には、古びた『橘探偵事務所』の看板。

建物の一階は事務所で、二階が住居。その二階のリビングに、男が二人と猫一匹。


「わざわざ電車で三時間かけて依頼の確認しに来たのに、一時間もしないうちにあちらさんに丸め込まれて、依頼を押し付けられた君は泣きながら帰ってきたと」

「……俺は泣きながら帰ってきてないよ……湊さん」

「そうか、そうか。そんで?」


猫っ毛の髪に切れ長の瞳で、端整な顔立ちの男性、北原(きたはら)(みなと)は、リビングのソファーで自分の膝の上に丸まって寝ている猫を優しく撫でる。そして、向いのソファーに座っている仁に、楽しそうに話の続きを促す。


「野崎修のことについて調べてきてくれと言われたんだ」


兄と慕う、自分の後見人であった湊に、仁は今日あった出来事を簡潔に説明した。その後、野崎修を黙らせた玲奈は、仁を玄関まで連れて行った。そして、玲奈は野崎修の身元調査を、仁に依頼した。


「……ということで、湊さんに調査をお願いしたいんだ」


いろいろと諦めた仁は、野崎修の身元調査も引き受けた。

まぁ、野崎修には気になるところもあったし、弾んだ報酬を提示してくれた。悪い話ではなかった。


「ええよ。かわいい仁君の頼みさかい」


〈情報屋〉である湊は、仁の頼みを快く引き受ける。


「とりあえず、野崎修についてわかったら、連絡するさかい。まっときぃな」

「よろしく。湊さん、出来れば早めにお願いします」


仁は湊に頭を下げる。


「おう、任しとき」


湊はそんな仁の頭をポンポンと叩く。


「それにしても、俺、初めて〈魔術師〉にあったよ」

「そうなん?愁一郎さんに〈魔術師〉の知り合いはおらんかった?」


(たちばな)愁一郎(しゅういちろう)。『橘探偵事務所』の亡き、前所長で仁の養父。湊にとっては、恩人にあたる人。


「いや、俺が知らないだけで、もしかしたらいたのかもしれない。養父さんの交流関係は、すごかったから」

「そうやったな〜」


湊と仁は、しみじみと当時を思い出す。

愁一郎は三年前。仁がまだ高校三年生の時、仁の目の前で、愁一郎は突然倒れた。そして、半年後に病気で亡くなった。

入院中、病気で自分が長くないと知った愁一郎は、友人に手紙を出していた。手紙には養子である仁に何かあったら、手助けをしてくれるようにと、愁一郎は頼んでいた。


「……えらい騒ぎになったな」

「……ああ」


思い出す湊と仁の眼は、どんよりと遠くをみていた。

愁一郎の手紙を本気にした友人たちが、愁一郎の入院する病院にひっきりなしに訪れたり、まだ高校生であった仁を、家で引き取るなどの申し出が多数あった。

当の本人、仁は高校生を卒業したら、養父の『橘探偵事務所』の引き継ぐことを決めていた。愁一郎も『橘探偵事務所』の引き継ぎを認めていた。

なので、仁と愁一郎は友人たちの申し出を断った。それでも心配や善意で、仁にいろいろと言ってくる人はいたが、湊が味方になってくれた。


「あの時、湊さんがいなかったら、養父さんの探偵事務所を、俺引き継げなかったかみしれないな」


実の親から施設に預けられて一人ぼっちになった10歳の仁を、愁一郎は自分の息子に迎えてくれた。仁に〈チカラ〉の使い方などを教えて、八年間育ててくれた養父の橘愁一郎が病気になって、いろいろと不安になった仁を湊は助けてくれた。

だから、高校を卒業した仁は正式に『橘探偵事務所』を引き継げた。これも湊が手助けをしてくれたおかげだ。


「(湊だけじゃないもん!オイラもてつだったもん!)」


湊の膝の上で丸まって寝ていた、茶色の毛並みに黒の縞模様の尻尾が二股の虎猫が、突然起き上がり、喋った。


「おはようさん、小鉄こてつ。よう眠れた?」

「(湊。おはよう)」


虎猫の小鉄はう〜んと背中を伸ばし、頭をカリカリとかく。仁も湊も、猫が人の言葉を喋っていることに驚かず、当たり前のように平然としていた。

それもそのはず、仁と湊の目の前にいる虎猫はただの猫ではない、『神憑き三家・北原家』の〈守り神〉である〈妖神・猫神〉。そして、北原湊は関西の名家である『神憑き三家・北原家』の当主の息子。現在、『北原家』の〈守り神〉である〈猫神〉の小鉄に憑かれている〈猫神憑き〉だ。



〈妖神〉


〈人ならぬモノ〉の上位に立つ存在〈妖の神〉。

森や山などに住む〈人ならぬモノ〉たちが人に〈山神〉、〈土地神〉、〈神〉として崇められ、畏怖を受けて、昇格した存在。



『神憑き三家』


古くから〈妖神〉を〈守り神〉に持つ三つの家系。

先祖代々に家系の何代かに一人の人間が〈妖神〉に憑かれる。〈妖神〉に憑かれた人間が産まれてから死ぬまで〈妖神〉が離れることは決してない。

『神憑き三家』の〈妖神〉は、家の〈守り神〉とされているが、実際は自分が憑いた人間だけを〈妖神〉は愛し守る。〈妖神〉の執着は凄まじく、〈妖神憑き〉の意思は関係ない。

そのため、『神憑き三家』の〈妖神〉に憑かれた人間、〈妖神憑き〉は安全と恐れゆえに、子供の頃から幽閉されて一族から無き者とされる。



何年か前に『神憑き三家・朝宮家』の〈妖神憑き〉を、『朝宮家』の人間が殺そうとする事件が起きた。

『朝宮家』の〈守り神〉たる〈妖神〉は怒り、死人が出る大惨事になった。『こちらの世界』でも大騒ぎになり、その事件は『災害』とされた。


(……恐ろしいより撫でまわしたいだな)


湊に甘える『神憑き三家・北原家』の〈守り神〉である〈妖神・猫神〉小鉄は、優しく撫でる湊に甘えるように喉をゴロゴロと鳴らす。

どっからどう見ても、主人に甘えるただの虎猫が、『こちらの世界』を畏れさせ、『災害』とされた同じ『神憑き三家』の〈妖神〉なのか。仁は疑いそうになる。

しかし、例えそう見えていたとしても、油断してはならない。〈人ならぬモノ〉に人の常識などは通じない。〈彼ら〉は〈彼ら〉の〈理〉のなかで生きる者。〈人ならぬモノ〉とは線引きをするように気をつけなさいと、仁は愁一郎から、度々注意されていた。


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