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怪異探偵事務所   作者: 夜乃桜
置き忘れた想い
4/7

お困りのご婦人

目的の部屋に着いた玲奈が、ノックして扉を開ける。


「失礼します」

「えっと、お邪魔します」


暖かな陽射しが入るリビング。品の良い家具が置かれた部屋のソファーに、女性が座っていた。


「突然、席を外して申し訳ありませんでした。祥子さん」


歳は60代ぐらいの灰色の髪を綺麗にまとめた、緑色の瞳の優しげ雰囲気の女性。玲奈が女性に頭を下げ、謝罪する。

この女性、祥子が玲奈の言っていた婦人なのだろうか。


「玲奈さん。先ほどはどうし……あら、そちらの方はどなたかしら?」


小首を傾げた女性が尋ねる。


「この男は、力を貸してもらおうと私が依頼した探偵です」

「まぁ」


玲奈からの部外者の男、仁の説明に、女性はほっと安心した様子を見せた。


「こんな姿で失礼するわ。はじめまして、よく来てくださいました。わたくし、野崎(のざき)祥子(しょうこ)と申します」

「はじめまして、探偵の橘です」


座ったまま、穏やかな笑みを浮かべて差し出す祥子の手を、仁は握る。


「祥子さん、彼は優秀な探偵です。きっと、この家の不可解な出来事を解決してくださいますよ」

「まぁ、それは頼もしいわ。是非ともお願いするわ。探偵さん」


祥子を安心させるかのように、玲奈は笑顔で優しく言った。

祥子と玲奈がどういう関係かはわからない。しかし、玲奈は祥子に信頼されているのが見える。

なので、まずい。


「いや、俺は」

「わたくし、この家で何が起こっているのかが、わからなくて不安で。優秀な探偵さんが来てくれて、本当によかったわ」

「いや……あの……」


よろしくお願いしますと、祥子は頭を下げる。まだ依頼を引き受けていない、断ろうとしているのですと、仁は言えない。

仁が藁にも縋るつもりで、玲奈に視線を送るが、玲奈はにっこりと笑う。


「では祥子さん、探偵さんにこの家で起きている不可解な現象について、話してください」

「……ええ、お話いたしますわ」


もう依頼を断れない状況に陥ってしまった。もう勝ち目はない。諦めた仁は、玲奈と共にソファーに座った。

祥子が用意してくれた紅茶を、仁が一口飲んだところで、祥子が話す。


「最初に異変が起きたのは、わたくしの夫が亡くなって、しばらくしてからでした」


最初は自分が置いていた物がなくなったり、物が別の場所にあったりとなど、開けたはずのない扉が開いていたりなどの小さなこと。最初は気のせいだと祥子は思っていたが、確信になったのは、ある夜中のことだった。

自分以外いないはずの真夜中。怪しい物音に祥子は眼が覚めて、物音のした部屋に行った。すると部屋の中からゴソゴソと動く気配を感じた。思わず、祥子は部屋のドアを開けて、灯りをつけた。しかし、部屋には誰もいなかった。

念のためにと、祥子は部屋の隅から隅まで確認したが、部屋が荒らされた形跡はなく、無くなった物はなかった。家の窓や扉の鍵も確認するが、しっかりと鍵がかかっていた。


「それから、夜になると物音がするようになったの」


自分以外にだれもいないはずの家の中を、誰かが歩き回っている。物音がしたところを調べると時折、物が置いてあった場所から少し移動していた。祥子は不安になった。


「甥や警察の方などに、頼んで調べてみてもらっても、誰かが侵入した形跡は一つもなくて、何も盗まれていない。何も問題ないと言われましたが、わたくし、怖くなって。もしかしたらと思い、玲奈さんに相談して来てもらったのです」

「……なるほど、もしかしたらと言いますと、野崎さんはこれが人の仕業ではないと思ったからですか?」

「ええ、そうです。ですから、玲奈さんなら何かわかるんじゃないかと思って……」


静かに話を聞いていた玲奈は紅茶を一口飲み、カップを机に置く。


「まだ、よく調べてみないとわかりませんが、今は家に何かいるような気配は感じません」

「……そう……」


不安げな祥子に、玲奈は安心させるために力強く言った。


「安心してください。祥子さんに害をなす不埒ものなど、私が叩き斬ります」

「あら、頼もしいわね。玲奈さん」


祥子は、玲奈の言葉を冗談だと思って笑う。庭で喉元に刀を突きつけられた仁は確信する。

冗談じゃない、本気だ、これ。仁はさりげなく玲奈から視線をそらす。


その時、ノックもなしに突然、部屋の扉がひらいた。


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