少女の正体
また太刀を突きつけられてはたまらないので、仁は正直にすべてを話した。
「依頼人の名前や連絡先なども聞かずに依頼を引き受けるとは」
「まだ、引き受けてない」
強めの口調で、仁は反論。
一応、依頼内容の確認はしておこうと思って、来たのだと強調した。そこは譲れなかった。
「そうか……ちなみにその老人はどんな人だ?」
「え、ああ、握りのところが鳥の形をした杖をついていた、70代ぐらいの背の高い男性の老人だった」
少女の眼が、僅かに見開く。そして、眉を寄せて、考え込む。
「……なるほど、そういうことか」
「え、何がどういうことだ?」
さっぱりと訳がわからない。説明を求める仁に、少女がにっこりと笑う。
(……なんか、面倒事になりそうな気がする……)
こういった時の予感は、外れたことはない。あとずさる仁に少女は身を乗り出す。顔がちかいちかい。
「いや、今この家では不可解なことが起きていて、この家に住むご婦人が困っている」
「……は?」
「なので、お前にも手伝ってもらう」
「……え?……」
仁の眼が点になり、間抜けな声が漏れる。思考が追い付かない。そんな仁を無視して、少女は話を進めていく。
「依頼の探し物は、この家に起きている不可解な出来事の原因となっているものを見つけることだ。原因の対処は、私が行う。お前はこの家の不可解な出来事の原因を見つけるだけでいい。依頼の報酬はしっかりと払うから安心しろ」
「いや、ちょっと待て!タイム!」
一方的に話す少女に、スットプをかける。情報が多すぎる、老人の探し物の依頼はこれなのか。
「ちょっとまだ」
「まず、この家の不可解な現状の説明をしてからだな。そしたら、話は家の中でするとしよう。付いてきてくれ」
少女が歩き出す。少女に何か言おうとしたが、仁は何も言えず、黙って少女の後を追う。
「あ」
家の庭から玄関に移動。玄関で靴を整えて、家に上がった仁は、あることに気がつく。
「どうした?」
「いや、名前言ってなかったなと」
目的は伝えたが、自分の名前などの素性を伝えていない。
「ああ、そう言えばそうだな」
自分もそうだと少女が頷く。
名前も知らない相手を家に招くなど危ないだろうと言っても、名前も知らない少女に、のこのことついている仁がいえることではない。
とりあえず、気を取り直して。
「俺は『橘探偵事務所』の所長をやっている橘だ」
「失礼した。私の名前は横山玲奈、〈魔術師〉だ。よろしく頼む。橘」
「ああ」
少女、玲奈から差し出された手を、仁は握った。
〈魔術師〉
世界の理を探求し読み解き、己を万能にしようと志す、神秘の学問を研究する研究者。
手を握りながら、仁は玲奈を観察する。年齢は18歳か19歳か。玲奈の髪や瞳の色、容姿から外国人だと思うが、顔立ちは東洋系、日本人に見える。それに、名前が本名とは限らない。『こちらの世界』なら猶更。
「言っとくが、私の名前、玲奈は本名だ」
「はっ?」
思わず、仁は間抜けな声を漏らす。
名前には、〈チカラ〉が宿る。そのため、『こちらの世界』の人間は、名前を利用した〈呪術〉などから己を守るため、名前や正体などを知られないように隠匿する。念のためにと、下の名前を仁は伏せた。
『こちらの世界』の者たちは、自分から相手に名前を名乗ることはしない。それなのに、玲奈は自分から〈魔術師〉であること、そして名前を告げた。
もし、玲奈の名前を仁が利用したら、どうするつもりか。
「別に問題ない。私は甘くはない」
「な、なんのことだ。いきなり」
愉快気に告げる玲奈に、仁は動揺する。
「さぁ?なんのことだろうな?」
玲奈はくすりと笑い、廊下を歩き出す。
(……こいつ……)
仁は黙って、玲奈の後ろについていく。
玲奈は、単に自分をからかっているのだろうか、それとも試しているのだろうか。それとも両方か。どちらにしても、油断のならない相手である。
(とりあえず、不利にならないように気をつけよ)
仁は決意した。




