再会
ことの始まりは、一人の老人の依頼だった。
・・・ある物を探して欲しい・・・
『橘探偵事務所』に訪れた老人は、一方的に用件を告げた。そして、住所が書かれた紙を、仁に差し出した。
・・・えっと、すみません。何を探すのかの依頼の内容などを詳しく、お名前などの連絡先を聞かせてもらいたいんですが・・・
・・・……すまないが詳しい話は明日。……必ず来てくれ・・・
深々と老人は頭を下げた。訳ありと思われる老人から、仁は聞き出すことは、出来なかった。そして、老人は『橘探偵事務所』を去っていった。
残された仁は、この依頼を引き受けるかべきか、止めとくかべきかと迷った。明らかに訳ありだと思われる依頼だが、こういった依頼は初めてではない。それに、どこか切実な様子の老人が気になる。
仕方がない。話を聞いてから依頼を引き受けるかどうか決めようと、仁は考えた。
そして翌日。紙に書かれている住所の場所に来たが、未だに仁はためらった。迷う仁は、家の周りをうろついていた。
そしたら。
コツン
「イテ」
頭に何かが投げつけられた。見上げると、家の塀の上。
りんご1個サイズぐらい、単色の服を着てナイトキャップを被った小さき〈人ならぬモノ〉たちが、仁を見下ろしていた。
〈人ならぬモノ〉は基本人間に関わることはない。あるのは、人間に悪戯など、喰う時、眼があった時。それが『こちらの世界』での〈彼ら〉の常識。
(……これは、チャンスかも)
仁は接触してきた〈彼ら〉から、依頼の家のことを教えてもらおうと考えた。ちょうど、ポケットには数個の飴がある。
「なあ、頼みがある。この家に住んでいる人間のことなど教えて欲しいんだが」
ポケットから飴を取り出し、取引を持ち出した。小さき〈彼ら〉は甘い物が好きだったりする。
仁の持つ飴を見て、〈彼ら〉は互いの顔を見合わせた。そして、笑いながら仁を手招きした。馬鹿正直に〈彼ら〉に従って、仁は〈彼ら〉に近づいた。
そしたら、体が光に包まれた。
「はっ?」
仁は光に驚き、眼を閉じた。
そして、閉じていた眼を開けると、依頼に来た老人の紙に書かれていた住所の家の庭に放り出され、少女に太刀を突きつけられていた。
どういう状態だ、これは。
「……お前はあの時の…」
少女の真紅の瞳が驚きに一瞬見開かれて、鋭く睨まれる。
仁の喉元に太刀を突きつけるは、昨日の夜に出会った、真紅の瞳を持った美しき長身の少女。まさかの再会に、仁は混乱。
「……えっと、俺はある老人の依頼のために来たわけでして……怪しい者ではないんだが……」
「それを信じると思うか?」
「……しないよな……」
仁は苦笑いで、少女に同意した。
間抜けにも仁は、〈彼ら〉に騙された。〈彼ら〉にとっては、ただの悪戯だったのだろう。もともと〈彼ら〉はそういう存在だ。
「答えろ」
仁の喉元に刀がかすめる。ただ、それが生死に関わることになってしまった。
(ヤベェ、マジでどうしよう……)
今すぐにでも、この場から逃げ出したい。しかし、目の前の少女がそれを許さない。
仁に突きつけられている太刀。これが、ただの太刀ではないことを、仁は知っている。炎を纏う、〈人ならぬモノ〉の力を宿した妖しの刀。その太刀を使いこなしている少女もただ者ではない。逃げることは無理だ。
(……そういえば、〈人ならぬモノ〉がいる家なんて珍しいな)
庭を見通すと、仁を騙した〈彼ら〉が、庭の花や木の影からこっそりとこちらを覗いていた。諦め半分と面倒くささに、仁は現実逃避中。
〈人ならぬモノ〉
何かの想いや畏れから産まれたモノや長い年月を経てなるモノ。人とは違う〈理〉で存在するモノ。
〈人ならぬモノ〉は自分の産まれた場所、自分が気に入った場所を住処にすると言われている。それか、人間のいない、〈人ならぬモノ〉だけの世界『異界』に住んだりする。
〈人ならぬモノ〉は性質やあり方から、〈妖〉〈妖精〉〈精霊〉〈魔獣〉〈鬼〉〈悪魔〉など、『こちらの世界』の者はわかりやすく分類している。同じ種族の〈人ならぬモノ〉でも、国や地域によって様々な別の呼び名があったりする。
仁が会った、小さき〈人ならぬモノ〉は『こちらの世界』なら〈妖精〉と分類するモノ。
(……撫でたい……)
庭にいる〈妖精〉達を思わずガン見していると、一体の〈妖精〉と眼が合う。仁と眼があった〈妖精〉は慌てて影に引っ込む。
「……お前はどこを見ている」
少女の呆れ声が、仁を現実に引き戻す。
この状況で、〈妖精〉達をガン見する仁に、少女は呆れた笑いを漏らす。そして、太刀が少女の手から〈カラダ〉にしまわれた。
「えっ?……えっと、いいのか?」
戸惑いながら、仁は少女に問う。
自分で言うのもなんだが、仁は明らかな不審者だ。人様の家の周りをうろつき、庭に不法侵入。斬られて文句は言えない。
あ、いや、流血沙汰は勘弁して欲しい。
「ああ、問題ない」
最初から仁のことを、少女はそこまで疑っていなかった。
昨日の夜、仁は〈化生〉に襲われていた自分を、助けようとしてくれた。大丈夫だと自分の勘が主張する。それに、〈妖精〉のいたずらに引っかかった間抜けに警戒するのも馬鹿らしい。
「さて、お前は先ほど老人の依頼のために、この家に来たと言ったな?」
「えっ、まあ、一応」
仁は困り顔で頷いた。




