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怪異探偵事務所   作者: 夜乃桜
置き忘れた想い
1/9

プロローグ

冷たい風が肌に突き刺さる冬の一月。

依頼者に報告を終えた帰り道を黒髪に紫黒色の瞳、地味だが整った顔立ちの男が歩いていた。

男の名前は(たちばな)(じん)。失せ物探しの筋と名高い『橘探偵事務所』の若き所長。


「あー、寒い寒い」


冷たい風に、仁は体を震わせる。依頼の報告が長引いたため、すっかり夜になってしまった。

今夜は月が雲に隠れた曇天。こんな日は、人とは〈異なるモノ〉が暗闇に寄り付きうごめく。

早く家に帰ろうと早足で、曲がり角を曲がろうとしたそのときだった。


「(ギィィィーー!!.)」


鼓膜に突き刺さるような奇声。


(……まさか)


嫌な予感に、仁は奇声のした方に向かう。

たどり着いた場所は空き地。空き地には、異形の姿をしたモノたちがうごめいていた。


「ッ?!」


それは〈化生〉の群れだった。



〈化生〉


強い未練や妄執などで、自分を棄てた異形のモノ。〈理〉から堕ちたモノ。

満たされない飢餓状態で、生き物の血肉や〈魂〉を喰らう。時に理性を持つモノもいるが、基本狂っている。



闇夜に潜む〈化生〉群れが、一人の少女を囲っていた。しかも、少女は逃げることもせずに、その場に突っ立っている。

〈化生〉の群れが、少女を喰らおうと襲いかかった。


「危ない!」


仁は叫んだ。策もなく懐から護身の札を出して、少女の元に走る。

〈化生〉の鋭い牙が、爪が少女を切り裂こうとする。仁が間に合わないと思った、その時。


ゴウゥゥ


少女の右手が炎に包まれた。その炎は少女の右手に集まり、形となる。炎は刀身が輝く、見る者の眼を奪う、美しい太刀となった。

そして、太刀を構えた少女は〈化生〉の群れに振りかざした。


「(ギァァァァァァァァァァ……)」


太刀から火焔が爆裂し、真っ赤な炎を噴き上げる。〈化生〉の一際高い叫びを炎が飲み込み、夜陰を赤く染める。

助けようとしていた仁にも熱波が襲い掛かった。仁は思わず、眼をつぶる。


「……?……!」


襲い掛かる熱がない。肌に感じるのは、温風程度のもの優しいもの。仁は驚いて、顔をあげる。


「…あっ」


いつの間にか、仁の目の前にすらりとした長身の少女。

背中に流した真白の髪、右耳につけたルビーのピアスと同じ、美しい真紅の瞳。白のブラウスに赤のリボンとスカートに、きっちりと金のボタンで留めた黒い上着にコート、皮のショールダーバック。右手に黒の皮手袋にブーツ、気品を纏う白皙の美少女。


(……綺麗な……)


仁は思わず少女に見惚れる。少女は惚ける仁の首元に、太刀を突きつけた。


「……お前は……」


鋭く仁を睨んでいた少女が、仁の持つ札に気がつく。仁の首元に突きつけられていた太刀が炎に包まれて、一瞬で消える。


「〈同業者〉か。不躾なことをして済まなかった」

「……あ、いや」


少女は仁に謝罪。そして、戸惑う仁を置いて、少女は何事もなく去ってしまった。

呆然とその場に立ち尽くす仁は、少女の背中を見送った。


これが、始まりだった。


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