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555字の掌編

好き、嫌い、絶望、のちに晴れやか

作者:

「温泉って好き?」

「ムリ」

 即答された。だから温泉旅行は避けてたのか。何度か提案したけど、別々に入るから意味ないって断られた。ホテルだって別々に入るのに。

「お風呂と違って気持ちいいのに」

「どんなやつが入ったかわかんない湯に浸かるとかない」

 そっかー、と私はアイスラテを飲む。

「私は温泉好きだけどな」

「脱衣所歩くのもムリ」

 私は笑う。彼はきっと気付いていない。もうずっと前から、私の笑い方は乾いているということに。

「それより瑞穂、リニューアルされた遊園地いつ行く?」

「絶叫系苦手って言ってるじゃん」

「大丈夫、楽しいって。いつにする?」

 私はラテを最後まで飲み干して、氷がカチャンと音がしたのを確認して声を出す。

「行かない」

 こんな寒い日にアイスを頼んだのは、とっておきの氷点下の声を出すため。

「何でだよ?」

「行かない、私はもうあなたと別れるから」

「は……?」

「私を大事にしてくれない人と一緒にいるつもりはない、サヨナラ」

「ちょっと待てよ、そんな急に」

「急にじゃないよ、私はずっとサインを出してた」

 思えば、映画館に五分遅れで入ったにも関わらず、頭も下げず堂々と歩くこの人を見て絶望したのは半年以上も前だ。

「それじゃ」

 自動ドアに向かって歩く私の足取りは驚くほど軽い。

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