好き、嫌い、絶望、のちに晴れやか
「温泉って好き?」
「ムリ」
即答された。だから温泉旅行は避けてたのか。何度か提案したけど、別々に入るから意味ないって断られた。ホテルだって別々に入るのに。
「お風呂と違って気持ちいいのに」
「どんなやつが入ったかわかんない湯に浸かるとかない」
そっかー、と私はアイスラテを飲む。
「私は温泉好きだけどな」
「脱衣所歩くのもムリ」
私は笑う。彼はきっと気付いていない。もうずっと前から、私の笑い方は乾いているということに。
「それより瑞穂、リニューアルされた遊園地いつ行く?」
「絶叫系苦手って言ってるじゃん」
「大丈夫、楽しいって。いつにする?」
私はラテを最後まで飲み干して、氷がカチャンと音がしたのを確認して声を出す。
「行かない」
こんな寒い日にアイスを頼んだのは、とっておきの氷点下の声を出すため。
「何でだよ?」
「行かない、私はもうあなたと別れるから」
「は……?」
「私を大事にしてくれない人と一緒にいるつもりはない、サヨナラ」
「ちょっと待てよ、そんな急に」
「急にじゃないよ、私はずっとサインを出してた」
思えば、映画館に五分遅れで入ったにも関わらず、頭も下げず堂々と歩くこの人を見て絶望したのは半年以上も前だ。
「それじゃ」
自動ドアに向かって歩く私の足取りは驚くほど軽い。




