トントンとピコと大切なもの
昼の森。
トントンの家の庭では、トントンとピコが木の枝や葉っぱを使って遊んでいました。
ふたりで作っていたのは、小さな「森の町」。
枝で家や道を作って、川のかわりに小石を置いて――楽しい時間のはず、でした。
「ピコ、それ僕の家の場所だよ!」
「えーっ、ここの場所はオイラの家にするんだ!」
「ちがう!そこは僕のだ!」
トントンが枝を引っ張ると、ピコも負けじと引き返します。
ぐいっと力を入れた拍子に、枝がバチンとはねてピコの羽にあたりました。
「いたっ!」
「……そっちが引っぱるからだろ!」
「オイラのせいにしないでよ!」
トントンはむっとして、腕を組みました。
「もう知らない!」
「オイラだって知らない!」
ピコは怒って家の隣にある自分の巣に戻り、トントンは庭を出て森の奥へ歩き出しました。
風がやみ、森はしんと静かです。
(もうピコなんて知らない)
トントンは唇をかみながら歩き続けました。
でも胸の奥がちくりとして、なんだか寂しくなります。
やがて、前の方でガサガサと音がしました。
「ピコ?」
木の陰から顔を出したのは、見知らぬ人間たちでした。
手には網と長い棒。
「おい、ブタがいるぞ」
「ほんとだ、捕まえよう」
ばさっと音を立てて、大きな網が降ってきます。
トントンは驚いて逃げようとしましたが、足がもつれて転びました。
「やっ! やめてっ!」
もがいても、網はどんどん締まっていきます。
そのころ、巣の中でうずくまっていたピコがふと顔を上げました。
風の中に、聞き慣れた声。
「……トントン?」
胸がドキンと鳴り、ピコは巣から駆け出しました。
「トントン!どこー!」
枝をくぐり、土をけりながら森を走り抜けます。
草をかきわけた先で、
荷台に縛られたトントンの姿が見えました。
「トントン!!トントンーっ!!」
ピコは声をふりしぼって走りました。
けれど短い足では追いつけません。
やがて、荷台が入っていった工場の煙突から白い煙が立ちのぼりました。
ピコはその場にへたり込み、涙がぽとぽと地面に落ちました。
「トントン……ごめんね……ごめんねぇぇっ……!」
ピコが叫んだ瞬間、視界が真っ白になりました。
空が歪み、森が溶けていきます。
――気づけば、自分の巣の中。
朝の光が差しこんでいます。
「……ゆ、夢?」
ピコはあわてて駆け出しました。
トントンの家の戸をあけると、そこには――
パンケーキを焼いているトントンの姿。
「ピコ! おはよう。……昨日はごめんね」
ピコの目からぽろぽろ涙が落ちました。
「オイラこそ……ごめん! もうケンカなんてしない!」
ピコが泣きながら抱きついてきて、とまどうトントンでしたが
それでも優しく抱き返しました。
ふたりの影が、朝日に長くのびていました。




