塩ラーメン
俺は塩ラーメンが嫌いだ
そもそも塩ラーメンの定義を教えてくれ
醤油を使ったラーメンが醤油ラーメン
味噌を使ったラーメンが味噌ラーメン
豚骨使えば豚骨ラーメン魚介を使えば魚介ラーメン
なら塩ラーメンは塩を使えば塩ラーメンなのか?
それだとラーメンが塩ラーメンにならないか?
一人ポツンと塩ラーメンの袋麺を作りながら考える
一度調べたことがあった出汁と塩ダレでスープを作れば塩ラーメンらしい
だがこのあいだ塩ラーメン選手権って番組で
鯛のアラと醤油のスープのラーメンが優勝してからまたわからなくなった
わからない
しょっぱければ塩味だから塩ラーメンなのか?
ラーメンはみんなしょっぱいもんだろ?
それとも堂々とこれは塩ラーメンですって言えば
醤油だろうが味噌だろうが塩ラーメンになるんだろうか
俺は塩ラーメンが嫌いだ
醤油 味噌 豚骨etc
数ある味の中からなぜ一番塩だけのラーメンを食わなきゃいけないんだと思ってた
買い物で母親が塩ラーメンの袋麺をカゴに入れるたびに
同じ値段なら醤油とか味噌とか塩味以外に味あるやつ買えばいいのにと子供ながらに思ったもんだ
大学生になって酒の味を覚えてからも
社会人になってタバコの煙に頼るようになっても
この考えだけは変わらなかった。
恋人とはいつもこの話をしていた。
彼女は塩ラーメンが大好きだった。
彼女は毎度くだらねーとゲラゲラ笑いながら俺の持論をつまみにビールを空けてた。
そして決まって最後には
「ウチが今度おいしー塩ラーメンの店連れてってやるから」と言って〆ていた
何軒行ったっけか?
九州やら北海道やら色々なところに引っ張り回された
悪くないと思える味のとこもあれば奇抜すぎてラーメンなのかすらわからないものもあった
運転するのはいつも俺だった
嫌いな長距離を移動して嫌いな塩ラーメンを食べて帰った
彼女はいつも助手席で満腹で満足そうに眠っていた
信号待ちをしてる間 彼女のそんな寝顔を眺めるのは嫌いじゃなかった
いつもくだらない話で笑ってさ
いつもくだらないことやってさ
他愛もない話ばかりしていたからいつ何を話していたのか今はもうほとんど覚えていない。
塩ラーメンが嫌いだ
こいつを作ってるとあいつのことを思い出す
浴びるほど酒を飲んでも一緒に飲んだ酒の味も思い出せなかったし
心に溜め込んだものはタバコの煙みたいに吐き出せなかったのに
だがこれを作ってる時はふとしたことを思い出す。
話していた内容も 表情も 髪型も 顔の形も
だんだん薄れていく記憶をこいつの匂いだけが
思い出させてくれる。
塩ラーメンが嫌いだ
こいつは一人で食うにはしょっぱすぎる