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ペルソナ・ノングラータ  作者: 不覚たん
第三章 悪しき戦争(マラ・グエラ) 後編

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不死身の男

 やや離れた自由都市へやってきた。

 ここも辺境伯の兵に蹂躙されている。

 もとの住民たちは外へ追いやられ、臨時のキャンプを作っていた。食料に乏しいらしく、みんな横になっていた。


 今回はピチョーネだけでなく、ソフィアさんもつれてきた。

「ちょっとマルコ。もっと優しく運んでよ。お尻が痛いわ」

「もう少しですから我慢してください」

 二人は荷台に乗っていた。

 俺はそれを運ぶ馬車馬だ。


 街は平地にあった。

 つまり地形は使えない。

 もっとも、こちらは最初から機械装甲のスペックだけで勝負するつもりでいるから、地形はあまり気にしていないが。


 遠隔映像テレ・ビジオネで、フェデリコさんからの連絡がきた。

『いいか? なるべくマルコくんを主軸にして戦うんだ。ピチョーネくんは、ギリギリまで手を出さないこと』

「やだ。少しでも危なくなったらヤるから」

 言うだけムダだろう。

 フェデリコさんはしかし反論を無視し、言葉を続けた。

『ソフィアくんも、戦いが終わるまで前へ出るな。君は非戦闘員なのだからな』

「ええ。善処しますよ、先生」

 こちらはじつにさめた目をしている。

 指示に従う気があるのかは怪しい。

『では健闘を祈る』

 フェデリコさんは余計な議論をしない。

 最初からあきらめている節もあるが。


 *


 俺は二人をキャンプに残して、街へ近づいた。

 街の人たちは、最初から自分たちで街を取り戻す気はないようだ。ただ俺の背を見送っている。あるいは、やる気がないのではなく、フェデリコさんとの契約でそうなっているのかもしれない。


 一方、街側――。


 門からは、ぞろぞろと兵が出てきた。

 機敏な動作ではないが、各自がやることを理解しているような。

 この感じ、身に覚えがある。


 先頭に立ったのは、派手なトサカの兜のおじさんだった。

「単騎で自由都市を陥落させたメチャクチャなヤツがいるとは聞いていたが……。まさか本当に来るとはな。俺は傭兵隊長のアルトゥーロ。ここの守備を任されている。お前の名を聞こう」

「マルコです。無益な戦いはやめて、兵を引いてください」

 できれば敵として会いたくなかった。

 だけど、出てきてしまった以上、選択肢はない。

「マルコか。薄々そんな気はしてたぜ。お前は昔から常識外れなところがあったからな」

「兵を引いてくれませんか?」

「断る。俺たちは傭兵なんだ。金でしか動かん。言わせるな」


 そう。

 彼は傭兵として生きることを選んだ。

 金でしか動かない。


 だが、俺はどうしてもあらがいたかった。

「山賊みたいなマネをして、傭兵の名が泣きますよ」

「傭兵に名などない。武勇や伝説は、吟遊詩人が勝手に作るものだ」

「考えは変わりませんか?」

「問答無用」

 アルトゥーロさんは剣を抜いた。

 もう始まってしまう。


 アルトゥーロさんは、俺が初めて世話になった大人の人だ。

 心のどこかで尊敬していた。

 なぜなのか理由はよく分からない。

 尊敬できるような人物でもないのに。


 アルトゥーロさんが剣を掲げると、一斉に矢が放たれた。矢は空を覆い尽くし、まるで雲のように見えた。その雲が、そのまま大地へ降り注いでくる。


 俺は装甲を信頼し、歩を進めた。


 ロングボウから放たれた矢は、鋼鉄の装甲をも貫通する。

 だけど、それは薄い鎧の場合だ。

 俺が使用している機械装甲は、人では運搬できないほどの厚みがある。のみならず、コアから供給されるエネルギーで、防御魔法までかかっている。

 矢は通じない。


「総員、突撃!」

 アルトゥーロさんは自ら駆け出し、兵を誘導した。

 いつもそうだ。

 死を求めるかのように、最前線へ身を投じる。


 彼ら傭兵の主兵装は剣。

 リーチは短い。

 槍隊も見えるが、後ろで待機させているところをみると、あくまで防御用の部隊なのだろう。


 俺はこの期に及んで、まだ覚悟を決められずにいた。

 アルトゥーロさんとは戦いたくない。

 ハルバードを腰だめに構えて、傭兵隊を回避、側面へ回り込むことにした。


 勢いのあった傭兵隊は、俺の機動に対応できなかった。

 突進力があればあるほど、部隊の方向転換は難しくなる。


 まあそれはいいが。

 俺はおそらく、判断を間違えた。

 側面に回ろうとしたせいで、後方の槍隊に近づきすぎてしまった。彼らは腰をおとして、槍衾を作った。俺のハルバードより長い。衝突したら前回の二の舞になる。


 フェデリコさんから通信が来た。

『コアの出力をオフェンスにシフトしたまえ。防御魔法を前面に集中するのだ』

「はい!」

 でもシフト?

 どうやるんだっけ?

『いや、コントローラーを実装していなかったな。操作はこちらでやる』

「分かりました!」

 その瞬間、エネルギーの流れに変化が生じた。

 全身にくまなく巡っていた魔法が、前面に集中し始めたのだ。先端の尖った半透明なバリアが現れた。これでぶつかればいいのか?


 俺は機械装甲を信用し、がむしゃらに突進した。

 とんでもない重量の鎧なのに、生身で走るよりスピードが出る。大地を蹴り出すと、蹴り出しただけ加速してゆく。


 槍隊と衝突した。

 その途端、敵の構えていた槍が、バリアに押しのけられて道を開けた。のみならず、槍を構えていた兵たちが、人間とは思えない軽さで弾かれていった。


 俺が駆け抜けたとき、槍隊は中央部を失っていた。

 道ができたのだ。


「うわあ!」

「バケモノだ!」

 逃げるものが現れた。

 一人逃げると、もう一人逃げる。士気の低い部隊が崩れるのは、意外と一瞬だ。


「敵は一人だぞ! ひるむな! 訓練を思い出せ!」

 アルトゥーロさんがこちらへ向かってきた。


 俺は回避して、また槍隊に突進する。

 ぶつかれば勝てるのは分かっているのに、俺は大事な戦いから逃げている……。


 *


 いびつな戦闘はしばらく続いた。

 追いかけっこでもしているようだった。


「クロスボウ兵を街から出せ!」

 アルトゥーロさんの指示で、クロスボウを構えた兵がぞろぞろ出てきた。

 クロスボウは、ロングボウと違って上から降らせる使い方はしない。その代わり、短い間合いで撃つことができる。その距離では、鎧への貫通力も、弓より高い。


 フェデリコさんが慌てた声を出した。

『マズいぞ。あれで後ろから撃つつもりだ。ディフェンスにシフトする。突進は中止だ』

「はい!」

 アルトゥーロさんは、この短時間で機械装甲の弱点を見抜いたのか?

 それとも、とにかくいろんな手を試しているのか。


 もしかすると俺は、アルトゥーロさんという人間を、なにも分かっていなかったのかもしれない。

 この人は、死に場所を探して戦っているかもしれない。それでも、勝つために必要なことは片っ端からやっている。

 ひとつの戦術に固執していない。

 戦場の駒を、ちゃんと動かしている。


 唯一の欠点は、無暗に前へ出てくることだけ。


 俺はハルバードを構え、突進してくる歩兵隊に備えた。

 先陣を切っているのはアルトゥーロさんだ。

 二つ名は不死身。

 だけど本当は不死身じゃない。ただ、死ねなかっただけの男。


 もうすぐ衝突する。

 そしたらアルトゥーロさんは、不死身の名から解放される。


 だが、衝突の直前、傭兵隊が左右に割れた。

 かと思うと、その後ろからクロスボウ隊が駆けてきた。彼らは足を止めることなく、一斉にボルトを放ってきた。

 装甲を貫通しない。

 だが、金属の塊が、次々と撃ち込まれると、さすがに重心が崩れた。ただでさえ背中が重たいのに。


 俺がよろめくと、左右から傭兵隊が集まってきた。

 俺はハルバードを振る余裕さえなかった。

 これが狙いか……?

 次々としがみついてきて、こちらを引き倒してくる。


「見たか、マルコ! これが傭兵の戦い方だ!」

 ズルみたいな奇策。

 だけど、強い。


 俺は仰向けになったまま、動けなくなってしまった。


 このままだと、ピチョーネが来る。

 また鏖殺おうさつが始まってしまう。


 鎧の中で、触媒に触れた。

 コアの駆動が、一段と激しくなる。

「光線を使います! 逃げてください!」

 俺は叫んだ。


 閃光が生じた――。


 強烈な熱が、兵士たちを消し飛ばした。

 燃えるとかいうレベルではない。

 一瞬で、身体を塵にしてしまう。


 光線はなかなか止まらなかった。

 兵を焼き、城壁までも焼き始めた。俺は慌てて手を挙げて、光線を空へ向けた。光の柱のように、それはどこまでも伸びた。


 光が収束したとき、敵兵の半分は消えていた。

 いや、兵だけじゃない。

 城壁も一部が崩れて、街にも被害が発生していた。塔が燃えている。


 やはりこれは……ただの攻撃に使うべき道具じゃない。

 無暗に使えば世界を壊してしまう。


 俺は動けない。

 コアのエネルギーを予想外に使ってしまったらしい。

 重たい機械人形の装甲は、俺の筋力では持ち上げることさえできなくなっていた。


 へたり込んでいるアルトゥーロさんと目が合った。

 運よく生きていたようだ。


「マルコ、なんだその力は……。それは機械人形か? だとしたらお前は、神の軍勢としてここにいるのか?」

「違います。俺は、誰の味方でもありません。使えるものを使っているだけです」

「なるほど。なら、ただの傭兵ってわけだな」

「はい」

 すると彼は剣を拾い、腰をあげた。

 切っ先をこちらへ向けてくる。


「えっ?」

「戦いはまだ終わってない。俺の仕事は、この街を守ることだ」

「部下はほとんど死にましたよ」

「ああ、そうだな。だが、まだ俺が残ってる」

「なぜそこまで……」

 そう尋ねると、アルトゥーロさんは腐った笑みを浮かべた。

「言っただろ。傭兵に家はない。そうして傭兵を続けているうち、戦場が家になる。ここが俺の家なんだよ」

「バカげてます」

「帰るべき家を持つお前には分からないだろう。いや、分かる必要もないのだ。お前と戦えてよかった。楽に殺してやる」

 俺は動けない。

 装甲の隙間から剣を突き込まれたら、たぶん死ぬ。


 鮮血が見えた。

 俺のではない。


 アルトゥーロさんが膝から崩れ落ちると、その後ろにソフィアさんの姿が見えた。

 彼女の手にしたバケツに、血液が溜まった。

「ああ、安心して。まだ殺してないから」

「えっ?」

「動けないようにしただけ。ま、そのままだと、どっちにしろ死ぬけどね」


 ようやく動けるようになった俺は、ゆっくりと身を起こした。

 アルトゥーロさんは生きていた。苦しそうにぜえぜえと呼吸をしている。


 敵兵はじりじりと後退を始めた。

 隊長が戦闘不能になったのだ。

 自分たちが敗北したことを理解したのだろう。


 ピチョーネが不満顔で近づいてきた。

「マルコを助けるのは、私の役目なのに」

 ソフィアさんは眉をひそめている。

「あなた、やり過ぎるでしょ? マルコに嫌われるわよ」

「分かってる! だから我慢したでしょ!」

「そうね。偉いわ」


 ソフィアさんが止めてくれたらしい。

 おかげでアルトゥーロさんの命を失わずに済んだ。

 おそらく、アルトゥーロさんにとっては、本意ではなかったと思うが……。


(続く)

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