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ペルソナ・ノングラータ  作者: 不覚たん
第三章 悪しき戦争(マラ・グエラ) 後編

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機械装甲

 それは「機械装甲」と名付けられた。

 フェデリコさんの頭の中ではすべてが完成していたらしく、実物が完成するのも早かった。材料などはジョヴァンニさんたちが安く提供してくれた。


「この鎧は、コアからのエネルギー供給により、半永久的に駆動し続ける。筋力はいらない。すべてコアのエネルギーがなんとかする。コアは記憶魔法に反応するから、普通の人間では操作できないが……。すでにテストしたように、マルコくんなら操作可能だろう」

 フェデリコさんは興奮気味に説明している。

 徹夜で作業していたせいだ。目の下にはクマもある。


 俺は言うべきか迷ったが、あえて確認した。

「鎧っていうより、乗り物じゃないですか?」

「なんでもいい。大事なのは、これが機械人形に匹敵する兵器だということだ。だが、関節部は相変わらず弱点となっている。そこへの直撃は避けてくれ。生きるか死ぬかは、君のセンス次第だぞ」

「はい……」


 超巨大というわけではない。

 だが、人間サイズというには、いささか大きすぎる。3メートルはないが。小さな建物には入れないだろう。横幅もあるし。

 いまはしゃがんだ状態で床に庭に置かれているから、ひょいと乗り込めるが。


 人の形をした金属の塊。

 納まり切らないコアのせいで、背面が大きく膨らんでいる。腕も意味不明に太い。


「フェデリコさん、なんでこんなに腕が太いんですか?」

「気づいたか? 君も機械人形の光線を見ただろう? あの光線を、その腕から出るようにした。簡単に敵を焼き払えるぞ」

「あの光線が……? それは本当に、人が使っていい力なんでしょうか……?」

 街の焼ける光景を見た。

 野が焼ける光景を見た。

 巻き込まれた人間は、あっけなく消し飛んでしまった。


 フェデリコさんは不快そうに眉をひそめた。

「我々は、これから生存をかけた戦いをしようというのだ。反省はすべてが終わってからにしてもらおう。それよりも、君は自分の心配をする必要があるぞ。光線を使うと、コアから供給されるエネルギーの大半を出力することになる。頻繁に使用してはならない。まあ使用できてしまうが、そうなると動力に異常が出る」

「異常って?」

「安心したまえ。爆発したりはせん。たぶんな。問題は、動力のサポートを受けられなくなるということ。簡単に言えば、しばらく動けなくなる」

「分かりました」

 光線など使わない。

 なにも問題はない。


「材質は、残念ながらオリハルコンではない。ただの鋼鉄だ。それでもコアのエネルギーを防御魔法に変換し、クロスボウを弾ける程度には頑強にしてある。もちろん無敵ではないぞ。君も見たと思うが、機械人形のコアは、ドラゴンの怪力に潰されれば爆発する。だから、ああいうのとは戦うな。戦ってもいいが、必ず正面を向けて戦うこと。コアを破壊されたら、命の保証はできんからな」

「はい」

「ではさっそく、自由都市へ向かってくれ」

「えっ?」

 説明があると言われて起こされて、庭へ来た。

 なんの準備もできていない。

「この近くに自由都市があるだろう? そこの住民たちが、街の奪還のために戦っている。彼らに加勢して街を奪還したまえ」

「いまからですか?」

「いまからだ。もう金は受け取っているのだ。そしてその金は、その鎧に消えた。行くしかない」

「分かりました」

 フェデリコさんは仕事が早いのはいいが、話も早すぎる。

 事前に言ってくれればよかったのに。


 *


 鎧に入り込み、装甲板に背をつける。

 コアの記憶が流れ込んでくる。


 機械が機械を作る都市。

 無表情な神族が、できあがった機械を眺めている。

 みんな表情がうつろだ。

 いったいなにが目的でこんなことをするのだろう……。


 夢は一瞬でさめた。

 装甲が身体を覆いはじめ、完全にカバーされた。


 体を起こすのは簡単だった。

 俺が動かそうとした通りに、動いてくれる。


「マルコくん。分かっているとは思うが、機械装甲の駆動中は、信じられないほどの力が出る。いつもの感じで動いてはダメだぞ。人と握手なんかしたら、相手の手がはじけ飛ぶからな」

「分かってます」

「では行きたまえ」


 俺はハルバードを拾い、歩を進めた。

 とんでもない重量のはずなのに、体が軽い。

 飛び跳ねたくなるほど。


 *


 自由都市はひっそりとしていた。

 交戦中とはいえ、兵たちは二十四時間戦っているわけではない。日が落ちると兵を引く。それから体力を回復させ、日がのぼってから兵を出す。

 そういうものだ。


 だが、俺が現れたことで、両陣営から注目を浴びてしまった。


「なんだあれは!? 機械人形か?」

「それにしちゃ小さくねぇか?」

「どうせこけおどしだろ。殺しちまえ」

 街を支配している兵からは、いきなり敵だと思われてしまった。


 一方、少し離れた森にひそむ人々は、警戒はしつつも、攻撃の動きはなかった。きっとフェデリコさんが話を通していたのだろう。


 街の城壁から矢が降り注いできた。

 俺は構わず前へ。

 装甲は、すべての矢を弾き返した。中にいる俺にとっては、雨でも降ってきたような感覚しかない。


 兵たちからどよめきが起きた。

「ウソだろ? ピンピンしてやがる」

「おい、まさか神が俺たちを裁きに来たんじゃないだろうな」

「そんなわけあるか! もっと矢を放て!」


 矢は大地を覆い尽くすほどに撃ち込まれたが、ひとつとして装甲を貫けなかった。


 城門は閉ざされている。

 とはいえ、木製だ。

 俺はそこへハルバードを叩き込んだ。直撃すると、雷撃が爆ぜて、向こう側が見えた。俺は何度もハルバードを叩き込む。

 これは中古のハルバードじゃない。国王軍の鍛冶屋が鍛えた一級品だ。造りが違う。


 城門を切り開くと、俺は街へ足を踏み入れた。

「皆さん! 待ってください! 俺は被害を増やしに来たわけじゃありません!」

「……」

 槍を手にした兵士が、引けた腰でこちらを囲んでいる。

 こちらが一歩進むと、彼らは一歩引く。

「街を解放したいだけなんです! 略奪なんてやめて、住民に街を返してください!」


 これは主力部隊ではないのだろう。

 本体は引き上げたのに、末端の兵士がいつまでも街を食い物にしているといった感じだ。


「う、うるせぇ! お前、なんの権利があってそんなこと言ってきやがる! 俺たちは正当な勝利者だぞ!」

「そうだそうだ! 俺たちが魔族から街を解放してやったんだ! 少しくらい感謝されてもいいだろ!」


 感謝?

 この惨状が?


 最初はたぶん、空腹に追われてやむをえずやったのかもしれない。

 だが、略奪はエスカレートした。

 家屋に入り込んで金品を奪い、若い女に乱暴を働いた。あまり目を向けたくないが、被害者が山積みにされていた。その死体は兵士ではない。武装していたわけでもなかろう。だから、殺される理由もなかったのに。


「出て行ってください! さもないと、戦うことになります!」


 すると、一人の男が前へ出た。

「なるほど。その声、その態度、そのクソみてーな喋り。お前が誰か分かったぜ、ハルバードのマルコ。一人で乗り込んでくるとは驚きだ」

 ヘビみたいな顔の、ひょろりとした男。

 闇ギルドのメンバーだ。

 以前よりも人相が悪くなっている。

「あなたがこの街を……」

「奪えるところから、奪えるモンを、奪う。それが俺たちのやり方だ。けど、ぜんぶ戦争が悪いんだぜ? 俺たちは被害者だ。こっちも生きるのに必死でな」

「もうやめてください。街は返してもらいます」

 もしかすると、この街を占拠しているのは、喰い詰めた傭兵や、盗賊団なのかもしれない。


 彼は肩をすくめた。

「おいおい。勘違いすんな。お前の鎧がどんだけ頑丈かは知らねーが、たった一人だろ? こっちは何人だ? ん? 数えたこたねぇが。まあ千は超えてる。これで勝負するってのか?」

「します……」

 分からない。

 さすがに千人はムリかもしれない。

 神の送り込んできた機械人形だって、弱点さえ分かれば一人か二人で壊せてしまうのだ。コアからエネルギーを得ているとはいえ、千人は……。


 森にいる市民は、動かない。

 全部俺に任せるつもりでいるのかもしれない。


 なんだか、想像していた仕事とは違う気がする。


「おい、おめーら! 侵入者を殺せ! 敵は一人だ! ひるむな! かかれ!」

「おう!」

 覚悟を決めた兵たちが、わっと襲い掛かってきた。

 槍だ。

 ハルバードと長さは変わらない。いや、むしろ敵のほうがリーチがある。鎧で受けないといけない。関節に当たらないように。


 俺はハルバードを振るったが、一斉に槍で突かれて、大きく後退、そのまま転倒してしまった。


「行けるぞ! 押せ! 押せ! 殺せ!」

「うおおおっ!」

 第二派が来る。

 素人集団かと思ったが……。敵は、少なくともこの略奪で戦った連中なのだ。槍の使い方は知っている。足並みをそろえて、一斉に来る。


 鎧は固い。

 まだダメージはない。

 だが、このまま押しまくられたら……。


 俺は急いで立ち上がり、ハルバードで応戦した。槍は装甲板で受けるしかない。

 最前面にいた敵は、信じられないほどのパワーで切り裂くことができた。だが、後列の突進でぶっ飛ばされた。

 ドーンと派手な音を立てて転倒してしまう。

 敵は勢いづいている。


 なんだか、機械人形の気持ちになってきた。

 破壊兵器として戦場に投入され、人間たちに囲まれ、ひたすら叩かれる。

 あとは力と力のぶつかり合い。

 人間たちは、力の弱さを、チームワークで補い合う。

 孤独な機械人形は、その力におされ、ついには破壊されてしまう。


 転がされているうち、城壁まで追い込まれてしまった。

 逃げ場がない。

 次に槍で突かれたら、後ろにエネルギーを逃すこともできず、槍と城壁に挟まれて、いままで以上の衝撃を受けるだろう。

 装甲が持つかどうか、自信がない。


 にわかに暗雲が立ち込めてきた。

 まるで天が、俺の未来を暗示するかのように。


 いや……。


 雲にエネルギーが蓄積しているのを感じる。ただの力ではない。

 これは、魔法?


 ダーンと派手な炸裂音がした。

 落雷だ。

 見ると、目の前にいた敵兵が、黒焦げになっていた。


 いつの間にか、緑のローブの少女が立っていた。

「マルコ、なんで一人で行ってしまうの?」

「ピチョーネ……」

「私にも声をかけてよ。この街、私の故郷みたいなものなんだから」

 笑っていた。

 だが、その表情には、おそろしいものが潜んでいるように見えた。


「なんだ? 雷か?」

「見ろ! 尻尾が生えてるぞ! あの女は魔族だ!」

「殺せ! 殺せぇ!」

 喚くが、誰も踏み込んでこない。

 恐怖が蔓延している。


 真空波が巻き起こり、複数の兵がバラバラになって崩れ落ちた。

 かと思うと、また落雷。


「見て、マルコ。お空も怒ってる」


 これがピチョーネの魔法――。

 いや、魔女の力――。


 兵たちは動けない。

 前へ出れば切り裂かれ、さがれば雷に打たれる。

 城壁から矢が飛んできたが、バリアがすべて反射した。それらの矢は、正確に射手へ向けて飛翔し、心臓を貫いてしまう。


 実質的にこの街は、完全に制圧されてしまった。


「バ、バケモノだ! こんなの勝てるわけねぇ!」

「助けてくれ!」

「俺たちは命令されてやっただけなんだ!」


 本当にこんなことを命令されたのか?

 街を攻撃して、市民から奪え、と。

 事実かもしれない。

 だが、事実だとしても、許したくない。


 ピチョーネが魔法を使おうとしたので、俺はその手をつかんだ。

「待って」

「えっ?」

「逃がそう。もう戦意を喪失してる」

 俺がそう告げると、彼女はいちど驚いた顔をした。

 だが、すぐ笑顔を見せてくれた。

「あなたのそういうところ、好きになっていいのか、そうじゃないのか、分からない」

「どちらでも」

「どちらでも? そう。なら、今回は拒否しようかな」

「えっ?」


 ズダン、ズダン、ズダン、と、まるで駄々をこねる子供のようなリズムで雷が落ちた。

 黒焦げになる兵たち。

 生き延びたものたちは、パニックになって逃げだした。どこへ逃げていいのかさえ分からず、互いにぶつかりながら。


「私、この街が嫌いだった。毎日モノみたいに扱われて、なんのために生きてるのか分からなかった。誰も助けてくれなかった。みんな死ねばいいのにって思ってた。でもね、あなたに助けられたの。これでも考えを変えて、優しくなったんだよ? 殺すのは、悪いヤツだけ。だから、マルコ。せめて悪いヤツを殺すときだけは、我慢させないで」


 大地から炎が吹きあがり、残りの兵たちも死んだ。

 あのヘビ顔の男も。

 生きたまま火だるまになり、大地をのたうちながら。


 ピチョーネは満足そうに笑っていた。

「うん、そうだね。きっとこういうのを地獄っていうんだろうね。でも、この街にはお似合いだと思う。マルコ、気分を害した?」

「いや、それは……」

 驚いている。

 彼女の力にも、その秘めていた感情にも。

「私のこと、嫌いになった?」

「なりませんよ」

「ウソでも嬉しい」


 雨が降った。

 すべてを洗い流すかのように。


 *


 この日、自由都市のひとつが解放された。

 死者は千人超。

 ほんの数刻の出来事だった。


(続く)

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