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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ガチャで負けても明日は続くから

作者: 宿木ミル

「最近不幸続きな気がするんだよね」


 大学の学食スペース。

 友達のルミがため息交じりに話す。

 顔の角度も下の方を向いているのもあって、ローテンションなことが伺える。


「なにかあったの?」

「ガチャ爆。今週で天井を叩きまくってる」

「あぁ……」


 ソーシャルゲームの敗北が重なってそうなっているのはわかった。

 天井、つまりキャラやアイテムを確定で入手できる保証のこと。大抵の作品で重めに設定されている。


「そんなに悲惨だったの?」

「ピックアップって当てにならないんだなぁって思うくらいには?」

「よくある話」

「今回はお目当てのキャラだったから引きたかったんだけどねぇ、負けちゃったよ」

「でも、キャラは招けたんじゃないの?」

「ごっそりお金様のパワー使って招けたけどさぁ、複雑」


 そう言いながら、悲しそうにうどんを味わう彼女。

 学食の中でもシンプルなおうどんはそれなりに安価でお金がない学生に人気だ。……目の前の彼女のような。

 そんな彼女を見つめながら、私は唐揚げ定食を味わう。ほどほどの値段、ワンコインの価格だ。

 今回のソシャゲは特に追いかけるものはなかったのもあって、お金には余裕はあるのだ。


「しばらくはお昼、おうどん生活だよ、もう」

「……気の毒だし、唐揚げふたつくらい渡そうか?」

「ありがとう、アンズちゃん! 持つべきは友達だね!」


 それとなく箸で掴みやすいように唐揚げが置いてある皿を置き、ルミに渡す。

 美味しそうに食べる彼女の表情は少しだけ明るくなる。


「でも、どうしてそこまでお金を投与してまでほしいって思うのかは気になるかな」

「推しに対して、お金を費やすのは宿命だからね!」

「それで破滅が待ち受けてる宿命は辛いね」


 痛いところをつかれた、という雰囲気を出しながらルミが目を逸らす。

 なかなかに感情がわかりやすい。


「は、破滅してないもん。ちょっと安価な生活しないといけなくなっただけ」

「……それで健康を損ねそうだったら、今度適当に料理でも作ろうか?」

「いいの?」

「いいよ、友達だし。余ってたりしたら適当に渡すよ」

「感謝ーっ!」


 お礼を言いながら、笑顔になるルミ。

 どうにか彼女を闇から抜け出させることはできただろうか。

 お互いに食事を食べ終わったのち、食べ終わった空の食器を運んでいく。


「そういえばさ、アンズちゃん。この後用事ある?」

「え? ないけど……」

「ちょっと行きたいところがあるからさ、付き合ってくれない?」

「別に構わないけど……どこに行くの?」

「買い物。限定品があるんだ」

「……お金大丈夫?」

「だ、大丈夫。欲しいものを買えるだけの資金はあるから!」

「お金で破滅しないようにね」

「気を付けます……」


 しゅんとした表情になるルミ。指摘されて気にしてしまっているのだろう。

 とはいえ、行きたいところに行くというのは気分転換に大切だ。沈む出来事があったなら猶更。

 だから……


「付き合うよ、買い物」

「ありがとうっ、アンズちゃんと行きたかったんだ」

「私と?」

「うん、早速行こう!」

「わかった」


 うきうきした表情の彼女を見つめながら、私はルミについていくことにした。





 大学から抜け出し、街に赴く。

 買い物に行くルミに案内される形で私も移動する。

 大学付近の街は都会なのもあって人も賑わっている。


「よし、目的地到着!」


 そう言って彼女がやってきたのは、ギフト店だった。

 しっかり包装されたチョコレートがいっぱい並んでいて本格的だ。


「ここは……」

「季節の限定品、ここで買うんだ! 予約済みっ」

「しっかりしてる」

「ふふふっ」


 ギフト店に移動して、列に並ぶ彼女。

 しばらくしたのち、ルミはニコニコした表情を浮かべながら、私の元にやってきた。


「よし買えたっ」

「何買ったの?」

「感謝の気持ちのプレゼント!」

「……ん?」


 笑顔の彼女が限定品を渡してくる。ためらいなく、私に。


「き、金欠じゃないの?」

「それとこれとは別。だって、感謝を伝えたいなって思ってたからね」

「……ホワイトデーは過ぎてるでしょ?」

「まぁね。でも、その、あげたかったから」

「そっか」


 彼女が渡してくれたプレゼントを受け取り、見つめる。

 美味しそうな様々な形のチョコレートが並んでいる。

 春が近づいているのもあってか、桜を意識したような柄になっている。お洒落だ。


「ありがとう、大切に食べるね」

「喜んでもらえて、よかった」

「でも、ひとりで食べるのなんだかもったいないから……ふたりで食べたいな」

「買った本人が食べちゃってもいいの?」

「せっかくだから」

「ありがとう、美味しくいただくね」

「じゃあ、近くの公園で食べるとして、ちょっと歩こっか」

「うんっ」


 ギフト店から離れ、公園まで向かっていく。

 その道中、カプセルトイがたくさん置かれたスペースを見つけた。

 カプセルトイ、つまりガチャだ。ソーシャルゲームの苦い思い出があるルミからすると気になってしまうかもしれない。

 そう思いながら、彼女の方を見つめる。すると、物欲しそうな顔で一点を見つめていた。


「推しがいる……!」


 そう言葉にするものの、お金が足りないからか財布を見つめながら寂しそうな顔をするルミ。

 ここは、私が動くべきだろう。


「よし」

「アンズちゃん?」

「私が引こう」

「そ、そんな、私に付き合ってもらう必要はないよ」

「一応私が好きなキャラもラインナップにいるから、気にしないで。引けなくても恨みっこなしで」

「が、頑張れ……!」

「運試しっ」


 お金を投与して、ハンドルを回す。

 カプセルが出てきて、その中身を確認する。

 片目隠れ。ドレスを着た少女。

 これは……


「お、推し―っ!」


 歓喜の声をあげるルミ。そう、ルミの推しキャラのルミナスだ。名前に親近感を覚えたのがきっかけで好きになった彼女の推し。それが出たのだ。

 キャラの名前が出るよりも先に、謎の声をあげてしまっている。

 その光景につい頬が緩みながら、彼女にカプセルの中身を渡す。


「はいっ、プレゼント」

「ま、まさかこれを狙って……!?」

「いやいや、それとは別に渡すものは用意してたけどね」

「ふぇ……?」


 バックの中から取り出して、そっと手渡す。

 包装した手作りのバームクーヘンだ。


「バームクーヘン作ったんだ」

「な、なんでバームクーヘン……!?」

「ガチャで敗北し続けたなら、その分だけ幸せが来てほしいなって思って。連日ガチャで苦しんでたでしょ? だから、励ましたかったの」

「そ、そう、だったんだ」

「食べてもらえたら、嬉しいな」


 バームクーヘンには贈り物としての特別な意味があるという話を聞いて、作りたいと思った。

 彼女が苦しい気持ちになっていると、私だって気になる。だからこそ、笑顔になってもらいたかった。

 私のプレゼントを受け取ったルミは、微笑みながら、少し目を潤わせていた。


「アンズちゃんは、私の幸運の女神かも」

「大げさ」

「だって、そう思ったんだもん。本当に」

「不幸はずっと続くわけじゃないよ。いつか、きっと明るい幸せが訪れるはず」

「うん……そう、そうだよねっ」


 潤む目をこすり、彼女が笑顔になる。

 元気になってくれた。それだけでも幸せだ。


「これからもいっぱい幸運を届けてほしいなっ」

「ルミ、たまには私も見てほしいけどね。推しだけじゃなくて」

「推しもアンズちゃんも好き! 好きがいっぱいの方が健康に暮らせるよ!」

「……まぁ、そういうことにしておこっか」


 彼女の一番になりたいとか、そういうことはまだ考えてない。

 けれども、彼女の隣で、嬉しそうな姿を見つめたりしている時間は幸せだから、これからも続けていきたい。


「よーしっ、今の私ならなんでも引けそうな気がする!」

「それは負けるフラグ」

「えっ、そうかなぁ」

「無理しないようにしなよ?」

「はい」


 とりあえず、運気についてはわからないから、幸せが続くことを願うしかない。

 そんなことを思いながら、カプセルトイのスペースを離れ、公園に赴く。

 その先で、贈り物を食べ合う。


「バームクーヘン美味しいっ!」

「チョコレートもいい味してる」

「うーん、自分でなにか作れるようになった方がいいのかなぁ」

「レクチャーなら付き合うよ」

「本当? じゃあ、頑張ろうかな」

「よし、なら今度、家に行くね」

「その時はガチャを見守ってほしいな」

「……憔悴しないようにね?」

「うぐ! ま、まぁ、楽しく向き合うよ」


 ガチャの結果は不安定。

 日常の幸せだってどうなるかはわからない。

 だけれども、少しでも前向きになれて、幸せを感じられる時間が増えれば、幸福は増えていくだろう。

 明るい時間が増えますように。美味しそうにバームクーヘンを味わうルミの姿を見つめながら、そっと心の中で祈ってみた。

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