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「私が最期に植えた花」  作者: 夜影 月雨
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自然な私

 3か月前....。



私は公園にいた。


いつも通りの時間に起き、美華の実家のすぐそばにある公園までランニングするのが私の日課だった。


好きな音楽をかけ走り出し、

そして私は公園内のベンチの近くで、一つのタオルを拾う。





そのタオルの持ち主こそが「海」。


私はそのタオルを、ベンチに座りスマホを眺めている彼に渡し、自然と隣に座った。


 唯愛「なっなんか...。とてもいい香りがしますね。香水ですか?それなんの香りですか?」

私は、この彼のタオルから漂ってくる香りが気になり、話したこともない人に、つい聞いてしまう自分がいた。


 海「これは...。ミモザ&カルダモンっていう香水ですね。僕も初めて香水つけちゃったからよくわからないんだけど...」

彼は、私の顔をチラッと見つめながらそう言った。


ついつられ、彼の顔をチラッと見てしまう私。

しかし、なぜか恥ずかしくならずに、彼と目を合わせる事ができた。


彼はおそらく30代。

清潔感もあり、髪型もおしゃれ。

一見大人の男性って感じだけど、どこか目の奥が不安そうな顔をしている。


私が前に恋をした"あの男"とはまた違う雰囲気...。



いや...。


私はもう恋愛なんてこりごり。


こりごりなはず...。


あの日から全く男性と関わってないと考えると、心のどこかでまだ、"あの男”との出来事がトラウマになっていた私。


なのになぜ、ここにいる彼とは自然に話すことが出来たのだろう。


ただ香りが気になったからなのか。


私にはその時にはわからなかった。


 唯愛「男の人って香水をあまりつけないイメージなんですけど、意外と皆さんつけてるんですね...」

私は彼にそう言った。


心の中でついその香りに誘われてしまった私。

思い出したくもない"あの男"が、頭からさらに離れなくなる。


すると彼が口にした。


 海「ちょっと自分を変えたくてね。髪型も変えたし...。少しでも前に進みたい自分がいるのかな。それに僕は普段タバコも吸うから、その匂いを少しでも紛らわすってのもあるけど」


 唯愛「タバコ...吸われてるんですね...」


 海「うん。アイコスだけどね。電子タバコになってから一気に匂いはなくなったんだけど、本当に周囲に匂わないか、わからないからさ...」

彼は自分の匂いを気にしながら私に言った。


なぜかタバコを吸う人って聞くと一歩引いてしまう私。


その場の空気が一瞬気まずくなる...。

その空気に彼もすぐに気づいていた。

すると、


 海「ごめんね。こんな話しちゃって。タオル拾ってくれてありがとう」

そお言って、立ち上がりその場を立ち去っていった。


これが彼との初めての出会い。


 その日からちょくちょく、この公園で彼を見かけるようになった。


初めは、あの気まずい空間を共に感じていた二人だった為、お互いにあの出来事をなかったかのようにしたいと思っていた。


ランニング中すれ違ってもお互い声を掛ける事もなく...。


けれどこんなにも毎日同じ時間に会えば、だんだんと軽く会釈をするだけになり、ついに彼の方から「おはようございます」

と挨拶をするようになった。


初めは、挨拶も返そうと思っていなかった私だったが、こんなにも毎日すれ違っていればせざるをえない。



 そしてある日、私は彼が珍しく走らず、ベンチに座っているところを遠くから見かけた。

だんだん近づくにつれ、彼の様子がおかしいことに気づき、つい声をかけてしまう私。


 唯愛「あの...膝痛めたんですか?」

彼は膝をさすっていた。


 海「はい...。少し前から違和感はあったんですけど、今日は特に痛くて」


 唯愛「あの...病院は行かれましたか?」


 海「まだ行ってないんです。でもまた安静にしていたら病院行かなくても治るかなと思って。でもやはりこの歳から急に走り始めたら、どこか痛めますね...」

苦笑いをしながら、そう言う彼。



その彼の姿に私はつい声を張ってしまった。


 「あの...すいません!名前はなんと言うのですか?」

私は彼に聞いた。

彼はビックリした表情で私の顔を見て言う。


 「...最上もがみ かいです」


そう。

ここで初めて私は、彼に名前を聞いたのだ。


そして私は、彼の母になったかのように伝える。

 「駄目です!最上さん!きちんと病院に行ってみてもらわないと!」


その言葉を聞き、彼は言う。


 「そっそおですよね...。はい。病院に行ってみます。それにしばらくランニングもやめときます」

また苦笑いをしながら、彼は私にそう伝えてきた。


これが、私が初めて彼に怒った時の出来事。


それから彼は公園に姿を現さなくなったのだった。

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