音 〜ラジオから聞こえてくるそれは?〜
いつもの好きなラジオ番組を深夜から聞いていた。
まぁ、深夜番組だからそうなるのは当たり前。
だからイヤホンして聴いてる。
今日も心地よい声がラジオから流れてくる。
声が素敵だなぁ〜といつも思う。
実はこの番組、私の好きな声優さんがナレーションをしているのだ。途中で流れる音楽はその人がチョイスしたものが多いらしい。センスがいいなって思う。
そんな番組の中で1番好きなコーナーはお悩み相談。
真剣に答えてくれるそれは時に珍回答なんかも出てラジオブースからの笑い声も時に聞こえてくる。
次に好きなコーナーは体験談かなぁ?
何の体験談かはその時にきた手紙等で決まるそう。
それはそれで面白いかなって思う。
だけど今回のはちょっとだけ不気味だった。
それはリスナーからの恐怖体験だった。夏だから丁度いいと思ったのだろうが、深夜にこれを聞くのはちょっと勇気がいるかも。
ナレーションの声優さんとアシスタントさんが場を盛り上げる。
「いやぁ〜、夏らしいのが一発目に入ってましたね。」
「ですね〜。でも私はちょっと苦手な部類かも。」
「え〜!でもせっかく送ってきてくれた訳ですから読むだけ読みましょうよ。怖くなったらやめればいいだけですし。」
「マジですか。しょうがない。読みますよ〜。リスナーの皆は怖くなったら音、消してくださいね。じゃあ、始めますよ。」
声優さんは一度咳払いしてからその手紙を読み始めた。
「それは私の職場で起きたことです。大概のことは笑って済ませることができるのですが、今回のは笑っていられないものだったので、体験として書かせていただきました。初めにそれが起こったのは今から半年ほど前でしょうか?…………。」
聞き始めると部屋の空気が冷たくなった気がした。
だけどまだ大丈夫と聞いていた。でもね?寒さがと言うか首筋に何かが触れた気がした時には思わず後ろを振り返ったが、そこには誰もおらず部屋には私一人だった事、ラジオが置いてある机の上の電気だけがあかあかと照らしていて部屋の中はそこだけが明るく周りは暗いので不気味さが漂っていた事から冷や汗が頬を伝って落ちた。
怖くなったので言われた通り暫く音を消していたが、怖さは拭いきれなかった。
10分ほどしてもういいかなって思って音量を元に戻すが、音が入らず一瞬だが砂嵐のような音が入り込んでいた。?と思って音量とチャンネルをいじったら元に戻ったが、その時何故か変な声が聞こえた気がした。
【た、す、けて……。】
確かに【助けて。】と聞こえた気がした。
私は耳を疑ったが、確かに聞こえた。
でも、ラジオから聞こえてくる声優さん達は気づいてないようで、話はどんどん進んでいく。だから私は最近知ったTwitterで、ついさっき起こったことをツイートしてみた。
リスナーからの声をすぐに確認できるようにと机にはパソコンが置かれており、リスナーからのツイート等を見ながら進行していくも、私のツイートは読まれなかったようでガッカリしていたらどうやら他にも同じ体験をした人が何人も出たようで、ついには私のツイートを読まれる事に。嬉しい…よりもやっと見てもらえたという思いで安堵していた。
だけどブース内はちょっとしたパニックに陥っていた。どうやらパソコン内でラジオから聞こえた声が独り歩きして書き込まれていたのだ。
【助けて。】や、【ううう〜〜。】、【がああ嗚呼。】等意味をなさないものもあった。
放送している者は録音がされていたのでリクエスト音楽を流す時に確認することになったが、あまりに小さな声で聞き取りにくいものもあり、はっきりと聞こえるものは怖くなるほどで女性スタッフは悲鳴をあげるが、音楽が終わるといつも通りのラジオを進行していく為我慢するしかなかった。
そして時間が来て最後のコメントになって初めてナレーションの声優さんが言葉を発したのだが、その言葉も謎のうめき声で掻き消えていた。
ラジオを聞いていたリスナーたちは反応は様々で、ラジオを消すもの、続けて流しっぱなしにして何かあるかと聞き耳を立てるもの等いろいろだ。一方ラジオを流していたブース内では呻きが聞こえてきて騒ぎになっていた。
みな顔は真っ青だ。
そんな中、プロデューサーは気丈にも声をはりあげてみなを部屋から出すのに必死だ。
機材の片付け、荷物のまとめ、出来たてのラジオのCDをケースにしまい持ち出すもの等狭い中で動き回っていた。
まるで追い出すかのように部屋から全員を出すとドアに鍵をかけた。プロデューサーはまだ真っ青な顔をしている。
他の人もみないちように黙ったまま真っ青な顔をしていた。
そんな中一人の人がポツリと呟いた。
「あの手紙……持ってきちゃいましたが、誰か読みますか?」
誰も手をあげない。みな怖いのだ。その手紙を読んでからおかしな事がおきたから。ガチの霊?
だけど勇気がある一人の男性が手紙を受け取ると黙って読み始めた。
黙って読んでいた男性はブルブルと震え出し手紙をその場で落としてしまった。
そしてあらぬ方向を指さし【だァ〜。】と言うとその場にバタンと倒れた。
もうパニックだね。
みんな倒れた人から離れるように後ずさりすると避けるように逃げ出した。
だれもかれも自分の事しか考えてなかったよ。
だけどほおってはおけないと勇気ある数人が倒れた人の方を支えて立たせるとその場を離れた。
手紙はそのままに……。
掃除の人がやってきた時にもそこには落ちていた。
そしてそのゴミ掃除の人は特に中身を見るでもなくゴミ箱に入れて持ってった。ただのゴミと思ったのだろう……。
その後、その人がいなくなったのは誰も知らない。