第六話 所持物(アイテム)
「よし! 風呂も済んだし、早速始めるか!!」
あれから1時間後、タクヤは再びThe battle begins on the farmをプレイし始めた。ゲームの電源を押す。
「ん……」
以前と同じ様に、色鮮やかな景色がタクヤの目前に広まっていく。無尽に吹く風や目下に映る緑を身体一杯に感じながら、タクヤは大空から降下していった。そして、降り立った場所が――、
「またここかよ!?」
実家だった。
「やはり世界観が……緊張感が……」
と、そこへ――、
「やあ、遅かったね♪」
「お……、お前は」
セルジュが手頃な石の上に座り、手を振っていた。虚を突かれるタクヤだったが、質問をしてみることにした。
「セルジュ、何分前から居るの?」
「10分前くらいからかな?」
「結構前から居るな」
「へへ、私は生まれてこの方、一度も遅刻したことがないからね♪」
「俺は5分前だ」
「!」
タクヤが振り向くと、そこにはタケヒコが居た。
「タカヒロ……じゃなくて、こっちではタケヒコ! お前、明日仕事が休みなんだな」
「おうよ! 俺が務めている会社はホワイトでな! 土日祝日は休みが確約されている(久しぶりに台詞らしいセリフ、言った気がする)」
「ははは……そりゃ良かったな(チキショー、俺もホワイト企業に勤めていれば、病気にもならずに、このゲームの開発費のおこぼれを貰えたのに……)」
表向きはポジティブなコトを言っていても、心中は複雑な二人であった。
「!」
ふと、タクヤは辺りを見渡し、何かに気付く。
「アレ、ノノは?」
セルジュ、タケヒコの二人は両手を上げ、手のひらを見せた。
「まだだよ♪」
「あいつ遅ーな。もう一時間経ったろ?」
と、そこへ――、
シュイーンという効果音とともに、ノノが登場した。
「ごめーん。私、最後?」
「遅おせーぞ、ノノ」
「ごめんごめん、スキンケアとかしてたら、時間過ぎちゃった」
「ところで――」
「?」
タクヤが口を開いた。
「ノノって現実世界では何してるの? 因みにタケヒコは会社員。俺は今、前勤めてた会社辞めて……ニートに近い求職者かな?」
「私は……ユーチューバー」
「!」
「!?」
「兼OL……」
「えっ! 再生数とかは?」
「1000……前後」
タクヤの質問に、ノノは少し気まずそうに答えた。
「チャンネル登録者数はそれなりだから、ちょっとしたお小遣いがもらえる程度かな? 殆ど趣味の領域だよ」
「はは、そっかぁ。そうだ、セルジュは普段何してるの?」
「うーん? 内緒♪」
「何だよそれー」
「皆話したんだから教えろよー」
タクヤとタケヒコが回答をせがんできたが、パンッと手を叩き、セルジュは言った。
「内緒は内緒♪ さて、世間話も終わり! ストーリー進めよう!!」
「はいはい」
「仕方ねぇな」
「やろうやろう」
四人は旅を進めるコトとした。
そして――、
「で、また田んぼなのな!」
田んぼに居た。
「じゃあ、次の段階へ進めるね」
「?」
セルジュの言葉に対して、はてな顔のタクヤ。次いで、セルジュはフーと、息を吐き大きく息を吸い直した後、呪文を唱えた。
「万象の理よ、我が意のままに……!! 時よ、進め!!」
セルジュの呪文を口切に、ブワっと辺りは光に包まれた。そして魔法陣の様なものが現れ、四人の周りは光り輝き辺りは高速で動き始めた。太陽と月が何度も昇っては沈み、昇っては沈むのを繰り返した。
そして――、
時は高速で動くのを止め、通常の速度で進み始めた。
「っは!!」
タクヤは目の前の光景を疑った。先ほどまで、苗の状態で緑一色だった田んぼが、稲穂でコガネ色一色に変化していたのだ。
「これも、セルジュが……?」
「そうだよ♪ 時を操って時間を経過させたんだ」
セルジュは得意気にそう話した。
「さあ、稲刈りをしよう♪」
四人での稲刈りが始まった。タクヤの実家の離れの受付から、鎌を借り、それを使って一斉に稲を刈った。
――、
数時間ほど経過しただろうか。稲刈りは、足腰と腕の疲労感を得るとともに終了した。
「ふー、次は精米だね」
流石のセルジュも、今回ばかりは疲れ果てた様だった。
「セルジュ……」
「ん?」
不意に、タクヤはセルジュに話し掛ける。
「こんなに疲れなくても、魔法とかでぱぁーッと何とかできないのか?」
「うーん、こういうコトができる魔法は無いんだ。残念だけどね♪」
ガクッとタクヤはうなだれた。
「次は精米だねー♪」
「まっまさか!!」
タクヤが叫ぶ。
「土臼を使って、江戸時代みたいに精米するんじゃねーだろうな!?」
「ううん」
「!?」
「それは精米店みたいなのがあの家の離れに在って、そこで50コイン払ってやってもらうんだ♪」
「田植えも稲刈りもそこの店がやればいいのに……」
「適度に苦労させたいんだろうね、このゲーム」
――、
『精米が終わり、米数kgが手に入った』
「これを離れの横にある蔵に入れて、と♪」
「そんなもんがあるんだ」
タクヤは蔵に興味を持った。
「この蔵は有能でね、入れたら時を戻したり進めたりしても、ずっと同じ時間軸の保存状態で保存されるんだ♪」
「へー」
「それと同様に、時を操ったとしても、身に着けている所持物アイテムも無くならない」
「そういうところは親切設計なのな」
「最低限の準備もできたし、外のマップへ出てみようぜ?」
「そうだな、行くか!!」
タケヒコの一声で、タクヤ達は動き出す。
この後、最初のバトルがタクヤ達を待ち受けている。