第五十九話 迷いネコの結末
「この近くだ。念のため、慎重に行くぞ」
『ラジャー』
タクヤ、ノノ、そしてセルジュは抜き足差し足といった具合に、物音を立てずにゆっくりと歩いて、マップに記されたソフィーの居場所まで近付いていった。
そこは市街地を一望できるふもとの、空き家の軒下だった。
(しっ! 居たぞ)
タクヤはソフィーらしきネコ達を見つけて、右手人差し指を立てて、二人に注意を促した。
そう、ネコ“達”を見つけたのだった。
(あっ! 何か様子が変です)
ノノはソフィーの異変に気付き、小声で声を上げた。
(? ……あっ!)
そこにはソフィーの他に、雄の茶トラネコと、4匹の子ネコたちが居た。ソフィーは子ネコに母乳を与えていた。
「家元から脱走して、新たな家族を作っちゃってたんだね♪」
「ですね」
「よし! クレアさん(36)に報告だ!」
三人は、クレアさん(36)に事の本末を話した。クレアさん(36)はソフィーが居た空き家まで行き、ソフィーと再会した。涙を流すほど喜んだクレアさん(36)は、子ネコも保護した後、多頭飼育崩壊を防ぐため、ソフィーの避妊手術を行ったらしい。ソフィーはクレアさん(36)のもとへ帰ったのだが、雄の茶トラはクレアさん(36)に懐こうとせず、連れて帰られなかったため、今も野生のネコとして、どこかで暮らしている。何か忘れている様な……?
「おい!」
!
「俺抜きで話を進めるな!」
これはこれはタケヒコさん。どこにいらしたのかな?
「おお、闘剣士ナントカ、どこをうろついてたんだ?」
「名前まで忘れるな! タクヤ、俺が方向音痴なのを忘れたのか!?」
「ああ、そういえば、タカヒロ(現実世界のタケヒコ)、授業が違う教室でおこなわれる時でも、一人だと迷子になってたっけ?」
「そーだよ! 悪かったな!! 迷子のネコを探すって聞いて内心、心配だったが、こんなコトになるとはな!」
タケヒコは怒ってそっぽを向いてしまった。
「あーあ♪」
「あちゃー」
セルジュとノノも、その様子に、どんな言葉をかければいいか、考えても考えても、答えが出ないようだった。その時――、
「ポンッ」
タケヒコの肩を叩く者が――。
「まあまあ、そう怒るなって」
タクヤだった。
「今度探索系統のクエストがあったら、俺が付いてってやる。それで手を打たないか?」
「……悪く、ねぇな……」
「だろ?」
ノノは二人の様子を目の当たりにして、羨望の眼差しを向けるのだった。
(ああ、そのポジション、タクヤ君じゃなくて私だったらなー。……私って、結構タケヒコ君のコト……。でも――)
タクヤとタケヒコは軽く背中を叩いたり、後頭部をチョップしたりとじゃれ合っていた。
(男の子って――、いいなぁ……)
「よーし、この話は、ここまで! クエスト達成の報告をしに、実家の離れに行くぞ!」
『おー』
――、
タクヤの実家の離れ(ゲーム内の)にて、
「おめでとうございます! クエストクリアです!! 今回の報酬はこちらです!」
「おお!?」
『300コインを手に入れた。薬草を2つ手に入れた。復活の薬草を2つ手に入れた』
「アレ? 大変だった割には……そんだけ? クレアさん(36)、貧乏なの?」
タクヤは虚を突かれ、目が点になっていた。
「星二つのクエストだから、こんなモンですよ。邪魔者が入ったのは完全にイレギュラーですが」
ノノはそっけなくタクヤに言う。
「あー!! そうかよ! じゃあ次! 次のクエストだ!! 受付嬢さん、頼んます」
「ハイ! 次に挑戦できるクエストは、こちらです!」
離れの受付は分厚い冊子を差し出し、そこから『火山のドラゴンを討伐せよ』と『水の都の秘宝』の項目を指差した。
「『水の都』!? 夏に行くにはピッタリの観光名所みてーじゃねーか! 『水の都』一択、で」
「かしこまりました。では水の都への行き方を案内し……」
「ちょーっと待ったぁああ!!」
案内人に口を挟んだのはノノだった。
「タクヤ君!! 現実世界でどれだけ時間が経ったか、把握していますか!?」
「あー。そういや、13時にゲーム始めてから、結構やってる気が……」
「で! す! よ! ね!? 21時過ぎてたら、今日はここまでにしましょう! クエスト2つもこなしてるんだから、良い頃合いでしょう」
「んー、ノノの言ってるコトも確かだな。良し、今回はいったん、解散!」
『ラジャー!』
「プツン」
ゲーム、『The battle begins on the farm』のプレイ画面がオフになった。
「ん!」
「ゴトン」
そしてタクヤはVRゴーグルを机の上に置く。
「肩凝ったー。今何時だろ?」
ふと、時計を見上げると21時を回っていた。
「あっ」
タクヤが呆気に取られていると、直ぐにノノからゲーム経由のチャットが届いた。
「うーんと、何々?『13時から20時までか、22時から午前2時なら空いていますって前に言いましたよね!? 今日はもうできません!!』かぁ。しゃーねぇな、ノノが1時間以上延長してくれたんだから、今日はここまで! っと」
タクヤは四人にチャットを一斉送信した。
「グぅー」
「!」
ふいに、腹の虫が鳴るタクヤ。
「そういや、昼から何も食ってねぇな……。かーさん、ご飯!」
こうして、長い長い一日が終わった。




