第五話 田植え
「で? 何で俺らは田んぼを耕しているんだ?」
タクヤ達は田んぼをせっせと耕していた。
「ここでお米を作るためだよーっと♪ それよいしょ、よいしょ」
「そりゃあ田んぼじゃ米作るだろうよ!! 何で米なんか作るんだよ!?」
タクヤはセルジュに噛み付いた。それに対して、セルジュは冷静に答える。
「うん、いい質問だ。このゲームではHP、つまり体力とMP、つまりは魔力値が減った時に回復する手段としてご飯を作って食べる、というのが主流となっているんだ。HPは敵からのダメージを受けた時、MPは魔力を使った時に減るよ。まぁ、RPGゲームやったコトある人にとっては常識だと思うけど♪ 因みに、今のタクヤのHPは11/15で、MPは/、存在してないよ♪」
「ちょっと待てぇええ!! MPが無いのは、レベルが低いだとか、役職がファイターだから納得いくっちゃあ納得いくが、何でHPがもう減ってるんだ!?」
声を大にして叫ぶタクヤ。
その傍らでタケヒコとノノはせっせと田んぼを耕している。
「あー、さっきの母屋の男性。殴られたでしょ? そのダメージ♪」
「は!? アレもダメージとして入るの!!? 防ぎようねーじゃん! 何が正解だったワケ!?」
「いやー、前に見せたでしょ? 暑くなりそうだから水打ちしてるって言ってやるの。やんわりと嘘をつく。これが正解♪」
「分かるわけねーだろ! そんなの!! このゲーム、難しくねーか!? 世界観イマイチ分かんないし!!」
「うん、序盤から積みポイント多いのと、不釣り合いな建物がエモいってバズってるよ♪」
「――、」
何も言い返せないタクヤだった。
――、
「さて、こんなものかな♪」
田んぼを耕す作業は、一通り終わった様だ。
「身体動かしたりする作業は自分達でやるけど、下準備はしてもらえる様になってるんだ、このゲームは♪」
「へー、あっそ……」
セルジュはまだ体力に余裕がありそうだったが、他の三人はへとへとに疲弊しきっていた。
「こっちの季節は3月くらいだったはずだから、あと2カ月弱はやることないでしょ?」
タクヤは、作業がひと段落した、と安心しきっていた。
「大丈夫♪ 耕すのが終われば、ここのAボタンを押せば……」
シュウイン、と謎の甲高い効果音とともに、田んぼが水でいっぱいに――。入水された状態になった。
「っは!?」
「言ったでしょ? 下準備はしてもらえるって♪ さあ、次は苗を植えよう」
「で、でもまだ3月だろ!? 田植えにはまだ……」
「セレクトボタン、押してみようか♪」
「え? そんなの押したって……」
タクヤはゲームのセレクトボタンを押した。
すると――、
『季節、5月』
「!?」
表記では季節は5月を表していた。
「ほぉら♪」
「え!? 何で!! さっきまで3月だったのに……!」
「このゲーム、前みたいにカギを使って時を戻したり、イベントが起こると、時が進んだり、時間を操る要素があるゲームなんだ♪ 分かった?」
「! ――」
タクヤは腑に落ちない様子だった。
その傍らで、タケヒコとノノは黙々と苗を植えている。
数時間――、
「フー、やっと終わったぁ」
二面ほどの田んぼの田植えが終わった。
「じゃあ次は――」
「ストップ! タンマ!!」
次へ次へと作業を進めようとするセルジュに、待ったをかけるタクヤ。
「?」
「ちょっと疲れたからさ、休憩。! そういやゲーム始めてから全然休憩取ってないや。セーブとかできる?」
「そりゃあできるさ。ここ数カ月前に出たゲームだからね。うーん、そうだな。いったん休憩して、現実世界に戻るのも良いかも知れないね♪」
「私もそう思います」
「俺も、飯食う時間になったかもしれねぇし」
ノノとタケヒコも休憩を取りたい様だ。
「決まり! じゃあここでセーブな。どうやるの?」
「ここのスタートボタンから……」
質問するタクヤに、セルジュは説明する。
『セーブ完了しました』
「よし、できたみたいだ。じゃあ、今から1時間後に、また集合な」
「まだやるんですか!?」
タクヤの提案に、びっくりした様子のノノ。当たり前だろ? とため息をついたタクヤは言う。
「今日は金曜日。社会人でも大抵の奴らは明日休みだろ? 完徹モードで行くぜ!!」
「はわー(このパーティ、入るんじゃなかった)」
ゲームを始めたことを少々、後悔するノノであった。
「じゃあ、一旦終了っと」
シュイーンという機械音とともに、目の前は真っ暗になった。
VRゴーグルを外すタクヤ。フーと、ため息をつく。
(結構、面倒な旅になりそうだな。あのゲーム)
自室から普段食事をとっている和室へ移動する。ふと、時計を見ると午後6時を指していた。
「え!? 結構やってたと思ったのに……」
思わず声を上げてしまった。すると、それを聞いていたのか、タクヤの父が和室に現れた。
「オヤジ……」
「あのゲーム……体感時間と、実際に流れている時間とで、差異がある様だぞ。」
「あー、そうなの? ……てか、オヤジもプレイしたとか?」
「一面まではクリアしたぞ。まあ、攻略のヒントは言わんがな(笑)」
「望むところよ!」
タクヤの父は挑発してきた為、俄然タクヤはやる気になった。そこへ、母がやってきた。
「ひと段落ついたかしら? 少し早いけど、晩御飯にしましょう。タクヤは、退院したてでしょ? お腹減ってない?」
「あー、そういや俺今日、退院したんだっけ? 母ちゃん、とびっきりのご馳走頼む!」
「今日はチャーハンよ」
「はぁ!? 姉ちゃんとかカニ食った(笑)って言ってたぞ? あのゲームでコレ、入ってきたんじゃねーのかよ」
タクヤは親指と人差し指で輪っかを作った。
「あー、お父さんが……ギャンブルに使ったの」
「!?」
「それで、お姉ちゃんはブランド品に使っちゃったの」
「!!?」
「それでね、私は株で失敗しちゃった(笑)」
「!!!?」
タクヤは、絶句した。
(もうヤダ……この家族……)