第二話 いざ、プレイ!
タクヤの実家は、周りに田んぼと山しか無い、ド田舎だ。タクヤの家族も、田んぼと山を保有し、米を自家生産している。さて、タクヤは高校以来の友人たちに、実家がRPGの舞台になっていた件について、電話した。
「――、おっタカヒロ? 俺の実家がRPGの舞台になったみたいでさー……」
「知ってる」
「!?」
「何? お前今更そんなコト自慢してんのか? 一ヶ月前くらいから大ヒットしてるぞ?」
「あー、そうなの?」
「用事はそれだけ? じゃあ、切るわ」
「あー。ハイハーイ、バイバーイ」
「ピッ」
タクヤは電話を切った。
「皆、知ってんのか……? そうだ、セイジに聞いてみるか! あいつならゲームに疎そう」
「プルルルル、プルルルル、ガチャ」
「もしもし、セイジ? 俺の実家がRPGの舞台になっててさー」
「あー、それ知ってるわ」
「!?」
「全国的にヒットしてるぞ? お前入院とかで知らなかったのか? 俺はつい最近ストーリーはクリアしたわ。やり込み要素もあるけど……俺はもうお腹一杯かな?」
「ハハハ、分かった……じゃあなー」
「ピッ」
タクヤは愕然とした。
(俺一人、浦島太郎状態かよ……!)
数分間の沈黙が、タクヤを襲う。
「……ま、まぁプレイしてみないと、な」
重い腰を上げ、ゲームの電源を押してみた。
「うお……」
色鮮やかな景色がタクヤの目前に広まっていく。以前と同じ様に、大空を降下していくタクヤそして、降り立った場所が――、
「ここかよ!?」
実家だった。
「世界観が……緊張感が……」
わなわなと言い表しようのない感情に襲われた。まあ、仕方ないかと、タクヤは周囲の探索を始めた。3分も歩かないうちに、田んぼを発見した。
(まだ入水してないな。中歩けるかも)
タクヤは見つけた田んぼの中に足を踏み入れた。ゲーム内の季節は、3月頃だったので、田んぼの中を歩く事ができた。
「ハハッ、何だか懐かしいな」
タクヤは、高校進学を期に上京、そして卒業後は都内の企業に就職し、体調を崩して半年間入院、次いで三カ月施設で生活しデイケアサービスを受けていたので、四年弱地元から離れて生活していた。その為、久々に踏んだ田んぼの感覚は懐かしかった。
「はははっ」
気持ちはほっこりしていて表情も緩んできた。
「そこで何をしているの!」
「!?」
どこからか声が聞こえてきた。声のする方へ目をやると、そこには蒼い瞳をした、赤髪の女性が立っていた。背丈は160cmを切るくらいだろうか。黒いスカートは膝小僧が見えるくらいの丈だった。タクヤは思わず声をかけた。
「君! 名前は?」
「私はノノ。このゲーム内ではノノって言うプロフィール名でプレイしてるの。てか、質問を質問で返さないで。あなたはそこで何をしているの?」
ノノと名乗る女性は、再び疑問を投げかけてきた。
「あー、ノノさん。田んぼ踏んで、感覚を確かめてるの! これもいいけど、あぜ道の乾いた草とか、触ると気持ちいいよ」
(はっ!? 何この人……そんなんで良いの?)
ノノは愕然とした。しかし、気を取り直して更に問う。
「あなたはこのゲームに何を求めているの? 私は最初からするの2回目で、ひとまずストーリークリアを目標にしているんだけど……」
「うーん、復讐……かな?」
「はっ!? 復習? あなたも2回以上プレイしてるの?」
「違う違う。そっちのフクシュウじゃなくて、復讐。このゲーム作成に協力した家族への恨みつらみを、直接このゲームにぶつけてやろうと思ってね」
「ははは……そうなの(何か関わってはいけない雰囲気だ。深追いするのは止めておこう……)」
と、そこへ――、
「よお、タクヤ」
「!」
自身の背丈の7割ほどの長さの剣を腰に下げる男が現れた。
「んー? その顔、どこかで……あー! タカヒロ! タカヒロじゃねーか!」
「正解! お前がこのゲーム初めてプレイするってコトで、ログインしてやったぜ? でもこの世界ではタケヒコな。プロフィール名を実名でプレイするのは、好きじゃなくてな。しかしタクヤ、ホントに何も知らずに施設暮らししてたのな。お前の実家が舞台と聞いて、当然もうこのゲームプレイしてクリア済みかと思ってたぜ。そうだ、お前役職何にするの? 因みに俺は剣士な」
「あー、プロフィール名も何も決めないうちに只々田んぼにいたぜ!」
「何だそりゃ?」
ガクッとタケヒコはズッコケそうになった。
「まあ、早いとこ設定決めとこうぜ。お前の実家の離れでプロフィール名とか役職とか決めれるようになってるぞ。行こうぜ」
「あ、ああ」
タクヤはタケヒコに促されるままに離れに入っていった。
「こんにちはぁ。初めての方ですね? こちらをご覧ください」
受付のようなNPCが、タクヤに話しかけてきた。渡された書物を読んでいく。特に拘りもなく、設定内容は決定した様だ。
「役職はファイターにするかな。身体動かすの得意だし。名前は、色々考えるの面倒だから、タクヤで」
「かしこまりました」
受付が設定を保存していく。すると、タケヒコがタクヤに話し掛けてきた。
「なあ、このお前の後ろにいるヤツ、誰だ?」
「――」
振り向くと、そこにはノノが居た。
「ああ、この人はノノさん。これプレイするの2回目だって」
「ふーん」
「まだ居ました(トーン下げめ)。私もパーティに入れてくれませんか? お二人とも、お強そうですし……」
タケヒコとタクヤは顔を合わせる。
「俺はいいぜ?」
「俺も。仲間は多い方が良さそうだしな」
「宜しくお願いします!」
かくして、タクヤ達のスロースタートな旅が始まるのであった。