第一話 The battle begins on the farm
「ふんぬぁー!!」
「カァン!!」
「またイッた!! 二打席連続!!」
「やたー!」
ダイヤモンドをゆっくりと一周する者が――。
この物語の主人公、タクヤである。
タクヤはとある脳の病気に掛かってから半年間ほど入院生活をし、体力を戻すためにデイケアサービスなるものを受けていた。今行われているソフトボールも、その一環である。
「さっすが元高校球児だね。どうだい? 最後に思い出も作れた?」
「ははっ、めちゃくそスッキリしてデイケア卒業できるッス!」
「じゃあ、お大事にね」
「ハイ!!」
病状も寛解したタクヤは、本日を以てデイケアサービスを受けるのも終わりにする様だ。
「お疲れ様です!」
「お疲れ様」
「お疲れ様です」
この日のデイケアサービスも終わり、帰りの電車内にて――、タクヤは脳内で、今後の人生設計を立て始めていた。
(障害者年金もらって……、それだけじゃ足りないか。生保ももらうコトになるかな? 若いからって働けって申請下りねぇか……。ひとまず)
んーと、タクヤは両手を組んで伸ばした。
「即働く気にはなれねぇな」
タクヤはかつて営業の仕事をする社会人だった。人とコミュニケーションをとるのは好きだった。高校時代は硬式野球部に所属、大会にもベンチ入りし伝令の役割を果たしていた。主に監督からの指令を伝え、時にはジョークをかましナインを励ましていた。高校を卒業後、すぐに営業職に就いたが、これが上手くいかない。どう商品を勧め、客に契約を結んでもらうか――。野球漬けの日々から、社会人へ――、勉強もする暇もなく只々野球をしていたタクヤは右も左も分からない状態で営業職に就いたのだ。すんなりと業績を上げる事もできず――、
「何だ、この業務成績は!? やる気あんのか!!」
「ハイ! ……」
「返事だけはいっちょ前だな! ずっとこの体たらくでいる様なら、減給も覚悟しておけよ」
「! ――」
遅々として上がらない業績と、当たりの強い上司。タクヤには大きな重圧が日々、のしかかってしまい、ストレスから病にいたる結果となった。
――、
「ただいまー」
タクヤは実家である自宅に帰ってきた。
「んー! やっぱ良いねぇ、自分ちは! 三カ月もあった施設生活とは大違いだな。これから羽伸ばしまくるぞぉー!! ん?」
タクヤは何かに気付いた。
「何だ……、コレ……?」
コテコテの和風の居間の、楕円形の机の上に、ゲームらしきものが置いてあった。
「ゲームか。オヤジのかな? 珍しい……! VRゴーグルまであるぞ」
タクヤは徐にその機器を手にした。何となく興味が沸いたタクヤはそれをプレイするコトにした。ゴーグルを付け、電源を入れるとウィーンと、ゲームが起動した。ゲームのタイトルロゴが目前に浮かび上がる。
「The battle begins on the farm……? 農場? まぁ、いいか」
目の前の光景が光輝きだした。次いで、タクヤは(ゲーム内で)青く広がる大空を飛んでいた。
「すげっ」
無尽に吹く風や目下に映る緑を身体一杯に感じながら、タクヤは大空から降下していった。遂には、タクヤは陸地に降り立った。
が――、
「アレ? ここ……」
そこにはどこかで見たハズの建物が佇んでいた。建物には入らず、タクヤはひとまず建物周辺を探索することにした。
建物の正面玄関、
離れ、
裏口を確認した。
「ここっ!」
「コレはっ!」
「ここもっ!」
タクヤは重大な事実に気付いたようだ。
「デザイン! 全部俺の実家じゃねぇか!?」
「おー、やってるかー?」
「!?」
どこからか聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「おっ、オヤジ……」
タクヤはVRゴーグルを外した。そこには丁度仕事から帰ってきたタクヤの父が居た。
「おっ、オヤジ! 大変なんだ!!」
「どうした?」
「このゲーム、この実家そのものが出てきて……裏口もそっくりで、今は草ボーボーだけど……全部家そのものなんだ!!」
「あー、そうだぞ」
「ハァ!? “そうだぞ”って何だよ!! ……まさか! “コレ”貰ったのかよ!?」
タクヤは親指と人差し指で輪っかを作った。
「んー? まぁな。お前の居ない間に、ゲーム制作会社がやって来てだな、うん百万置いて行ったぞ」
「ずりぃぞ! オヤジ!! 俺が病院や施設で我慢している間にそんな金なんてもらって!!!! グー〇ルアースも使ったのかよ!?」
「んー、使ったって言ってたなー」
「こんのぉ……」
「たっだいまー!」
「!? 姉ちゃん!」
タクヤの姉が、外出から帰ってきた。肩には、ブランド物のバッグを掛けていた。
「そのバッグは……!?」
「ああ、コレ? あぶく銭ができたから、買っちゃった(笑)」
「ずりぃぞ! 俺の居ない間に、俺の実家をRPGの舞台にして、贅沢していたのかよ!? 他にもなんかしてたんじゃねぇだろうな!?」
「あー、カニ食った(笑)」
「このクソ姉ぇええ!!」
「あーでも、これから得られる贅沢があるんだからいいんじゃない? そんなコトよりも、その贅沢、私にも別けてくれない?」
「ヤダよ、ヴァーカ!! もう贅沢し放題したんじゃねえのか!? こうなったらこのゲーム、憂さ晴らしに全クリしてやる!!」
こうして、タクヤは実家が舞台になったRPGを“何故か”プレイするコトとなった。