おさないこいごころ
「イチゴ食べないの? 食べてもいい?」
わたしがきくと、となりに座るターくんがうなづいた。
べつにイチゴがどうしても食べたかったわけじゃないの。ただ、ターくんがショートケーキの上にのったイチゴを皿のわきに置いていたから、いじわるしたくなっただけ。
白いお皿にひとつぶ、コロンとのこされた真赤なイチゴを、プスリとフォークでさした。もう一度、ターくんのかおを見ると、いまにも泣きそうになってる。
「ホントにいいの?」
「いい。ミズキちゃんにあげる」
泣きそうなのに強がるターくん。
ターくんがイチゴ大好きだって、本当はしってるよ。大好きなものはさいごに食べるんだよね。
フォークにささったイチゴを、ゆっくりと口にちかづける。少しヌルっとしたイチゴのお尻をかじると、甘くてすっぱい汁が、ジュワジュワと口の中に広がった。たいようと草と土のかおり。舌で半分のイチゴをころがしながら、おく歯でかみつぶして、ゴクンとのみこんだ。
フォークの先にのこった半分を、ターくんのくちびるにおしつける。
「やっぱり半分あげる」
ターくんは目をみひらき、パクンとフォークにくいついた。
モゴモゴしながら、うれしそうにイチゴをあじわうターくんは、学校でかってるウサギみたいだ。
「ミズキちゃん、ありがとう」
そのイチゴはもともと、ターくんのイチゴなんだけどね。
「ターくんは好きなものを、さいしょに食べたほうがいいと思うよ」
じゃないと、わたしが食べちゃうから。
おわり