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侯爵"霊"嬢、待機中。

初投稿です。


ジャンルは異世界ラブコメ、になる予定です。



 私の婚約者であり、この国の第三王子の13才の誕生日パーティー中に、私は前世の記憶がついうっかり蘇ってしまったと同時に、私は高熱を出して倒れてしまった。

 前世の記憶を少しずつ思い出す度に、熱が上がり、頭痛と吐き気が止まらず、私はベッドから出られなくなった。そして、前世の記憶を全てを思い出すと引き換えに、私は死んでしまった。


 そう、死んでしまったのである。

    ミリアージュ・アップルファーム侯爵令嬢(完)



 いや、(完)じゃないわ!笑い事でもないのよ!

 でも確かに私は死んだから(完)なんだけれども!?


 問題はそのあと起きた事よ。

 父、母、兄、弟、の家族に見守られ、私は確かに息を引き取った。

もう一人、私には姉がいるのだけど、すでに嫁いで行ってしまった上に、最期に間に合わなかったのは悲しいけれど。




 死んだ直後、私は死んだ私を俯瞰で見ていた。


(あぁ、私は死んでしまったのね)


 幽体でも涙は出るようで、ベッドの上の私の亡骸にすがり付く家族達を見て、ボロボロと涙を流した。


 天井があるはずなのに、上から光が差してきた。

周りはキラキラと光っていく。その光景に、私はお迎えが来たことを知った。

 上を向くと、あるはずの天井は無くなっていて、綺麗な光と輝く雲が浮かんでいる空があった。

 下を向くと、いまだに泣き続けているみんな。






「…貴女がミリアージュ・アップルファームですね」


 遠くから響くような声に呼ばれ、私はまた上を向いた。

すると、そこには輝く白い翼を生やした、まさに天の使いである!ということを全面に出している人がいた。

 空中に浮いている私は、咄嗟に祈りの形をとり、はい、と返事をした。


「貴女はこれから天に迎え入れられ、天使見習いとして魂の修練を積んでもらいます。そして我らが神様の為に、一緒に頑張っていきましょう」


 ふんわりと慈悲深げに微笑みかけられる。その笑顔はまさに最上級の天使の微笑みである。超眩しい。

 笑顔の神聖さに感動した私は、言葉が出ず小さく頷いた。


「それでは、貴女の教育係である天使を紹介しますね……ヨツバ、ヨツバよ、ここに」


 綺麗な天使様はスッと手をあげ、ヨツバなる天使の名前を呼ぶ。


「……………………………。」

「………?」


少し待っても、何も起こらず、綺麗な天使様から眩しい笑顔が消える。


「ヨツバ、ヨツバよ。早く来なさい」








 ……………誰も来ない。






 どうしたのだろうか、時間は大分過ぎてしまった。

 綺麗な天使様の雰囲気が少しずつ不機嫌へと変わっていく。怒りのオーラだろうか、天使様の髪や服がゆらりと揺れた。

 綺麗な天使様は手を下げ、突如斜め右を見上げる。


「……え、いない?……ほう、逃げた……は?あちらに逃げ込んだ?……はぁ、わかりました……」


 ボソボソと呟いたあと、私の方を向いて、小さくため息をついた。


「申し訳ありません、貴女の教育係が逃げました。」

「あ、はい、逃げた……?」


「えぇ、大丈夫です、すぐに捕まえてきます。ですので少しの間ですがこちらで待機していてください。いいですか?わかりましたね?」

「え、こちらって、」

「そうですね、このままでは魂が穢れてしまいますので、この屋敷に、結界を張りますので、この邸から出ないように、わかりましたか?すぐ戻りますので、いいこで待機してるのですよいいですかいいですねでは」

「え、ちょっと、ちょっと待ってくださ、天使様ー!?」


 私の言葉を遮り、大慌てで捲し立てられたあげく、綺麗な天使様は翼を広げた後、消えるように居なくなってしまった。

 天井も元の天井に戻り、私は浮いたまま叫んでしまった。


「待機って、なんですかそれーーーー!!!?」


 そして部屋には、私の脱け殻に抱きつき、むせび無く両親と、頭を抱えて椅子に座り号泣している兄と、呆然とこちらを見る弟と、天井に向かって、うわーんと泣きわめく私が残された。







「ミリーねーさま……?」


 ふわふわと浮いて、うわーんと泣いていた私は、困惑した弟の声に呼ばれた気がして下を向いた。すると、真っ赤な目をした兄に抱き締められている弟と目があった。


 それはもう、ばっちりと。


「アルウェン、ミリアージュは、もういないんだよ…もう、もう!」


 兄は小さな弟にわかるように、言い聞かせるように、優しく諭していた。


「え、でも……」とこちらを指差す弟、アルウェン。

「そうだね、ミリアージュは空に…お星さまになったんだよ」とぎゅっと抱きしめる兄、ローラン。


 弟に向かって手を振ると、困惑しつつも同じように手を振り返してくれた。かわいい。かわいいのだけど。


 これ、完全に幽霊の私が見えているのでは…?


「お空のミリアージュに手を振っているのかい、アルウェえええええええええ!?」


 手を振る振動に気付いた兄がこちらを見た瞬間に叫んだ。


「どうしたの、ローランんんんんんんん?!」

「騒がしいぞ!ローランんんんんんんん?!」


「うわー!?奥方様が倒れたぞー!て、ミリアお嬢様が浮いてるー!?」

「きゃー!奥様ー!ぎゃー!?ミリアお嬢様ー!?」



 兄の叫び声に驚いた両親は、同じようにこちらを向いて叫んだ。後に母は気を失って倒れてしまった。母が叫び、父も叫び、使用人達も叫び、邸中に叫び声が響いた。

 いやーみんな見えてるね、これは。おかしいな、私の一族は霊感など無かったと思うのだけれど。なんで見えているんだろう。




 とりあえず、母は寝室のベッドへと寝かされ、その他は居間で紅茶を飲んでいる。ちらちら、と私の方を見るけれど、信じられないという視線が突き刺さる。

 そんな空気の中、私と弟はなごやかにお喋りをしていた。


「本当に、ミリーねーさまですか?」

(そうだよ、ちょっと天使様が此処で待っていてというから、まだ此処に居ることになったの)

「そうなんですね、でもミリーねーさま、髪の毛がふわふわとなってますが…?」

(え?あ、本当だ)


 私の髪は直毛だった、それはもう、真っ直ぐにすとーんと。でも前世の私は癖っ毛だった。それはもう、ウネウネすぎてワカメちゃんとアダ名がつけられるほどに。

 その前世と今世の記憶が混ざったからか、髪の毛がほどよく波うっている。念願の愛されヘアーである。


和気あいあいと弟とソファーで喋っていると、えーと、と父が言い出した。


「それで、だけど……二日後に、ミルエが帰ってこれるようだから、そのあとに、その…」


 父は少し言い淀み、絞り出すように小さな声で、葬式を、と続けた。私のほうを見ながら、まだ赤い目で。

 気にしないで、と伝えるように私は父に微笑むと、父も泣き出しそうな顔で無理矢理笑顔を作って、微笑み返してくれた。


 ミルエは私の姉である。四年前、この国の第一王子と婚約し、二年前に盛大に結婚式をあげ、今は王都で王妃教育中なのだ。

 私の居るこの邸から王都まで、馬車で二日かかるのだ。手紙も同じなので、今、王都を出発した辺りだろう。


 話が一段落つくと、私は婚約者である、第三王子のことが気になった。彼は今、何をしているのだろうか。

 熱に浮かされ、彼ときちんと会ったのは誕生日パーティー中だ。しかも急に倒れ、騒がしくしてしまったあげく、そのまま会えず仕舞いで私は死んでしまった。


(お父様、エメルド王子は、)


 来ないのですか?と、続けようとしたら、急に扉がバタン!と、激しい音を立てて開いた。中に居た私達は一斉に扉の方を向いた

 そこには、髪はボサボサで寝てないであろうヒドイ顔のエメルド王子が。


「エルジュ侯爵!ミリーは、ミリアージュは!?間に合っただろうか!」


 すごく焦って喋りながら、座っている(エルジュ)に近づき、ガシッと肩を掴むエメルド王子。

 必死の形相で迫る第三王子に、父は眉を寄せ目を伏せ、顔を横に振った。そしてその後、何故か私の方をチラリと見た。


 父が顔を横に振る仕草に目を見張ると、第三王子は顔を手で覆い、あぁ…と小さな声で呟いた後、何故か私の隣のソファーにドサッと腰を落とした。父がこちらにチラリと向けた視線には気付かなかったようだ。


「間に合わなかった…ミリアージュ、ごめん…ごめんね」


 小さく謝り続ける彼を見て、凄く抱きしめたくなった。

 手を強く握りしめ、自分の膝を強く叩いた第三王子のその手に、私はそっと、手を置いた。といっても、幽霊なので触ることはできないので、手を置くように浮かせてはいるのだけど。


 彼のぼんやりとした視線が、私の半透明な手を登り、肩、首と、来て、ようやく視線が合わさった。


「ローラン、ミリーが居る。あぁ、そこにいたんだね」


 彼の手が私の頬に触れようとして、触れられず、ぼんやりとした瞳に影が出来る。


「ははは、ミリーの幻が見える。幻が、幻影が、ここに、ねぇ、ミリー、元気だった?」

(え、まぁ、元気じゃないから、死んじゃったのだけれど)

「そ、うだね…ミリーは…死ん…」

(そう、死んだのだけど、天使様が待機してて、ていうから、まだ居るのよ)

「そう、天使様が、待機して、て……え?」


(えぇ、死んでるけど居るの)


「え?」


 と、第三王子は父の方を向く。父は少し引き気味に首を縦に振っている。兄は頭を抱えている。弟は幸せそうにクッキーを頬張っていた。かわいい。


「ミリーが、死んで、でも、ここに居て、え、本物?」


(えぇ、本物よ。いま本物の幽霊なの……て、キャー!ルドー!?)


 私が幽霊よ、と答えたら、第三王子はキャパオーバーしたのか、白目を向いて、ソファーに倒れるように意識を手放した。


 その後すぐ、母が目を覚まし、第三王子は丸一日眠りこけ、目を覚ました次の日に姉が帰ってきて、また一騒動おき、その次の日にようやく葬式を行ったのである。




 この世界の葬式は、神殿から聖火を貰い、神殿に咲き誇る世界樹の花を敷き詰めた棺桶ごと燃やすのだ。その際、骨は残らず、最後は全て光の粒となり神様の元へ運ばれるのだという(この世界の聖典から抜粋)


 厳かな空気の中、私の葬式は家の庭で行われた。私は邸から出られないからである。庭が見える部屋から、皆が私の棺桶に花を添えるのが見える。すごーく、複雑です。

 神官様(そちらで言う僧侶)は見送りの祝詞を唱えながら、聖火で棺桶に火をつけた。燃え盛る炎は一気に棺桶を包み込むと、端の方から光の粒と化し、炎と光が空へと吸い込まれるように、消えていく。


 光の粒は魂と共に 神の身許へと 運ばれていくのです。


 と、神官がそう締め括ると、神官以外の皆が私の方を見る。

 私は苦笑いしつつ、ゆっくりと手を振った。すいません神官さん、私の魂はまだここにおります…。




 そして、その夜。


 

 月明かりを浴びながら、第三王子と密会(実はみんな知っていた)をしていたら、突如私は受肉をしてしまいました。


 

 えぇ、受肉です。

 どう言うことでしょうか、神様。


 


 そして、何故か身体は縮み手のひらサイズ、背中に小さな羽根が。



 第三王子は私を、手のひらにのせ、何故か頬っぺたをつつかれた。


「あぁ触れる、触れるよミリー、ねぇ、その姿、まるで精霊のようだ。かわいい、すごーく、かわいいよ」


 感極まったのか第三王子は、私を優しく胸に当て抱きしめてくれた


 けども


「ちょっ、ルド、出る!中身が出ちゃう!ひぃぃしぬぅぅう!」



 侯爵"霊"嬢の私は、侯爵"精霊"嬢へと進化したようです。



 でも神様、いつまで私は待機中なのでしょーか!?




  完


 











 


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