sideシン【7】
まさか、と嫌な予感にケートさんを恐る恐る見る。
包帯に巻かれていて、当たり前だけど表情は見えない。
いや、ケートさん、怪しいけど、でも。
「…………これを」
「? これは?」
「コニッシュさんの髪の毛を星砂インクに溶かして作った『追跡の護符』です」
「な、なんでこんなもの……」
「金貨一枚になります」
「……………………」
……うん、ケートさんは信用しても大丈夫な人だ。
なんつー高額で売ってくるのだろう。
俺の財布に入ってるギリギリだよ。
「買います……」
「グフフッ! お買い上げありがとうございます」
ピッ、とカードをかざして、取引完了。
これはこの国で使われている“財布”。
ジャラジャラとお金を持ち歩くのは危ないので、みんなこういう“自身の魔力にしか反応しない”カード式の財布を持ち歩く。
入っているお金も、カードに灰色の丸六個、銅色の丸五個、みたいな絵柄浮かび上がって確認できるのだが、この絵柄すら自分にしか見えない。
だからカードにいくらお金が溜まってるのかわからないし、盗んだところで持ち主以外には取り出せない仕組みになってる。
すごいよねー。
「こちらお品物になっております。あ、ラッピングはいかがしますか?」
「いりませんよ! って……あれ?」
護符に青い線が現れる。
矢印が浮かび、それは建物の外を指しているみたいだ。
いや、よくよく考えるとちょっと気持ち悪くないかな、俺。
女の子の居場所を勝手に探ってるってことだよね?
へ、変態くさくない?
「うーむ、これはまずい」
「え? なにがですか?」
「矢印の色は、これが追跡している者の心身の状態を表しているんですよ。出血や怒りの状態は赤。病気や毒を食らっていれば紫。健康状態なら緑。この青は落ち込んでいる、あるいは寒さで震えている状態」
「落ち込んで……」
「コニッシュさんはすぐ落ち込むので、ある程度水色に近いとは思いましたが……この青はもう群青に近い。とてもとても、心が気落ちして、落ち込んでいます。それこそ死を望むほど」
「え!」
死を……!? そんな!
なんで!
「もしくは凍死寸前! ちなみに死ぬと黒くなります」
「やめてくださいよ、縁起でもない!」
——でも。
そう、叫んではみたものの……。
「……っ」
群青色に近いその青は、ますます青味を増していく。
群青から、黒に近い。
え? これ、まずいのでは?
この色は……どんどん濃くなって……。
「…………あらら、死んでしまいますね」
「えっ、あ……な、なんで! なんでですか!」
「わかりませんよぅ」
「……ミ、ミゲルさんに……」
でも、ミゲルさんに会いに行ってる間に、黒くなってしまったら?
「………………」
姉の物語。
姉は死人が出るような物語を好まない。
でも、それでも『ヒカリ』は言っていたな?
『妖霊神に取り込まれて……呪いを増幅させて魔族と人類に仇をなす妖魔になって——』
……たとえ本当にそうなっても、あの人はそれを望む人ではない。
コミカライズの急展開。
ああ、似てるな。
「ケートさん、あとで必ず手間賃を支払うので、このことをミゲルさんに伝えてくれませんか」
「……向かわれるのですか?」
「はい、助けに行きます」
姉が本当にコニーを『死ぬ』と運命づけたのなら、弟の俺がそれを覆す。
一生懸命生きてる、あの子に死んでほしくない。
野垂れ死ねばよかったなんて、そんな悲しいこと言わないでほしい。
「かしこまりました。銅貨五枚でいいですよ」
「よろしくお願いします!」
町から出て、護符の導きを頼りにコニーのあとを追った。
追ったつもりだった。
「えっ」
でも、城下町を——『ファウスト王国』を出た瞬間森に出て、思わず立ち止まる。
「確かに『結界の中』とは言ってたけど……こういうことだったのか……」
光の壁が真後ろに現れた。
国内から見た時は森が続いているように見えたけど、森は森でもなんか思ってたのと違う。
緑の森なのは同じなのだが、なんも言えばいいのだろ……そう、空気が違う。
匂いも違う。
国内から聞こえていた動物の鳴き声は皆無。
むしろ耳が痛くなりそうなほどなんの音もしない。
……ああ、なるほど、違和感の正体は音か。
あまりにも音がない。
まるで雪原に一人でいるみたいだ。
「わざわざ一人でやってくるとは……いや、のこのこ、かな」
「!」
後ろからすごい魔力を感じて思わず距離を取る。
赤い竜人……?
最初は冒険者かと思ったら、みるみるその見は赤黒い鎖に覆われていく。
これは、あれだ……多分俺がこの世界に来たばかりの時に、俺とコニーを襲ったという——。
「妖魔……」
「さすがに理解したか。そうだ、我々はお前を捕食する者だ」
「言い方が気持ち悪い」
白目の部分が黒く変わり、黒目だったところは赤く変わる。
コニーの話では、俺たちを襲った妖魔は竜、獅子、蛇。
こいつがその『竜』の個体と同一かはわからないけど、聖霊神の加護がなければ、倒したところであの巻きついている鎖が俺に巻きつく。
それが妖霊神の『呪い』。
普通に迷惑。気持ち悪い。
「コニー……コニッシュ・スウはどこだ?」
「ククッ! 知りたければ来い。我らの故郷へ」
「っ!」








